モンドで迎えた初めての朝。
「モンドへようこそ、異邦のお客人。我々、西風騎士団は君たちを歓迎しよう。挨拶が遅れて悪かったな、俺はガイアだ」
色黒眼帯のイケメンがそこにいた。
というか、ガイアだ。
ご丁寧に自己紹介をしてくれている通り、何の捻りもなくガイアである。
みんな大好き「踏氷渡海真君」ことガイアさんなのだ。
「あ、ど、えと、あの、はい! お、おはようございます」
ヤバいな、吃りがすごい。
舌が回らん。
あのガイアさんを生で見れる日が来るとは。
あ、やべ、興奮してきた鼻血出そう。
別にBLの気はないけどね。単純にキャラとして好き。
まあ、原神世界で嫌いなキャラなんて殆どいないんだけど。
「ははは、そう緊張するな。モンドの民を守ってくれたことを騎士団を代表し、感謝する」
「い、いえいえいえ、それほどでも……というか、戦ったのは俺じゃなくてアレですし」
アレと言い表し、俺が指で示したのは、暫定俺の旅のパートナーである灰髪の少女。
「…………ふむ、彼女は何をしているんだ?」
「俺にもわかりませんけど、何故かゴミ箱を漁っています」
彼女は現在、ゴミ箱を開けてその中身と睨めっこをし続けている。
昨日、モンド城に入ってからずっとあの調子なのだ。
ゴミ箱を見つけると磁石に引かれているかのような調子で、ゴミ箱を観察し始めてしまう。
「……なるほど」
おい、ガイアさん困らせてんじゃねえよ、何やってんだお前、このバカ。
「おい、さっさと手洗いしてこっちこい。西風騎士団の方が改めて挨拶しにきてくれたぞ」
「……私の名前『おい』になったんだ」
「必死に考えてるから、許してくれない?」
つーん、とした態度。
どうやら機嫌は優れないようだ。
まあ、半分くらいは俺が悪いんだけどさ。
ふと、視線を感じた。
ちらり、と横目で彼の様子を伺うと、ガイアは俺と少女のやりとりを興味深そうに観察している。
……何か怪しまれている、ような気がする。
「……どうかしましたか?」
「いやいや、随分と仲が良いみたいだと思っただけさ。彼女との付き合いは長いのか?」
これが、恐らく本命。
瞬間的に思考を巡らせた。
ガイアというキャラクターは、ディルックと同様に独断行動をすることが多い。
だが同じ独断行動といっても、そこには歴とした違いがある。
騎士団という組織形式自体に信頼を置いていないディルックは、単身の能力のみで全ての問題の解決を目指すスタンスをとる。
対して、ガイアの独断行動の目的として置かれるのは騎士団の計画に対する補完か、いざというときの予備プランであることが多い。
つまり、この挨拶活動は彼個人の判断から生まれた行動のはずだ。
だから、騎士団から不信感を買われているということはない……と思いたい。
「……昨日出会ったばかりですよ。そんなに仲良しに見えましたかね?」
「おっと、そうだったのか。何にせよ、仲が良いのはいいことじゃないか」
「それもそうですね」
あははは、と二人で笑い合う。
怖いんだけど、この人。カッコよくて好き。
受け答えをしてる俺と、オタクの俺の思考が乖離しすぎてて、頭が痛くなってきた。
「そういえば、今日は良く眠れたか?」
「はい、ありがたいことにです。昨日、騎士団の方に教会を紹介してもらえて良かったです」
「すまなかったな。昨日は光の柱の件もあって滞在許可を取るのに時間が掛かってしまった。宿を取るのも難しい時間となれば、寝床を確保するのも騎士団の仕事の一つだとも」
ガイアの言った通りだった。
昨日、俺たちはエレンの証言を利用し、モンドへと入国を果たしたのだが、入国するまでの手続きにかなりの時間が掛かったのだ。
何でも、光の柱の出現で地脈に異常が生じてしまい、それをアビス教団やファデュイの策謀と考える者が少なくなかったから、だとか。
まあ、これまでの経歴が二人揃って空白だったことが、一番の原因だとは思うが。
結果、深夜2時から宿探しなど出来るわけがなく、野宿を覚悟したところを騎士団の方に助けられたというわけだ。
因みに教会での目覚めは、神聖な空気が影響したのか普段よりも僅かにしゃっきりしたもののような気がした。
ガイアとの腹の探り合い――一方的に探られたとも言う――が一先ず落ち着いたので、先程、声をかけた彼女のことを待っていると。
「もう、何でそんなにゴミ箱ばっかり見てるの〜!? 清潔じゃないから、あまり近づかない方がいいよ?」
「大丈夫だよ、バーバラ」
「何が大丈夫なの!? それと、何で貴女は頑なにゴミ箱の前から動こうとしないの?」
率直に言って一発殴った。
何、バーバラ様困らせてんじゃボケナス。
あと本当になんで、手洗いから帰ってきたのにゴミ箱前に戻っちゃったの?
✳︎
「可能なら、モンドの酒を振る舞ってやりたいところなんだが、残念ながらまだ仕事が残っているんだ」
そんなことを言って、去っていったガイアさんを見送ってから、俺と悪ガキは教会の隅っこでこれからの予定を立てていた。
「まず、俺たちがこれからどうしたいのかを大まかに決める。要望はあるか?」
「そんなことより、名前は?」
「お前、本当にそれしか考えてねえのな」
ここまで執念じみた反応をされると、いっそのこと呆れてくる。
少女は俺の反応にムッとした表情を浮かべて、反論を口にした。
「だって名前だよ。大切なことでしょ」
「大切だから、丁寧に決めたいんだよ」
真っ直ぐな視線と訴えを、こちらも真っ直ぐな視線をもって跳ね返す。
俺の真意も伝わったみたいで、彼女は目線を逸らしてボソボソと呟きをこぼした。
「ならいいけど。もうそんなに待てないから」
「わかったよ。待たせないよう考える」
こくりと少女が頷いたのを見て、本題へと戻る。
「俺としては、目的はさておき色々な場所を見て回りたいと思ってる。まあ、ぶっちゃけ、根無草の放浪人希望かな……お前が隣に居てくれるなら、道中の危険も問題なさそうだし」
昨日の戦闘を見て、一度は諦めようと思った旅人になりたいとそう思ってしまった。
あわよくば、少女の記憶も取り戻すことができれば、なんて楽観的な考えもあったりするのは彼女には秘密である。
だが、その計画では負担のほぼ全てを少女に押し付ける形になるので、彼女が少しでも嫌そうな素振りを見せたのなら、この願望は捨てようと決めていた。
少女はきっと、俺が内心で緊張していることなど、知らないのだろう。
「私は、特にない。ただ――いや、やっぱり何でもない。問題ないよ」
表情を崩すことなく、彼女は淡々と俺の提案を受け入れた。
途中、何かを言いかけてやめたような雰囲気はあったが、少なくとも自身にかかる負担については何一つ気にしてなさそうだった。
「それで将来的に旅をするものだとして、今日はどうするの?」
少女の疑問に対する回答は、既に用意してあった。
「モンド観光初日だからな。ピクニックでもどうだ?」
「ピクニック」
どちらかといえばクール系美人さんな少女のキョトンとした顔には、いつもよりあどけなさの色が見えて、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「お前も色々と俺に聞きたいことはあるだろ? 例えば、どこからバットを取り出したのか、とかさ」
「……そうだったね。わかった」
「んじゃ、鹿狩りで昼飯買っていくとするか」
「…………なんか、慣れてる?」
「気のせいだろ」
ジト目やめて。
別に後ろめたいことをしてるわけじゃないんだから。
因みに、サラさんはとても可愛かった。
デレデレしていたら灰髪さんに爪先を踏まれたので、反省としてそれをここに記しておく。
なんで、そんなすぐに怒るのさ。
さてはて、そんなこんなでモンド城を出た俺たちだったが、ピクニック地には俺たちが目覚めた場所でもある巨木の下を選んだ。
その理由はとても明確で。
『遂:転移』
「さんくす、チートさん」
「……へえ、驚いた」
「もうちょい驚いた声出せなかったの?」
単にワープ可能なピクニック候補地がここしかなかったからであった。
まあ景色はいいし、天気もいい。
草原を吹き抜けていく風が頬を撫でる感覚も、爽快で非常に悪くない。
のんびりするにはピッタリだろう。
レジャーシートなどがないのは、現代っ子として気になる点ではあったが、そういう価値観も少しずつこちらの世界に合わせていかないといけない。
「それじゃ、お待ちかねの雑談の時間かな」
いくらなんでも、お昼にするにはまだ早い。
元々は鹿狩りで持ち運べる食事を買おうと思っていたのだが、ワープが可能であることを思い出したので、少々予定を変更していたりなどもする。
具体的には、お昼時に合わせて弁当を用意してくれるという話に落ち着いたのだ。
客の予定に合わせて、ここまで融通が利くというのも前世では考えられないことである。
まあ、通りすがりの旅人にデリバリーを任せることもある世界観だ。
そこら辺はザックリしているのも魅力といえよう。
「それじゃ聞くけど、チートさんって何?」
「うわ、一発目にそれ聞いちゃう?」
「ダメだった?」
「ダメってことはないけどな……」
何処から説明したらものか。
そう考え込んでいると、少女の表情が翳ったのがわかった。
「話しにくいことなら、言わなくていい」
「………………ん、まあ、いっか」
そんな顔が見たくて、ピクニックなんてやってるわけじゃねえのよ。
「頭の中にさ、ナビみたいなのが住んでるって言ったら伝わる?」
「なび?」
「ナビゲーター、ガイドでもアドバイザーでもいいや。色んなこと知ってる変な奴が俺の頭の中にいる。ワープが出来たのも、物を出し入れ出来るのも、道に迷わないのも、全部ソイツのおかげなんだよ」
『誰が変な奴ですか』
お前さん、普通に話せるなら普通に話してくれない?
なんてツッコミをしている場合ではない。
灰髪の少女は、俺の話した内容をゆっくりと咀嚼をするように、何度も頷きを繰り返しながら考えていた。
「……つまり、それの名前がチートさん?」
「そういうこと。諸々の説明に納得したか?」
「まあ、一応」
首を傾げながらも、彼女は納得した様子を見せる。
幸い、本当に隠しておきたかった方――つまり、前世の記憶を保持していることについては気づかれていないみたいだ。
原神世界に関する知識なんて、この世界で流出させたらマズイなんてものではない。
当たり前だけど、スメールには行かない方が良さそうだな。
今がどのような状況かは知らないが、万が一にも草神と遭遇した瞬間、全てが終わる可能性がある。
「んじゃ、これからは本当の雑談だな。好きな食べ物とか趣味とか……記憶がないといってもこうやって会話ができているんだ。意味のない会話ぐらいなら、問題ないだろ」
「……じゃあ、天華のこと教えてよ」
「いいけど、何が知りたいんだ?」
「…………本当に男性?」
「まさかのまだ疑惑が晴れてなかった!?」
✳︎
サラサラの長い黒髪を弄びながら、私は腕の中で居心地悪そうにしている少年(仮)のことを考えていた。
天華。
明らかに私よりも可愛らしい見た目をしている男の人。私が現在進行形で依存し続けている相手でもある。
私にはこの世界で目覚めるまでの記憶がない。
天華は私に関係しているエネルギー? を集めれば、その記憶を思い出せるかもしれないと言っていたが、なんとなくわかってしまう。
私は記憶を思い出せなくなったのではない。
私の記憶は、消されてしまったのだ。
そんな確信が、なんともいえない無気力感に繋がって、ずっと心の中で燻っている。
天華は知らない。
私は別に、記憶を取り戻したいなんて思っていないことを。
寧ろ、真逆といえるだろう。
名前が欲しいと主張を続けているのは、少しでも早く『何か』になりたいから。
私が■■■■かったことを、忘れたいから。
私の願いは一つだけ。
もう二度と、あの感覚を味わいたくない。
だから、お願い天華。
私に名前をください。
あんたの側に居させてください。
それ以外は何も望まないから。
お願いだよ。
私を、独りにしないで。
「おい、近い。すんごい近いんだけど」
「…………いい感じのサイズ感だったから」
「人を抱き枕みたいに扱わないでくれますかね?」
彼は知らない。
私がこんな泥のような重苦しい感情を向けていることを。
たった一日の付き合いだというのに、こんな感情を向けてしまって申し訳ないという気持ちはある。
けれど、仕方ないのだ。
私を拾ってくれたのは、あんただった。
その責任は、何があっても取って貰う。
「…………髪の毛弄りは楽しいですかい?」
「うん。次はお団子つくる」
「あ、はい。もう勝手にしてくれ」
それはそうと、この人、本当になんでこんなに可愛い見た目をしているのだろうか。
ちょっと腹立つから、やめてほしい。
原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用
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両方やってる!
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原神だけ!
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スタレだけ!
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どっちも知らんが読んでやろう!