「ええい、どうなっているんだ! 我が国の技術を詰め込んだ大型飛空船ですら、あっさりとやられるとは!」
ロデニウス大陸南東3000㎞、十字型の特徴的な島を本拠地とするクルセイリース大聖王国の聖都『セイダー』の中心部、聖城『テンジー城』にて行われている定例会議は、紛糾していた。
何故なら、かの国から見て北西におよそ1700㎞離れた場所にある島、植民地としている『シルカーク王国』滞在中の侵略飛空艦隊含めた飛空艦隊が、現在対立中のグラ・バルカス帝国にあっさり撃破されたとの報告が来たためである。
仮に撃破されたのが、平時の植民地防衛を担う旧式飛空船で構成された艦隊43隻と、ワイバーンロード100頭のみであれば、クルセイリースの上層部もこれ程慌て取り乱したりはしない。敵に、殆んど太刀打ち出来なかったとの報告が来た際も同様だ。
しかし、旧型飛空船よりもあらゆる面で強化発展している、最新鋭の大型飛空船ですら似たような末路を辿ったと聞いてしまえば、取り乱したりするのも無理はない。
「ミネート様。補足なのですが、グラ・バルカス帝国の巨大海上船より飛び立った鉄竜への損害は、ないに等しかったとの事です。精々、数頭を撤退に追い込んだ程度と伺いました」
「何? シルカークで持てるほぼ全ての空中戦力をぶつけたにも関わらず、奴らの鉄竜を1頭落とす事すら叶わなかったと?」
「はい。ワイバーンを優に超える飛行速度、回避も簡単ではない上に当たれば大型飛空船ですら粉微塵となる攻撃を持ち、多少の被弾であれば飛び続けられる防御力を誇っているらしいので」
「くっ……」
加えて、普通に戦って負けたのではなく、圧倒的な力の差をまざまざと見せつけられた挙げ句の敗北なのだ。自分たちの全力がグラ・バルカス帝国にとっては児戯に等しいと、嫌が応でも実感せざるを得ない訳だから尚更だろう。
こんな事になるなら、自国の強さにかまけず偵察を更にしっかりとしておくべきであった。
いや、それ以前にロデニウス大陸でグラ・バルカスの大使と相対した、クルセイリース側の使者の部下からの
と言うか、相対した時に極大魔法『クルスカリバー』『拡散フレア』『リュウセイ』からなる、最大最強の防空システムを起動させていれば、最悪相討ちには持ち込めていたかも知れない。
そんな考えが、今更ではあるが軍王ミネートの脳裏に浮かぶ。他の会議出席者も、すぐ後に続いてその考えに至っている。
「しかも、奴らの巨大海上船群は魔神の鉄槌が如き破壊をもたらしたと。港町1つが灰塵に帰す程の」
「はい。奴らの基地構築が既に始まっているのも、上陸時既に9割以上の陸戦力を損失していたかも知れませんね」
「そりゃ、そうだろうな。さて、どうするか……」
また、上陸地点の港の防衛を担っていた陸軍も、クルセイリース基準で超射程超高威力の艦砲射撃により推定で壊滅、シルカーク最大の港町を拠点にされてしまったとの報告が、古代遺跡から発掘された魔道具を用いた特攻偵察によりなされていた。
海上兵器や空中兵器がこんなにも強いのなら、未だ見ぬ陸上兵器も恐ろしく強いだろうとの憶測も相まり、雰囲気が険しいものへと変化していく。
無論、クルセイリース側に打つ手がない訳ではない。極大魔法を含めた防空システムを使う選択肢を取れば、空戦では相当な強さを発揮するのだ。
何なら、国内で虎の子の『
まあ、古代発掘兵器に関して言えば、純粋な数の少なさや運搬方法などの非常に大きな問題が発生しているため、実現可能かどうかは未知数ではあるが。
「それなら、
議論が徐々に白熱しかけてきた刹那、ミネートの2つ左隣の席に座っていた軍関係者の女性が行った提案に、出席者の視線が一斉に向く。
飛距離が3倍以上に向上した魔導砲を多数搭載、魔法金属をコーティングして防御力を大幅に上げた船体を誇り、非常に強固な回転翼を持つ飛空戦艦。
膨大な熱と光の力を秘め、まともに食らえば完全防御形態を取る大型飛空船すら消し飛ぶ破壊力を誇る、爆ぜ光る落涙と呼ばれる魔法。
必要な試験をようやく通過したばかりのこの2つは、クルセイリース内でも古代発掘兵器を除いて切り札の位置付けにあり、相手が自国と同等かそれ以上の強敵と認定した時のみの使用を想定している。
つまり、少なくともこの提案を行った軍関係者の女性は、グラ・バルカス帝国を自国と同等以上の強敵と認定している訳で、他の未だに現実に思考が追い付いていない者にとっては衝撃でしかなかったのだ。
「大型飛空船をあっさりと負かすような敵が相手です。まず間違いなく必須でしょう。まあ、正直それでも勝てる気はしませんが……」
「ん? 何か言ったか?」
「あっ、いえ! ともかく、私の提案を一考して頂ければ幸いです」
「うーむ……」
しかし、彼女の言う通りグラ・バルカス帝国が、クルセイリース大聖王国の歴史上類を見ない程の強敵なのは、報告にあった戦闘結果を併せて見た場合、どう考えても事実である。
艦隊司令官はもとより、各飛空船の船長や軍人にも優秀かつ勤勉な者を多数つけているため、人的要因で敗北した線も非常に薄い。
「仕方ないか。取り敢えず、その線で今後は進むとしよう」
全員これに薄々勘づき始めたが故に、軍関係者の女性の提案が大きな反対意見もなく取り入れられ、細かな部分の調整が追って行われる事が決まるのも、当然の流れとなった。