急に視界が開け、眩しさに思わず俺達は顔に手を
暫くして光に目が慣れた頃、俺達は改めて眼前に広がる風景を見やり、唖然となった。
足許の若々しい緑の草一面に濃い桃色の絨毯が敷き詰められ、その中心に美しい見事な花を満開に咲かせる一本の桜の大樹が立っていたのだ。
そして、その桜の木より少し離れた所に、中年の男女二人が満開の桜を仰ぎ見ていた。
寄り添い、桜を見上げるその顔はとても嬉しそうで、濃い桃色に彩られたそこだけ穏やかな優しさに満ち溢れ、見ている俺達も何だか心が
不意に一陣の
それは吹雪のように辺り一面を濃い桃色に染め、全てを覆い隠した。
そしてひとしきり乱れ飛んだ花びらは、ひらひらと地に舞い落ちて緑の草に縁取られた濃い桃色の絨毯の一部となり、元の穏やかな風景に戻る。
が、そこにはさっきの二人の姿は無く、代わりに腰に手を回した年老いた男が一人、目を細めて花咲く桜の木を見ていた。
俺達がよく知る老人が。
「ジィさん……」
「幸村先生………」
俺と渚は自分の目を疑った。
確かにあそこには中年の男女が居た筈だ。なのに、ほんの少し目を離した隙に忽然とその姿は消え、代わりに捜していた幸村が居るとは。
まるで手品か何かを見ているようだった。
「おい、ジィさんっ」
思わず俺は声を上げ、渚と共に幸村に走り寄った。
「ほぅ、おまえ達……」
振り返り、幸村は驚いた様に微かに眉を跳ね上げて俺達を見た。
「ジィさんさっきの二人は? ってか、なんでここにアンタが居るんだ? いや、それより何だって桜の木が咲いてんだよっ!?」
目の前にあるモノが信じられず、俺は矢継ぎ早に疑問を口にした。
「これは異な事を言う」
「ここにはずっと、わししかおらんかった」
「いや、だって今ここに——」
「それに、この桜はこの時期に見事な花を咲かす。——八重だからの」
「え?」
最後にぽつりと漏らした幸村の言葉の、どこかやるせない響きに、俺は一瞬言葉に詰まった。
「八重……さんですか?」
「うむ」
言葉の意味を測りかね、渚が小首を傾げて呟くと、幸村は小さく頷いて言った。
「八重桜——牡丹桜とも言う。染井吉野などの一重の花と違って、八重桜は咲く時期が遅くての。他の桜の花が散り終わった今頃に咲く」
そう言って幸村は、目を細めて懐かしむように満開の八重桜を仰ぎ見た。
その姿に、さっき見た中年の男の姿がダブり、俺は思わず目を擦って改めてジィさんを見返した。
その足許付近の花びらの絨毯の中に、キラっと何かが光る。
渚もそれに気付いたらしく、俺と渚は同時にそれに手を伸ばしていた。
「あ……」
掴んだ俺の手に触れて慌てて渚が手を引っ込めたので、俺がそれを拾い上げた。
桜の花びらに埋もれるようにしてあったそれは、夜空に虹色に輝く桜の花を散りばめた漆塗りの小さな箱だった。