桜の花さく頃に~ メモリーズ –春–   作:飛鳥 螢

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いよいよ探し物の手伝い開始です。


資料室のおまじない

「だが、一通り探して見つからなくとも構わんからの」

 最後にそう言って幸村は去って行った。

 その後ろ姿を見送り、俺は渚に確認した。

「——で、結局探すの手伝う事になったのか?」

「はい、探し物の小箱の事や、先生が今日立ち寄った場所を教えていただきましたから」

 ぐっと拳を握り締め、やる気満々に渚は応えた。

 ——ったく、どうしてこいつはいつも他人事にこうも一生懸命になれるのか……

 そう呆れる俺自身そんな渚を放っておけず、いつも頼まれもしないのについ手を貸してしまうのだが。

「じゃあ、何処から探すんだ?」

「えっとですね……」

 当然のごとく訊いた俺に、渚は幸村に聞いてメモった学生手帳のページを開いて見せた。

 そこには無くした小箱の特徴と、今日半日で幸村が回った学校内の場所が記されていた。

 それを見るなり、俺はげんなりした。

 新校舎に旧校舎。それに体育館近辺に校庭など、実に広範囲にわたっている。

 ——大人しく生活指導の相談室で茶でもすすってりゃいいものを……

 たった半日でこれだけ動き回るとは、よぼよぼの年寄りのくせにやたらと足腰が丈夫だ。

「どうしますか?」

「そうだな……」

 暫しページに書かれた場所を眺め、俺は手近な所から回る事に決めた。

 最初は旧校舎一階の資料室だ。

 旧校舎に入り、一階にある資料室の戸をガラリと開ける。

 中で椅子に座り、本を読んでいた女子生徒がにこやかに俺達を出迎えた。

「いらっしゃいませ、岡崎さん、古川さん」

「宮沢、居たのか」

「はい、今日は何をお探しですか?」

 既にこの資料室の主と化している二年の宮沢は立ち上がり、そう言いながら顔見知りの俺達に席を勧めた。

「ああ、実は小箱を探してるんだ」

「小箱、ですか?」

 テーブルに着いた俺達の前に馴れた手付きでコーヒーを()れたカップを置き、自分の席に着いた宮沢は小首を傾げて俺を見た。

「ああ、このくらいの掌に乗る程の大きさで、フタに桜の花の模様が入った螺鈿(らでん)細工の黒い漆塗りのヤツだ」

「宮沢さん、この部屋の中で見かけませんでしたか?」

 と、渚は身を乗り出して訊く。

 その真剣そのものの表情に宮沢は少し目を見張ると、頬に指を添えて暫し考え込んでから申し訳なさそうに口を開いた。

「いいえ、いつも昼休みここに来るとまず掃除するんですが、今日掃除した時にはそのような小箱は落ちていなかったように思います」

「そうですか……」

 落胆して渚は肩を落とした。

「あの、その小箱は大事な物なんでしょうか?」

「はい、とても大事なものなんです」

 ——確か幸村は、見つからなくても構わんと言ってなかったか……

 宮沢に訊かれてきっぱりと断言した渚に、俺は無言でツッコミを入れた。

 だが既にそう思い込んでしまっている以上、それを渚に言っても無駄だった。気が弱そうに見えて意外と渚は頑固だったりする。

 ——まぁ、小箱といっても螺鈿細工の漆塗りなら値段もそれなりで、大事と言えば大事なんだろうが……

 掌に乗るような小さな箱だ。すぐに見つかるとは思ってなかったが、こうなるとおそらく渚は小箱が見つかるまで絶対諦めないだろう。

 まだ探し場所は山ほどある。それを考えて気が重くなった俺は、ちらりと隣でがっかりする渚を見て小さく溜息をついた。

 それを見てちょっと責任を感じたのか、宮沢はそれぞれの理由で気落ちする俺達に一冊の本を取り出して見せた。

「あの、探し物を見つけるなら、これなんかどうでしょう」

「おまじない百科?」

「はい、確か失せ物を探すおまじないが——」

 と、宮沢はパラパラとページをめくって問題のおまじないを探し出すと、訝しげな表情(かお)をする俺達の前に開いた本を置いてそれを見せた。

「…——『失せ物探しもこれでバッチリ。右手で胸を押さえ、目を閉じて額に左の人差し指を当てて「ノモーセゥ、デルデロデロリン」と三回唱えれば、これであなたも探す手間が省けます』って、なんだよこれ」

 そのページの文章を読み上げ、俺はげんなりした。

 見るからに物凄く胡散臭そうなおまじないである。

 一方渚は、それを読むと早速それを実行した。 

 目を閉じて右手を胸に、左の人差し指を額に当てて呪文を唱える。

「ノモーセゥ、デルデロデロリン。ノモーセゥ、デルデロデロリン。ノモーセゥ、デルデロデロリン。——これでいいんでしょうか?」

「はい、それで大丈夫だと思います」

 おまじないをやり終えて確認を取る渚にそう応えると、宮沢は俺を見た。

「それでは、岡崎さんもどうぞ」

「え? 俺もやんのかよ」

 腰を引き、あからさまに嫌な顔をする俺に、宮沢はにこやかに言った。

「はい、一人より二人の方が効果も倍になって、早く見つかると思いますので」

「岡崎さん、お願いします」

 と懇願し、(すが)るような目で渚が俺を見る。

「うっ……」

 ——絶対やりたくねぇ……

 だが、女の子二人にじっと見詰められ、無言の訴えに追い詰められた俺は、とうとう耐えきれずにがっくりと肩を落とした。

「……わかったよ。やればいいんだろう」

 ——なんで俺がこんな真似を……

 嘆息し、渋々俺は本に書かれたポーズを取って、ぶつぶつと小声で呪文を三回唱えた。

「……デロリン。——これでいいんだろ」

「はい、結構です」

「ありがとうございます。岡崎さん」

 本当に嬉しそうに渚は礼を言った。

 これを見ると、かなり恥ずかしかったが、俺はまぁいいかという気になる。

「で、これでどうすんだ?」

「はい、後は心当たりの場所を探してみるだけです」

「結局探すのかよ」

 探す手間が省けるんじゃなかったのかと、俺は心の中でツッコミを入れてぼやいた。

 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。

「もうそんな時間か……」

 全然成果を上げられず、ただ無駄に時間を過ごしただけのようだった。

「小箱探すのは放課後だな」

 せめて日が暮れるまでには見つけられるといいが……

 先が思いやられ、俺はうんざりした。

「はい、でもおまじないをしましたから、すぐに見つかると思います」

「だといいな」

 こんなおまじないを信じて楽観的な渚をうらやましく思いながら、俺は宮沢に礼を言って二人で資料室を後にした。

 




連休が終わりましたので、これからは投稿に間が空きます。余り間が空かない様にしますが。
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