放課後、授業を終えた俺と渚はまず新校舎の屋上に行った。
三階の自分達の教室から一番近く、殺風景で何もない場所だから探しやすい。
屋上をざっと見渡した後、ぐるりと手すり沿いに
「次は何処だ?」
「えっと、一階の職員室と生活指導室です」
屋上の階段を降りながら訊いた俺に、渚はメモした場所でここより一番近い場所を挙げた。
途端に俺はげっとなった。
実際、問題児で以前度々そこに呼び出されていた俺に、職員室や生活指導室などにいい記憶はない。避けられるものなら避けて通りたい場所だった。
「職員室や生活指導室は幸村が自分で探すだろ」
「でも……」
「んな所、生徒の俺達がごそごそやってたら不審がられるだろ」
特に俺なんか、絶対何か企んでいるんじゃないかと怪しまれること間違いなしだ。
「それはそうですけど……」
俺に指摘されて一応渚は納得はしたものの、書いてあるのに全然探さないのは気が引けるらしく、表情を曇らせて口ごもった。
それを見て、俺は小さく息をついて渚の頭に手を乗せた。
「じゃあ、中は無理でもその辺りの廊下だけでも探してみるか?」
「あ、はい」
俺の提案に、渚はほっとしたように
そのまま階段を一階まで降りて職員室の廊下に来ると、俺達はその前辺りに置いてある棚の下などを覗いて回った。
そんな俺達を見て、やっぱり不審に思う者がいたらしく、声を掛けて来た。
「岡崎、そんな所で何をやっている?」
聞いた事のある声に振り返って見ると、訝しげに智代がこっちを見ていた。
「おまえこそ、こんな所で何やってんだ?」
「私は職員室に用があったんだ」
俺の問いに応え、智代は微かに眉をひそめて俺達を見て言葉を継いだ。
「おまえ達は職員室に用、という訳ではなさそうだが」
「ああ、実は
「幸村先生の落とし物を、おまえ達が?」
「まぁ、成り行きでな」
怪訝そうな表情をして自分を見る智代に、俺は肩をすくめて応えた。
「そうか……」
俺の答えに智代は片手を顎に添えて少し思案すると、一つ頷いて言った。
「よし、では私もその落とし物探しを手伝ってやろう」
「は?」
年下とは思えない尊大な物言いで申し出る智代に俺達が呆気に取られていると、智代は更に言葉を重ねた。
「小箱というからにはその落とし物は小さい物だのだろう。だったら人手は多い方が良いはずだ。違うか?」
「いやまぁ、それはそうだが、おまえ忙しいんじゃなかったか?」
俺がそう言うと、智代はふっと口許を綻ばせた。
「気遣いは嬉しいが心配無用だ。今日はもう用もないしな」
「いや、しかし——」
見つかる可能性は極めて低いのに、それを手伝わせるのは流石に気が引ける。そうじゃなくとも、渚はともかく俺の方はやる気は殆どないに等しいのに。
何か断る口実は無いかと俺が思案して口ごもると、智代は不審そうな表情になった。
「私が手伝うと、何か問題でもあるのか?」
「いや、そういう訳では……」
「なら構わないだろう」
「はい、ありがとうございます」
気が進まない俺の代わりに、渚が返事を返した。
「今朝も遅刻しそうな処を助けていただいたのに」
「いや、私は単に目の前で遅刻されるのを見過ごせなかっただけだ」
と、じろりと俺に視線を向け、智代は渚に訊いた。
「それで、もうここら辺は探し終わったのか?」
「はい」
「では、次は何処だ?」
既に智代は参加する気になって渚に訊き、それに生徒手帳を開いて場所を確認しながら渚は応えた。
「えっと、ここからですと校庭か旧校舎の二階の図書室が近いです」
「だったら、まずは図書室だな」
校庭などやたらと広くてとても探す気になれない。それならまだ校内の方がマシというものだ。
渚が智代の参加を受け入れたのなら俺がどうこう言う訳にもいかず、仕方なく俺はそう二人に言うと
智代を加えて三人になった小箱捜索隊は近くにある渡り廊下を通り、旧校舎に入ると階段を上がって二階廊下の突き当たりにある図書室へと向かった。
図書室は放課後とあって結構生徒がいた。
中に入ると俺は思わず窓際の書棚の前辺りに視線を向けた。
そこには授業で人気が無くなると、いつも一人の女子生徒が裸足になってクッションに座り、難しい本を読んでいたのだが、流石に今はいなかった。
俺達は他の生徒の邪魔にならないよう、そっと閲覧用の机の下や書棚の周辺を見て回った。
「あっ……」
一番奥の薄暗い書棚の隙間を覗いて俺は思わず声を上げた。
「岡崎さん、あったんですか?」
「あったのか、岡崎」
近くの書棚周辺を探っていた渚と智代が、その声を聞きつけてやってきた。
「あ、いや、あった事はあったんだが……」
と、隙間に腕を突っ込んで俺が取り出して見せたのはネクタイピンだった。
「この間ここで昼寝して、寝惚けて机の角にこれ引っかけて何処かに飛ばしたんだ。まさかこんな所にまで飛んでいたとはな。道理でいくら探しても見つからない訳だ」
買わなきゃいけないかと思ってたのに、思いがけなく見つかってホッとし、俺は制服の上着のボタンを外してネクタイピンを自分のネクタイに留めた。
「案外おまえはそそっかしいんだな」
「寝惚けてたんだよ」
意外そうに智代に言われて俺は素っ気なくそう返し、また小箱探しを再開した。
ネクタイピンを無くしたのが授業サボってここで寝ていたら、たまたま図書室に用があった教師に見つかりそうになって慌てたからだとは、今朝の事を考えると、智代には絶対言わない方が良いだろう。
暫く俺達はそこで小箱探しに専念したが、それ以外に出てきた物は無く、仕方なく図書室を後にした。