桜の花さく頃に~ メモリーズ –春–   作:飛鳥 螢

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春原との遭遇

「校内で後探していない所は何処だ?」

「ここから一番近いのは演劇部の部室です」

「演劇部の部室?」

 ——またなんであんな所に……

 幸村のジィさん妙な所に行くなと思いつつ、俺は渚と智代と共に演劇部の部室に足を向けた。

 文化系の部室はこの旧校舎三階の使ってない教室を部室代わりにしていた。部員数が足りずに廃部となり、今渚がそれを再建しようと頑張っている演劇部の部室はその一番奥の教室だった。

 閑散とした廊下を通り抜け、一番奥の開いた演劇部部室の戸口から俺達が中に入ろうとすると、そこに人がいた。

 髪を脱色して金髪を気取る春原だった。

「岡崎、何処行ってたんだよ。チャイムと同時に教室出て行くから、てっきりここだと思って来たのにぃ——いっ!?」

 俺の姿を認めるなり文句を言ってきた春原だったが、その後ろに智代が居るのに気付いた途端、顔面蒼白になって条件反射的にバッと飛び退(すさ)った。

 戸口とは反対側の壁にめり込むようにへばり付き、全身を戦慄(おのの)かせて智代の視線から逃れようと必死だ。

 常日頃智代の蹴りを喰らい続けてきた所為で、細胞単位に刻み込まれた負け犬根性が智代の出現によって活性化されたようだ。

 その姿は何とも言えず哀れで、思わず涙を誘う。

 だが、自分が智代にビビってる事を認めたくない春原は、虚勢を張って怒鳴った。

「なっ、なななんでおまえが居るんだよっ」

「居て悪いか?」

「あ、あったり前だろっ。ここは演劇部の部室だ。おまえ演劇部員じゃねぇだろっ」

「ちなみにおまえもそうだぞ」

 と、智代に難癖つける春原に、俺はすかさずツッコミを入れた。

 この中で演劇部員——まだ再建されていないので自称部員は渚だけだ。俺も春原も演劇部再建に手を貸してはいるが、二人とも演劇部員ではない。

「おまえっ、どっちの味方だよっ!」

「味方も何も、俺は事実を言ったまでだが」

「岡崎さん。春原も落ち着いてください」

 慌てて春原を刺激する俺を(たしな)めた渚は、興奮して喚く春原を(なだ)めた。

「坂上さんは、幸村先生が落とされた黒い漆塗りの螺鈿(らでん)細工の小箱を探すお手伝いをしてくださってるんです」

 そう説明する渚の聞き慣れない言葉に、春原は思いっ切り眉根を寄せた。

「ジジィの……黒塗りのラドン?」

怪獣(ラドン)じゃねぇ、螺鈿だ、螺鈿」

 こいつ、螺鈿細工も知らないのか。つか、幸村が黒塗りのラドン持ち歩いてたら不気味すぎだろ。

「漆塗りなんかの(うつわ)に貝殻の内側のキラキラした部分を嵌め込んだヤツだよ。おまえ見たことねぇのか」

「え? あぁっ、そうそうラデンね。うん知ってるよ。もちろん」

 と、実にわざとらしく春原は乾いた笑みを浮かべてうんうんと何度も頷く。

 それを俺と智代は「本当か?」と疑惑の目で見たが、渚は春原を信じて説明を続けた。

「はい、幸村先生は午前中にそれを持って校内を見回っている内に無くされたそうで、それでわたし達その小箱を探すお手伝いをしてるんです」

 一通り渚の話を聞き終えた春原は、ふ~んと考える素振りをしてからニッと笑い、渚にぐいっと親指を立てて片目をつぶった。

「だったら僕も付き合うよ、渚ちゃん。愛する君の為なら僕は何だってするからさ」

 ヒマ潰しと、渚への心証を良くして彼女の家のパン食い放題の権利を得る為に。

 ——おまえ、ホント考えてること丸分かりだよな……

 その魂胆が余りにも見え見えで、思わず俺はすげなく言い返した。

「別におまえ帰っていいぞ」

「そうだな、居ても猫の手ほどにも役に立ちそうもないしな」

「おまえら、なんでそんなに冷たいんですかっ。てか、僕は猫の手以下ですかっ!?」

 言下に俺と智代に邪魔者扱いされ、春原は涙ながらに抗議した。

 その姿を哀れに感じ、渚は春原を庇って言った。

「岡崎さん、坂上さん。そんな事言ったら春原さんがかわいそうです」

「いや、実際そうだし」

「たとえ猫の手以下でも、誠意は認めてやらなければダメです」

「渚ちゃん……」

 なにげに一番酷いこと言ってる渚に、春原ははらはらと涙した。

 

 

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