桜の花さく頃に~ メモリーズ –春–   作:飛鳥 螢

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おまじないの効果

「まぁとにかく、馬鹿はほっといてそろそろ探すか」

 春原いじりに飽きた俺は、そう締め括って部室の中を見渡した。

 最初この部室を覗いた時に比べ随分マシになっているが、部屋の隅にはまだ訳の判らないモノが詰まった段ボール箱が所狭しと山積みにされている。

 ——ひょっとして、こん中一つ一つ調べなきゃならないのか?

 考えただけで気が遠くなりそうだ。

「おい春原。やっぱおまえも手伝ってもいいぞ」

「え? ホント!?」

「ああ、この部屋の段ボール箱おまえに任せたからな。夕方までには終わらせておけよ」

 そう言いながら、仲間に入れて貰えて喜ぶ春原の肩をポンっと叩き、俺は渚と智代を連れて部室から出て行こうとする。

「ちょっ、ちょっと待てよ、岡崎っ。僕一人でこれ全部探せってのかよっ」

「大丈夫だ。おまえなら出来る」

「出来るかっ」

「そうですよ、岡崎さん」

 春原に無責任に保証してのけた俺を、渚は軽く睨み付けた。

「それに幸村先生は、ここはただ立ち寄っただけだから、段ボール箱の中まで見る必要はないとおっしゃっていました」

「本当か?」

「はい、岡崎さん聞いていなかったんですか?」

「あ、ああ……」

 あの時、他の事に気を取られてて全然聞いてなかったからな。

「そうか。じゃあ春原、おまえはもう帰れ」

「アナタ、すっごく自分勝手ですよねっ」

「まったく、おまえ達は見てて飽きないな」

 相変わらずの俺と春原のやり取りに智代は思わず苦笑した。

「段ボール箱の中を見なくて良いのなら、さっさと探してしまおう。四人(・・)でやればすぐ終わるだろう」

「そうですね」

 智代の提案に、渚はほっとして同意した。

「私達はこっちを探しますから、岡崎さんと春原さんはあっちの方をお願いします」

 そう言って、智代と共に小箱を探して置いてある段ボール箱の周りを探し出す。

 そう言われてはそれ以上不毛な言い合いなどしている訳にもいかず、仕方なく俺は春原に小箱の特徴を簡単に教えて二人で渚達とは反対側の方に手を付けた。

「あっ、これ」

 積まれた段ボール箱の間を覗き込んだ渚が、不意に嬉しそうな声を上げた。

 すぐそばに居た智代が手を止めて渚を見る。

「あったのか、渚」

「え、どれどれ」

 と、俺も春原も渚の許に集まった。

「あ、いえ、そうではなくて——」

 俺達に期待の眼差(まなざ)しで見られ、渚はすまなそうに見つけたものを皆の前に出した。

 それは一枚の紙だった。一面楕円形の珍妙な生物に埋め尽くされた。以前渚が書いた演劇部員募集のポスターだった。

「掲示板に貼ったものは皆生徒会に没収されて、残ったのはこのポスター一枚だけだったんです。でも何処かにいってしまって無くしたと思っていたものですから」

 そう説明して渚は嬉しそうにそのポスターを眺めて言葉を継いだ。

「こんな所にあったなんて。見つかって良かったです」

 ——まさか……

 その言葉にハッとし、俺は思わず上着の上からさっきのネクタイに留めたネクタイピンを押さえた。

「渚、おまえもしかしてそのポスター、ずっと探してたのか?」

「あ、はい。たった一枚残った岡崎さんと作った想い出のポスターですから」

「やっぱりそうか……」

 予想通りの渚の答えに、俺は表情を険しくした。

「え? やっぱりって?」

「宮沢のおまじないだよ」

「宮沢さんのおまじないって、あの失せ物探しのですか?」

「なんだ、その『おまじない』というのは?」

「昼休みに、わたし達資料室にあった本のおまじないを試してみたんです」

 話が見えずに尋ねた智代に、渚はそれに付いて話して聞かせた。

「成程、それでそれを試した岡崎はネクタイピン。貴女はそのポスターというわけか」

「ああ、多分あのおまじないの効果は、やった本人の持ち物限定なんだ」

 渚の話を聞き終えて得心がいった智代に、俺が補足する。

 だから今探している幸村の小箱じゃなく、自分達の探し物が出てきたのだ。

 だが、それに春原は小馬鹿にしたように肩をすくめた。

「でも、それって単なる偶然ってコトもあり得るじゃん」

「どっちも散々探して見つからなかったんだぞ」

 それがあのおまじないを試した途端、二人ともそれぞれの場所であっさり見つかるなんて、それこそ出来過ぎだ。

「それじゃあ、岡崎さん。幸村先生にあのおまじないを教えて上げれば——」

 ぱっと顔を輝かせて渚は俺を見た。

「ああ、落とした場所さえ判れば、小箱も見つかるかもな」

 試してみる価値は十分ある。

 ——だけどその為には、まずは幸村のジィさんを捕まえないと……

 それが問題だった。今回の行動範囲の広さからでも分かるように、やたらと足腰が丈夫だから結構神出鬼没の爺さんなのだ。

「なぁ渚、あの後幸村は何処に行くか言ってなかったか?」

「すいません。もう一度心当たりを探してみるとおっしゃってましたけど、何処かまでは…」

「いや、一応場所は全部判ってるんだ」

 役に立てなくてしょんぼりする渚の頭にポンっと手を乗せて俺は言った。

「その何処かに幸村はいるだろうからな。もう一度回ってみればいいだけの話だ」

 それに小箱より、幸村の方がデカい分遙かに見つけやすい。

 ——にしても、あのおまじない、ホントに効くとはな……

 全然期待してなかったというか、信じてなかっただけに、俺は何とも不思議な気分だった。

 




次回は人捜しです。
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