「おいっ、幸村のジィさん居るかっ」
雑木林の中、俺は大声で呼びかけると耳を澄まして反応を待った。
だが、それに応える声は無く、ただ風に揺れる新緑の葉擦れの音だけが
後は何も聞こえない。幸村を捜すのに夢中で、知らぬ間に随分奥まで来てしまったのか、さっきまで微かに聞こえていた渚達の声も、野鳥の鳴き声さえも。
全てが雑木林の
周りを見渡しても何処までも続く代わり映えのしない立ち木しか見えない。
ともすると方向感覚さえ狂いそうで、まるで自分独りだけこの世界に取り残されてしまったような錯覚さえ覚え、俺はぞくりと身を震わせた。
「おいっ、ジィさんっ、居ないのかっ」
声を出してないと自分まで消えてしまいそうで、思わず俺は大声を張り上げた。
それでもやはり応える声はない。
——と、
かさりっ。
不意に音がした。
ハッとして俺は振り返った。
そこに人が立っていた。
クリーム色の制服を着た少女が、俺を見てほっとしたような表情を浮かべて。
「渚……」
「岡崎さん、よかったです」
「え?」
小走りに自分に寄ってきた渚の言葉に、俺はドキリとした。
「周りがとても静かだったものですから、なんだか自分だけ雑木林というか、この世界にたった一人取り残されたみたいで、ものすごく心細かったんです」
俺を見ながらそう言うと、渚は嬉しそうに言葉を継いだ。
「そうしたら岡崎さんの声が聞こえて、あぁ、自分一人じゃなかったんだって、すごく安心できたんです」
と言って、えへへっと笑う渚に、俺はこいつも自分と同じ事を感じていたのに軽い驚きと安堵を覚え、何となく渚の頭に手を乗せていた。
その手を不思議そうに見やり、渚は問うように俺に視線を向けた。
「岡崎さん?」
「あ、いや……」
ほっとして渚の頭に手をやっていた自分が気恥ずかしく、名残惜しく感じながらも慌てて俺は手を下ろすと、その気まずさを誤魔化すように言った。
「まだ時間じゃないけど、そろそろ戻ってみるか。ここら辺に幸村は居なさそうだし、これ以上奥に行って戻れなくなったら困るからな」
「あ、はい」
返事を返して渚は引き返そうとする俺に続いて体を返した。
その目の前に、ひらりと何かが舞い落ちて来た。
綺麗な桃色の小さな
「……?」
何かと思い、渚は地面に落ちたそれを拾い上げた。
それは濃い桃色の花びらだった。
「あ……」
「どうした、渚」
小さく渚が上げた驚いたような声に、俺は何事かと振り返った。
「岡崎さん、これ——」
渚は拾った花びらを俺に見せた。
「桜の花びら……ですよね?」
「あ、ああ……」
それは普段見慣れていたそれより随分と色が濃いが、確かに桜の花びらだった。
だが、桜の花咲く季節はもうとっくに過ぎてしまった筈だ。現に学校へと続くあの長い坂道の桜並木はすっかり葉桜になってしまっている。
なのに、何故こんな所に桜の花びらがあるのか。
俺達は思わず雑木林の中を見渡した。
梢も下生えの繁みも皆、新しく芽吹いた新緑の緑に彩られてはいたが、その中に桃色のものは全く見えなかった。
——そこに、
風に吹かれてまたひとひら、濃い桃色の花びらが宙を舞ってきた。
それを目で追い、俺は花びらが飛んできた方に首を巡らせた。
雑木林のもっと奥の方からそれは舞ってきていた。
「岡崎さん……」
思わず渚が不安そうにぎゅっと俺の制服の上着を掴む。
渚の頭にぽんっと手を置き、俺は目を細めて雑木林の奥を見据えた。
微かに光が射し込む雑木林の奥を。
ざわりと一際大きく梢の新緑を揺らして雑木林の中を吹き抜ける風が、俺達の許にひらひらと更なる花びらを運んでくる。
まるで俺達を誘っているかのように。
「——行くぞ、渚」
意を決し、俺は身を返すと歩き出した。
雑木林の奥、その先にあるものを確かめる為に。
進むにつれて宙を舞う花びらの数は増え、射し込む光も次第に強くなってくる。
渚がぎゅっと俺の上着を掴む手に力を込めた。
俺は不安顔の渚の頭に軽く手を置いてから、俺の上着を掴む渚の手を握り締め、雑木林の向こう、光