「これが今度の実験体かね?」
「はい、資料では少年兵だとか」
「なるほど、例のルートからか…」
「負債は相当の額だったそうですよ」
「夢破れたりか…フッ…だがこの手術で生まれ変わるさ」
「生きていれば、ですが」
「まっそういうことだな。では始めようか」
(くっそまぶし!え?いきなりなにこれ…?負債ってなんだよ?…ちょちょっえちょちょ!)
「ん、意識があるな…麻酔が足りなかったか…」
(ちょy)
「送り迎えはここまでだ、あとはジェターク寮に迎えが用意されているようだ、わかっているな」
冷徹な瞳でひとりの少女を男は眺めていた。
こんなところにこのような人食いの怪物を解き放っていいものなのか、そう思っていた。
地球上で起きている企業間の戦争シェアリング。
その地獄のような非人道的な戦場で生まれた怪物。
その女児のような小さな姿は意図的であり、その力を発揮するためにあるという。
「……務めは果たすさ」
生き残るために最善をね、とうっすらと微笑む少女に男は恐れとともに期待していた。
「任務を果たした時、企業は君を本当の社員として自由を約束するということらしい、もちろん家族も用意する」
「自由、そして家族か…虫のいい話だな」
それが彼女に与えられた首輪だった、そのような精神制御が施されている強化人間。
しかしどうだろうか、この少女に宿っている理性の灯はそんなまやかしなど見破っているようだ。
用意された報酬に対してこうして鼻で笑っている。
本来であるならば、洗脳により一定の事柄に強い執着心を抱き、どんな命令も疑わない戦闘人形である筈であったが、それが通じない。
これがレイレナード社が抱えるPMC部門最強のMSパイロット。
意思や決意を湛えた瞳、これが英雄のカリスマなのだろうか。
その若さでありながら多くの戦場を超え、どんな悪辣な汚泥の中でも奇跡的な生還を何度も繰り返した、正真正銘の戦士。
この少女は不可能を可能とする。
いつしか少女が駆る機体には常に奇跡を意味する青い薔薇が添えられるようになったという。
「貴様の強さ、その可能性を見せてくれ…そして人類に黄金の時代を」
男はゆえに同志として少女に激励した。
この停滞した世を打ち破るだろう可能性の一人として。
「ああ、人類に黄金の時代を」
「任せたぞ」
男と別れ、最低限の手荷物をもって私は不自然なほど美しい宇宙コロニー内を歩く。
私は宇宙コロニー、フロント内の疑似太陽をちらりと眺めて溜息をつきたくなった。
頭がよくはないが、これがどういうことか、わかりはするが正直に言うと正気なのかよくわからないのはよくわかっていた。
なんの因果であろうか、本当に、どこかの宇宙に生まれ変わっていた。
そしてなんかガンダムであったらしい。
ガンダム 水星の魔女。
好きだったけど、好きだったけど、末端の一般人としてガンダムで転生したくないランキング上位にいつかなりそうな作品だぞ?
コズミック・イラよりはましかもしれないけど。
(なにが、任せたぞ、だ…最悪極まってるんだけど、まじで、しかもなんかところどころAC混ざってないか?…しかも俺は将来のテロ要員っぽい立場…)
私は地球出身であり、各国の紛争に参加していたPMCの戦闘員がよく使う現地徴用の少年兵として存在をしていた。
ここに来るまでにフルメタルパニックの相良宗助かガンダム00の刹那の半生並みに醜悪な社会情勢でよく見る少年兵人生だった。
そういうシナリオが組まれたかのように。
まるで強くなるために確実な生存が決まっているかのように。
まるで運命の奴隷のように、永遠のような戦いが常に用意されていた。
そしてそれを只管にクリアしてきた。
一発の弾丸も撃てない少女が立派なプロフェッショナルになれるまでのチャートが組まれているかのような濃厚な戦争の人生。
こうなるまでの遠い遠い前日の夜は呑気にゼルダの伝説の新作を楽しみにしていたような普通の社会人だったような気がする。
死んだ記憶もないのにだ、突然とこんな地獄にぶち込まれたのだ。
あと強化人士じゃないけど、なんかAC的な強化人間にされていたのである。
実際のところわたしが私としての認識がスタートされたのが改造からである。
いきなり改造後のリハビリで悲鳴上げていたら今までのこの哀れな少女の人生の記憶や経験が蘇り、なんやかんやで早4年。
(そもそも一少年兵に改造される負債とかなかった気がするんだけど…どうして…どうして……俺…性転換してるしよ、ふざけるな…メンタルきついぞまじで)
元来持っていた精神力では説明がつかないほどの頑強な理性がいつも狂ってしまう自分を抑える。
現在進行形でとっくのとうに狂ってる、常に発狂してるかもしれない。
こう性別人種ごとナニカされたときに、人格や精神が変容して、俺が生まれたのではないか、みたいな疑問は常にある、多分きっとそう。
そう思うほどに私はあまりにも薄っぺらい他人事のような記憶しか持っていない。
そうやって考えたところで答えはでないが。
そして今、ベネリット・グループ傘下の一企業レイレナード社に雇われたMSの戦闘員として私はいる。
あとなんかよくわからんレイレナード社が陰で支援するORCA旅団っぽい感じの組織のスパイとしても。
あーしろ、こーしろと言われるまま、死なないように生きてきたらなんかこうなった。
所詮末端の戦闘ユニットなので意思とか要望なんて存在しない。
逃げて進んだところで、行きたい場所なんてないし。
死ぬか生きるか、それだけしかない。
与えられた表向きの任務は、この学園での最強、つまりホルダーを目指し、テストパイロットとして自社製品の宣伝を行うこと。
裏向きの任務はホルダーを目指し、決闘委員会、あわよくば友人としてミオリネ・レンブランに近づくこと。
そうしてベネリット・グループの影で進行しているだろう計画を調査し、その全容を明かし、その計画の穴を探すこと。
ミオリネ・レンブランはぶら下がった餌だ、どう見ても。
自分が所属している企業としては企業間での勢力争いで常に得をできる立場を目指しているそうで、主導権を握る気はない、そうだ。
裏表の影の下の任務は、その計画で現れるだろう闘争への便乗。
なんかハイハイ了解了解するしかない立場でなんかそうなった。
どいつもこいつも私の生命や人間的な尊厳をちらつかせて命令するから断れないんだよね。
さっきまで私を輸送した男はその影の部類だったようである。
人類に黄金の時代を
昔やってたゲーム、アーマドコア・フォーアンサーに登場するORCAという組織っぽい合言葉。
絶対テロ命令下る、これはいつか下る。
どいつもこいつも私がわかってる前提で意味深なことしか言わないから、無視できそうなら無視したい。
怖くて無視できないけど、こんな感じだろと達成すると、また意味深なこと言ってくる。
あいつら、あのアムロさんが言う過激なことしかしないインテリ族だろ絶対。
(マジでクソ…クソが…何が、ホルダーだ…ふざけるな、あんなものに関わりたくない…)
だが、嫌でもいつか私はガンダムに関わる。
ガンダム=危険。
いずれ廃人になるか、それとも呆気なく塵のように死ぬ、そんな選択が待ってそうである。
そもそもそういう末路の仲間の屍を踏み越えて生きたのでよくわかる。
時期的には例の水星の機体と魔女はまだ存在していないが。
現在あの、グエル・ジェタークは3年生、つまり一年以内確定。
(まじで死ぬ、いつか死ぬわこれ、これは特大死亡フラグ過ぎてワロタwwwとか言えるストレス解消になるような脳内掲示板とかないのか!)
報酬は今までの人生で一番清潔で飯も旨そうな「企業の重役のお嬢様」という立場を利用できるようにはなったこと。
暖かいごはん、清潔な温水シャワー、死の危険がない睡眠。
そして任務を果たせば、自由が約束され戸籍とかいつかくれるそうだ。
正直、きっとこれは、あのエラン4号さんと大して立場は変わらんだろう。
どうせ罠だろう、甘すぎる飴の中に毒が入ってる。
そしてよくわかったことがある。
この任務のために1年ほど訓練を施されてる間で得た実感。
俺は動物園よりも野生に居た方が長生きできるタイプの動物ということだろうか。
(落ち着かない)
危険がなさすぎて落ち着かない。
それが、大きく身と心を削っている。
ストレスがないのがストレスなのである。
これは最早どうしようもない戦争中毒。
人生の大半が小数点以下の生存率でそのすべてを運よくかいくぐってしまったせいだ。
数秒先の身近な生命の危機よりも、いつかわからない死の危険が自分自身にとって最も恐ろしい恐怖ととらえストレスを感じる。
人間余裕があると余計なことしか考えなくなる例だろう、私は既に未来がないのだ、未来を思う時間が恐ろしかった。
(救いはないのか…スパイ活動なんてできない、頭がよくないんだ私は……もっと単純な、単純な戦いであれば救いであるのだが)
死に抗う瞬間、すべてから解放される。
生存のための戦いはすべての苦しみを忘却してくれる。
愛とか夢とか希望とか家族とか恋人とか友人なんて贅沢なことは言わない。
多分手に入れた瞬間、私は死ぬタイプの人間だろうから。
ありふれた願いなど想像したくもない。
(願いか、願いはひとつしかない)
納得できない死に方だけはしたくはないもんだ。
1話 進めば―迷わず行けよ、行けばわかるさ。
「うわぁー可愛い…本当に3年の先輩なんですか?」
迎えに待っていてくれた同年代の少女にいきなり抱き着かれ頭をなでられた。
強化人間手術してから身長が伸びてない、いや、パイロットは古今東西小柄な方が有利なため、そのように設定されている。
文句を言ってもしょうがない。
幼女扱いされるのは慣れているが、こうして普通の女の子に抱き着かれて愛でられるのは初めてで慣れない。
そして無意味にチヤホヤされてもそこに含む意味を考えて疑ってしまう。
まるで私が斜に構えているようだが、人生経験上、人に優しくされる時に限って大体、そのあと生存率16パーセントくらいの戦闘が待ってるんだ。
私のような素性のものは優しさに包まれたら、そのまま壊死する。
「いい加減、抱き着くのはよしてくれ…偽ってなどいないさ、ところで君の名は?」
少女からするりと抜け、その容貌を眺めると玉ねぎのような、髪型…どこかでみたような……。
「フェルシー・ロロです、ウィン・D・ファンション先輩、すいません失礼でしたか?」
「気にしてはいないさ、しかし、先輩か、こそばゆいな」
頑張って鷹揚なキャラを作って観察してみると、この子を私は覚えてない。
身体も普通の女の子のように柔らかいので、ただのジェターク社の重役の娘か何かなのだろう。
どうせならある程度の事前情報が欲しかったところだが、事前情報にも載っていない。
つまり原作とは関係ないのであろう。
「かなり優秀なパイロットって聞いてますよ先輩」
「幸い親に恵まれただけさ、誇るようなことでもないさ」
「滅茶苦茶可愛い」
また頭をなでられた。
柔らかく暖かい手だ。
さながら妹扱いされながら、整備されたフロント内を歩く。
どの景色を眺めても、美しく管理されていて、さすが噂に聞くアスティカシア、恐ろしいほど裕福なコロニーだった。
まるで夢のような世界。
(いつか壊す羽目になるかもしれないのが心苦しいものだ)
スペーシアンがアーシアンのすべてを搾取してできた玩具箱の一つだとしても、美しいものは美しい。
学園について説明も聞いてもいないのに楽しそうにフェルシーが教えてくれる。
「そういえば先輩って専用機って持ってきてるんですか?」
「ああ、勿論、ジェターク社製のものだな、少し旧式だが、私の親の会社らしくジェネレーター部分がカスタマイズされている」
ジェターク寮は幸いながら、今は上向きであり、快く迎えいれてくれるようだ。
私はMSのジェネレーター等の製造に関わるレイレナード社の重役の娘という素性が用意されている。
企業の将来優秀なテストパイロットという名目でそれなりの機体が用意されている。
正直、ガンダムじゃなければなんでもいい。
自身の名前に関しては、流石に製造名BR‐9なんて名乗るわけにもいかないので語呂がいい名前を適当に自分で選んだ。
確か由来はゲームのキャラ、ACFAのキャラかなんかだった気がする。
候補はジナイーダーとか。
せっかく未来の世界に来たのだから今時のゲームでもやってみるかと思いフェルシーにおすすめのゲームなんかを聞いていたらお互い親の眼を離れた自由を愛する同好の士扱いで仲を深めて盛り上がって気づいたらジェターク寮に到着していた。
陰謀や闘争の気配のない、普通の会話はリラクゼーション効果があるようで、沈んだ気持ちが少し収まった。
だが、やはりこういう平和に私は慣れないようでどこか疲労感が拭えなかった。
「これから寮長のグエル先輩のところに案内しますよ」
「ああ、優秀な方だと聞いている、学園最強なのだろう、同じパイロット科として、会えることをとても期待していたんだ」
グエル・ジェターク、ジェターク社の御曹司殿、現在の学園のホルダー。
確か同じ運命の奴隷のような人だったような気がする。
今はまだ傲慢の服を着た態度、ガキ大将のような人物評価だそうだ。
ジェターク社らしいMSのパワープレイに粗があるがそれなりに腕は良い。
今は睨まれないようにそれなりの謙虚な態度で下に付けば良いだろう。
「きっとグエル先輩、今、えーと汗臭いけどいいですか?」
「お互いパイロット志望の人間さ、かまわないよ」
どうやら挨拶すべき男は筋トレ中のようだ。
寮長室ではなくトレーニングルームに向かう。
そして充実した、いや御曹司が充実させたのだろうトレーニングルームでは数人の男たちが無言でマシンを動かしていた。
最新の高価な筋肉トレーニングマシンの器具の扱いから見て全員パイロット科だろう。
パイロットらしく首や肩などを重点的によく鍛えている。
(あれ好きな味のプロテインだ、どいつのだ)
「グエル先輩ー!」
「あん、どうしたフェルシー…どーしたんだよそのちっこいの」
特徴的な前髪の男がグエル・ジェターク。
自信に満ち溢れ、アニメでみるより遥かに精悍な顔つきのような気がする。
こういう男はモテる。
「うわぁマジでちっさいすね、迷子?」
彼にタオルを渡していた茶髪の少女が失礼なことを言ってくる。
「私はレイレナード社の娘のウィン・D・ファンション」
「転入が人身事故の復帰で遅れてね、こう見えてもあなた方と同じ学年のパイロット科のものさ、今日から世話になる」
フェルシーにウィンディーちゃんなんて紹介されたらそれこそ迷子扱いだ、すぐに名乗る。
少しながら流石にフェルシーに手を繋がれたその様子はかなり失笑ものなのか、数人にこいつがと笑われているが気にはしない。
まぁこんな体でMSなんて乗ったらその瞬間嘔吐しそうな見た目だからしょうがない。
そのまま少し談笑したが本気でパイロット科転入を疑われた。
「ついでだ、少し私も運動でもしていくかな、移動で体が鈍っていたところだ」
フェルシーから手を放し、上着を脱ぐ。
「え、ウィンディーちゃん、え?ごっつ!」
「へぇ、おもしれぇ」
多少、自身の性能を見せて舐められないようにするのには都合が良い。
色仕掛けなんてそもそも求められていないのだ、パイロットらしく生活するさ。
軽い運動が終わったころに、あそこにある、私が好きなチョコ味プロテインをご馳走してもらえる程度に。