だからふたり暮らしが始まった   作:あーふぁ

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1.はじまりは上半身裸

 俺に厳しく当たってくる母と妹からの開放を求め、地方から出て東京で1人暮らしを始めて1か月。

 5月にもなってくれば、高校1年生になって友達付き合いもうまくできるようになって心に余裕ができてくる。

 掃除や洗濯、料理なんかは実家にいるときに親に叩き込まれたから、上手ではなくとも一通りはできているはず。

 実家にいる時は自由がなかった。

 これからは自分が何をやりたいかを見つける日々を探そうとしている。

 しかし1人暮らしは案外忙しく、学校がある日は普段の生活をするだけで忙しいものの今日という休みの日は実に開放感がある。

 

 特に親がいなければ、それはなおさらだ。

 なぜなら男子高校生ともなれば、束縛されたくないからな!

 実家から持ってこれた物は何もなく、新しく買ったものだけだから母がお金を出したものは何もないということにすっきりとした気分が続いている。

 

 そう思いながら、朝シャンを終えて上半身裸で2階建てアパートのベランダへと出る。

 住んでいる場所は住宅地ではあるものの、俺が住んでいる2階の部屋、そのベランダは通りに面していなくて人からの視線を気にしなくていいのが最高だ。

 朝は少しだけ肌寒いものの、こういう開放感はいい。

 休日の朝6時半という、大半の人は寝ている時間だからこそできること。

 事前に人が見ることがないのを1か月かけて調査したけど、小心者なんかじゃない。慎重なだけだ!

 

 天気は晴れ。穏やかな風で解放感あふれる姿を出すのは実に気持ちがいい。

 実家にいた時はこういうのは親が文句言ってきて出来たのは1回しかなかったからな。

 よく力任せにじゃれついてきた妹と一緒に筋トレをさせられたから見せて恥ずかしい体はしていない。でも身長が164㎝とちょっと小さいのだけは気になっている。

 

 でも今はそういうのを気にしなくてもいい!

 すごい満足感と共に目をつむり深呼吸をしていると、ふと視線を感じる。それもすぐ近くで。

 やべぇ、という気持ちと共に焦りが出つつも、通報されないようにゆっくりと頭を動かす。

 視線の持ち主は、お隣の部屋にいる住人でベランダから少し身を乗り出して俺を見てきている。

 その人物は同じ歳ぐらいな感じのトレセン学園の長袖制服を着たウマ娘の子だ。

 

 腰まで伸びているっぽい、外ハネが目立つ茶色のロングヘア。頭にはCBという文字があるバッジ付の白いミニハットが。そしてウマ娘として象徴的なウマ耳がまっすぐにピンと立っている。

 それと、なんか悔しいが身長が俺よりもわずかに高い。

 

 相手をじっくり観察してはいるが余裕があるわけじゃない。

 年頃の女の子に、男の上半身裸なんて見られてからどう行動すればいいかわからないからだ。

 それは向こうもそうらしく、俺の目ではなく裸の体を興味津々に見ている。

 耳もピンとまっすぐこっちへと向いていて、ベランダ越しでは向こうの上半身しか見えないものの興奮しているらしく尻尾はぶんぶんと振っている音が聞こえる。

 

 固まること10秒ほど。

 ようやく脳が動き出した俺。

 変態とかなんか変なことを言われる前に慌てて家の中へ戻ろうとする。

 

「キミ、いい体してるね」

 

 そんなことを唐突に言われて硬直した俺は悪くないと思う。

 

「うわ、変態だ」

 

 ついこういう返事になってしまったけど、俺は悪くない! 怪しいことを言うほうが悪い!!

 なんだよ、いい体してるって。初対面なのになんてことを言ってくれるんだ。美形な子が爽やかな笑顔で言ったって誤魔化されないぞ。

 ……一瞬だけかわいいと思ったのは内緒だけど。

 

「いいものをいいと言うのは普通のことだと思うけど?」

「時と場合によるだろ。いや、元はといえば俺が半裸なのが悪いけど」

「男の子の裸って初めて見るから目の保養になるよ」

 

 じろじろと熱心に見られ続けるのがすごく気になり、会話を中断していったん部屋の中へと戻る。

 白の肌着を着てすぐにベランダへ戻ると、そこには不審者のウマ娘がまだいた。

 

「目の保養になったっていうんなら、このことは内緒にしてくれよ。せっかく引っ越してきたばかりなんだ。変な噂は立てて欲しくない」

「もちろん。いいものを見せてくれたのに、キミに取って悪いことはしないよ」

「……いいものって何度も言われるとすごく恥ずかしいんだが?」

「あ、それもそうだね。じゃあ、お詫びにアタシも脱ぐよ」

 

 名案が思い付いた、という感じでそのウマ娘は制服を脱ぎはじめ、よく鍛えられた真っ白いお腹が見えたところで俺は勢いよくしゃがんで見ないようにする。

 なんだ、このウマ娘。発想と行動が自由過ぎるぞ。一般的な女の子はこういうふうに脱がないだろう!?

 男の俺が見た場合、逆に通報される危険性があるんだぞ!? この会話を聞いている人やどこかから見ている人がいた場合は!

 

「あれ、見なくていいの? 自分で言うのもあれだけど、結構魅力的だと思うんだけど。胸は84だし」

「サイズを言うなよ! 見ず知らずの男を相手に何言ってんだ!!」

「あ、それもそうだね。ごめん、アタシが悪かったよ」

「数字を聞かされてどう反応すればいいか困るんだ」

「それじゃあ自己紹介するね。アタシはトレセン学園の高等部1年生で、名前はミスターシービー。シービーって呼んでいいよ」

 

 ……これで見ず知らずではなくなったけどさぁ。そんなに俺の体が気に入ったのか、ミスターシービーって子は。

 ウマ娘のレースにまったく興味がない自分としては、この子に対しては選手という意味では興味がない。

 一般的な男子高校生なら美人な子を見て仲良くなりたいと思うかもしれないけど、美人のウマ娘は妹だけで間に合っているから!

 美人な人は怖いという印象があったりするけど、美人な人のおっぱいやお腹なんかはいくらでも見たくはある。

 今だって本当は堂々と見たい。見たいけど、罪悪感がある。

 くそっ、この堂々と自分の欲望を出せないのは恋人がいたことがないという経験不足からなのか!?

 心の中でもんもんとした気持ちを抑えていると、シービーは爽やかな表情を俺へ向けてきている。

 

「キミの名前は?」

「高校1年生の大城マサト」

 

 名前を言いながらそぅっと立ちあがって顔半分だけ出すと、服を脱いで灰色のスポブラになっているミスターシービーがいた。

 スポブラに色気を感じないものの、トレセン学園の子らしく筋肉がいい感じについていて見ごたえがある。

 体を動かす時に、わずかに揺れ動くおっぱいに目がいってしまう。

 これは男として仕方がない部分はあるが、見すぎるのはよくない。強い理性で胸から目を離し、相手の目をみつめる。

 そうして目を合わせてから、シービーは話を始めていく。

 

「マサトって言うんだ。うん、口に出して言うと馴染みがあっていいね」

「俺はナンパでもされてんのか?」

「そういうわけじゃなくて。思ったことを言っているだけだよ。ほら、お隣さん同士だから仲良くやっていきたいから」

「俺もそう思うけど」

「よかった。これからよろしくね、マサト」

「……あー、よろしくシービー」

 

 出会って5分程度なのに下の名前で呼んでくる遠慮のない、コミュ能力が激高い子。

 それに合わせて俺もシービーと下のほうで呼んだけど、にっこり笑みを浮かべているところからこう呼んだほうがいいらしい。

 

「今日はとてもいい日だね。マサトの裸が見れて仲良くなったし。ありがとうね!」

「なんかセクハラされた気分だけど」

「そう? お互いの裸を見たんだから不平等感はないでしょ。アタシのおっぱい、大きくはないけどよかったでしょ?」

「それは……ありがとうございました!」

「よかった。結構恥ずかしかったから、微妙な顔されたらどうしようかと思った」

「…………痴女じゃないのか!?」

 

 堂々と見せつけてくるから、露出癖のある子だと思っていた!

 恥ずかしがっているだなんて思ってなかったら反応は遅れてしまう。

 呆然としている間に制服を着直したシービーはため息をつき、苦笑いをしている。

 

「どこを見たらそうなるの」

「俺の裸を熱心に見るし、不平等だと言って自分で脱いでくるし。普通は脱がないんじゃないのか」

「んー、そういうものかな」

「そういうものだって。シービーは変わっているな」

「よく言われる」

 

 あっはっは、と明るく笑い飛ばしてくるシービーを見ていると、これからはうまくお隣さんとして付き合っていける気がした。

 今まで1か月住んでいて、今日初めて会ったぐらいだから会う機会ってのはそうそうないだろうけど。

 

「今更だけど、制服ってことはこれから学校?」

「そ。学校。今日は朝のトレーニングはないから、いつものジャージじゃないんだよね。アタシの友達が生徒会やっていてさ、そのお手伝いに行くんだ」

「あぁ。いつもトレーニングをしているから会わないのか」

「キミが早起きしてくれるなら会えるけど?」

「用事もないのに早起きなんかしたくないっての」

 

 そういって仲良く雑談をし、お互いに関することを話していく。

 シービーはまだデビュー前で、部屋でダンス練習をすることがあるからうるさくなるかもと言ってくる。

 俺のほうは音楽や映画を見る時ぐらいに音量が大きくなるぐらいだ。

 お互いに気になるだろう部分を確認し、他に20分ほど雑談してから部屋へと戻る。

 

 少ししてからシービーが引っ越し祝いということで、玄関から来ては高級ニンジンを10本プレゼントしてきた。

 俺もお返ししなきゃ、と慌てて部屋の中にあるものを探す。が、ない。

 シービーを外で長く待たせるのも悪いため、先日作っていたビスケットを渡すことにしよう。

 妹にお菓子を作って、と言われてやるようになったお菓子作りの成果が今ここに!

 まぁ、見た目は悪いけど味はいいはずだ。

 これを5枚ほどラップに包み、外で待っているシービーへと渡す。

 

 俺のお菓子を見てシービーはすごい喜んで帰ったけど、引っ越し祝いにもらったニンジンはどう料理すればいいんだ。

 ウマ娘なら生でもボリボリ食べるけど、俺はそんな好きでもないし。

 とりあえずお菓子に混ぜておけばなんとかなるだろ。なってくれ。

 これだけあるなら、しばらくはニンジンを見たくないところだ。

 

 ◇

 

 5月も終わりかけ、雨がしとしとと降っている今日。

 高校の授業が終わって電車から降り、自宅へと傘を差して静かな住宅街を歩いている。

 黒い学ランの服を着て水たまりを踏まないよう注意しつつ歩いていると、トレセン学園のジャージを着たウマ娘が車よりは遅い速度で俺の横を走って通り過ぎていく。

 どこかで見たような姿に立ち止まって止めて考えていると通り過ぎていったウマ娘が足を止め、ぐるんと勢いよく振り向いてくる。

 それが怖くて一瞬だけビクリと体を震わせてしまうも、そのウマ娘は隣に住んでいるシービーだった。

 シービーは俺を見つけると、明るい笑顔を浮かべ小走りで俺の前へとやってくる。その姿頭から足の先まで雨に濡れていて、もうびしょびしょだ。

 

「やっほ、マサト。いい雨だね」

「傘やカッパは使わないのか」

「レースでは雨の日があるからね。雨に降られてもいいように慣れる練習があるんだ」

「うっわ。レースを走るウマ娘は大変そうだ」

 

 俺だったら雨の中なんて走りたくない。視界は悪くなり、足がすべりやすくなるし。

 シービーとは出会ってから3週間が経ち、ベランダや家の前で出会った時に話をする。時々お菓子をたかりに来たりもあるが。

 その時にはあまりの行動や言葉の自由っぷりから不真面目な子だと思っていた。でもやっぱりトレセン学園に通う子だけあって走ることには真面目だなと感心する。

 同時に風邪にならないかとも。

 

「まぁ、私の場合は雨の中にいたいっていう気分なだけで練習とは関係ないんだけどね」

「おい、俺の心配を返せ」

「心配してくれたの? マサトは優しいなぁ」

「友達が風邪になりそうだったらそう思うだろ」

「マサトはいい男の子だね。私のまわりはあきれるとか、いつものことかって感じでだよ」

「まぁ、毎回そういうのを見てれば俺もそうなるかもしれないが。今はお前が心配なの」

「へぇ、嬉しいなぁ!」

 

 本当に嬉しそうに言うシービー。

 だが、シービーのまわりの子が言うように気分で雨の中を走るってのはよほどの変人だ。

 走るのが好きというウマ娘は多くいると聞くが、シービーの場合は人と違うことをやってみたいからな気がする。

 この1か月ほど話していてわかっているけど、シービーは正しく変人だ。とにかく束縛されることを嫌っていて、自由に生きていたいという性格を持っている。

 そのせいか、男と女の俺たちだけどシービーは男友達のように感じる。

 シービーのような美人な子が仲良くしてくれるのは、女の子として興味を持つ。だが、シービーはなんかそんな気がしない。見た目は女の子なのに、雰囲気や行動が男っぽい。

 うちの妹と比べると、異質さがわかる。

 一言でシービーを表現するなら自由という言葉がぴったりだ。

 

「マサトはまっすぐ帰る?」

「そうなるな。買い物は帰ってから着替えて行くし」

 

 シービーは傘を持つ俺の右手側へやってくるから、俺は渋々シービーを傘の中へと入れる。

 びしょ濡れなのに、傘に入って意味があるんだろうかと思いながら歩き始めるとシービーも同じ速度で歩く。

 

「アタシ、晩御飯は焼きそば食べたい気分なんだ。作ってよ」

「夜に焼きそばかよ。ってか自分で作れよ」

「2日前にアタシのサイン色紙あげたお返しってことで」

「デビューしていないウマ娘のサイン色紙って価値ないだろうが」

「将来的に有名になるから心配しないでよ」

「未来のことより今できることのほうがいいんだが?」

 

 そう言うとシービーは口を閉じ、悩み始める。

 傘が雨に当たる音と、時々通る車を気にしながらアスファルトの道を歩いていく。

 親と一緒に住んでいた頃は、シービーみたいな自由で気分的に生きることに憧れていた。

 でも実際、1人暮らしをするとそうでもない。いや、教育熱心な母や1番を目指せと口うるさく言う妹から離れることができたのは嬉しいが。あとで祖父にまたお礼の電話をしておこう。

 母のせいで精神が疲れ、自殺したくなる気分が少し出ていたからな。

 

 考えを戻そう。シービーのことだ。母や妹のことよりシービーのことを考えているほうがずっと楽しい。

 高校では仲がいい友達ができているし、新しく趣味のプラモを作るのだって始めた。

 新生活は実に充実している。

 寂しくなっても時々シービーが部屋に来る、またはベランダで話をする時があるし。

 シービーがいてくれてよかったと思い、シービーのほうを見ると見つめあう。

 いったいどうしたんだ? と思った瞬間にシービーが雨で水分を吸って重くなった尻尾をバシバシと足へと勢いよくぶつけてくる

 

「おい、いったい、ちょ、結構痛いぞ!?」

「これで嬉しくなったり?」

「なんでそうなるんだよ!」

「もしかしたら、こういうのがいいかなと思って」

「まったく嬉しくない!」

 

 シービーによってびしょびしょになったズボンの感触が冷たく、落ち込んでいるとシービーは両手を合わせてすまなそうな顔をしてくる。

 すぐに許した俺は雑談をし、途中でシービーと別れる。

 その後、夜にシービーはお返しとしてなぜか肩もみをしてくれることとなった。

 妹じゃない異性とふれあうのは緊張と興奮と嬉しさでまぜまぜになった感情のせいで力が強すぎて痛い以外の感触がわからなかった。

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