だからふたり暮らしが始まった   作:あーふぁ

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12.シービーはスカーレットと話をする

 月曜日。

 朝の6時。

 空にどんよりと暗い雲があり、強めの雨が降っている。

 ジャージを着たアタシは外を走るでなく、トレーナー指導の下でダンスレッスンをしている。

 曲はMake debutというデビュー戦に使う曲。

 アタシのデビュー時期は決まっていないけど、早いうちからダンスをして体を鍛えていくのが一般的らしい。

 強い雨の日だからこそ走ろうとトレーナーに言ったけど、体を壊してもらいたくないから別の日にしよう! と言われたので仕方なくダンス練習だ。

 始めのうちは渋々やっていたものの、走る時とは違う体の動かし方やリズムの動き、指先といった動きに気をつけるのは案外楽しい。

 

 教官の下でやっていた基礎トレーニングと違い、ダンスや歌の練習にサイン練習というのをしている。

 こういうのをしていると本当にデビューが近づいているんだなと実感できる。

 今のダンスだって壁の鏡と向かい合いながら、後ろにいるトレーナーの掛け声でリズムを取ってするのは面白い。

 それに、練習で気持ちよく走れても時々残ってしまう不満足感はこうやって発散できるのはいい。

 あぁ、早くデビューがしたくてたまらない!

 そうすれば強い子と走れるし、自分の心を解放するかのようなダンスや歌ができる!

 そのすごい気持ちよさを感じられるように今のアタシは一生懸命に練習を続けていく。

 

 休憩を挟みつつダンスレッスンが終わったのは7時半。

 レッスン室を出たらいると思っていたのに、マサトの妹であるスカーレットは来ていない。  

 てっきり来るものだと思っていたんだけどな。

 どこかで練習をしているかもしれないけど、兄さんを見つけたスカーレットはアタシに用がないから来ないっていう可能性が高いと思う。

 アタシはマサトを奪おうとしている、と思っているらしいし話なんかしたくないはず。

 その考えの正しさを証明するかのように、授業の間の休み時間には来なかった。 

 

 そして昼休み。

 授業が終わると、お腹が減っているアタシはご飯を食べるためにエースを誘って食堂へと向かう。

 歩きながらエースへここ最近の練習はどうしているの、と楽しく話をしながら食堂へ着くとそこにはあまり会いたくない子がいた。

 その子はマサトの妹であるダイワスカーレットだ。

 

 彼女は食堂の入り口横に堂々と立っていて、アタシに恨みを持っているかのようにキツイ視線で睨んできている。

 両手にはトレセン学園専用の大きめな買い物カゴを持っていてカゴいっぱいに入っているのはたくさんのパン。

 授業が終わったばかりで、こんなにたくさんのパンを手に入れられるだなんて、なんて恐ろしい子なんて思っちゃう。

 

 この学園ではお昼ご飯は食堂がメインだ。パンは売っているものの、量がそれほど多くないから短時間で品切れになる。

 今日に限っては雨だから買いやすかったとはいえ、量が多い。

 いったいどうやって買ったんだろう、という疑問に興味を覚えていると、食堂の中にスカーレットを見ている子が2人いた。

 半分目隠れ黒髪ポニテの子と、頭に王冠アクセをつけている赤毛の子が疲れた雰囲気を出している。

 スカーレットの友達が頑張って手伝ったんだ、と納得をしていい友達ができたなぁなんて先輩目線で感心しちゃう。

 

 スカーレットは友達付き合いはうまくいっているようだけど、アタシとの仲が良くなるのは難しそう。

 だから、このまま食堂に入ると質問攻めか怒られるかになって静かにご飯が食べれないと思う。

 エースはこっち見て困惑してるし、今日はエースと一緒に食べるのはあきらめるしかないかな。

 小さくため息をついたアタシはスカーレットとふたりになることを選ぶ。

 

「待っていましたよ。シービー先輩」

「あー、エース。今日は1人で食べて。アタシはこの迷惑娘を連れていくから」

「迷惑娘? 私にすっごい迷惑をかけているのに、そんなことを言うんですか!? 私の兄さんを奪っ──」

 

 学園内で危ないことを言うスカーレットの口を急いで手で抑え、同時に手首を掴んで食堂から離れる。その時、エースはあきれたような感じでアタシを見送っていた。

 あとで弁解しておく必要があるけど、別にかわいい女の子をさらったわけじゃないからね? 後輩たちに人気があるらしいけど、アタシはあんまりそういう子たちとは話をするのは少ないし。

 

 そして連れていくスカーレットは、前に会った時は雰囲気が怖かったけど、兄が恋しい子供と認識したから雑に扱っても罪悪感はない。

 そう思うのはマサトに悪いことをした相手だからかも。

 

 静かになったスカーレットの口から手を離し、けれど手首を掴んだ手はそのままに引っ張って歩いていく。

 アタシを睨んでいる視線がすぐ後ろからビシビシ感じて、この子がマサトに執着しているのがこれだけでもよくわかる。

 

「手を離してください。話ができる場所までは静かにしますから」

 

 そう言われて手を離し、アタシの後ろをついてくるスカーレットを確認して、食堂へ向かうウマ娘たちの流れに逆らいながら廊下を歩き続ける。

 行きたい場所は静かで2人きりになれる場所。でも普段はそういう静かな場所に行かないから、どこに行けばいいかわからない。

 そこらを歩いてダメだったら、最後はルドルフに頼んで私用で使わせてってお願いはするけど。

 

「それはよかった。アタシ、お腹が空いているからさ、食べながらでもいいよね。そのパンを食べながら」

「まぁ、元々そのために買いましたから。だから、この昼休み中は逃げないでくださいね」

「逃げないよ。アタシも言いたいことはあるからね。さて、その前にどこで食べようかな」

 

 廊下の窓から見える外は大振りの雨。ざぁーっていう強い音だから、外で食べるなんて論外。朝も思っていたけど走るのなら、こういう雨はありなんだけどな。

 お昼ご飯を食べる目的なら今日みたいに雨の日はみんな室内で食べるから、どこに行っても人がいる。

 やっぱりルドルフに言って、生徒会室を借りたほうがいいかなぁ……。

 

 悩みながらスカーレットの顔を見ると、さっき会った時よりも敵意が下がった感じがする。

 アタシはケンカをする気がないから本当によかった。

 

「それで、どこへ向かっているんですか?」

「人が少ないところなんだけど、どこかいいところ知っている?」

「行き先も決めないで歩いていたんですか? それなら中庭に行きましょう。噴水があるところの渡り廊下。あそこがいいと思います」

「おっけー。じゃあ、そこに行こうか」

 

 くるりと反転し、校舎の出入り口へと向かう。

 そこへ向かう道中はアタシたちに会話はなく、息苦しい静かな時間が流れていく。

 アタシたちとすれ違う子たちは休み時間だからかテンションが高く、ご飯を食べないでトレーニングルームへ向かう子もいる。

 気楽に話ができるってことは楽しいことだなって改めて思う。

 もしアタシがマサトと同じ学校だったらどんな学校生活を送ったんだろうということを一瞬考えてしまう。

 きっとルドルフやエースにするみたいにだらだらと構ってーという姿で絡んでいる気がする。

 

 そんなことを考えていると校舎の出入り口へと向かう。

 空からは相変わらず強い雨が降っていて、アタシは噴水の周囲にある蹄鉄型の渡り廊下を歩く。

 その渡り廊下の中心部分に来ると、あたりを見回して人が誰もいないのを確認する。

 

「ここなら誰も来ないね。さっそく話をしよう。パンを食べながらね」

「好みのパンがなくても文句を言わないでくださいね」

「アタシのために買ってきてくれた物に文句なんて言わないよ」

「それならいいです。買ってきたのだって兄さんの大事な人のためなんですからね」

 

 アタシはスカーレットが持っているカゴからメロンパンをひとつ手に取って、渡り廊下の柱へと背を預ける。

 渡り廊下にアタシたち以外に人はいなく、雨の中で走っている子もいない。

 雨音だけが聞こえ、アタシたちしかいない世界ができている。

 ふたりきりで話ができるのはいい機会だと思い、袋を開けてかじりつく。

 メロンパンのぼそぼそした表面と甘さが実にいい。

 

 スカーレットはパンを食べるアタシをジト目で睨んでいたけど、ため息をついてからカゴを置き、フルーツサンドウィッチを手に取って食べ始めていく。

 サンドウィッチにフルーツや生クリームを挟むのってお菓子なのか総菜パンなのか中途半端な気がするんだよね。

 だから好きじゃないんだけど、スカーレットはマサトと同じものを好んでいるみたい。

 味の好みは家族だから似るのかな、とメロンパンを食べ終えてそんなことを思った。

 

「ね、そろそろ話をしよっか」

「そうですね。ひとつ食べましたから少しはお腹が空きませんし。それで先輩は兄さんのことをどう思っているんですか。男友達みたいな関係だと兄さんから聞きましたけど」

「そのとおりじゃないかな。よくアタシはおかずを持ってマサトの家に入り浸っているし。おかずのお返しにお菓子をもらって、助け合っている仲だよ」

「……女の人が男の人の家に行くのは良くないと思いますけど。兄さんだって男です。襲われたらどうするんですか」

 

 今まで週5回ぐらいのペースでマサトの家に行っているけど、下心がある時は滅多になかった。むしろアタシのほうが多かったかもしれない。

 出会いの時だってマサトの裸を見て、初めて父さん以外の男の裸をマジマジと見ちゃったし。

 前だってお昼を食べたあとに寝てしまってもイタズラさえもせず、毛布をかけてくれたぐらいに親切なんだけど。

 別に男の人が好きってわけでもなさそうだし。

 妹のスカーレットの影響で、女の人を怖がっている? 手を握るとかさわるというのはアタシからしてばかり。

 

「マサトはそんなことしないし、もしするなら喋ってからすると思うんだ」

「確かに兄さんは軽々しく女の人に手を出して勘違いさせるような人じゃありません。そこは意見が一致します。でも男の人相手なんですから、警戒心を持ってください」

 

 てっきり兄さんに近づくなーってことを言われると思ったんだけど、実は優しいのかな?

 男はみんな狼だ、なんて言う人も多いからね。でもマサトになら別にいいかなぁって気もしちゃう。

 恋愛的意味で好きという気持ちはないけど、一緒にいるのが自然って感じだから。嫌なことがあってもマサトと話をすれば気分が落ち着くし。

 

 アタシはスマホを取り出し、前に撮った写真を表示してスカーレットへと見せた。

 するとスカーレットは勢いよく近づいてきては熱心に画面を見つめてくる。

 

「ほら、これ見て。私とマサトの写真。これが一緒に撮ったもの、ここからは色々な角度で撮ったやつ」

 

 つい最近撮ったものを見せていくと、スカーレットは鼻を押さえては地面へ四つん這いになってしまった。

 急にどうしたのかと思ったけれど、耳を澄ますと「兄さんかっこよすぎる。兄さんをぎゅってしたい。あぁ、なんで私は兄さんと一緒に生まれてこなかったんだろう……」っていうのを言葉にしていて兄への感情がぶっ飛んでいるみたい。

 ひとしきり兄さんのことが好き系なことの呟きが終わったスカーレットはよろよろと立ち上がった。

 

「シービー先輩は兄さんのいい角度がわかっているようですね。でもですよ? 写真に関しては私の方が上なんです!」

 

 マサトの写真を見て、ゆるんだ笑みになっているスカーレットだけどアタシに対抗するようにスマホを出しては写真を見せつけてくる。

 自信たっぷりの笑顔と一緒に見せてきたそれは、アタシにとって強い衝撃を受けるものだった。

 次々に見せてくる写真をマサトが見たら、部屋の隅っこで丸くなるぐらいの凶悪なもの。

 それは生まれたばかりの頃の写真!

 

「なに、この、この……すっごいかわいいんだけど!? こんなかわいい姿を小さい頃から見ていたなんてずるい!」

「ふふん! どうですか、これが私だけが知る兄さんです! 一緒に暮らしていた時はアタシに無愛想ながらもよくしてくれたんです。とっても優しいんですよ? 私がお願いすれば、色々やってくれますし!」

「へぇ、マサトは優しいんだ?」

「そうなんです! 私が怖くなったとか寂しくなったっていう時に。あと泣いた時もです!」

 

 ……それはなんというか、マサトも仕方なく妹の世話をしているってのもあるんだろうけど、冷たくなりきれない優しい子ってことなんだろうなぁ。

 いや、怖いあまりに反抗できないってことがあるかもしれないけど、それだったら今のようにいい子に育ってきてないし。

 マサトも嫌いという感情に徹しきれなかったか、妹から見ればすごく優しいお兄さんで妹が依存というか執着する要因のひとつになっているんだと思う。

 

 でも距離を置いてお互いに自分の気持ちや今までやっていたことに気づき始めているから、マサトとスカーレットの関係が正常になるにはマサトのお母さんがいないだけで自然とよくなっていきそうだ。

 それには時間はかかるかもしれないけれど。

 

 過去のマサトも優しいことに安心していると、スカーレットが新しく自慢げに見せてきたのは小学生時代のマサト。もう最高にかわいい。なに、このかわいい生き物。

 それに中学生の写真なんて子供から大人へと向かう途中の姿はとても興味深い。

 

 ジャージを着て走っている動画もあれば、スカーレットじゃない人が撮影したスカーレットをマッサージするのもあるし。マサト本人の表情はあまり嬉しそうではないけど。

 マサトとマサトのお母さんっぽいウマ娘の成人女性が一緒にランニングしていて、 マサトは無表情だけど母親は楽しそうだ。

 そうして写真や動画を見せられていくうちに大事にされ、暴力行為もないように思える。

 ただ、マサトが笑っているのはあまりないのが気になったけど。

 

「どうです? 汗を流した姿とか最高にかっこいいですよね! ですから、私の兄さんに近寄ってもらいたくないです。軽い関係ならいいんですけど。

 シービー先輩だって1人暮らしの男の子と仲良くしすぎると襲われますよ?」

「心配してくれるんだ?」

「いえ。兄さんから離れて欲しいんです。友達付き合いは認めますけど、恋愛関係なしに近い距離でいるのは妹だけの特権だと思うんです」

 

 この子、自分の兄さんがずいぶん好きっぽい?

 ……写真を見る感じ、もしかしなくても感情が行き過ぎて兄であるマサトを束縛したかもしれない。

 スカーレットは幼稚園の頃から付きまとっていたらしいし、無意識で兄を苦しめている?

 自分のそばにいさせようとした結果、マサトがどうなったのかをあまり理解せずに?

 

 マサトは妹に対して前向きで未来志向で行くみたいだけど、どうしてもアタシは気になってしまう。

 後ろばかり振り向くのは悪いことだけど、かといってすぐに許してしまうのも問題がある。

 っていうかアタシが気に入らない。

 マサトはとてもいい子なんだ。なのに、妹の話を聞いただけであんな気分が悪くなった。

 普通、話を聞いただけえ怯えるのはよっぽどのことじゃないとありえない。

 自然とアタシは顔つきが険しくなり、耳を後ろへと絞って怒りの感情をスカーレットへと向ける。

 

「なんですか。妹が兄さんのそばにいたいっていうのは変だと言いたいんですか?」

「言わないよ。好きな人のそばにいたいのはごく自然なことだからね。でもアタシは思うんだ。

 そばにいるのに、自分自身が苦しみを与えていることに気づいてもよかったんじゃないかってね」

 

 アタシが残念そうにため息をついて言うと、一瞬にして耳を後ろに絞って静かに怒りを見せつけてくるスカーレット。

 よかった。これで怒ってくれて。

 これで自覚がなかったらマサトは以前と同じように同じ苦しみを味わい、また心が折れるところだった。

 今はこうして悪いことだと思っているのなら、マサトとスカーレットは時間をかければ昔のように仲良くなれるかもしれない。

 

 アタシがマサトとスカーレットの関係がどうすればよくなるのかな、と悩んでいると顔を真っ赤にして怒りに震えているっぽいスカーレット。

 何かを言おうと口を開くも、言いたいことが見つからないのか言葉は聞こえてこない。

 

「せっ、先輩に私と兄さんの何がわかるっていうんですか!? そもそも先輩は兄さんの何ですか? ただ隣に住んで仲良いってだけじゃないですか!

 恋人でもないのにこれ以上邪魔しないでください! 兄さんのことが心配なら、放っておくのが1番だと思います!」

「アタシとマサトの関係ね。一緒にいて楽しいし、ずっとそばにいたいぐらいに好きではあるけど、恋愛感情じゃないと思うんだ。

 でもね、そんなアタシでも言えることはあるよ。好きな人なのにマサトが嫌がることをするなんてひどいなって」

「それはっ! ……それは。私は兄さんが立派な人になって欲しかったんです。運動や勉強を頑張れば、小さいうちは辛くても将来はそうしてくれたことに感謝するって」

「それ、キミの考え?」

「いえ、お母さんが言っていたんです。私もそうだと思って。だから兄さんにとって必要のない物を隠し、目指すべきものに集中できるようにしたんです。

 それに兄さんは優しいから、兄さんのために私も協力していたんです!」

 

 目指すべきもの、ね。

 マサトのお母さんは学力や運動能力で優秀な成績を持つ子が欲しく、スカーレットは兄を独占したかった。

 ……こういう環境でよくマサトがあんな良い子になったなぁ。普通、ぐれたりしない? こんなに自由を束縛されてさ。

 いや、だからこそか。自由が欲しかったから、自由すぎる私と仲良くしてくれたんだ。

 

「今もそう思っているの?」

「……今は違ったんだと理解できています。私も色々考えるようになりましたから。もう勉強や運動を頑張れなんて言いません。ただ、私のそばにいてくれればいいと思っています」

「それなら時間をかけて仲良くなるといいよ。もしマサトに以前のような気持ちを押し付けるようだったらアタシが代わりに怒るから」

 

 これならアタシも安心できそう。反省をしているみたいだし。

 小さい頃は理解できる世界が狭く、親のことがどうしても正しいと思ってしまう。

 実際、親が言うことの大部分が正しいことだとは思うけど、成長して自分の世界を広げていくことで"自分"という個性が得られるんだと思う。

 スカーレットだってマサトを苦しめていた時と違い、トレセン学園に来て変わったみたい。

 それは環境が変わったのと、ルームメイトという毎日一緒にいる子ができて何か影響を受けるだろうから。

 

「シービー先輩は私と兄さんを応援してくれないんですか?」

「アタシだってマサトと一緒にいたいし」

「……恋愛感情はないと言っていましたけど、それなら兄さんとどういう関係になりたいんですか?」

「んー、ハグフレンドっていう関係? ほら、ハフレってやつ」

「なっ……! 恋人でもないのに日常的に抱きしめあうアレですか!?」

「そ。今は頭を撫でて手を握るくらいしかしてないけど、抱きしめ合ったらすごく気持ちいいと思ってさ」

「えっちすぎです! ダメです! 私もそういうのをたくさんしたいです!! うらやましいです! ……ちょっと興奮しました。すみません。そういうのはG1を取るぐらいじゃないと妹の私は許しません!」

「じゃあ、その先をするならクラシック3冠?」

「今まで2人しか取っていないのを取れるなら、兄さんと恋人になってもいいですよ?」

 

 スカーレットの無理でしょ、という雰囲気で気づいたんだけど、マサトの家に入り浸っているから実質同棲、いや恋愛関係じゃないからルームシェアをやっている気がしてきた。

 そして、アタシが言った"その先"というのをもうしているのかもしれない。

 アタシがしていることはそれになるのか聞くと話が長くなるから言わないけど。

 

 ……いいタイミングがあったら満足するまでハグしよう。それをすれば今よりも仲良くなれるから。

 時々、夜に1人でいるのは寂しい時があるし、気持ちよく寝れるためにぎゅって抱きしめ合うのはとても幸せなことなんじゃないかな。

 こういうふうに想像するだけでもうワクワクしちゃう。

 表情に笑みが出てしまい、それは3冠を取れる自信がある、もしくはその先をやろうとしているように見えたのかもしれない。

 スカーレットは体全身から不満だっていう感情を出し、アタシをにらんでくる。

 

「シービー先輩を義姉さんって呼びたくありませんからね!!」

 

 そう叫ぶと、アタシにパンを3つ押し付けてから校舎へと走り去っていった。

 怒らせるつもりはなかったんだけどな。

 しかしあんなに兄のマサトが好きだなんて。もしマサトに恋人ができたら大変だよね。

 そうなったらアタシにまで協力を呼び掛けて『兄さんを取り戻しましょう!』って言ってくるのが想像できて小さく笑ってしまう。

 まだ中1ということもあってか、小さい子がそういう嫉妬をするのがかわいく思える。

 だって、敵であるアタシにお昼用のパンをきちんと渡してくれるんだから悪い子じゃないのはわかる。

 

 もしスカーレットが暴走して何かあった時は友人としてマサトを助けるけど、マサトに恋人ができたら今やっているようにお菓子をもらうことや家へ遊びに行くのは難しくなるのかな。

 そんなことを考えただけで、なんだか胸が痛くなる。

 別に嫉妬しているわけでもないのに変だな。

 アタシ、こんなに寂しがり屋だっけ?

 いつかはマサトだって誰かを恋人にして結婚する時があるだろうし、スカーレットと同居するかもしれないのに。なのに、考えるだけで辛い。

 

 ……こういう時はマサト成分を摂取しないと。近頃はマサト&スカーレット兄妹とずいぶん話をしたし。そろそろワガママを言っても許してくれるはずだ。

 前から気になってたハフレ。

 そう、ハグフレンド。夜遅くまでいるし、長時間抱き着いても問題ないよね。

 

 前にエースが「女が男の部屋に夜遅くまでいたら危なくないか?」って言っていたけど、マサトはそんな感情は持っていないし。

 年頃の男の子だから、アタシのおっぱいや太ももといった部分は時々見てくるだけだから安全だよね。

 今までのことを思い出してもエースやルドルフにやっていることをそのままマサトにやっても大丈夫な気がしてくる。

 よし、寂しくなったらマサトにハグをしてもらおう! 

 

 あ、でも急にやったら変態って言ってくるだろうから、タイミングを見てやってもらおうかな。

 そう考えて心が落ち着いたアタシはスカーレットからもらったパンのひとつ、ツナマヨパンを食べながらウキウキした気持ちで雨音を聞いている。

 マサトと会う時がますます楽しみになってきたと思いながら。

 あ、バナナケーキを渡してないから放課後にでも渡してこないと。スカーレットの兄成分不足を解消させなきゃね!




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