だからふたり暮らしが始まった   作:あーふぁ

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3.趣味があれば人生は楽しくなる

 感謝の気持ちでいっぱいになりながらシービーの姿を見ていると、テンポの良い何かの鼻歌を歌いながら材料を切って料理を始めていく。

 そんな姿を眺めていると、こう、感情として表現できないものがやってくる。

 実家にいた時は母や妹が料理をする姿を見ても嬉しくもなんともなかったが、こうして仲のいい人が作ってくれるというのはなんかいい。

 その姿を眺めているとシービーが俺のほうを振り向いては、ニッと明るく笑いかけてくる。

 

「かわいいな……」

 

 俺も笑顔を向けると、料理をし始めたシービーに無意識でそんな言葉を小さくつぶやいてしまい、言った瞬間にひどく焦る。

 こんなのを聞かれるとシービーにからかわれるし、シービーに対しては女性というよりも同性的な扱いでずっと仲良く友達でいたいから。

 

「なんか言ったー?」

「料理が楽しみだなって言ったんだ」

「んー、あんまり期待しないでおいて」

「いつももらうおかずがうまいんだ。期待しないわけがないよ」

 

 耳だけを俺の方へと向け、温まったフライパンに油を流しながら言うシービーに、大きめな声で返事をする。

 どうやらさっきのつぶやきは、幸いにもシービーが換気扇をつけた後の言葉だったから聞こえなかったらしい。

 なんて言ったかを誤魔化すための言葉はシービーの機嫌がよくなったようで、1回だけ大きく尻尾がふんわりと揺れる。

 

 シービーが料理をしている間、時間ができた。

 それでするのはガンプラ作成だ。着替えや部屋の掃除といったのが一般的な男子高校生では当たり前の行動だと思う。

 でも部屋の中にシービーはいるし、今から見栄のために掃除をしても意味がない。それに唐突に来ることが多いシービーだからありのままを見てもらったほうが精神的に楽。

 着替えのほうは恥ずかしいし。シービーなら俺が下着姿でいても悲鳴や顔をあからめるのでもなく興味津々で見てきそう。いや、見てくる!

 堂々と見られるのは俺の精神力ががりがり削られるから、着替えは後だ。

 と、なるとだ。

 ガンプラを作ることしかないだろう?

 もう少しで完成するし。

 

 シービーが料理を作っていく音をBGMにして作業を再開し、時々調味料や器具の場所を教えながらガンプラを作っていく。

 武器やシールドも作り、最後にはシールだ。

 そのシールを張り、ジム寒冷地仕様が完成だ!

 塗装がなくても見栄えがいいのは、さすがガンプラ。

 このジムはプロポーションがよく、ただ立たせているだけでも実にかっこいい。

 

 俺はひさしぶりに作ったプラモデルに満足感を得て、道具やゴミを片付けてからは手で様々なポーズをつけては眺めるといったことを繰り返す。

 全体的に地味ながらもグレーと白を基調とした色バランスは目に優しい。

 シールド裏のモールドだって細かいのがきちんと作られているのは感激する。

 そうしてガンプラに見惚れていると、ふと視線を感じる。

 振り向いた先ではシービーが料理をする手を止め、俺が手に持つジムを見ている。

 

「部屋に来たときから思っていたんだけどさ、それ、作るの楽しい?」

「めっちゃ楽しい」

「ねぇ、それ、あとでさわってもいい?」

「出来に文句を言わないのなら」

「言わない言わない。気に入った時は持ち帰るから」

「自分で作れっての! こういうのはな、自分で作って飾ったほうが楽しめるんだよ!」

「作る……そっか。そうだよね、プラモデルだから作れるんだよね。あとで話を聞かせてもらうから」

 

 神妙な顔でつぶやき、何に納得したのかすっきりとした顔で料理へと戻っていく。

 シービーはプラモに興味があるのか。ウマ娘って筋力があるから、力を入れすぎたりしてモノづくりが苦手なんだろうか。

 ひとしきり遊んだあとはジムをまっすぐに立たせたあと、本棚に置く。

 それからシービーの様子を見に行き、料理が完成間近な様子から食事の準備をする。

 テーブルを濡れ布巾で拭き、食器棚からふたり分の皿や箸を用意。

 

 それからすぐに料理ができあがり、テーブルの上に並べていく。それらは作ったものもあれば、買ってきた惣菜も。

 ステーキ、豆腐、エビチリ、イカ天、イモ天、ごぼうとニンジンのきんぴら。

 あとはニンジン料理がたくさん。どれもひとつひとつの量が多い。

 

「これ、全部食べれるのか?」

「余ったら後で食べればいいよ。でもこれぐらいなら食べれるでしょ? 男の子はたくさん食べるって聞いたことがあるし」

 

 ちゃぶ台の上いっぱいに置かれる料理を見ると腹が減っていた俺も食欲がちょっとだけなくなる。

 いやさ、確かに男子高校生ってのは飯をたくさん食う生き物ではある。

 だとしても無理なものは無理だ。

 実家にいたときは母と妹がウマ娘だから、量が多くて食べ過ぎないよう気をつけていた。

 

 俺にだけあたりが強い妹は、強引に食べさせてくるのが時々あったが。

 なんでも大きくならないと1番になれないとか、身長が高いほうがいいといって。

 今となっては思い出したくない記憶だ。母は子供たちの楽しいふれあいだと思って止めないし。

 

「どうしたの? 嫌いなものでもあった?」

「いや、なんか料理上手なシービーに嫉妬しそうになっていたんだ」

「でもアタシ、お菓子作りが下手だからマサトがうらやましくなることがあるよ」

 

 昔の思い出より目の前の今を考えよう。

 

「ほら、さっさと食べるぞ。せっかくの飯が冷えてしまう。そういえば白い飯は足りたか?」

「あぁ。アタシんちから持ってくるよ」

 

 普段は自分用の1合しか炊かないため、シービーは自分の家に行って戻ってくる。

 その両手には炊飯器ごと持ってきて、ちゃぶ台の前に座ったシービーは自身の隣へと置く。

 

「なにそれ」

「何って、炊飯器だけど」

「いや、まるごと持ってくんなよ。女子力ねぇのか」

「別に記者がいるわけでもないし、マサトだって文句言わないでしょ」

「言ってるだろ、今。俺の夢を壊し……てないな。シービーならこういうのは自由じゃないと変だ」

「でしょ? 考えてもみてよ。アタシが上品にお米をラップにくるんで持ってくるのって変に感じるよね」

「確かに。出会って1か月ちょっとなのに、なんか昔から知っている気がする」

「アタシもマサトとはそんな気がする。うるさく言ってこない男の子なんて初めて」

 

 いただきます、と言ってシービーは食べ始めていく。大きく口を開け、箸で次々と入れていく。

 シービーは面倒なことに気を遣わなくていいから楽な相手だ。

 今だって一緒にいても疲れないし。

 シービーの気持ちがいい食べっぷりを見ながら、俺もご飯を食べていく。

 

 それから普段のなんでもない話。お互いの学校での食事や勉強などといった雑談をしつつ、ご飯を食べ終わると、シービーは素早く食器類を片付けていく。

 そんなに急いでどうしたんだと不思議に思っていると、片付けが終わったシービーはきらきらと輝く目で向かいへと座ってくる。

 

「さてプラモデルの話をしようよ。さっきのあれをさ」

 

 シービーが指をピンと指差す方向へ目を向けると、俺が作ったばかりのジム寒冷地仕様があった。

 女の人がこういうプラモに興味を示すのはすごい新鮮。

 うちの母や妹は邪魔な物扱いをしてきたから、それはもう。まぁ、うちの場合はコレクションする系統なもの全般に興味が低かったけど。

 

 本棚からさっき完成したばかりのを持ってちゃぶ台の上へと置く。

 シービーはそれをじっくり眺めたあとに、俺に期待のまなざしを向けてくる。

 なので、どうぞ、と手で指し示しす。

 すると途端にシービーは素早く、それでいて優しく手に取ると様々な角度で見ていく。

 足裏、バックパック、頭部。

 そうして見たあとは手足をそっとさわり動かしていく。

 ちょっとずつ動かし、力を入れ始めて大きく動かしていくと目が輝いている。

 小さな子供のような、宝物を見つけた! という感じで。

 

 そんなふうになっているシービーを見て、どうしようもなく嬉しくなる。ならないはずがない。

 実家にいた頃は冷たい扱いをされていたが、俺が作ったものに強い興味を持ってくれているからな。

 ひととおり色々な姿勢をさせたあとは、元の垂直立ちにしてちゃぶ台の上へと置く。

 

「これ、可動範囲広いんだね。プラスチックのおもちゃってもっと小さいものだと思ってた」

「それは2000年代初期のキットだから広くない。新しいのだと正座だってできる」

「正座が!? へぇ、こういうのって子供が作って遊ぶものだと思っていたけど、大人でも遊べるんだね」

「趣味としてはいいと思うよ。ガンダム系なら安く作れるし」

「ガンダム系?」

「アニメに出てくるロボットの総称。ガンダムのプラモだから、ガンプラって言われている」

「ガンプラ! ……これ、アタシも作れる?」

 

 ちゃぶ台の上に両手を置き、前のめりで俺へと顔を近づけてくるシービー。

 その顔に片手を押し付けて座らせるが、俺がなんて言うかをすごく期待して待っている。

 

「細かく言うなら、ガンプラって色々グレードがあって作りやすさが違うから説明には時間がかかるんだが?」

「マサトが作っているのと同じのがいい」

「それなら少ない出費でしっかり作れるな」

「本当!? それならアタシも作りたい! ちょっとスマホ持ってくる!!」

 

 そう言ってレースウマ娘ならではの素晴らしいダッシュで玄関から出ていくと、すぐにスマホを手に持って戻ってくる。

 スマホを操作し、通販アプリを立ち上げた状態で俺へと手渡してくる。

 

「マサトが使っている道具をカートに入れて!」

「スマホごと渡すなよ……。俺が持っているのでいいのなら」

 

 スマホごと渡す無警戒感にあきれながらも、これは信頼の証と思うことにして俺が使っているのと同じ商品をぽいぽいと選んでいく。

 最後に値段の合計が表示されている画面に移動してからスマホを返す。

 シービーは俺から嬉しそうに受け取ると、ぽちぽちと操作をしていく。

 

「よし、後は届くのを待つだけ」

「商品ごとの詳細を見てから買わなくていいのかよ」

「別に大丈夫でしょ? マサトが使っているんだから悪い商品じゃないだろうし。それにそんな高くなかったし」

 

 信頼されると嬉しくなる。でも道具だけ選んでどうするんだ。

 作るプラモデルはなく、プラモデル初心者向けの教科書な本を買ってもいないし。

 どうするんだと思ってシービーを見ていたが、続けて何かを買うような様子もない。

 

「作る物や技術本は探さないのか?」

「何が欲しいかわからないし、作り方は教えてもらうから」

「作るのは教えてもいいが、選ぶものによってはわからないぞ」

「その時はその時。ひとまずガンプラから探すかな。あとはガンダムっていうタイトルの何かのアニメを見たほうがいいだろうし。何から見てもいいんでしょ?」

「タイトルやデザインでぴーんと来たらそれでいいと思う」

「欲しいのが決まったら言うよ。特になかったら任せるし。マサトならアタシにぴったりのを思いつくでしょ」

「プレッシャーがかかるから自分で決めてくれ」

 

 スマホをちゃぶ台に置いたシービーは、そんなことを言いながらまたジム寒冷地仕様を手に取って手足を動かしていく。

 プラモデルひとつでこんなに喜ぶのは意外で、レースをするウマ娘は走ることしか考えないんだろうか。

 しかし、俺が決める場合になったら何が似合うんだ。

 名前的にストライクフリーダムガンダムか? もしくは鳥のように自由なイメージからウイングガンダム?

 

「トレセン学園ではプラモの話をする相手ってのはいるのか?」

「いないね。プラモどころか趣味を作るという自体があまりなくて。みんな心の余裕がないというか、真面目過ぎるんだよ。そんなのばかりだと体を壊しちゃうってよく思うことがあってさ」

「熱血な子ばかりか」

「中にはほどよく息抜きをしている子たちはいるんだけどね。走る、踊る、歌うこと以外に興味を持つ子が少なくて。マサトがいてよかったよ。こういうアタシが興味を持つ知らないことを知るのは嬉しいね」

「それならよかった」

「うん、本当に。アタシ、マサトと出逢えてよかったよ」

「そう正面から言われると恥ずかしいが。俺もこうして気楽に話せるシービーがいて嬉しい」

 

 おだやかな笑みを向けてくるシービーに、俺も素直な気持ちを返す。

 シービーがいて実に楽しい生活を送れているは事実だからだ。

 女の子と話をするのってすっげぇ楽しいってことを実感する。

 プラモデルに興味を持ってくれるし、もしかしたらプラモデルを作る仲間が増えるかもしれなくてワクワクする。

 学校と違って遠慮なく話せるしな。

 日頃の感謝や今日のご飯のお礼として近いうちに日持ちするクッキーを大量に作ってやるか!




多くの方に誤字報告をしていただき、ありがとうございます!
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