だからふたり暮らしが始まった   作:あーふぁ

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5.帰り道の話は楽しいもの

 6月が半分ほどになり、道具よりも優先してガンプラを買っては作る日々を楽しんでいた。

 梅雨の時期が来て雨が多くなっているけど、今日は気持ちがいいほどに晴れている。

 青い空と暖かい日差しは実に眠気を誘ってくれる。

 そんな悪魔のごとき眠気と戦い続けていると、昼休みにシービーからスマホに連絡が来た。

 いつもドアやベランダ越しから用件を言って会うから、こういうのは少ない。

 用件というのは『ガンプラを買いに行こう!』ということだ。

 

 なんでも今日の練習はなくなったため、放課後になってから一緒に買い物がしたいらしい。

 ウマ娘は毎日練習をやるものとシービーと会うまでは思っていたが、そんな練習漬けだと体が壊れるから休みがちょこちょこあるらしい。

 迎えに行くから学校名を教えて、というので通っている高校名と授業が終わる時間を書いて送信する。

 俺から迎えに行こうかとも思ったけど、トレセン学園の前で男1人で待つのはすごく居心地が悪い。

 場合によっては警備の人に連れていかれるかもしれないし。

 

 シービーが放課後に来るなら、どこの店に行くかを考える必要がある。

 個人店か大型店か迷ったが、行くお店は家電量販店の大型店舗。品揃えは多く、様々なプラモデルやおもちゃが多くある。

 ガンプラ以外にも興味が出てくるのがあるかもしれないし。

 道具は昨日夕方に届いたって言っていたから、ぶらぶらとパッケージ絵を眺めていけば良いだろう。

 方針が決まると『電車に乗って店に行く』という返信をする。

 

 シービーにはプラモ作りを教える約束をしてるが、少しだけ面倒だな、と思いながらも自然と笑みが浮かんでしまう。

 もしかしたら、これからガンプラの話をできる相手ができるかもしれないのは嬉しいし、自分が好きな物を相手も好きになってくれるのは喜びしかない!

 嬉しい気分で昼休みは調べものをして終わった。

 そして授業が終わると、早々にバッグを持って待ち合わせ場所である校門へと向かう。

 トレセン学園の方が授業終了時間が早いと言っていたから、もしかしたら着いているかもしれないし、ちょっとだけ待つかもしれない。

 スマホを見ると何の連絡も──来た。校門で待っているから、とそんなメッセージが。

 迎えに来てくれたんだからジュースでも買っていってやるかと思い、購買で自分の分も合わせてオレンジの缶ジュース2本を買う。

 

 缶ジュースをバッグに入れて校舎を出ると、校門には女子生徒6人に囲まれて楽しく話をしているシービーの姿が見えた。

 半袖の夏仕様な制服を着てバッグを持っているシービーは、女の子に甘い言葉をささやいているのか褒めているのかは分からんが、女の子たちが黄色い声をあげている。

 どうするか。

 あの集団に突っ込むのはすんごく嫌だ。楽しく話をしている時に邪魔をするとすんごい怖い目つきになりそうだし。

 昔、妹がやや強引に貸してきた少女漫画もこうやって校門で囲まれているシーンがあったな。あれとは性別が違うが。

 ……なんかあるたびに妹との記憶が出てきてしまう。

 それに楽しい記憶は少なく、苦しいものばかりが残っている。

 でも今は妹に怯えなくてもいい。妹は地方トレセンに行くと言っていたから、シービーの通う中央トレセンにはいないはずだ。

 もし俺がここにいることを知って来たのなら、住んでいるアパートの住所を知って襲来してくるだろうし。

 

 だから今は百合とまでは行かないだろうが、それを眺めるか。

 まぁ、楽しそうにする姿をぼぅっと見ているだけならはいいものだが、シービーと合流しなきゃいけないから向こうにはなんか行きづらい。

 かといって放置しとくのもなぁ、と思いながらゆっくりと校門へと歩いていく。

 

 近づいていくと、シービーが俺に気づいて右手を上にあげて大きく振っている。

 返事として、右手を胸元で小さく振ると女の子たちに「ごめんね」と言いながら嬉しそうに近寄ってくる。

 

「やぁ! 待ったよ、マサト」

「暇はしてなかったようだが?」

「うん? あぁ、彼女たちにはこの高校のことについて聞いていたんだ」

 

 シービーはさっきまで話をしていた女の子たちに笑顔で手を振ると、その子たちも嬉しそうに手を振り返している。

 こいつは顔がいいし、話も面白いから人気になるのはわかる。

 うちの学校にもウマ娘の子はいるけど、レースをするウマ娘とは違って……言葉には表現しにくい爽やかさがある気がする。

 

「それじゃ行こっか。歩いていく? 電車? それともアタシが抱えよっか?」

「なんだ、最後の選択肢は」

「そっちのほうが早いかなって」

「そんなのをされてみろ、俺がそこらの人たちや学校中で笑いものにされる」

「お姫様抱っこじゃなきゃ大丈夫じゃない?」

「それ以外の抱かれ方でも嫌だ。ほら、さっさと行くぞ」

 

 そう俺が言っても手を大きく広げて近づいてくるシービーから1歩後ろへと下がり、からかおうと駅へ向かって全力ダッシュをする。

 

「え、そこまで嫌だった!?」

 

 背後から声が聞こえ、シービーに驚きを与えられたので心の中でガッツポーズ。

 いつもこっちが驚いてばかりだから仕返ししたくなるんだよ!

 5秒ぐらい走ってから後ろを見ようとすると、すぐ隣にシービーが余裕そうな表情で走っていた。

 俺は驚く余裕もなく、そのまま走ることを決断して100mを過ぎたところでいっぱいいっぱいになって立ち止まってしまう。

 

「急に走り出すからびっくりしたよ。次からはマサトの方から抱っこしてって言ってもらえるように考えなきゃね」

 

 シービーは息切れすることもなく、俺の前で立ち止まるとそんなことを言ってくる。

 そんなのは絶対ないと言い返したいところだが、息切れが辛い。

 人とウマ娘では能力に違いがあることは昔からあったが、体が大きくなるほどウマ娘の身体能力が高さを実感してしまう。

 ゆっくりと歩き始めると、シービーは残念、と笑いながら俺の隣へとやってくる。

 普通はこうやって女の子とふたりで出かけるのは、放課後デートだ! と喜びそうなものだが不思議とシービーとはそういう気がしない。

 見た目がイケメン系というのもあるが、男友達と同じように接するからだ。

 まぁ、こういう気安い関係が気に入っているからいいことだが。

 

「今日はどこのお店へ行くの?」

 

 息が整いはじめて来たところで、シービーはポケットから出したハンカチで俺の汗をぬぐいながらそう言ってくる。

 

「ガンプラが充実している個人店だ。大型店でもいいが、人が少ないほうが静かに見れるだろ」

「アタシはお店の良し悪しがわからないからマサトのおすすめならいいよ」

「おう、任せておけ」

 

 そう言ったところであたりを見回す。

 歩いている道は学生がよく使うところで、あたりは学生がまだ多くいる。

 

「ん? どうしたのさ。そんなきょろきょろして」

「いや、さっきシービーは校門で何してたか聞こうと思ってな? それでその時に話をしていた女の子がいると気まずいじゃないか」

「別に変な話はしてないよ。仲がいい男の子と待ち合わせで買い物しにくってだけで」

「うわぁ……」

 

 さっきの集団には同じクラスメイトの子もいたから、明日になれば質問責めに近いくらいのことはされそうだ。

 あの子の顔は好きなアイドルを見つけたぐらいの熱狂度を感じたし。

 

「いい子たちだったよ。学校のことやマサトのことも聞けたし」

「俺のこともか」

「うん。別に変なことは言ってなかったよ」

「それなら安心ということにしておく」

「そうしておいて。妹がいたらああいうかわいい感じだっただろうなって思ったよ」

「妹なぁ……」

 

 俺にとって妹とはかわいいではなく、恐るべき存在だ。

 文字通りウマ娘と普通の人である俺という違いで。

 世の中、ウマ娘の姉や妹を持つ人たちはどうやって上手に生活しているんだろうか。

 小さい頃なんてわがままで、自制心が弱いから大変だと思う。

 俺の場合は、妹が力任せで妹がやりたいことに付き合わされたし。

 かわいい部分だってあることはあったが、俺の精神安定を大幅に削って胃が痛くなる犠牲を得てまですることじゃない。

 

「そんなに嫌そうな顔しなくても。男の子って妹が欲しいって思うのが普通じゃないの?」

「俺の引っ越しした理由は実家が嫌で祖父に助けてもらった、と前に言ったが大きな原因は妹。いつも厳しく当たってきて辛かったんだ」

「おにいちゃん嫌いって言われたりした?」

「……いや、思い返せば言われたことないな。俺が作ったガンプラを隠され、ゲームで遊んでたら取り上げられてランニングに付き合わされる。よくお菓子を作れと言い、母と一緒に勉強で1番取れとか言うし」

「ウマ娘は競争本能が強いからマサトも強くあって欲しかったんじゃない?」

「そういうもんか? ずっと言われ続けたから励ましの言葉さえも嫌味じゃないかと感じた。離婚して父親がいないから、相談する相手もいなく1人で頑張るしかなかったし辛かったよ」

 

 俺の父は俺が3歳の頃に離婚したと聞く。理由は父が母に愛想を尽かして浮気したとのことで。

 だからか、俺もそういうふうにならないように厳しく育てたんだろうか。

 変な影響を受けないようにか、友達を作るのにも母親に決められていたし。

 家にいても疲れるから、心が休まるのは塾に行っている時だけという。そこだけじゃなく夏休みや冬休みで祖父母の家に行ったときもだ。

 

 昔の俺は、自分自身がダメだから母に勉強を頑張れと言われ、妹には体を鍛えろと言われた。

 でも今ならそうじゃないとよくわかる。実家にいたとき自尊心が低くなったけど、1人暮らしをしてから自分だけの力で生活をできるし結構すごいんじゃないかと思える。

 親に決められたんじゃなく、自分で選んだシービーという新しい友達とはいい出会いだし。

 

 うちの親からは部分的に虐待みたいなのをされてきたんじゃないかと思う。

 あまり家族のことは思い出したくないなぁと思っていると、ふとシービーが俺の頭を優しく撫でてくる。

 

「偉い。よく頑張ったね」

「なんだよ、急に」

「なにって。マサトは頑張って生きてきたんだねって。変だった?」

「変だ。逃げてたんだよ、俺は。母と妹からな。そんな俺は偉くない」

「マサトはすごく偉いよ。嫌だ嫌だとだけ言うんじゃなく、自分で環境を変えて今ここにいるんだから」

 

 泣いてしまいそうだ。シービーがあまりにも優しくて。

 今までそう言ってきてくれたのはシービーだけだ。祖父母は俺が弱っていく姿をみかねて助けてはくれたが、内心は『男なら立ち向かえ!』っていう精神の持ち主だから。

 その精神論が俺には辛かった。

 

「妹ちゃんのことで困ったら相談に乗るし、実家に帰ってしまうとか、妹が来たーって時には助けるよ。あ、泣いた時も膝枕や抱きしめて慰めてあげるよ?」

「膝枕や抱きしめはいらん。男の俺が泣いたらみっともなく思わないか」

「そうかな? 涙って綺麗だよ。人が作れる1番小さい海って考えたらすごいと思うでしょ」

 

 言われると涙はしょっぱいし、海に似ているとも言える。

 でも、涙を小さな海だなんて表現するシービーの考え方は面白い。

 どんなに落ち込んでもシービーさえ入れば、生きるのに絶望をすることなく楽しく生きてけそうだ。

 

「そうなった時はシービーの素敵な言葉に癒しをもらおう」

「期待していていいよ。アタシはマサトを気に入っているからね。だからマサトとの役に立ちたいんだよ」

「そんなに俺を喜ばせてもお菓子しか出せないぞ」

「実はね、それが狙いなんだ。甘すぎず、優しい味はアタシ好みだからね。毎日食べたいぐらいに!」

 

 片目でウインクをし、場を和ませてくれるシービーの行動がイケメンだ。

 俺が女だったら惚れている。……いや、普通なら男である俺が惚れたほうが自然と思えるが、シービーには女の子と付き合ったほうが似合うんじゃないかと思えてしまう。

 そもそも自由にやっていきたいシービーが拘束される時間が増えてしまう恋人を作るとか、結婚をするという想像がまったくつかない。

 よくても外国で多いパートナー関係じゃないだろうか。

 シービーの将来を勝手に心配してしまったが、まぁこいつのことだからどうなったとしても幸せに生きていきそうだ。

 

「そうなると一方的に助けてもらってばかりになるのが心苦しいな」

「うーん。アタシは1人暮らしがしたいって言ってOKをもらったから、助けてもらうとしたら……」

 

 そこからシービーは無言になり、深く考え込んでいる姿を見て何も声をかけずに答えが出るのを待つ。

 そうして大通りを超えて駅前までやってくる。

 ここまで学校から15分ほど。途中10分ほどは俺の話を聞いてもらったが。

 それだけの時間があったのにいまだシービーは小さくつぶやいていて、まだ考えがまとまってないみたいだ。

 

「マサト、マサト。こっち見て」

「なんだよ」

 

 横断歩道で信号待ちをしていると、不意にシービーが少しかがんで上目遣いで俺を見上げてくる。

 庇護欲をあおりたてる表情付きで。

 

「おにいちゃんっ」

「うわぁ……」

 

 兄と呼ばれることは好んでいないのに、普段のシービーらしくない甘え声がきつい。

 あのイケメンウマ娘がこうも変わるのにギャップ萌えを感じてもおかしくはないが、それをも上回る異質さ。

 他に信号待ちをしている人たちまでもがこっちを振り向いてきて恥ずかしいんだが?

 

「なにそれ! 結構かわいいと思うんだけど!」

 

 ひどく不満だという顔をして尻尾をばしばしと足に叩きつけてくる。

 その痛みを我慢し、でも継続して叩きつけてくるのは痛すぎるので信号が青になったと同時に早足で歩いて回避していく。

 

「なんでさっきの話がそういう呼び方になるんだ」

「マサトにはたくさん助けてもらいたいから必殺技を作っておこうかなって思ったんだ。それがあれば、いつでもマサトにお願いを聞いてもらえると思ってね」

「シービーが俺に助けを求めるレベルだと命がけレベルにならないか? 俺はお前と違ってスタミナや速さがないし、ダンスや歌もできないんだぞ? わかっているか?」

「別に下手でも構わないよ。暇な時やスカッとした気分になりたい場合に遊びたくて呼ぶからね。あとワガママを言っていると、壁に穴を開けちゃうから」

「シービーのほうがワガママ言っているし、穴を作ろうとするな! ……いや、なんで穴という発想になるんだ」

「それはねアタシの前に住んでいた人が壁を壊したことがあるらしいよ。大家さんが言っていた」

「それ、初めて聞いたんだけど」

「アタシがウマ娘だからじゃない? 力が強いし。偶然でも壊したら追い出されそうな雰囲気だったから、もし穴をあけちゃったら黙っていてね」

 

 唇に指を縦に1本当てて『静かにしてね?』というジェスチャーをウインクと共にやってくる。

 メディアに露出することが多いレースウマ娘だからか、そういうポーズ練習でもしているんだろうか。

 似合ってはいるが、そうお願いされても黙るわけがない。

 

 黙って壁破壊も見過ごしたら連帯責任で追い出された場合は俺はどこに行けばいいんだ。

 そうやって、ふざけあいながらも駅の中へと入り、模型屋へと向かう電車に乗る。

 電車に乗ってからも深い意味のない雑談を楽しくしながら。

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