目的地がある駅に着くと、俺とシービーは一緒に降りる。
どことなくシービーはうきうきとした様子で、そんな姿を見ていると嬉しくなる。
シービーと並んで歩いていき、大型家電量販店の前へとたどり着く。
平日の午後4時ということもあってか、休日と比べればエスカレーターに行列ができていないし。
「おー、ここかぁ!」
「アパートの近くにも模型屋はあるが、こっちだと種類が多いからな」
模型屋と違って静かに物を見られなくはないものの、本当に数多くあるから見ているだけでも楽しい。
俺は先に歩き出し、シービーは後ろからついてくる。
シービーが素直に後ろから着いてくるのは新鮮だ。
考え方や行動が自由なシービーは、ほとんどの場合で俺より先に動き、前に居続ける。変に物事を考えず、自分に素直な気持ちで行動しているのは素直に感心。
シービーのように、ストレスがあまりたまらなそうな生活をしていきたい。
おとなしいシービーが見られたのも売場近くまでだった。
エスカレーターを乗ってたどりついた4階には様々な種類の模型やフィギュア、ソフビ人形などが置いてあった。
「たくさんのプラモデルがある……!」
「色々な種類があるから、見て歩くだけでも退屈しないよな」
「あ、そうだ。アタシが勝ったから罰ゲームで今日1日付き合ってくれるんだったよね?」
「おい、いつの間にそんな勝負をしたんだ」
「アスファルトの100m。天気:晴れ、バ場:超固で勝負したでしょ?」
「こっちに来る途中で走ったのがレースだったのかよ! そもそもウマ娘に俺が勝てる要素ないよな?」
「わかった。ハンデありでまた一緒に勝負しようね!」
「え、嫌。それでも勝てないだろ。そういうのはお前の友人たちに言ってくれ。ほら、早くプラモを見ようぜ」
レースの話となると、うきうきした顔になるシービーから逃げる俺。
ウマ娘らしくシービーも走りのことになると熱くなる。こういう時は話題をそらさないと長々と続いてしまうのを今までの経験から学んだ。
レースのウマ娘にはそれほど興味がないのに、詳しくなってしまったよ。
シービーの友人たちを始め、トレセン学園のウマ娘たちがどういう走りをするか、トレーニング内容や新入生たちの様子とか。
レースウマ娘ファンなら、どんな情報でも喜ぶんだろうけど俺は興味がないからなぁ……。
昨日はシンボリルドルフっていう子のデビュー前なサイン色紙をシービーからお菓子のお礼としてもらったけど、どうすればいいんだ。とりあえず、シービーの色紙と同じように袋へ入れてから壁に貼って並べておけばいいか?
そんなことを考えつつ、目的であるガンプラが置いてある場所の前へとたどり着く。
そこは下から俺の身長より高い2m近くまで棚に分けて積まれてある。近くには小さい三脚が置いてあり、問題なく商品を見ることができる。
ここでガンプラを探す前に、シービーがどういう系統が好きなのか聞いていないことに気づいた。
何かのアニメを見るって言っていたが何か見たんだろうか。
「シービーはガンダムのアニメ、なにを見た?」
「SEEDっていうのを25話まで。オーヴっていう国に入るとこだったかな。だからそこまでの話に出ているMSを作ってみたいな」
SEEDは女性でも見やすい作品として人気が出たと雑誌に書かれていたのを思い出す。
そこの作品内でいうと、やっぱりストライクガンダムだな。
多くのグレードがあるけど、シービーのような初めて作るのならこれだ。
「初めて作るならEGっていうグレードのストライクがいいと思う」
「グレード? 他にあるRGっていうのだと難しい?」
「難しい。とりあえずはEGのほうのパッケージを見てくれ」
そう言って商品棚ならEGのストライクガンダムの箱を取り出して渡す。
箱を受け取ったシービーは宝物を受け取る子供のようなきらきらした表情で、箱を手に持って眺めている。
箱の横部分にはEGの特徴として作りやすさが書いてあって、感心の声をあげながら見ている。
「他のを見ていてもいいぞ。俺も違うとこで見てくるから」
「ここ以外の場所に行くの?」
「前はガンプラ以外も作っていたし、なんか見たくて」
「じゃあアタシもついてくよ」
そう言うシービーを連れ、別のコーナーへと行く。
量的にはガンプラが多いが、ここは戦車や飛行機、ガンダム系以外のものが多くある。
「ウマ娘がメインな人型のプラモがあるんだ」
「美少女系プラモも近頃は増えているな。人気があるのはオリジナルキャラでフレームランナーガール、武装ウマ姫、デスクトップウーマーといったシリーズがある。実在したウマ娘ならシービスケットやネアルコっていうウマ娘のが立体化しているな」
「アタシの名前に似ているウマ娘がいるのは聞いていたけど、この絵はすっごいかわいいね。……でもさ、なんかすごい高いんだけど? 1万超え?」
「13㎝で可動式。制服、勝負服があるからそんなもんじゃないか?」
「へぇ……、あ、他にも色々あるんだね。お城に漁船、ザリガニや工業地帯? なんでもありなんだね、これ」
「塗装が必要なのが多いけどな」
「ねぇ、聞きたいんだけどさ。歌舞伎座の舞台ってあったりする?」
「歌舞伎? そういうのがあるってのは記憶にないな。調べるか」
俺はスマホを取り出し、シービーが言ったのを調べ始める。
シービーは俺のすぐ横にやって画面をのぞき込んでくるが近い。近すぎる。
髪が俺の顔にさわるぐらいの距離だから、いい匂いがなんかするし。女の子っていい匂いがするよな、人体の不思議だ。
普段から俺とシービーは距離感が近いとはいえ、ここまでじゃない。それに手を繋いだこともない。
なのに、ここまで距離が近いとは。
それほどまでに歌舞伎というのに魅了されているのか。
俺からすれば歌舞伎は……言葉にできないぐらい知識がなく、想像さえもできなかった。
あまりにも興味がないというか、接する機会が存在しない。いや、歴史の教科書で出てきたか?
「歌舞伎が好きなのか?」
「好きだよ。友達には渋い趣味だねって言われるけど」
「俺は歌舞伎を見たことがないから全然わからんな」
シービーがテンション高い声がすぐ耳元で聞こえるのがくすぐったく、検索に集中できない!
それでも頑張って調べたものの、見つからなかった。個人製作では模型があったんだが。
調べ終えてスマホをしまうと、シービーは俺から離れてくれる。
いい香りが離れ、ちょっとだけ名残惜しいという気持ちが出てしまったが、少し考えればシービーだからなぁ。
外見は女の子ではあるけど、中身は男の子扱いしているから心がときめく要素は滅多にないよな。
「簡単に言うと歌舞伎の魅力はなんだ?」
「え、簡単に? ……うーん、男性が女性を演じるところとか。もうね、アタシより色気がある仕草をしていて驚くよ。
あとは動き方。演劇は動きが多いけど、歌舞伎は静と動の動きが面白いんだ。物語は難しいんだけど、説教みたいな道徳の話がなくて演技を純粋に楽しめるのがいいよ。
それから日本語の多様さは───」
「シービー。待って、ストップ」
「あ、ごめんごめん。つい熱が入って。こういうのは家で語るべきだよね」
「まぁ家でなら」
「じゃあ、帰ったら朝までブルーレイ……はやめておこうか?」
「今日はそういう予定じゃなかったからなぁ」
「わかったよ。明日の金曜日にアタシが帰ってきてから土曜日いっぱいまでたくさん見ようね! 寝かさないよ!」
「いや、寝るし。なんでそんな長時間見る予定なんだよ。ウマ娘なんだから規則正しく寝ておけ」
「アタシはね、そんな規則に縛られる女じゃないんだ」
自由過ぎるぞ、このウマ娘。いったいトレセン学園はどういう教育をしているんだ。
規則なんて知らないぜ! っていうウマ娘はどうやって制御しているんだ。いや、できるわけがないか。シービーを自由にさせなかったら走りにまで影響するに違いないし。
だが、こいつにトレーナーがついたら絶対トレーナーの味方をしてやる。そうすれば俺がシービーに振り回された時に共闘できるはずだ。
シービーに振り回されるのは楽しいから、体調が悪い時でない限りは付き合うと思うが。
なんだかんだ言っても予測できないから、一緒にいて楽しいからな。
「興味はあるが、ちょっと見るだけにさせてくれ」
「わかった。いやぁ、ちょっと興奮しちゃって恥ずかしいね。みんな歌舞伎と聞くと構えちゃうからさ」
「俺の場合は好奇心があるだけだ。見た結果、気に入らないという可能性が高いぞ」
「それならそれでいいんだ。見ることもなく嫌いだ、なんて判断する人よりずっといいよ」
自分の好きなものを言えたためか、すっきりとした笑顔を向けてくれる。
俺がガンプラを勧めた時もこんな気持ちになったんだろうかと納得し、好奇心こそ人を形として作るものだよなと思えてしまう。
それから俺たちはプラモデルや他にもフィギュアの売場をぐるりと一周して見て回った。
そして戻ってきたのはガンプラ売場。
「EGのストライクガンダムの他にも買ったほうがいいかな?」
「作ってからでいいんじゃないか? あとはアニメを見終わってからにするとか」
「SEEDは見るとして、おすすめはある?」
おすすめ、と言われて悩む。
SEEDから見始めたシービーには何がいいかと。女性が見やすいガンダムアニメというのはあるが。
シービーが好みそうなもの。シービー……CB………ソレスタルビーイング!?
偶然の一致とはいえ、00ガンダムに出てくる主人公の組織の略称がCBだということに気づいた今。
ついシービーが頭に身に着けているアクセサリーの白い帽子をじっと見つめてしまう。
その帽子には金色でCBと書かれた文字が確かにある。
「シービーはガンダムだった……?」
「どうしたの、マサト。正気を失っちゃって。とりあえず走る?」
「シービーには00ガンダムがおすすめだって思っただけだ。ってか、なんで走るんだよ。走ればなんとかなるってのはウマ娘の間でしか通用しないだろ」
「走るのは気持ちがいいよ。この6月の時期だと雨の日なんか最高。雨が体に当たる感触、ざぁーって降ってアスファルトにぶつかる音とかとてもいい」
「それはウマ娘だけだろ。いや、ウマ娘でも走ればなんでも気分がよくなるってのはそうはいないだろ。いないよな?」
「いると思うけど? アタシが夜に走っているとちらほら見るし。というわけで今日の夜は一緒に走ろっか?」
「さりげなく走らせようとすんな。そもそも俺と一緒なら速度がすごく遅くなるから、シービーは俺にいらだつだろ? そんな想いはさせたくない」
「でもマサトと一緒に走るなら楽しいに違いないよ」
なんだ、このイケメンウマ娘は。この明るい笑顔がまぶしすぎる。
ここまで言葉も顔もいいだなんて。もしシービーがバイトで、たとえば執事喫茶で働いたならシービー目当てでお客さんがたくさん来るに違いない。
ぐぬぬ。ここまでイケメンだとなんか俺もかっこよくありたい。
引っ越しをしては週3で家周辺を走るぐらいだし、もう少し体を鍛えるか?
もしくは美容に気をつける? スキンケアをやるだけでも変わるはず。
「シービーがきらきらしていてまぶしいよ」
「そう? アタシがきらきらしているのなら、そうさせるマサトはすごいよ」
「褒めてもお菓子しか出ないぞ」
「じゃあ、バケツプリンっていうのを食べてみたいんだけど」
「あれか……」
2年ほど前に妹からバケツプリンが食べたいと言われ、最初から作るのが大変だからと市販品のバケツプリンキットを買って作った。だが味がダメだ手抜きだと強く文句を言われたから印象が悪い。
その後は普通サイズのオリジナルを作って機嫌を良くしてもらったが。
自分で食べるより妹専用お菓子作りマシーンな気分になるほど作った。作らないとすぐ機嫌を悪くする。
その点、シービーはすごく褒めてくれてダメな時はダメだと言っているから作り甲斐がある。なにより強制をしてこないから。
「あれは作りたくないから他のにして欲しい」
「じゃあ、生徒会の人向けにたくさん作ってもらったのと同じクッキーをお願いするよ。あれはすごく気に入っているから」
「ああ。その代わりとしてシービーもなんか作ってくれよ?」
「任せといてよ。それじゃあ買ってくるから待ってて!」
商談が成立したシービーは、EGのストライクガンダムを手にレジへと向かう。
これで用件は完了し、後は帰るだけだ。
今から家に戻るとご飯を食べる時間は遅くなるから、家でカップ麺を買うかとレジに並ぶシービーを見ながらそんなことを考えた。