虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
朝来たら下駄箱に手紙が入ってた。嗚呼……ついに第二の天王星かソレスタルビーイングが出て来たかって転校を視野に入れちゃったぞ。
いったい今度はどんな頭のおかしい方法で正体を暴いかれたんだろうと思いながら封を開け、差し出し人を見たら相手はかすみさん。
そして手紙は果たし状だった。集合場所は同好会部室。会うのは良いけど場所が場所過ぎてバックれることを決意した。
そして待ち合わせ時刻。ボクは生徒会室で菜々ちゃん先輩と共に都知事管轄の私学支援振興課から送られて来た、『私立中高等学校へ向けた学習時間の増加政策』とやらでかさ増しされた学園の授業時間と新しい授業内容に目を通していた。
さすがに土曜日に来いとかは無理だったらしく夏休みを1日減らして時間を確保するやり方らしい。一般的な方法だ。ボクが課員でも同じ事をすると思う。
公立も教育委員会に授業時間増やせって急かされてるからそれに感化されたのは予想出来る。こっちはケチな委員会と違って普通に予算出る分あちらよりマシなので別段テンションが下がったりはしてない。
そうして優雅にピルクルを飲みつつプリントに目を通していたら、かすみさんからメッセージが入って来て『誰もいないから来い』とただ1文送られて来た。怖くなって部室まで全力疾走。
そこにいたかすみさんはガチギレしていた。笑ってるけど目が笑ってない。怖ぁ……。
「茜丸、女の子との待ち合わせに遅れるとかありえないですよ。私が恋人だったら好感度だだ下がってましたし別れる可能性もありました。次無視したらリアル凸しますからね」
「消しかすみんってデート代全部男が出すべきとか考えてるタイプ?残念だがボクはスキンケアとライブのメイク用に化粧を練習するから女と同じくらい美容に金使うぞ。残念だったな。それと『女の子を待たせるな、でも女の子が遅れた時は気遣え』って言うのは普通に可愛くないからやめた方がいい。心がブサイク」
「知ってます。女の子じゃなくて人を待たせるのはいけないのは普通の価値観です。でもそうやって私と同じくらい可愛い事を棚に上げて油断してると足元すくわれますよ。茜丸はひまり先輩じゃないんですから。あとかすみんです」
「負けフラグ?世界で1番可愛いのは姉さん。次にボク。3番目にかすみ。これが世界の理だ」
「茜丸と私の順位が逆です」
「で、決闘内容は?」
「思考実験バトル」
「り」
議題の実験はなんだ。オーディエンスにも分かりやすいよう5億年ボタンとか哲学的ゾンビとかかな?どうせバトるならジレンマとかパラドクス系で永遠理論するのも一興。学生だし抜き打ちテストのパラドクスやりたいなぁ。
「私考えたんですよ。デートで哲学の話をするのかなって」
「答えは?」
「しない。でも茜丸とのデートでは機会があるので予行演習が必要だと思いました」
「それで決闘を。議題は?」
「流行りのトロッコ問題」
「衛宮切嗣にでもなりたいんか?」
「いやだって、かすみんは茜丸みたいに哲学とか詳しくないですし。だから流行りものを。それで本筋に戻ってですね、皆さん色々悩むかもですけど最後は絶対に1人の方殺しますよね?」
「まあ、逆張りしなければ多分そう」
切り替えレバーを真ん中で止めれば勝手に脱線するとか野暮な事言わなければおそらく皆1人の方を選ぶ。その1人が5人に比べて圧倒的に金持ちで助けたら5000万くれるとかなら話変わるけど、そういうの全部取っ払って考えるのがこの実験の楽しみ方だし。
「なるべく多くの命を助けたいって言うのは共通の正義です。異論は?」
「トロッコ問題オンリーで考えるなら異議なし。最大多数の最大幸福理論万歳」
「あんまり素直に認めませんね。トロッコ問題外を含めると変わるんですか?というかトロッコ問題以外にこういう問題あるんですか?」
「こういう1捨てて100を取る系問題は昔から議論されてるからね。あるにはあるよ。そもそもトロッコ問題ってもう一つの鉄橋版とセットで考えるものだし」
なんか知らんがトロッコの部分だけ流行ったよねあれ。倫理観の穴をつくものなのに穴を作る道具を一個捨てたら何も始まらんでしょ。
「その鉄橋版って何なんですか?」
「ある日かすみさんが鉄橋の上にやって来て、そこにはノイズキャンセラー付きヘッドホンで音楽聴いてるデブがいました。下の線路では南側で整備員5名が線路をメンテしてる」
「普通に日常ドラマみたいな光景ですね。さすがに現代っぽいですし暴走トロッコなんて来ないんじゃ?」
「ダイヤ調整ミスって整備員達がいる線路を走る快速電車が北側から突っ込んで来る。このままじゃ整備員引かれる!整備員気づいてない。気づいてるの私だけって状況になるの」
「それ対処方なくないですか?」
「1つだけある。整備員と快速電車の間にはかすみさんとデブのいる鉄橋があり、2人がいる場所はちょうど問題の線路の真上。デブを突き落として石ころ乗せた線路状態にすれば電車脱線からの従業員みんな無事。尚且つかすみさんにはデブを一瞬でつき落とせるパワーがあるものとする。びゅーてふぉ」
「うわ、趣味悪……」
かすみさんめっちゃドン引きしてる。やっぱり自分で人殺すの嫌だよな。ボクも同じ感性持ってるからわかるし突き落とされるなんの罪もないデブも可哀想。
これが可愛いショタだったら助かる確率上がったかもなのにどうしてこんな有様に。
「トロッコ問題と同じで1人か5人のどちらかを選んで殺すし、暴走してるのはレール式の車両だし、かすみさんはどちらかを助ける力を持ってるところも同じ。なんも状況は変わらん。その中でかすみさんはトロッコ問題と同じく1人を見捨てる?って話をしたい。で、実際のところかすみさんならどうする?」
「後味めっちゃ悪いですけど……頑張ってデブを突き落とす……かも」
「別にトロッコ問題の時だって起点レバー切り替えて相手殺したんだし、それと同じ気持ちでサクッとやっちゃえば良いんだよ。殺した数は変わらん」
「ですが…………いや、この考えは普通に道徳心を疑われる……」
「鉄橋から落とそうがトロッコを誘導しようが結局殺した相手の家族には恨まれるんだから変わらなく無い?きっとオーディエンスならかすみちゃんは正しい選択をしたって言ってくれると思う」
「………………私が選んだ正義は、被害者の家族から見れば悪……トロッコ問題でもダメでしたか……くっ……!」
勝利の味はカツ丼の味。人の敗北はメープルシロップ。両方一気に食ったら確実に気持ち悪くなるなこれ。カレーに生クリームぶっかけるみたいだ…………クリーム原液とルーの素を一緒に煮込めばそこそこ良い物が出来上がるのでは?今度の日曜にやろ。
「ボクの勝ちー……って言いたいところだけど、トロッコ問題だけで言えばかすみさんが正義だよ。引かれるのだっておそらくは職場の同僚だろうし。ただの仕事仲間ならなるべく多く生存させた方が良い。なんの職種かは知らないけど従業員が5人減るのは普通に損だからね」
「すごい……こう……社員を道具扱いしてそうな人の言い方ですね……」
「実際金払って稼働するヒューマノイドみたいなもんでしょ。ただ道具だからこそメンテはしっかりする。壊れた道具の代わり探すのが1番コストかかるし。話を戻すけど、ボク的に見た職場予想だとトロッコを所持してるのを見るに石炭の発掘場だと思う。炭鉱なら洞窟状で狭い運搬用トロッコが暴走したらそりゃ避けるのは難しい。それに現場仕事は単純な肉体労働だ。だからこそ仕事内容に合った鍛肉を持つ経験者が大事になってくる。あと現場仕事に大怪我や死亡事故は付き物だからやっぱり世間はかすみさんを攻めないと思うよ」
「かもしれませんが……自分で手にかけるってなった瞬間できませんは最低なエゴというか……殺す手段1つでこうも変わります普通?」
「殺す相手の種族と性別、大きさ、殺す手段、距離。これのパラメータが大きくなるほど人は殺すのを躊躇うって元ヤの付く職業出身のLouTuberが言ってた」
そいつが本当に組の人間だったのかは定かでは無いけど、ボクも大きさと距離までは視野に入ってなかったからなるほどなぁって思った。闘争や殺しの熟練者じゃなきゃ分からない価値観だ。
「種族と大きさと手段はまあわかるのですが、距離って関係あるんですか?そもそも距離って?心の距離とか?仲良いか他人かどうかみたいな」
「シンプルにナイフでやるかスナイパーライフルでやるかじゃない?包丁を持って腹とか喉に滅多刺しにしながら相手の死に様を目の前で焼き付けるか、遠くから引き金引いて完了するか。なんかナイフで切るより銃で撃ち抜く方が気が楽じゃない?」
「気持ちは分かりますが……うーん、かすみんはそれでもちょっと……」
「じゃあかすみさんは毒を盛る係にしよう。致死性の毒をダーンって入れた微糖アイスティーを作って、何も知らない使用人に運ばせる。それでターゲットを討つんだ。これならどう?」
「まあ、それならなんとか……これが距離って事ですか?」
「多分そう」
ボクはいくら頑張っても麻袋被せた人間に爆弾投げつけるくらいが関の山だと思う。相手の顔知っちゃうとめちゃくちゃやりにくいし罪悪感で死ぬから。
超威力の爆弾なら小屋ごと破壊出来るし『家壊れちゃった……もったいない……』って気持ちで殺した重責から目を背けられる。
「今回は引き分けということで良い?そもそもデートする気とかないから無効じゃない?」
「いえ……茜丸より頭いい所を見せられたら少しは靡くんじゃないかと思って。綺麗さっぱり論破しつつ優位性をと」
「だとしても厨二歴2年相手に急場しのぎの流行り哲学で太刀打ちは無理があるんじゃ?普通に可愛い勝負で良くない?」
「そうは言っても私と茜丸じゃ服の好みから髪型の好みまで全部違いますし。あとやっぱり採点が難しと思うんです。なんと言いますかこう……寿司とハンバーガーどっちが美味しいかみたいな不毛な争いになりそうで」
「なるほど、一理ある」
確かに可愛いファッションとか美味い料理とか面白い漫才とかは結局審査する相手のセンスや気分に左右される。過去50年の売れ筋ネタを学習したAIに分析させてそれを主軸に評価するならボクらも納得できるんだけど。
自分が1番可愛いと思ってる同士が張り合ったって両者『私こそナンバーワン』って結論付いて終わる。一応打開策はあるけど。
「お互いが相手の可愛いところを上げて、ひよった方が負けとかはどう?愛してるゲームみたいな」
「口説き大会するって事ですか?」
「かすみさんってボクみたいな未成熟児に口説かれるの好き?」
「私と茜丸って1cmしか変わらないじゃないですか」
「男の身長154cmは成長度合いで言うと中二よ?外見年齢14歳に興奮する?」
「いやぁ…………キツいですね」
正直彼氏が身長160以下だったらボクも普通にこれからを悩む。男なんて自分の可愛さを引き立たせるためのオプションでしかないし。
あとどれだけスペックが有能かどうか。彼氏の容姿とスペックで自分の魅力が決まるから手を抜けないんじゃよ。ここを拘らないとクラスでのカースト井戸端会議で貶される。
そもそも高校生のカップルがそんな結婚とか考えてるわけないしな。セックスしてデートしてキスして大人の付き合いごっこが出来りゃ良いんだよ。それで両者納得してるし。
たまにピュアなCPもいるがそれは顔が良くて初めて成り立つからなぁ。圧倒的少数なのは確かだ。
「ということで性別の価値観なしで相手の可愛いところを語ろう。スマホのメモに文章でも箇条書きでも良いから書いて。シンキングタイムは10分ねハイよーいドン」
「えっ、ちょっ。そんないきなり」
それからはお互い黙ってスマホのメモ帳に書いては消してを繰り返した。なるべく相手をデレされるために出会ってからの3ヶ月間を振り返る。
今思ったけど、三ツ星シェフとチェーン料理が対決するやつは相手の良いところを上げる方式にすれば荒れずに済むんじゃないか?このコスパでここまで良い味を出せるのは感激みたいな感じで。文句だけ言うから炎上するんだよ。
ボクもクレームや文句しか言わないやつは嫌い。企画会議でやられると議案が進まなくなって無駄に時間食う。一応やんわりと『改善案はありますか?』って聞いてたけど、『私に聞かないでよ曲作りの善し悪しなんて分からないんだから。未経験者の不満を解決するのがプロの仕事でしょ?』とか何とか言いながら不貞腐れて終わる。
いや、未経験でも『序盤にラップみたいな言葉遊び入れたい』とか『ラスサビ前にダークな感じの音入れたい』とか普通に要求を提案してくれますが。
いやね?あの時の依頼を受けてたのはツイドリで仲良いAlphaXさんだしボクは見学させて貰った身だから口出しは出来なかったけど。でも心の中ではめっちゃ愚る愚痴る。
やっぱりこういうのはポジティブディスカッションするのが1番良いな。両者ハッピー。
「はい、10分経ったよ。何個書けた?」
「色々書いたんですが、これ書くならもっと前の過程を書かないとってどんどん突き詰めた結果一個だけになりました」
「奇遇だね。ボクも表面から根本にブラッシュアップしてたら1つになった」
「じゃあ、せーので出しましょうか」
「はいさー」
『せーの』
一緒にスマホのメモ帳を見せ合った。
かすみさんが出したカードは『努力』
ボクが出したカードは『経験』
「なるほど。努力」
「私は経験……ですか。先行どっちにします」
「ボクから行こう。言い出しっぺだし」
「それで、かすみんの『経験』って?自分で言うのもあれですが、茜丸も努力を出して来ると思ってました」
「それは合ってる。けどやっぱり努力って言葉じゃ片付けられないから」
かすみさんの可愛さを磨く努力量を『努力のデフォルト』にすると全人類怠けてる事になる。冗談抜きでこの女には人生2週目を疑うくらいの酷いレベルで努力の才能とセンスが備わってるんだよ。
「かすみさんさ、化粧重ねて魅せるより土台である自分の良さを極めるタイプでしょ?だからベースメイクも洗顔からファンデに1番力入れる。あと確実にリキッドファンデ使ってるタイプ。軽くつけてあとは自分の元の良さで全力真っ向勝負。Pメイクは教える時用に軽く触れてる程度」
「えっ、私ってそんなに分かりやすいですか?」
「逆なんよ。確かに化粧バフかかってるんだが、自然過ぎて素肌が無敵の神に贔屓された人間に見える。かすみさんの可愛さ計画は笑っちゃうくらい上手くいってるから安心して。マジで一般人からすると理想の無敵肌過ぎて裏で嫉妬買ってるよ。ただ、それは素質があったからじゃない。いや素質があるのは確かだけど、でもそれ以上に努力がある」
「だとするとやっぱり私も努力では……?」
「努力レベルが違うって話。かすみさんの自分の素質にバフかけるためのメイクって結構続けるのに気合いいるの。何年も何年も研究を重ねて色んな化粧品試して。だいたい自分の肌質と金欠に心折れて2年経つ頃には諦める。けどかすみさんはずっとずっとやって来た。おそらく化粧水と美容液に関しては散々ブツを試したあとに美本堂のフェニシックスライトNとニュークリアスキンセラムのコンボで落ち着いた口だ」
「そこまで分かるんですか……怖……」
フェニスラNもニューセラも値段に比べると効果薄いからコスパ悪いなってなったあとパンピーは敬遠してどっか行く。
それで凡質御用達のアプルピトゥとかアルトロとかに流れつくんだ。ここら辺なら普通の人にも敏感肌にも優しい商品揃ってるし値段も手頃。
「あれでしょ?ネットではどこもナチュラリエとかトルプコat、あんなーすにハプニル辺りを勧めるけどあんま合わないないって経緯踏んで、そこから今言った2つを見つけた」
「そうですよ。肌質がおかしいから美容液も化粧水もテンプレが効かなくて。だからめっちゃ苦労しました」
「仕方ないよ。だってこの2つってつよつよ肌の上澄み勢にしか効果ないからネットじゃ基本進めないし。記事に載せたところで数字取れないからね」
「えっ、そうなんですか?質感いい人ってとりあえず安さだけ求めてテキトーなやつ使ってるイメージがあるのですが」
「まあ、元から肌が良いならそれを保つだけで良いし。普通の人ならレベル1を2ににしたいって願うのが定石。弱い人だとレベル0スタートだから1にする試行錯誤で必死になる。そんな中でレベル3あったら向上心あんま出ないでしょ?」
「だいたいのレベル3は現状維持に力入れるってことですか?」
「だねぇ。結局他と同じでお金かかるわけだしさ、しなくて良いならサボるでしょ普通」
だからこそかすみさんはすごい。親のバックアップとかもあったかもしれないが、結局その親の元に生まれた運も実力だし。
それに環境が良くなると今度は本気になれないことが多いから、やっぱりかすみさんは自分の武器を全て活かしきってる事になるわけで。そしてそれを活かして16年戦い続けて来た。
「私の肌って良質な方だったんですか……けどそれだと経験どころか努力もないので『才能』って言葉に落ち着きません?」
「そもそも努力って素質につぎ込む追加のステータス値だし。自分の才能と噛み合うと増加ステ値にボーナス入るけど、素質なしだとせいぜいちょっと毛が生えた程度で止まるよ。素質あっても努力しなきゃ伸びないし。かすみさんは自分の力を自覚する事は出来なかったけど、それでも努力って言う研究を積み重ねて今の自分を掴み取った。その努力と量と時間はプロであり戦士。全部引っ括めて経験。だからこれは経験だよ。努力の行く末に掴み取れるもの。かすみさんの経験を数値化出来るならスコアランキングで全世界1位が取れる」
「でもほら、あれですよ。昔話題になった崖っぷちギャルとかも成績最底辺から東大行きましたし。努力は実を結ぶって言うか」
「運動神経悪い親から生まれた運動神経悪い子が、努力を重ねればオリンピック選手になれるって語ってたら『うんうん!絶対なれる!』って確信出来る?体型も筋肉ついてるどころかちょっとポチャっとしててさ」
「それは……」
なんか知らんが運動神経の差は認めるやつ多いのに学習能力の差は努力でいくらでも補えるって思ってる人間多いよな。
あとピカソやゴッホみたいになるのは無理ってわかってるのイラストレーターにならなれるって思ってるやつ。鈴木も言ってたけど絵は才能だぞ。音楽も才能。努力して伸びた人は元々素質があっただけ。
まあ、そもそも素質って幼児の頃の学習ブーストだから思考回路含めて幼児ごっこすれば素質は身につくんだけどさ。理論上の話だけど。
「結局体にも脳にもスペックがあって、その範疇でなにか素質がある。天才型はその素質って初期値が最初から優れてただけであり結局努力を重ねないと埋もれるの」
「だから私のは努力の上位スキルである経験……なんか茜丸を努力って言ったの悪口に聞こえちゃいますね……書き直していいですか?」
「いや、素質だけならボクの方が上だし。夕雲姉弟はヘアトリートメントと万能スキンケアオイルのヘリオスパンナを雑に塗るだけで肌の手入れが終わる。ベースメイクすると逆に可愛さ落ちるからファンデも付けん」
「………マジで言ってます?ヘリパンってあれですよね?下地とケアどっちでも使えるって売り出したけど、効果薄過ぎてオリーブオイル塗ってるのと変わらないって言われたやつ。通販サイトだとどこも評価1か2ですよ?」
「肌質を持てあました神々の道具って事だ。人間の領域にいる内は合わん。まあ、実際は発売会社が税金対策で作った効能最低限のお遊び商品なんだけど。不動産屋の風呂なしワンルームみたいなもん。人に売ることが目的じゃなくて、作る事が目的」
「ダメじゃないですか………………いや待ってください。ヘリパンに気を取られましたがトリートメントでスキンケアってなんですか?冗談にしても笑えないですよ?」
「理由は知らないけど、ボクと姉さんは秋山G&Pのトリートメントシリーズを使うと肌の保湿とか皮脂のムラが制御出来る。秋山ならビオラムでもザックスでも何でも可」
「インチキ姉弟過ぎる……」
ボクらレベルになるとヘリパンみたいなカス商品でも事足りちゃうんだなぁ。圧倒的才能ってほんと罪。
まずヘリオスパンナ自体が化粧品じゃなくてミニ四駆のギアやベアリングのグリスに多用されるレベルでお粗末だし。マジで美容品としての価値ないんだなって。
「結局結論づけると、目に見えないものじゃ戦えないに落ち着いちゃうんだよね」
「私が分からせ失敗しただけですよねこれ……むしろ分からされましたし」
「男分からせたいならアナルにバイブ入れたあとオナホでちんこ扱き続ければ勝手に泣き出すよ。目隠しと猿轡もプラスすればだいたい2時間で堕ちる。3日もあれば女の子に良い様にされた事実でプライドが折れて病むから。あとは1部始終を録画した動画を毎日見せれば許してって惨めに懇願してくるはず。男はさ、しこたま快楽に弱いんよ。前立イきで気絶する人もいるし、痛みに関しては出産どころか軽月経レベルで根を上げるって言うし」
「…………もしかして実践したことあります?やけに詳しくないですか?」
「引っ越す前のお隣さんがSM関係でさ、奥さんがよく惚気に来てた」
「惚気……惚気なんですかそれ?」
「幸せ自慢なんだから惚気だろ。多分」
SMプレイはたまに死ぬから気をつけた方が良い。首絞めプレイでそのまま死んじゃった例はよく聞くからな。1年に1回はその類で男殺しちゃたって嬢の弁護人やるって父さんも言ってたし。
だから過度なSMセックスは気をつけてくれ。あとブラギガスオナニー。最近のスーパー戦隊アイテムだとモサブレードが人気らしいね。あとはベイランチャーワインダーで尿道責めとか。人間ってほんと学ばねぇなぁ。
「はぁ…………ここまで本格的に見られたのは愛先輩以来ですよ……2番目が男の子なのすごい複雑……」
「男にも化粧とか例の週間は気にかけて欲しいけど詳しく対処されるとキモいって思うよね。ぶっちゃけごちゃごちゃ言う前に金で支えてくれって言うのが本音だし」
「私はお粥作ったりしてくれるくらいなら嬉しいですけど。貧血は薬で抑えますし…………いや、めちゃくちゃ自然に話すから流しかけましたけど茜丸は生理ないですよね?」
「生理痛と陣痛体験出来る機械があるんだけどかすみさん知ってる?産婦人科主体の医療団体がイベントで使うやつ。あれを買って週1で夜な夜な生理痛体験してるんだ。最近慣れてきたけどそれでも持って40分。ぶっちゃけ死ぬ。男は女の子より痛み耐性低いから余計効果高い」
一般財団うんちゃら産婦人の会が作った月経痛基準表もあるよ。当たり前だけど死ぬほど痛いぞ。
金玉蹴られた痛みを10だとするとだいたい7くらい。動けないって訳じゃないけど仕事とか勉強とかは普通に無理。寝る時も痛み止めと睡眠導入剤飲んでやっと寝れるぐらいには酷い。
初体験の日なんかは製薬会社に感謝したし祈りを捧げたぞ。やはりロキソニン。ロキソニンは全てを解決する。
「もう何十回もやってるけど、あの苦痛に対するストレスだけには全然耐性がつかなくてさ。ふっちゃけ何度かヒステリック起こしかけた」
「いや……なんですかその無意味どころか聞く人すらげんなりさせる体験……。茜丸ってドMなんですか?」
「他のスクールアイドルってかすみさん達みたいに性格綺麗じゃないから普通に品のない話するんだ。彼氏のクンニが下手過ぎて無理とか、純粋に粗チンだとか、処女捨てたからタンポンデビューしたらめっちゃ臭くなって死にたくなったとか。だから普通に月経痛の話もするの。それに合わせられるよう実際に経験して自分に合う痛み止めも探した。あとは休日に豚の血染み込ませたナプキンを1日中つけたり」
「アイドル研鑽の方向性が斜め上すぎる……。茜丸がやたら女の子目線になれるのはそれが原因ですか。やっと謎が解けましたよ……いやそもそもなんで茜丸にまでその話題が……?」
「セクハラおばさんはさ、時間じゃなくて心に宿るんよ」
「…………なるほど」
正直被害者側だけど加害者みたいな罪悪感を感じてる。
だっていくら体験したとは言えそこから理解者面して『月経痛辛いよな。今度痛み止め買いに行かない?』みたいに話合わせるの最高にキショいじゃん。
いくらボクが可愛いからって男がやったら普通に引く。多分ボクも女の子に射精って気持ちいいよねとか言われたらドン引きするだろうし。
体験自体に関しては何度か虚無った事もあるよ。『これ1日1回金玉殴れば良くないか?』って正気に戻りかけた。
「今はもう痛みを知ったんですしやめて良いのでは……?」
「姉さんと同じ痛みを知ったのにそこから逃げるの、愚行じゃん?あと姉さんへの理解度が深まった感じがして感動もあるから止め時が……ね」
「姉弟関係とビジュアルがあって良かったですね。なかったら今頃捕まってましたよ」
「それはそう」
でもなんかこう……じゃんけんで永遠相子になる双子みたいで良くない?見えない何かと無意識で繋がってるみたいな。