虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
かすみさんに相談した結果曲調が暗めのボカロを歌う事になり、昨日は璃奈りーと作業通話しながらボカロについて色々教えて貰った。担当直入に言うとめちゃんこ暗い曲の割合が多い。なんかこう哀愁漂ってたり復讐で見返したかったり恋愛がこじれてたり。
璃奈りーおすすめの最新曲じゃない人気曲だとシャングリアとかグリズリー&TKとかタンメイノホシとナガイソラとかそこら辺だって。
試しに聞いてみっかってそのボカロたちを漁ってたら夜が空けてた。そして寝溜めとして寝たら昼の11時に起きた。わーお。
学校は遅刻理由を『めちゃくちゃ便秘で腹痛かったので午前中ずっと家のトイレにこもってました』で通したけど正直誤魔化せたか怪しい。
一応小学と中学でぼちぼち肺炎になったりしたから時折具合が悪くなるっていう情報は伝わってると思うけど、でもまだ高一だからな。
小学校全般と中一高一はやんちゃしても大丈夫らしいし平気へーき。
「茜くん……午前大丈夫だったの……?」
「ニコニコでランキング順にボカロ漁ってたら朝になってて、少し寝溜めして置こうと思ったら目覚ましかけ忘れて……はい、ご覧の有り様でございやす」
「意外と抜けてるとこあるよね……茜くんって……」
「申し訳ない」
なんか知らんが結構不安がってたらしい。昨日一緒に深夜まで通話してた相手が次の日に午前欠席したら……って考えれば気持ちはわかるけど、割とマジな顔で気にかけられててびっくり。『そんな心配されるほど印象稼いだっけ?』って疑問符が浮かぶ。
姉さんがボクの容態を聞く時をレベル10とするとだいたい6.8くらい。たかだか表情トレーナー兼弟子ゲーマーに向ける顔ではないと思う。はてさて。
「ノート……見る……?」
「んや、休んだ授業は後で補習試験受けて内申取るから大丈夫」
「……あの試験、すごい難しいらしい……。それに学力認定証みたいなやつ……必要だったはず……」
「保険として一応取ってある。そもそもボクって特別推薦で入学した人間だし」
虹ヶ咲学園は不登校にも優しくて、高校学力検定3級以上を持ってれば休んだとしても専用の試験受ければ授業に出た事にしてくれるし単位も内申点もくれる。
「虹ヶ咲1本って決めてたの……?」
「曲作ってダンス考えてスケジュール調整してイベント申込書とか企業依頼こなしてとかやってたら確実に授業出れない時が来るし。正直中3初期は通信で良いかって思ってたんよ。でも就職考えると学歴いるよなーって。曲作りの時間減らしてメタ張ったら推薦取れた。ワースト睡眠時間2分だぜ」
「そこまでしなくても……虹ヶ咲の通信制なら普通に大学行ける……。茜くんが無理する必要もなかった……」
「だなー。そっち行っときゃもっともーっと色々出来たのに。こんな無駄な時間過ごす羽目にもならんかったんだが……愚かだねぇ人間って」
「……それくらいの距離ならすぐ見つけ出す……」
相変わらず表情は変わらないけど目の奥がいつもの2倍潤ってるからだいぶ滅入ってたっぽい。
ただの知り合いなんだしそんな病弱彼氏が風邪ひいたみたいな反応しなくても。過保護な姉さんを思い出しちゃう。
「前から言おうと思ってたけど……お姉さんのためならって重労働するの……やめた方がいい……。みんな……お姉さんだって心配する……」
「ちゃんと寝てるし飯も食えてるから平気へーき。死なない程度に死ぬ気でやってるだけだし加減もわかってる。だから安心せい。三十路までは確定で生きるから心配しないでくれたまえよ。ほっほっほ」
「……」
「?」
マジで今日は姉さんレベルで絡んでくるね。殴ってでも止めようとする強い意思の目だ。本気の顔。もしや璃奈りーは過労で倒れた経験があったり……反面教師にさせて貰おう。
肝心の璃奈りー本人も「どうして私の心配が伝わらないの」的な目でほっぺた丸くしてるから話題転換をすなくては。話題話題…………
「……ん?ぽむ先輩からLINE?珍しいな……やべ、受信してから15分経ってる……」
「内容は……?」
「菜々ちゃん先輩が活動サボってヘッドホンしながら部室の長椅子で寝てるらしい。一向に起きないとか何とか。どうせ催眠音声がガチハマリしたとかそうオチだと思うけど……とりま行ってみっか」
「…………うん」
もしかしたらめっちゃ具合悪いけど心配かけないようにヘッドホンして音楽聴いてる風を装ってるだけかもしれない。
菜々ちゃん先輩に持病はなかったはずだけど……耳を塞いでるとなると鼓膜周りの疲労が原因の聴覚性頭痛?
できれば自分用の薬を持ってるけど飲めないだけとかならすぐ解決するんだが。
とりあえず贔屓の痛み止めブランド言えるくらいには生きてて欲しい。あの人でも体調崩す事ってあるんだなぁ。
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はい。到着。部室には知らん顔が2,3人いた。いやそこはどうでも良い。問題はこの罵菜々コングだ。
「菜々ちゃん先輩、部室でASMR聞くのキモイから辞めた方がイイっすよ」
「すみません。璃奈さんに借りてる携帯WI-FIの保管場所が部室でして。私の身バレ含めると下手にこの部屋から出せずにですね……反省はしてるのでヘッドホン返していただけませんか?」
「wi-fi使うって事はLouTubeの動画で聴いてるってことですよね?Vのやつだと普通に2時間とか超えますよ?借り物電波でそこまでするの普通に引くんですが」
「ではその……ローダーで落として良いですか?」
「ボクに聞かれましても……動画主に聞いてくださいよ。ボクは弁護士の息子ですが法律との結びつきは特にありませんので」
「あっ、いえ、一昨日のひまりさんの配信を再生してるので。だから公式権力は茜君にもあるかと」
「……………………はぁ?????」
何この人……ボクの事知ってるくせに女装男子の女声ASMR事故配信のアーカイブ見てたの?マジでこの人の性癖どうなってんだ????本人に打ち明けられる度胸すごいな。頭おかしいよこの人。明らか思考構造がボクの数段上を言ってる。宇宙人から指令電波貰ってるって言われても信じるぞ。好きを抑えない主義の結果らしいけど今だけはそのフェチズムを封印して欲しい。
「えっ、あの配信にバイノーラル系として楽しめる要素あります?ああいうのってなんかこう媚びっ媚びの恋情セリフと全肯定ハム太郎して初めて価値が生まれるものなんじゃ?」
「なに言ってるんですか。画面の向こうで擬似的とは言えひまりさんに耳元で囁いて貰えるんですよ。価値の塊では」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「なんで分からないんですか」
分からない……なんも分かんない……。姉さんのASMRを聞けるってなるならボクも気持ちに同調するよ。ベイブレードASMRだろうが『それお前じゃなくても良くない?』ってレベルでボイスのない効果音オンリー配信でも200回再生する。
でもこの人はボクの事知ってるしその上であの配信をリピってる。キショがれよ……。傍から見たら美少女がガンプラで媚び売ったあげく、ASMRって言う2段コンボでオタクから金巻き上げてる風に見えるんだぞ。
何度でも言うがそれを男がやってんだぞ。男が男に性別隠して釣ってんだぞ。ネカマしてんだからキショがれよ……。
「それにしても茜君が部室に来るなんて珍しいですね。やっと入部する気になってくれましたか」
「いえ、もう要件は済んだので失礼します。死ぬほど気疲れしたんで」
「なら少し休んでいきません?添い寝しますよ?」
「知らない人と同じ寝床に入るとか無理すぎるので遠慮しときます」
「相変わらず塩対応ですね。かすみさんと璃奈さんには甘いのに」
「さすがに添い寝は璃奈りー達でも断ります」
子供じゃないんだからこの歳で添い寝は無理でしょ。まず周囲に人がいるのにそこで寝ろとか冗談キツすぎるんじゃ。餌付けもしてない飼ってもいない犬に腹見せろって言ってるようなもんだぞ。愛玩動物と言えど元野生出身の魂とプライドなめすぎでは。
「というかなんですか、知らない人って。さすがに傷つくのですが」
「って言っても形容出来る言葉なくないですか?」
「友達で良いじゃないですか」
「一匹狼のブランドが傷つくのでちょっと」
「茜君の容姿でぼっちは逆に目立つと思いますよ。平和主義だとしても適度に交友関係を広げてですね」
「別にその場のノリでゲーセン行くくらいはしますよ。クラスでも適度にコミュ取ってますし。先輩の言う通り顔良い奴が1人きりは逆に人の気引きますからね」
事なかれ主義のぼっち主人公を見てて思うのだが、仮にもヒロインを落とすだけの容姿を持ってる主人公君がなんで陰キャぼっちとかいうカースト底辺の悪目立ちするポジションやってるんだ?悪目立ちするからヒロインがお前を見つけちゃうんだぞ。それで構うなってなんだ?かまちょか?
正直ラブコメ漫画や小説を読んでてここが引っかかるから学校では普通に話して普通に遊ぶ普通レベルの生活を心がけてる。モブを名乗るならモブらしい交友関係を持つべき。
最近はボクの目指してるものが恋愛ノベルゲームに出てくる主人公の親友役だと学んだ。だから選択肢でヒロインの名前が並んだ時に『大人しく帰る』を選んでる。
そうすると結構な確率で親友と女友達との日常イベントが見れるんだ。ノリと茶目っ気とバカさが魅力だと知った。
正直なところ主人公より親友君と付き合いたいとボクは思う。だって絶対にこっちといた方が楽しいし。
「茜君ってゲーセンとか行くんですか?ゲーム苦手って言ってませんでしたっけ」
「だと思ってたんですが、実際はPSタイプのコントロールに死ぬほど適正がなかっただけという事が璃奈りーとゲームした結果わかりまして。最近はスマホゲーにも手を出してます。ビートストレンジャー」
「伝統的なタイル式音ゲーですよね。楽しかったですか?」
「タイルなら誰にも負けないって事が分かりました。太鼓は手首が死ぬ。あのスナップ動作で物使うとなるとボクはフルボトル振るのが限界っすね」
「ビーストはどれくらいできたんですか?」
「最難関の40+をパーフェクトノーツでぶち犯してイベラン1位に名前を刻んできましたよ」
「……もしかしてPネーム『王』だったりします?」
「先輩にもついにゲーム許可が」
「いえ、この間璃奈さんのスマホで見まして」
相変わらず菜々ちゃんの両親は厳しいね。押さえつけた分だけ大人になったら反動で沼って行くのに。〇〇禁止は今と親が楽なだけで子供にとっては悪影響そのものだぞ。菜々ちゃんペアレンツって教育のやり方勉強して来なかった口?
「確かビーストってひまりさんの曲入ってましたよね?レベルいくつでした?」
「えっ、知らん。オリ曲しかやってない」
「お姉さんの曲なのにですか?」
「生で聞けますし」
「いや……確かにそうですけど……」
カバーとかどうでもいい。流行りの曲は全部買ってるから学べることが何もないし、そもそもリミックスが専門外。
「まあ、こんな感じで人とは適度に交友しつつ教室での協調ライフを送ってますよ。通信プレイもしてます」
「ゲームだけじゃダメだと思います」
「カラオケとかマックとかにも行きますが」
「…………カラオケですか」
菜々ちゃん先輩ってカラオケとかOKなんだ。てっきりご両親に禁止されてるものかと。だけど男と行くのはやめた方が良いと思うぞ。ここばっかりは親御さんに賛成。
ボクが女装すればもしかしたら許可が降りるかもしれないけど、何となくパイセンの親御さんとは1回あったらその後も会うことになりそうな気がするんだよね。
そこでバレたら接触禁止を言い渡されるかもしれないし、その他諸々を考えて危ない橋は渡らないようにしてる。
「言っときますが行きませんよ。めちゃくちゃ歌う曲ダブりそうですし」
「ま、まだ何も言ってないじゃないですか」
「めちゃくちゃ行く気満々の顔してたので。大人しく同好会か生徒会の皆で行ってください」
「別に期待してたわけじゃないですけど……クッ……」
めちゃくそ悔しがってて可哀想。菜々ちゃん先輩ってちょっと思春期男子しすぎじゃない?
自分好みの可愛い子と出かけたい気持ちがすごい表に出ちゃってる。ヤること考えてない分こっちの方が1000倍マシだが。
ただこういう人が育ち方間違えるとツイドリでおばさん構文使いながらセクハラ文を送るビービーエーみたいになるんだろうな。ボクのdmにも稀によく来るよ。
とは言え少しくらいはフォローした方が良いのかなとか思いつつ、鬱りまくったあとに再度ヘッドホンをして現実逃避を始めた菜々ちゃん先輩になんとも言えない気持ちを覚えた。
せめて電撃とかソシャゲ会社が出してる公式ASMR聞いてくんないかな……。dilupの垢貸すしお金も出すから機嫌と尊厳を取り戻して欲しい。
「菜々ちゃん先輩?ちゃんと活動しないと後々響きますよ?」
「……」
「…………スマホの音量上げないでください。鼓膜なくなりますよ」
「………………」
「本当に耳聞こえなくなりますよ?」
はぁ……奥の手を使うしかないか……。異性に媚び売る風俗営業みたいで印象良くないからあんまり使いたくなかったんだが……今回はボクも悪いしな。菜々ちゃん先輩に全責任がある気がするけども。
でも人間って自分の基準より可愛そうな生き物見ると優しくしちゃう生き物だし。だからボクは間違ってないはず。
あと別にその性質自体が悪いってわけじゃない。この心理がないとユニコールとかの基金団体が活動どころか発足自体しなくなるし、今年で45年目の25時間テレビも初手3年で終わってた。
ただ今回はさすがに悪い部分が目立っちゃってるから。正味菜々ちゃん先輩のアグレッシブさって姉さんみたいだから関わりたくないんだよな。今回は特別に受け入れるけど。
「菜々ちゃん先輩さえ良ければ部活終わるまでお手伝いしますよ。今日だけ特別にです。飲み物係でもライブ鑑賞の相方でもなんでもします。学校内で完結する事が条件になりますが」
「膝枕」
「……膝枕?ボクの?」
「はい。なんでもしてくれるんですよね?」
「淫夢で使われてそうな圧力……はぁ……あんまり寝心地は良くないと思いますが、どうぞ」
近くにあったソファに座ったら餌待ちの猫みたいな速さですっ飛んできた。相変わらず熱がすげーなぁ……。うわ体温たっか。
他の人に甘えればとも思ったが、確かに周りの部員を見てると手放しに甘えられる人があんまりいなさそうって言うのは感じ取れた。良くも悪くも友達って感じ。侑先輩の肩に寄りかかって寝落ちするくらいが限界だと思う。
だとすれば菜々ちゃん先輩を友達にしないで癖ありの関係として維持したのは正解だったかも。こうやってやれやれ言いながら『特別に何でもしてあげる』って条件を提示すれば客と従業員みたいな印象で気にせずくっつけるから。
きっと今がベストポジションなんだろうけど、それでも菜々ちゃん先輩はボクと友達になろうとするんだろね。
「はい、耳かきです。右からお願いします」
「……これ耳に入れて大丈夫なんですか?メガネケースから出てきましたけど。あんまり耳にウイルス入れると耳痛と黒い耳くそ出てきますよ」
「毎日アルコール除菌してるので大丈夫です。だいたい7秒に1回囁いてくれるのが私の好みですのでよろしく」
「…………承知しました」
正直ボクの自惚れであって欲しいけど、どんな状況でもチャンスが来たら奉仕させられるように耳かきを常備してたわけではないと信じたい。
歯磨きセットとかのノリで昼食後にちょっと耳垢取る事が目的で所持してただけだと信じたい。集会で耳垢自然排出しちゃったら印象下がるし、あとは親御さんの教育。
いつも会う度に『どうやってこいつに耳掃除頼もうかな』とか考えてたのかと思うとちょっと引く。生徒の長がこれでこの学校大丈夫なのかな。
まさか鉄脳筋のコンクリート会長と呼ばれた中川菜々が性別不詳の男にデロデロしてるとか親御さんでも想定してないでしょ。
◇
ふぅ……優木せつ菜、復活!例の配信からしばらくヘッドホンが外せなくなった挙句、授業中にこっそり聞くように無線イヤホン買おうか悩むほどハイになっていましたが何とか調子を取り戻しました。
今から筋トレとダンスの練習……と行きたい所ですが、今回の流れをメモしとかないと。こうやって私のお願いを聞いてくれるパターンを分析して行けばいずれは友達関係を受け入れて貰えるくらい打ち解けられるはず。
「あの……せつ菜先輩、使った耳かき洗わないんですか?」
「茜君に初めて耳かきして貰った記念にこのまま飾るのもありかと思いまして」
「そうですか……以前から思っていたのですが、どうしてそこまで茜丸に必死になるんですか?こう言ってはあれなのですが中々冷めた態度取られてませんでした?」
「いつもはもう少し相手して貰えますよ?優しくなるまでの早さは今日が1番でしたが。あと過去一で優しかったです」
「かすみんもあそこまで人の世話をする茜丸は初めて見ましたけど。なんかやけにしっくり来ましたよね。人の世話する茜丸」
「意外と受け身の方が適正があるのかもしれませんね」
耳掃除ボイスを直に聞けたのは嬉しかったのですが、なんかやけに私の彼女オーラを出してきて少しドギマギしちゃいました。あの時の茜君と同じ表情を女の子がしたら満場一致で『卑しか女』の称号を得ると思います。
これ、他の女の子に魅力がバレたら友達どころか監視対象同士の関係すら飛ぶレベルで疎遠になるのでは?
まさかひまりさん以外でもちゃんと世話を焼くとは思わなかった。璃奈さんは弟子兼師匠として特別なものになっているので省いて考えたとしても、条件さえ揃えば耳掃除をさせるくらいなら可能。
普通にめちゃくちゃ危険では。ちゃんと見張っとかないと大変なことになる。
ストック切れたのでしばらく投稿空きます。