虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
夕雲茜はゲームがめちゃくちゃ下手くそであった。Vitaやスイッチはスティックが10回使う前に入力バグが起きるほど強く押してしまい、PS式デュアルショックコントローラーは持ち手のでっぱりが手のツボに刺さり死ぬほど痛かった。その痛みで力が増幅しスティックを折った事もある。なんならコントローラー自体を半分こにした事さえあった。ジョイコンじゃねーんだぞバカ。
なのでこの男ができるゲームと言えば、丸ボタンを押してれば勝手に終わるギャルゲーか、ゲームから外れ姉の部屋で見つけたお家でガンバライドかオレカデバイスくらいであった。
しかし、やはりアクションゲーやRPGへの憧れは捨てきれない。姉も一緒にやりたがっていたためどうしても習得したかった。
故に乞うた。プロに。
その結果無事に問題は解決し、天下無敵のAC持ちを手に入れたのだ。
持ちやすくて力まずできるし、配信でもワイプにてどのボタンを押してるか見せる事が出来る。格ゲーコマンドを視聴者から教わる配信にも活用できた。万事解決大バンザイ。そう、AC持ちは全てを解決する。
移動スティックの左右と両斜めの反転思考は少しめんどかったが、れでも革命には変わり無い。
ありがとう、全てのアーマードコアの民。ありがとう、我が愛しきリナンゲリオン。
LouTubeでもやはり反響を呼んだ。マイナーな持ち方なのは知っていたが認知自体は多くされているらしく、めんどくさいゲーマーから邪道だの蛇道だの言われる事もなかったので安堵したのは記憶に新しい。
なんならツイドリで投稿した配信終了告知のツイリプには、『自分もAC持ち派です!』という同志諸君からの写真リプもいただいた。
加えてその中に逆さAC持ちという反転スティックの問題さえ片付けてしまう究極の持ち方を指導する動画を発見。
鬼クソ使えると判断して必死に習得した後、ショート動画で成果を出したらTwitterでAC持ち派の同士達から何故かキレリプを貰った。内容は覚えてない。おそらく邪道だったとかそういう理由があったのだと思う。多分。
逆さ持ちの垢は普通に褒めてくれたので、きっとキノコたけのこ同社商品PR戦争が界隈に蔓延っているのだろう。
まあこっちの方がやりやすいからプレイスキルで魅せればいいべ。と思考と議題を放棄し、最近週1で通っている贔屓のゲーセンに足を運んだ。
璃奈に用事ができて会えなくなったので空いた時間を埋めるために来たのだ。
スーパーに行こうとも思ったのだが、最近は気づかないうちに璃奈が好きそうな食材を探し始めるため今は近づけなかった。璃奈のために材料を買ったとしても届けに行く家に入れないので無駄である。
それに何がどう転ぼうと表情を教え終えれば関係も終わるのだ。だからあんまり舌を肥えさせると元の即席飯ライフに戻れなくなる。
じゃあなんで餌付けしたのかという意見はご尤も。
だが栄養はないくせに塩分と添加物だけは1丁前にあり、なおかつ即席品にしては美味いだけの飯で満腹中枢を誤魔化されると我慢が出来なかった。
いや、たまに食うなら良い。そんな毎日飯作れとか大人でもめんどくさいから出来ない。平凡な生活送ってる大学生ですら飯はどこかのカップ麺か缶詰混ぜてマヨぶっ込んだ簡単終末飯を食っているんだ。毎日自炊は金貰ってもできるかどうか怪しい習慣なのは重々承知している。
そして大学生より忙しい推しドルに飯を作ってる暇なんぞあるわけがない。全て承知している。
だが、それでも毎日食うとなると話が変わってくるのだ。
こんな若さパワーで誤魔化してる食生活、20歳超えたらぶくぶく太ったあと生活習慣病で死ぬ。
別にそこら辺の女が勝手に死ぬのは良い。茜からすれば思い入れもクソもないからどうでも良かった。
むしろ知らない家の知らない女が死んだとして何を悲しめと言うのか。こいつは地球のエンゲル係数のためなら2億人くらいは人を減らしても良いかなとか考えてる人間やぞ。
故にマルチスペック発明博士プリンセスという最推し無表情合法ロリが笑う所を見るまでは死なれると困る──と、内心でめちゃくちゃ焦りながら初飯を作った。
そこら辺にいる無表情ロリじゃだめなのだ。自分が選んだこの無表情ロリじゃなければ。
そして今はおそらくゼウスオブ璃奈オブゴッドが最大の成長イベを迎えている。ワンチャンここで表情の半分くらいが一気に開花する可能性さえ見えていた。
それなのに茶々を入れ邪魔をするとか言う馬鹿な真似なぞできるわけが無い。
友達とか言う姉を利用する事しか能のない存在に必要性を感じられず、永遠に威嚇している哀れな人間不信チワワ。
おそらく50年後くらいに生存競走をビリッけつで敗北してそうな可哀想な生き物であるアカネタカは、本物の友情らしきものを見せるアイドルフレンズに興味深々だった。
1/1烈火大斬刀を作り見事太刀に使われた頭の出来がお話にならないこの類人猿は、『女の友情はカンナで削った木の皮より薄い』という論説を真面目に信じていたのだ。
それ故に己の中の常識が打破される瞬間を間近で見れる事にテンションが上がっている。そう、彼はめちゃんこにバカであった。
璃奈りーの表情を開花させてくれた上に自分の常識もぶっ壊してくれる。
時が来たら全財産を璃奈お嬢に相続しようなんて考えてた自称おじさん合法ショタは、とにかくテンションが上がっていたのだ。
浮かれ上がった子供の如く黒幕ごっこでオーラを放出させながら、彼は今か今かとその胸を震わせている。キッショ。彼は幼心を捨てきれていなかった。というかまだ幼心のままだった。大人になれ、この世界は作り物だ。
夕雲茜の需要なんて最強の力として以外に使い道ないんだしメンタルケアとか無理でしょ無理と開き直り、個体に100円を投入してゲーマを開始。
最近はエンゲージズムとか言うコントローラーがビルドダイオーのコックピットみたいなむちゃくちゃな操作性を持った音ゲーをやっている。
プレイ理由は単純、めちゃくちゃ頭を使うから。脳トレが捗りまた一つ賢くなれる。完ぺき〜。
ひとしきりふたしきり、えんやこいやと操作レバーやワイヤーを引っ張り死ぬ気で頑張る。ぶっちゃけやってる事は音ゲーと言うより赤ちゃん用玩具の世界スイッチボックスをいじるのに近いが、本人の精神が赤ちゃんなので問題はないだろう。
簡単な事を難しく言いたいバカな男なので、無事自分の中では複雑な事をしている気分であった。
腕に変な筋力が付くのでやめた方が良いし、ダンエボやってた方が100倍有意義である。運動になるし。
30分やって満足した後、自販機でオレンジ紅茶を買った。コーラも緑茶もジンジャエールもコカコーラ社しか勝たんと思っている赤(ね)ちゃん。一ヶ月後に虫歯治療で痛い思いをするのはまた別の話。
お茶が飲み終わるまで施設内をぶらつきながら、カツアゲヤンキーからカツアゲできねぇかなーと思いを馳せる茜。
そんな中、ゲーセンの利益の8割を牛耳るクレーンキャッチャーにて、今期流行りの『カプセルボット』を発見したではありませんか。
リアルフィギュアガチャのダンゴムシやスズメバチの技術で変形ロボを作ろうとなり、デフォルメからガチのモールドと造形を極めたタイプまで品揃がいっぱいな卵形変形おもちゃ。
丸くて掴みにくいからキャッチャー界に参入したんだろうなと察し、ゲーセン限定色違いのNo.16ヘラクリオンを目当てにワクワクしながら列に並んだ。彼の心はお子ちゃまであった。
列というか1人がずっと陣取ってるだけだが。さっきからやたら英語混じりの罵倒が茜の耳に残る。
最近のJKは口が悪いなぁなんて思いつつ、中々代わってくれないので茜という子供の存在を知らせるために距離を起きつつ隣に立った。めちゃくちゃ童顔イケメンのメカクレ金髪JKだった。属性盛り込みすぎじゃバカヤロウ。
「どしたん?あんまりやると帰りのバス代溶けるよ」
「ん?……あっ、sorry.気づかなかった。今どくから待っててくれ」
「良いよ別に。高熱に水をぶっかけたって逆に爆発するだけだし。それにボクのソウルハートには『クレームいれるなら自分でやれ』が彫刻してある。ちょいと手を貸そう」
「What?」
それは茜が友である明日見から聞いたテク。だいたいのゲーセンに置いてあるクレーンゲームの個体は1分以内にお金を追加するとアームが弱くなる機能があるらしい。同じ客だと判断して沼らせるために少しづつパワー弱めるとのこと。
設定リセットに1分測って、設定0になったら動かす。それを繰り返せば半分の回数で取れるぞ、と教わった。
実際にバカでかい明日見の家にて実機訓練を積んだためおそらく問題もないだろう。
今更だけどあの男は何者なのだろうか。姉で目が肥えた茜ですら綺麗と判断出来る恋人を持った御曹司。親の事業はニッシンボウ。
「君が欲しいのってあの空色と白のやつ?」
「That's Right……だが、どうしてボクを助ける?」
「別に、Japanese cultureの悪い部分が気に食わないだけやんね…………よし、1分経ったら金入れてチャレンジして。取れやすい位置にズラしたから大丈夫だと思う」
「……Thank you」
「どんまいんDon't mind。せっかく異国交流してるんだから楽しいmemories残して欲しいしね。ホームステイでもするの?」
「Um……schoolの寮を借りる予定だ。researchのために3日前からね。HOMEからのミッションでもある」
「ほぇー、しゅっご(小並感)」
──これは、推しが大変な時に別の女とゲーセンで遊んでいる男と、これから色々面倒な事になる女体化光属性版茜みたいな女が始める感動的青春歴史ドキュメンタルバラエティーである。
一方その頃、茜の推しは1人暗い部屋に引きこもっていた。しかし茜には関係ない。そもそもお呼びじゃないから。
璃奈の頼みは表情を教えて貰うことであり、そこから派生する悩みやマイナス感情のフォローは契約外である。お悩み相談も込みなら最初からプランに入れるのが璃奈だと茜は知っているため心情を理解し放置を決め込んだ。
だから問題は無い。何も知らない同好会メンツからの好感度がダダ下がっているけど茜にとっては他人である。勝手に嫌って勝手に性格腐っちまえと中指を立てて終わるだろう。
それがバカで厨二でお子様な、この世の可愛いを牛耳る地球で1番可愛いキング of アイドルだった。
◇
私……何してるんだろ……。
焦ったってどうにもならないのは分かってる。でも、やっぱり茜くんや愛さん、皆の気遣いや努力を無駄にしてるような気がして落ち着かなかった。もっと頑張れるはずだから。
だけど、頑張りたいのに、頑張ってるのに、頑張ってたのに何も応えられない。
「……茜くんと会う約束、破っちゃった……」
心の中が常時災害避難所の家族を守る父親状態の茜くん。守りたい人は守るし、人助けだってする。でも困った時は助け合いとか言いながら恩恵に縋るだけの厚顔クレクレが来た時は煽って貶して陥れる。
リーダーシップとも違う人を動かす力で、気に入らない相手を奴隷並のカーストに堕とすのが茜くん。自分と周囲の被害を考えて助ける人を決め、損害になるなら誰であろうとバッサリ切る。そんな人。
非情に見えるけど、見方を変えればどれだけ不幸だったり立場が最悪だったりしても、茜くんの何かに刺さるなら他の有益を全部捨てて助けてくれる。
これを損に感じるのは助けてもらうのが当り前になった一般ランクから上の身分の人くらい。
そんな茜くんが自分から動いた。私のためって。
正確には自分のためで私はおまけ。それは分かってる。ビジネスパートナーだって言うのもちゃんと認めてる。
でも嬉しかった。茜くんは愛さんや皆みたいに情を大切にしない。多分優しさは騙されやすくなるだけだから邪魔って切り捨ててる。この国のどの政治家よりも腰が重い。
人の嫌な部分を嫌ってほど見てきたから、自分の利益のためにケーキから糞までプライドなくたかる蝿のような人間をたくさん見てきた。
だからもう一周回って本音も雑言も取り繕わない人を好きになるようになった。人事メンタル。
茜くんは『こんなやつが好かれるわけない』って信じ切ってるけど、私が好きなのは今の茜くん。
もちろんだけど皆がみんな茜くんを好きになるわけじゃない。逆張りか本気かは知らないけど茜くんの作る曲やダンスが嫌いって公言するアイドルもいる。
でも、私は茜くんを好きって言うたくさんの人の1人だから。信頼出来る大切な友達で、私の中にいるただ1人の……うん、好きな人。
愛さんも、侑さんも、気にかけてくれるのは嬉しい。感謝もしてる。
けど、申し訳なさが勝っちゃって迷惑かけてるのが嫌で、今までもずっと一定の時間が経ったら適当な理由をつけて1人でやる方向にシフトしてた。友情が刺さって痛くて、元々自分の事をめんどくさいって思ってたから余計頼れなかった。
だから、ビジネスパートナーって形で一緒にいてくれる茜くんにはずっと頼れた。私に必要なのは等価交換だってわかったから。いつか愛さんにもこの方法で出来ないか相談しようって思った。
でも、実際は私の出した対価が全然釣り合ってなくて、それを自覚したらまた焦り出しちゃって。
それに茜くんがファンとして私やかすみさんに接してるって言った来た時はショックだった。
友達になったら頼れなくなるくらい逃げるくせに、理想のビジネスが始まったら友人関係を望むめんどくさい女、それが私。
茜くん含めた全員にたくさん迷惑かけてるのに、私は何も変わってない。成長しないし性格もめんどくさい。茜くんには絶対切られるって思った。
切られるって想像したら、すごく寂しくなった。もう話せないのがすごい寂しかった。嫌だった。
だからもう少しマシになろうって一人でやってみた。でも駄目だった。私、何も変わってない。
クラスメイトに遊びに誘われて、私のこと知りたいって行ってくれて、私は無愛想だよって言っても大丈夫って言ってくれた。嬉しかった。本当に。
でも、茜くんとクラスメイトのどっちを取れば良いのか分からなくなった。
理論で考えて茜くんに謝ることを優先した。心の中のモヤモヤを残したまま遊んだら誘ってくれた2人の楽しい気持ちを踏みにじっちゃう。喧嘩した人がいて仲直りしたい事と、全部終わったら絶対一緒に行くって約束して、断った。
心苦しかった。約束したとは言え、そもそも相手にとって私はクラスで数回話しただけ。それでも気にかけてくれたのに無下にしちゃった。悲しかった。
悲しかったけど、沈んだまま行ったトイレの鏡に映る『全く表情のない私』を見て心がキュってなった。
やっぱり変わってないのがわかったから。何も、茜くんの時間も、愛さんの優しさも、侑さんやかすみさん、菜々さんの気遣いも。全部全部受け取ったのに私は何も変わってない。
心の中の不安が大きくなって、全員を裏切った気がした。ううん、実際に裏切ってた。
やっぱり私は1人でやるのが1番合ってる人なんだなと思う。プログラミングも、工作も、機械の開発や修理も、編集だって全部1人でやって来たから。
何も変われない事がわかったから、茜くんに電話をして会うのを先延ばしにした。これでもう会う頻度はだいぶ減るはず。雇い主が勝手に契約破棄をしたから茜くんが責められることは無い。これで全部終わり。
茜くんと会うから誘いも断ったはずなのに、その茜くんも切っちゃった。
ほんとに何がしたいんだろう……わからなくなってきちゃった……。
何も分からないけど、ずっと考えてからかお腹かなった。ダンボールに閉じこもってたせいで息も苦しい。
何をしてても嫌になるから食べて忘れるためにダンボールを出た……それと同時にインターホンが鳴った。これは……私の状況って言うタイミングからすると出ない方が良い……けど、誰だろうと私が出るまでここで待ち続けるから出るしかない。
多分顔には出ないから上手く誤魔化せるはず。明日からまた1人で頑張れば良い。
「は、はい……」
「りなりー?大丈夫……?弟くんからLINEあってさ、りなりーが具合悪くなったからって……熱とかある?」
「……あ、ぅ……だ、大丈夫……」
「あんまり大丈夫そうじゃないよ?酷い顔してるし。少し上がるね?」
「えっ……ぁ……ん……」
愛さんとは思えないくらい強引に上がってきた。私の家の現状知ったら絶対通い出すから今まで教えて来なかったけど、潮時が来ちゃったみたい。
私のこと、1番大事にしてくれるから。だからきっとご飯作りに来たり茜くんとは違ってお泊まりとかもしてくれる。けど、愛さんは茜くんとは違う。完全に善意でやっちゃって自分のことも後回しにして私のためになんでもやっちゃう。
言葉にしたら愛さんの気持ちを否定しちゃうから言えてないけど、私は愛さんの時間を貰えるほど出来た人間じゃない。本当は私が心配で手伝いたくて、愛さんが表情作りの本とか笑いやすい心感情の抱き方の本でたくさん勉強してる事も知ってる。けど、愛さんがそこかでするほどの価値が私には無い。
もちろん嬉しい気持ちだってある。むしろそっちが大半。今すぐ愛さんにありがとうって言いたい…………言いたい、けど……私は何も返せないから。感謝の言葉だけじゃ全然まったく足りないほど、私はたくさん愛さんに無理をさせちゃったから。
「お部屋暗いけど、寝てた……?やっぱり熱とか……あはは……起こしちゃってごめんね?」
「ううん……大丈夫……。あんまり明るい所にいたくなくて、電気消してただけだから……」
「そっか。落ち着いた?」
「ん……す、少しだけ……」
テレビと電気をつけて適当に座る。ちょっとだけ間を開けて愛さんも座る。すごく気まずかった。初めて出会った時よりもずっとずっと気まずい。
会った時よりもずっとずっと気まずい。
私から話した方が良いのかな……話すべきなのは分かってるけど、何から話せば良いのか分からない。頭の中がぐしゃぐしゃ。
「……あのね、りなりー。あんまり思いっきり踏み込めば良い訳じゃないのはアタシも分かってる。でも、少しだけ話したくてね」
「分かってる……。だんまりはダメだから……ちょっとずつ、あんまり上手く言葉にできない……かもだけど……色々あって、こんがらがってて……から回ってて……」
「大丈夫だよ。それで……やっぱり1番は弟くんだよね?まだお友達じゃないって言ってたけど、友達になりたいって言ったら断られちゃった、とか」
「ううん……茜くんはビジネスの付き合いって意味で、仕事みたいな利害の一致で、一緒にいてくれた……。茜くん的にもそれが1番やりやすかったし、私もやりやすかった……」
「……そっか。りなりーは貰うだけじゃなくて交換がしたかったんだね。ずっと。お返しも弟くんにしたかったわけじゃなくて、皆に。あはは……そっかー……ごめん、アタシの気持ちだけぶつけちゃって」
「私も、ずっと愛さんに甘えちゃってたから……おあいこ……ごめんなさい……。自分に自信なくて……愛さんに任せっきり……私自身は何もしなかった……」
確かに行動は起こした。でも成果が何一つ出てない。チャレンジして、失敗して、落ち込んで立ち直って、チャレンジして、また失敗。なにかやってる風に見せてやってる事は同じ所をぐるぐる回ってるだけ。
失敗から学ばない。『失敗って要はギャルゲのバッドエンドでしょ?失敗する選択肢は知れたんだから別のパターン探してトゥルーエンド引きゃ良いじゃん。それで成功したのが過去の偉人と今の実業家だし』って茜くんも言ってた。私は永遠同じ選択肢選んでバッドエンド迎えて泣いてただけ。
上手く行かない方法を見つけたんじゃなくて、ただ本当に失敗をし続けただけ。科学者としても人としてもなんの風上にも置けない行動。
何もしてこなかったから何をすれば良いか分からない。どうすれば正しいエンディングに行けるのか分からない。選ぶ選択肢も、どうすればその選択を押せるのかも分からない。何も学んで来なかったから。
「アタシはさ、りなりーが何もしてなかったなんて思ってないよ?そもそも何もしなかったら失敗なんてしないし。りなりーは失敗、したんでしょ?失敗の経験」
「私は……ずっと同じ失敗、し続けただけ……。愛さんも見てた通り……練習と挫折繰り返して……愛さんの気持ち……ずっと裏切って来た……」
「それはアタシが下手っぴだっただけだよ。りなりーが悪いわけじゃない。アタシって言う監督がいまいちビミョーだっただけ。だからこれはアタシの失敗」
「でも……」
「だけどさ。2人で失敗したから、2人で相談し合えたから、ユウユにも話聞いて貰ってさ、それで弟くんを見つけて。良い監督が見つかって成長も出来た。りなりーが『同じ失敗を繰り返しちゃった』って気持ちが抜けないならアタシも言わないようにする。でも、アタシと……人と一緒に失敗した経験、今までで1番良いところまで行けたけど失敗しちゃった経験──出来たじゃん。だからりなりーはちゃんと進んでるよ」
「……そうなのかな……」
愛さんの失敗は私がいなければ起こらなかったはず。やっぱり愛さんにかけた迷惑が大き過ぎて、私1人じゃ……私の力じゃ何も返せない。
「愛さ──」
「アタシね、りなりーと一緒に居れることがとっても楽しいんだ。りなりーの頑張ってるとこを見ながら何かできないかなって考えて、一緒にやってさ。めげないりなりーにたくさん元気も貰った。何も返せてないってりなりーは言ったけど、アタシは元気をたくさん貰った。もしかしたらさ、弟くんも何か貰ったって思ってるかもよ?」
「私が……愛さんに……。茜くんにも……何かを返してる……?」
「りなりーの中だけで話を終わらせちゃうのはまだ早いんじゃない?何も返せてない事、分からないことが怖くて弟くんに変なこと言っちゃった事。りなりーは新しい失敗をしたって経験を積んで変わってる。表情の変化って意味なら確かにまだダメなのかもだけどさ、りなりーの成長って意味ならもうたくさん進んだと思うよ。きっと弟くんもそう感じてるんじゃない?それとも弟くんはりなりーの顔だけしか見てない人?」
「それは……」
「多分さ、弟くんにとっては人の笑顔なんてちっぽけなものだと思うんだ。元気が出てくるけど何処かで見たような大きな笑顔より、心の底から出た本気の小さな笑顔。弟くんならどっちを大事するかなって。りなりーはどう思う?」
茜くんなら絶対後者を大事にする。私が落ち込んだ原因も茜くんに心に無い虚言を言っちゃったからだし。
愛さんの言う私の成長…………何となく茜くんも感じてくれてる……のかな?
茜くんの身振り目元振り、たまに見せる根元からの本気の表情と比較したデータ。
そういう根拠はないけど……茜くんが見るのはアイドルの私じゃなくて、1人の夢を持つ人間としての私。仮にここから演劇やりたいって言っても一緒に付き合ってくれる。そういう契約の元で一緒にいたから。
「茜くんは……貼り付けただけの、心のない顔なんてどうでも良い……。どれだけ仲が良くても、本心じゃない言葉を言い続けるなら切り捨てるし……どれだけ汚い言葉でも、本心なら受け入れる……言葉じゃなくても、立場でも、行動でも……自分が信じた人のためならな全部受け入れて……なんでもしてくれる……」
「うんうん、ならやる事は1つ──」
「──でも、だからってやりすぎ……いつも自分の健康度外視で働き続けて……全然寝ないし……なんか変な機械で自分に激痛浴びせてるし……アンチにもセクハラ垢にも全部返信するし……。嫌々系でやれやれ系なのに優しさだけは手馴れてて……平和主義の割に経験値高くて……絶対平和に生きてこなかったのがわかるし、それなのに何も話してくれない……。私の心は勝手に見て、勝手に察して……お姫様みたいに扱って……頼んでもない範囲までやっちゃう…………嫌………」
「……そっか、りなりーは自分のために頑張り過ぎちゃう弟くんが嫌だったんだね」
「うん……ただでさえ不健康な生活送ってるのに、死相出すのが上手くて……ほんとにあと3年くらいで死んじゃいそうで……怖くて……でも茜くんは何も言わない……。正直者な嘘つきって話をしてくれたのに……嘘の「う」の字もない……。そもそも全部私のためなのに頑なに自分のためって嘘を張り続ける……」
死亡ドッキリの達人とか、そういう情報くらいくれても良いのに。あの時に見た未練残りまくりの顔だって皆に思考実験してた訳じゃない事が証明されてる。
お姉さんの病気が酷くて本心じゃ泣きたいくらい怖いとかなら私に泣きついて欲しい。お姉さんに見せない不安も寂しさも全部私にぶつけて欲しい。今までのは自分の心を振るい立たせる虚勢だったのなら私を気の抜ける捌け口にして欲しい。なりたい。
気の利いた事とか言わないから、私の本心の言葉、ちゃんと言うから……もっと頼って欲しい。ゲーム教えてとかプラモ教えてみたいな事じゃなくて、もっと……もっと重要な頼み事して欲しい。
プログラミングは私がやるから茜くんは休んで。
これを全部クリアすればやっと私は私の中で茜くんと対等になれる。正確には対等のために必要な素材。これを育てて初めて対等になったって認識できる。
「りなりーが焦ってた理由、1番は弟くんの少ない時間を奪ってるって思っちゃったからなんだね」
「ううん、違う……。根本にあるのは、茜くんがいなくなって……悲しくなる私の気持ち……。人は死ぬまでの苦痛を怖がってるだけで、死ぬこと自体はそこまで怖がってない……って茜くん言ってて……。それに生き物の死は機能に過ぎないって言ってた……。もし死が悲しいイレギュラーなら、運命の本に生き物が死なないよう設定するって……。だから、本人が嫌がってないのに……勝手に気遣うの……間違いだから……」
「そ、そうなんだ……。えーっと……それでもりなりーは心配、なんだよね……?弟くんのこと……」
「うん……心配……それに嫌だった……。けど、私は……茜くんの命を貰ってる立場で……なのにその立場で、自分の『悲しい思いしたくない』って気持ち、隠して……心配しかしてないみたいな言い方……したから……」
「本心、隠しちゃったんだ」
「うん……だから、茜くんに本当の気持ち……伝えたい……。けど、言葉でも、物でも……気持ちを伝える手段が見つからなくて……そこも含めて、今までも、表情も全部、茜くんと会うはずだった今日の時間、断っちゃって……。どうすれば良いか分からない……」
嘘探知機で私が嘘ついてないって示すとかどうかなって思ったけどなんだか淡白でこれじゃないってなった。感情を声に乗せて激情……みたいなのもできない。私が声優目指すってなっても多分養成校の面接で弾かれる。いっその事VOICEROIDみたいな声の方が気が楽だったかも。
でもこれは私一人で考えないとダメ。ダメというか私がやれそうって判断できる答えは私の感性でしか分からないから。
やっぱり璃奈ちゃんボードが最適解──
「ライブやろう、りなりー」
「ら、ライブ……?」
歌に気持ちを乗せて茜くんに見せればわかってくれるって愛さんは言った。心を繋げるライブを目指してるのに、いきなり観客全無視で1人の男の子のためにやって良いのかな……。
「弟くんと繋がらないとりなりーは始まらないからね。がんばろー!」
仲の良い男1人落とせない人間が赤の他人を落とすなんて無理ってこと……なのかな?でもこのまま茜くんをスルーしたら心のモヤモヤが邪魔して観客を感じられないからこれで良いのかも。
うん、そっか……こういう心の繋げ方もあるんだね。いちばん大事なものと繋がる……また、一緒にいて良いんだ……。
茜くん、今は何してるかな……電話、かけても大丈夫かな……?
◇
「喰らえカゲロウ波動バーストコンボッッッッ!!!」
「あっ!もう!ボクの知らない技を使うなって言ったじゃないか!!!」
天才アーティスト美少女ゲーマーであるミアは、隣の個体に座るなんかやたら見た目と声の良い性別不詳の人型生物に高速コンボを貰っていた。無論、常人のコンボとか屁でもない。得意キャラの払いで一発対処が可能だ。
だが残念。目の前の人型をした人の心のない王様にそんな平凡の常識が通用するはずがなかった。
激しいアクションがあるゲームなど璃奈と一緒にやったことしかないためプレイ歴で見ると一ヶ月と数日、時間だけで見れば180時間に行くかいかないかしかやってなかった。
さらに基本やるのはオンラインの生き残り系かオフライン対戦でやる璃奈との格闘ゲーム『魔界ファイターズ3:Demon's core Heart』くらいしかない。
しかし璃奈は強いため茜も全力で立ち向かい、時折勝ったり負けたりを繰り返していた。
そのため対戦を繰り返す内に『全力で戦うのは基本。勝ち負けより相手にどれだけ嫌がらせをするか』という歪んだ礼儀を覚え、どんな相手にも対戦内で全力の嫌がらせプレイをする事に命を賭けた。
璃奈も即死コンボ中に遊びコマンドを入れて来るのでこれが正しいと覚えてしまったのだ。
そして生まれ落ちたのが『接待プレイの概念を持たない嫌がらせガチ勢』という勝っても負けても相手がイラついたなら満足できる宇宙レベルで頭のトチ狂った迷惑モンスターだったのだ。
「くっ、この!!!さっきからバカspeedで下蹴ばっかしないでよ!!!ボクは14歳なんだぞ!!!!!!」
「はぁ……???こちとら外見年齢13歳ですが????客観的に見ればこっちの方が年下。ウチとアリスガールの認識なんて他所には通じないから無駄だぞ。お前は14歳で、余は13歳。これが真理」
「悪魔なのか君は!?!?ボイジャーくんにはNight SpiritとかSAMURAI Heartはないのかい!!?!?」
「はぁ?????なんだお前。随分寛大で温厚なKingに仕えてたんだな。王様が優しすぎて戦争起こらないから実戦経験無い口か?素振りばっかやってないで模擬戦しろ模擬戦。戦争なんて殺しができるスポーツみたいなもんなんだからガチになれよ。仕事じゃないんやぞ。そんな甘ちゃんじゃ何処かの国の悪どい王様に侵略されてプライド嬲られるぞ」
「Sh○t……!!!!」
「Foo〜!!!」
そもそもの話、ボタン押してからシステムに反映される速度を限界値で入力してるので対処もクソもないのだが。茜はグランドピアノの鍵盤、ダウン56gを鬼の速さで連打できる特技を持っている。修得理由?んなもん周りにイキり散らすために決まってるだろと茜は開き直っていた。
鍵盤に比べれば格ゲーのボタンとか雑魚中の雑魚。軽すぎてカルシウムかと思ったと後の茜は語る。何言ってんだこいつ。
ミアはループから抜け出せなかった。単純コマンドなんだから一発ジャンプすればいい話なのだが、そもそも起き攻めが早すぎてミアの視覚情報では対処出来なかった。
さらにそれ以前の問題として、茜が対象法を準備してないので本人もどうすれば良いか分からない。
茜本人が同じことされたとして、抜け出すには運良く相手よりボタンを早く押すことくらいしか対処法がない。
しかし茜が突破法を考えることはなかった。そもそもゲームのボスキャラでもないのになんで自分の弱点を考えなければ行けないのかと。
そんな無駄な時間を過ごしてる暇があるなら連弾筋を上げる事に尽力する。
時刻は夜7時、茜は一時間コンボをブッパし続けただけだったが、隣のアリスガールがめちゃくそ喚くので麻薬がいっぱい出た。終いにはミアを煽るためにヘイトスピーチをミアと同じ声量で叫んだため喉が痛い。周囲に防音材と集音スポンジがなければ出禁を食らっていただろう。
というわけで2人は叫びちらして声が枯れた。茜にvcレモンのど飴を貰ったミアは冷たい友情がヒートGOしている。チョッロ。
その日、猿になった茜とミアはfbメッセンジャーを交換した。垢名にテイラーを入れてなくて良かったなと感じたミア。だって有名音楽家の娘だって知られたくないし。そういう目線なしの友達が出来たのだ。バラす方がfoolだろと思った。
一方茜は帰宅直後に来た璃奈からの電話にて、明日会いたいと言う連絡と約束を貰った。
具合が良くなったようで安心だと言いながら、『さっきツイドリで茜くんとカノジョさんが遊んでる動画流れてたよ。優しいんだね、茜くん』的な報告を受けたので通話終了後に確認。肖像権もへったくれもない怖い社会だなーと思いつつ、心做しか声が低かった璃奈のために緑茶を沸かし明日持っていこうと決めた。お茶のカテキンは喉に良い。
彼のお子様ソウルに乙女心をインストールする容量はない。いくら女装しようと女の性質を理解しようと、女そのものにはなれないのだ。