虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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31.ライオンの雌が10匹、そこに雄を一摘み

 おかしい。茜丸さんは同好会の部室を嫌っていたはず。1対1という例外を除きここを訪れる事は絶対にないと侑さんもかすみさんも言っていたのに。菜々さんの時は特例過ぎて二度とないと皆さん口を揃えて言っていたはずなのですが。

 なのに、なぜここにいるのでしょうか。

 

「璃奈りー、教えてくれと頼んだのはボクだからあんまり物言える立場じゃないのは分かってるんだけど……同好会の活動は大丈夫?付きっきりじゃやりたい事できないでしょ?」

「んっ……動画編集するだけだから……。大方完成してて……ミス、無いか見てるだけ……」

「問題無いなら良いけど……うん、こっちもやっと終わった……。璃奈りー何か飲む?」

「ココア……」

「りー」

 

 パッと見同好会部員に見えますが……彼は男性。そしてやってる事もアイドルと言うよりは侑さんに近い。

 これはどうするべきでしょうか……茜丸さんに合わせて何か交渉でもするべきか、それとも様子見か。

 暴れる人では無いとわかってはいますが、言ってしまうと暴れるより面倒な事をしそうで安心できません。

 

「ちゃんしずもなんか飲む?みかん紅茶あるよ。それかレモンティー」

「…………お任せします」

「相変わらずお堅いねぇ。ちゃーんとどんな人にも作り笑顔届けなきゃ裏スレで色々書かれちゃうよ?ほら、にこー」

「良い笑顔ですね。お人形さんみたいです」

「ふっふっふ……すごいでしょ、ボクのパーペキスマイル。皆の心を射止めたバッチグーなプリチージャスティスだよ。誰かの心にボクがいる」

 

 えぇ、ほんとに。あなたの心に残ってるなら本物と呼べるのでしょうね。理由は知りませんがそんな演技を超えた偽物を見せられても私には刺さりません。

 だからあなたは偽物。もっと璃奈さんに接する時のような態度を出せたら見直してあげますよ。

 

「はい、レモン。飲んだらつけといてねー」

「……ありがとうございます」

 

 なんというのでしょうか……忌々しい……?確かにかすみさんから見れば良い男なのでしょうけど、と言うより他の皆さんも好印象らしいですけど、この男だいぶダメなタイプですよ。

 まず表情からしてダメ。演技というのは演じる役の中に自分を忍ばせて違いを出すものです。歌舞伎や劇団などもここを楽しむのが基本。

 ですが、茜丸さんは中身も何も無い鏡の前で無理くり作ったのを調整したみたいな不気味なもの。

 

 侑さんにも「しずくちゃんは茜の悪役成分ダメな感じかー。演技の指導してみる?」と言われましたが、私が言いたいのはそれ以前の問題というか。おそらくベースの笑顔がツギハギのヌイグルミみたいな形だったのでしょう。

 でも茜丸さんの事ですし、どうせ笑い方が怖いって言われたあと『直すより活かす方が得』とか何とか思い至って今があるのでしょうね。

 ほんと、姉弟揃って酷い有様。確かにひまりさんもアイドルとしては一流でしょう。動画の再生数や握手会の抽選申し込み数などの数字が全てを物語っています。ファンの間では正しく英雄。そこは認めます。

 

 けれど、中身のないあの薄っぺらな顔。あれだけは絶対に認められない。

 

「よーし、数値化はできたからあとは出力だな。それプラス数値とパーツの保存にフォルダわけ……とりあえずコマンドでパーツ名義できるようにはしたから……名義したパーツの角度差分出せるようにして……ふーむ、3Dを基準に元絵のテイスト合成させるか、数値いじって目的の角度までズラすか……」

「AIなら代数が基本……」

「んじゃズラすかー……指が1番複雑だし、ちょっと脳筋になるけどパターン出しまくって統計を算出させればなんとか。いや代数基本なら普通に追加学習のシステムも組めるのでは……?変数取っかえ引っ変えすりゃ実質発想の転換じゃん」

「AIの連想学習の基盤だけど……めんどくさいよ……?」

「ナマモノ処理するより辛い事なんてないから平気へーき」

 

 嗚呼、ほんとに。璃奈さんと話してる時は幾分かマシになるのですが。人によって態度を変えるのは嫌われると言うのに。

 別に目上の人にタメ口で話せみたいな話ではなく、あからさまに好意の差を見せつけるのはどうなのかと言う話です。

 

「しずくちゃん、茜のことジッと見てどうしたの?」

「いえ、その……璃奈さんと仲が良いんだなーと思いまして。菜々さんの時はもっと面倒くさそうな顔をしていたのに。すごいですよね、菜々さんって男性人気高いとお聞きしますよ?」

「あはは……あんまり茜の態度が好きじゃないんだね。しずくちゃんはやっぱり茜の悪そうな顔嫌い?」

「もっと皆さんと打ち解ければ良いのに……とは思います。璃奈さんと同じくらい仲の良い人が増えれば、少しは中身のある表情が出せるんじゃないかと思いまして」

「中身……素の表情もダメなの?」

「あれは素じゃないです。まだ奥深くに本性を隠しています。それがどんなものかは私にも分かりませんけど」

 

 茜丸さんを家に泊めたいと璃奈さんから相談を受けた際、『茜くん……たまの生気無くなるから……。だから、元気が出る事したい……』と仰っていました。

 わざとそういう顔をしているのかと疑いましたが偶然見かけた時にその顔をしてる事が多いそうです。むしろ人の前では普通程度の元気さで振舞っているとか。

 

 なんというか、そこだけ聞くと病室で過ごす患者さんみたいな対応ですね。私が尾行した時はそんな顔しなかったのに。偶然を装って狙って見せてたり……?

 いえ、それはメリットがないので理由にはなりませんね。と言う事は私がたまたま見れなかっただけ……または尾行がバレていた、とか。

 かすみさんと尾行した時はすぐ止めたのに、どうして私の時は……本当に訳の分からない人です。

 

「茜の事よく見てるんだね」

「…………まあ、その、かすみさんがこれ以上変な知識に染まるのは悪影響ですし……私が見ていた方が良いかな、って……」

 

 侑さんのそのセリフのあとじゃ何を言っても私が茜丸さんを好きみたいに扱われてしまう。

 ですが……一応認めてる部分はあります。菜々さんのオーバーワークを止めてくれたり、歩夢さんの衣装製作を手伝ってくれたり…………かすみさんに世の危険さを教えてあげたり……………──

 何はどうあれ感謝する事だってあるんです。でもそれで全てを帳消しにするのは無理。

 

「侑さんは茜丸さんのどこが好きなんですか?」

「えっ。良い匂いがするところ……?」

「セクハラじゃないですか……」

「……逃げないし良いのかなって。あとなんか、茜相手だとあんまり距離感とか遠慮とかそういうの一切いらないから……加減できなくてさ」

「男性なのにですか?」

「ほら、茜って男の子とか女の子とか気にしないし。それに嫌な時はちゃんと嫌って言うから、断らない=OKサイン……みたいな?」

「なんと言いますかその……夜のお誘いみたいなやり取りで匂い嗅いでるんですね……」

 

 確かに茜丸さんには性別の壁みたいなものは無いですけども。だからと言ってデリケートな部類に入る匂いを嗅ぐのは少しこう……デリカシーなんてこの2人には無用でしょうけども、やっぱりセクハラなのでは。

 

「歩夢さんに怒られたりしないんですか?もっと男の子として見た方が良いよ、とか」

「んー、何も言われた事ないし……多分受け入れてる?気まずそうにしてる時はあるけど……歩夢も吸いたいのかな?」

「女の子が男の子の匂いを堂々と嗅いでたら気まずくもなりますよ。それに侑さんは大切な幼なじみですし、何か変な噂が立てられないか心配してるんじゃないですか?」

「そ、そっか。これからはもう少し人目を気にしてみるよ」

 

 歩夢さんもあの得体が知れず男かどうかも分からない性別茜の人型生物に手を焼かれて大変ですね。分かりますよその気持ち。大切な人が変な影響受けたら嫌ですもん。

 私もかすみさんを正常な状態に戻さないといけないですし、だと言うのにかすみさんは『茜丸からの影響……?ありますし自分に引いた事もありますけど、今は上手く活用してるので大丈夫です』と自覚なし。

 ひとまず茜丸さんに気づかれない尾行の仕方から勉強しなくては。

 

 

 

 ◇

 

 

 夕雲茜は悩んでいた。別に曲のストックが無くなったわけでもなく筋肉痛が取れないわけでもない。歌詞に至っては順調そのものである。

 アイドル以外も問題はない。勉強に関しては苦手科目の日本史の授業と定期テストを受ければそれで終わる。正直公式1つ覚えれば数字を入れ替えて無限に遊べる理数系と違い、単語1つ覚えた所でその時代の法律や事象を1個覚えられるだけの社会系科目にアドコスの悪さを感じていた。アドバンテージ&コストパフォーマンス。最近のJKスラングらしい。

 

 派生できたとしても単純過ぎてシンプル短期記憶しか機能しない。その程度の雑魚暗記は茜の趣味じゃなかった。

 こんなヤード・ポンド法より毛嫌いされそうな科目をやるくらいなら、家庭科を主要5科目に入れる運動をしていた方がずっと有意義である。

 

 そこまではしないにしても、単語に使われた漢字の成り立ちを調べる方がまだやる気が出る……が、それはもう現代文の分野であるので歴史としては無効。アーカイブを語ると言うなら猿時代の人間の生活を知りたいとも思ったけれど、そこは生物の範囲だと歴史の先生が言っていた。

 人間の歴史をこんな地味な本で学ぶ意味とは?何も知らない人にエヴァンゲリオンの公式設定資料集(時系列順)を見せているに等しいこの科目で何を学べと。

 

 戦争がダメというのは国語の教科書と道徳の教科書で学んだ。ストーリーにしてくれると悲劇さがよく伝わって平和主義の心が強くなる。

 それに教科書には鎌倉武士がモンゴル兵の軍艦に牛の死体を投げ入れてバイオテロをしていたり、夜襲しまくっていたり、人質を取られても関係なく弓をバカスカ乱射していたことも書いてなかった。誉で自らを殺せと主張し殺された武士に引くモンゴル人の話なんて載ってなかった。茜はそういうのが知りたかったのだが。

 そんでそのホトトギス推しはなんだ。お前にホトトギスの何がわかる。野生の何がわかる。裏でメジロが泣いているのが見えないのか?そして天下を牛耳る生きた宝石、タマムシ御膳を無視して美を語るとは何事か。正に愚者の時代。

 ホトトギスは神輿の飾りになれるんか?こっちは社会ブーム起こしたムシキングに出演して歴史を肌で感じさせてますが。で、貴様は?(過激派)

 

 話が逸れた。

 

 肝心の問題というのは茜の周りの女がおかしくなって来た事である。もうどうしようもなくなったので社会アンチに逃げる事しか出来なかった。大変許してヒヤシンス。ヒヤシンスの花言葉は謝罪。エリンギは宇宙。

 

 また話が逸れた。

 

 古今東西、女というのは虐げられた過去から男を毛嫌いするものだと人類史には載っている。

 ある時は人として扱われず、ある時は奴隷娼婦として、直近では男を支え亭主に従うのが絶対とされて来た。

 だからそう簡単に男を信じはしないのだ。少なくとも茜のデータの中ではそういう性質があると言うことになっている。

 

 しかし今、茜は背後から主人公に吸われ、癖でしていた正座の膝にクワガタ A GOをした後ムチムチンとやらを摂取し始めた生徒会長を相手にしながら、ただ虚無に身を投げPCをカタカタしている。

 

 今まで同好会に来るのを拒んでいたのはこの類が起こることを危惧していたのが原因の12割。やはりアイドル部の黒髪2年組は頭のネジと配線が飛んでいるのだ。はんだごての鉄心持ってそう。

 少し離れた机では、yogiboの擬人化お姉さんとショタ恋お姉様が世間話をしながらこちらを見つめ、サンリオ先輩は相変わらず宇宙世紀に旅立っており、部長は連射撮影で今月3枚目のmicroSD(64GB)を無駄にし、ケツ肉ぷるぷるしずくちゃんは哀れみと恨みと警戒が混ざった複雑な目で見ていた。

 そして隣に居座る我が天王神は、侑コーンアーマーと刹那ライザーがドッキングONした瞬間に気持ち身体を寄せて来た。しかし剣は気づかない。

 

 後頭部と股下から聞こえる『スゥ----』という耳鼻科の吸入器よりうるさい空気音を聴かされた茜は『そうだ、公衆便所になろう』とついに決意を固める。

 そもそもなぜ茜がここにいるのか。現在部員はMAXオールマイティー。普段の茜なら絶対に来ない状況だ。部室の前を通っただけで嫌すぎて反対側の壁に身体を擦り付けながら歩く程度には嫌。

 それでも耐え忍んでいるのは己がやりたい事のため。とりあえず金がいるのだ。4桁レベルの金が。正直貯金を全ブッパしても良かったが、今後我が主に何か危害が会った祭、ジャッジメントクロックを発動できるように保守しておきたかった。保険というのはいつも心に余裕を産んでくれる。

 

 頭を揉めと要求するゴリライザーにはメタルシャワーを雑に刺し対話完了。グチグチ文句を言うのでメタルせつ菜じゃなくてアルミ菜々にするぞと脅して黙らせた。さすがの菜々とて陰謀論者化は嫌だったらしい。ここを結界地として今度イルミナティーカードを使った粒子遮断フィールドを張ろうと決めた。

 

 そして背後にいる1second毎にHugxamシステムで強くなる可能性の虹色ライター先輩からは…………特にこれと言った要求はない。寝落ちしているのかと勘違いするほど大人しかった。

 サンリオ先輩はまだ宇宙世紀から帰って来ない。

 

 向かい側には太陽先輩サンギャル子がお母さん見たいな目でこちらを見ている。璃奈を見るならまだわかるのだが何故か茜とセットで見ていた。

 

 

 そうして周囲を観察した茜はここで至極当然の疑問を抱く。『部の活動はしなくて良いの?』と。

 

 

 まともに役目を果たしているのは璃奈だけ。肝心の作曲担当と経験年数トップアイドルはこの始末。

 せめて部長くらいは機能して欲しいものだが、生憎今は4枚目をスマホにリロードしている。家に帰ったらGIFメーカーでまとめるとか何とか。無駄に手間をかけた無駄しかない無駄な作業だった。なにこれ?

 

 以降、最終下校時刻1時間前に作業が完了。そして帰宅準備中に同好会入部届けを菜々から受け取ってAll Finish.

 部屋を出る際に入部届けがしまってある引き出しに用紙を戻し、ついでに届けの束も綺麗に揃えておいたので明日は菜々姉貴から感謝されるだろう。何一つ無駄がない洗練された慈善活動。うーん脳汁。

 

 あまりにプログラミングが難しく自分が設定した練習ノルマに届かないため、璃奈に頼み込んで一緒にいる時なら部室でもやって良いと許可を貰った茜。

 だが結果は惨敗。自分がいると何故かみんな活動が休止すると言う実験結果を取得し、部室でやるのは無理だと判断した。

 きっと皆は気にせず遊びに来て良いと誘うのだろうけど、正直アイドルなれども歌わないとか言うふざけた状況の原因になるのは御免だった。これなら帰ってきた手裏剣戦隊の方がまだアイドルしてる。

 

 

 そういうわけで璃奈に見解を報告した後、これからは30分に1回連絡を入れることを条件に天王寺家でワンマンワークする制度に変更。料理支度、外出をする時はその都度報告という例外はあるにせよ、これで同好会の活動を邪魔せずに自分のやりたい事が出来る。

 我が主も条件が気に入ったのか安堵の顔をしていた。相変わらず茜の身体にかける気遣いが過保護である……が、満足してるので良し。

 

 

 

 

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