虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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38.闇の商談、闇の帰り道

 嗚呼……ミアがお国に帰ってしまった……。しかし問題はない。こちらには電話線と言う人類の叡智がある。とりあえず帰国後にミアから電話を貰ったが問題なく繋がったので動作不良はなし。5G様様だぜ。

 ひとまずこれで一ヶ月耐えられる事が証明できたので、茜は死ぬほど温めていた本題に手を出した。

 

「茜丸ですか?午前中に電話かけて来るなんて珍しいですね。どうかしましたか?」

『ブツが完成したのでこれからホノルル社に商品を押し付けに行きます』

「えっ、はい。なんでそれを私に……?」

『連行します』

「……誰を?」

『かすみさんを』

 

 

 

 こうして中須かすみの職業体験が始まったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 助けてください……割とガチめに……。

 

 いやまぁ……確かにアイドル引退したらアイドル関連の会社やりたいなーみたいなふんわりした目標は持ってましたよ?茜丸にだって相談というか雑談ネタで語る事もしましたし。

 でもだからっていきなりこんなガチの商談?に連れて来るのは違うじゃないですか。確かになかなか出来ない経験なのはわかってますよ……わかってますけど、もう少しこう段階をですね……。

 

 というか茜丸も相手の企画担当をしているらしい相手さんも本気の交渉してますし、学校が間に入った体験会前提の職場見学とは違うんですよ。だからめちゃくちゃ緊張してます。座る姿勢が中学の卒業式本番みたいになってる。

 口出しする気なんてないですしそもそも出来る度胸がないので黙り込んでますが、社会って体の動き1つに礼儀作法があるじゃないですか。お辞儀だったり部屋の入り方だったり話す時の姿勢だったり。そういうところでヘマして茜丸に迷惑かけないかめっちゃ怖いです。

 当の茜丸からは『かすみさん最近可愛さの養殖極めてるから作り笑いしとけば大丈夫。とりあえず3回前のライブで出した作り笑顔が最適。そこから先は会談だと胡散臭く思われる』って言われましたけど、それが出来るなら最初からやってますしカチコチに緊張なんかしないんですよ。

 

 いや頑張ってやってますけどね?正直口の端が力みすぎて痙攣してる感覚があります。ライブより辛い。動いてないのに疲れる。

 ダンス練習で身体動かすより疲れることはないと思っていたのですが、現在進行形でダンスより疲れてる。おしり痛い。

 私がやってる中堅アイドルってまだ楽な方の職業だったんだなぁ……って痛いほどに感じてます。シンガソングライター方って頭のキャパシティどうなってるんでしょうね。前に茜丸に頼んで作曲ソフトを触らせて貰ったのですがドラムの打ち方すら分からなかったですし。

 だから歌って作れて売り込めるが全部一人で完結するなら皆そっちを使います。アイドルで一番お金がかかるのってやっぱり作曲周りなので。

 

 茜丸にもアイドルをさせてみたいですが、おそらくこの仕事にだいぶ闇を感じているはずでしょうし。オフのひまり先輩に突撃してくるファンとかグッズ転売とか色々迷惑を被って来たでしょう。

 なんか10割10分ファンが悪いみたいな言い方をしてしまいましたが私側にもヤバいやついますよ。茜丸のツイドリ見れば分かります。

 DMはどこか遠くのスクールアイドルから来た自分の利益最優先で交渉のコの字も知らないようなメッセージか、声優アイドルやV追ってる垢からのセクハラ、おそらく性格に難があって婚期逃した独身孤独からのセクハラ。これのどれかしかありません。

 なんというか、アイドルによる交渉概念のない交渉を見てるとフリマアプリでたまに見るエグい割引額を提示してる客を思い出します。ネタじゃなくてガチでやってたんですねあの人達。1000円札チラつかせればタダで家が買える時代からタイム渡航でもして来たのでしょうか。ドラえもんでやれ。

 

 あとはオフ会目的で絡んでくるドル垢なんてものもいますよ。茜丸の財産目当てかヤった後の責任追求で専属契約でも結ばせる気なのか知りませんが、やたらフレンドリーで男のツボを突くのに慣れてます。

 

 多分普通のイケメンだったら確実に会ってパコって人生専属エンゲージコースを辿ってました。だって相手はアイドルなのでめちゃくちゃ顔がいいですし。

 私の中ではもはや当たり前になっていたので忘れてましたが、可愛い女の猫スリになびかず拒絶した上にキッッッショって言い放つ茜丸ってだいぶおかしいんですよね。

 挙句の果てには自分より可愛くなってから出直せとか痴漢被害15件以上経験してるのが最低条件とかデリカシーの欠片もないこと言いますし。普通ならバッシングされた後にフェードアウト。

 

 ですが茜丸には男だけではなく女にも痴漢されて示談金貰った事実がありますし、『可愛い男も受け入れられるようになったとは言えイケメン金持ち需要が9割残ってるこの時代に、進んでボクみたいな女々っちいやつを選ぶ女とか絶対ろくでもない人間に決まってる。自分の可愛さかすむのに』と言う大義名分を構えてます。盾です。

 こんな理屈茜丸しか使えませんし、真新しい理論なので賛否両論で議論が熱戦し自分の女選び基準なんて小話にすら上がらなくなると本人も言っていました。

 

 この状況を哲学世界では人造人間のはぐらかしというらしいです。

 人造人間を作った博士が倫理問われてる間に人造人間が子供を作り、その子供の人権問題に話が逸れて博士が忘れ去られていく。というお話が元だとかなんとか。

 要は悪目立ちはそれよりヤバい悪目立ちでごまかせるというだけなのですが……相変わらず性格悪い哲学しか拾って来ませんねこの男。

 

 余談が過ぎました。

 

 正直女より自分の可愛さの方が価値高いからモブ美少女とか知らんと語る茜丸。口は悪いですが非があるのは向こうなので茜丸に反論できる言い分がないんですよね。そもそも私は最初っから茜丸派ですし。

 

 助けてくれる味方なんて隣にいると言うのに、当のこいつは相変わらず『商業アイドルを目指す誠意が伝わって来て感嘆なのですが、当方皆様のおかげで充実過ぎる日々を送らせていただいており、ご希望に沿う事が出来ず大変恐縮ながら……』って律儀に一人で片付けてます。

 

 お相手にはご愁傷さまと言うしかないのですが、目元辺りがちょっとだけかすみんより可愛いかったので勿体なさみたいな物は感じました。茜丸にもこれで良かったのかと聞いてしまう程度には良物件だった。

 ですが茜丸曰く、相手は中須かすみ(中一の姿)レベルの可愛さしか無く、現代かすみんで目が慣れた自分には中華コピーにしか見えないと言ってまして。

 嬉しかったのですが、その後カマンらいぱー?とかいうのを長々語り出したのでそこに印象を奪われて前半部分が薄れちゃってます。なんでこの男はいつもいつも雰囲気を台無しにするのでしょうか。

 

 

 まあはい、ここまでグチグチぼちぼち思い出語ったわけですが、これだけ時間稼いでやっと茜丸の商品なんちゃらの販売契約完了って段階まで来ました。

 聞いた感じさらにここから契約書だの振込先だのを書くようです。あと30分ちょいで終わりそうなので飛びかけた意識が戻ってきました。ほんとに長かった……死ぬ……。

 

 

 この会社に入る直前、あまりの緊張に私が行く意味を聞いたのですが、やはり茜丸は私の将来に必要だからと。

 なんかこうそんな遠い未来の理由じゃなくて今必要な理由をくれと無茶ぶりしました。断れる立場じゃないのは分かってますが会場がビッグでやっぱりヒヨっちゃうんですよ。

 そして私に無茶ぶりされた茜丸は『かすみさん可愛いからいるだけで現場の雰囲気良くなるんだ。だから必要。会社の来賓受付ってだいたい若くて綺麗なお姉さんでしょ?そういうこった』って言われて少し落ち着きました。そして追い討ちの『他の人だと作り笑いどころか表情そのものが作れなくなるからかすみさんの可愛さがいる。だからお願い』の言葉で何とか置物になる覚悟だけは完成。

 茜丸の言葉は一言一句本心からの言葉なので納得さえ出来れば信じるのは簡単なんです。正直ビビったら対戦相手に山崎のコッペパン(いちごジャムandマーガリン)を譲渡して逃げる女に何を期待していたのか甚だ疑問でしたが、マイクラのビーコン役だと知って頑張る決意が出来ました。

 そもそも茜丸って期待は絶対抱かないので100%私にできる役目しか降らないんですよね。忘れてました。

 

 

 で、はい。一応最善は尽くしましたが最善の善意と誠意を見せれば良いってわけでもないですし。それで商売ができるなら今頃世界の全社会人が土下寝してますよ。

 

 というわけで茜丸からの評価を聞く前に言い訳タイム。

 

 だってしょうがないじゃないですかこちとら今朝までただの学生だったんですよ?夏休みの宿題どうしよっかなーとか呑気に考えてたところに茜丸から電話が来て、ちょっと浮かれ気分で出た結果がこれです。あんまりでは?

 いやまぁ……確かに過去の私はこれより酷い電話のかけ方をしましたけども……ですがもう少しこう行先のチョイスをですね……。

 商談デートだ!って茜丸には言われましたけど、特殊事例が過ぎたせいで全く喜べませんでした。企業交渉をデートプランに入れた男女とか私たちが世界初では?デートプランに入れたというかこれがプランの全てですけど。

 あれですね、就活面接の圧迫感がわかった気がします。これを50社100社で繰り返すの客観的にも精神的にも地獄絵図過ぎる。もう少し採用枠増やしても良いのでは?

 

 言い訳終わり。

 

 さすがに茜丸の口頭から直接評価を聞く勇気はなかったので後ろに隠れて歩きながらLINEでやり取りしました。

 返って来た評価は『ちゃんと想定の範囲だったから平気だよ。というかボクがカバー出来る範囲の役割しか与えてない。あと、かすみさんバカだからバカが犯すシンプルな失敗とかいくらでもフォローできる。ありがと』……と。

 最初にそれを言えバカヤロウ。フォロー出来るって分かってたならもうちょいマシな笑顔が作れたのに。

 

 なんだか私がガチガチに固まってたのがアホみたいに見えて来た。

 必死こいてまで覚悟を決めた経験は必要だったのかなとか色々疑問に思ったので流れに任せて『バカヤロウ』と送信。

 

 

『ボクはかすみさんの会社で働く気はないよ』

 

 

 こいっ……はぁーーー(クソデカため息)。マージでさぁ……。

『いつまでもボクに頼りっきりじゃダメ。かすみさんの道はかすみさんが作らなきゃ』って言えば少しは好感度が上がったかもしれないのに、どうしてこいつは『お仲間がいないと何も出来ない友達ごっこじゃ経営どころか下っ端社会ですら生きて行けないよ』って言っちゃうんです?ほんとに茜丸はさぁ……。

 

 ……でも、なんとなく茜丸の真意を悟れた自分に優越感みたいなものを感じてます。おそらく茜丸の事だからこの優越感のプラスポイント含めて感想言ってるはずですよ。

 性格が悪すぎて相手の自尊心を馬鹿にするどころか評価材料にして弄んでます。貶すとかいう猿回しはもう飽きたから興味ないって文から伝わってくる。

 一体全体過去にどれだけその手の輩を説き伏せて来たらここまで到れるんでしょうね。

 

 でも私が一番怒りたいのはそこまで私の事わかってるくせにかすみんとは絶対呼ばないところ。はよ呼べ。カズミンだのカスミカンだの一工夫加えるな。私の名前は加工簡単レジンセットじゃねーんですよ。

 

 茜丸がそんなんだから私とか菜々先輩とか…………それ以外……とりあえずその他諸々に悪役じゃなくて悪の王そのものとか言われるんです。しず子にだってじっとりしっとり茜丸製マドレーヌみたいな態度を取られちゃう。

 やっぱりろくでもないですねこの男。あんな仇役を見るみたいな目をしたしず子とか初めて見ましたし、そもそもしず子が人を嫌いになるって相当ですよ?

 

 

 相変わらず茜丸らしさしか感じない酷い生き方。心開いてくれそうな人にほど嫌われムーブするのやめません?

 

 

「はぁ……ほんとに……私が見てないと何するかわかったもんじゃない……」

 

 

「かすみさん?なんか言った?」

「駅地下パン屋のクロワッサンください」

「あぁ、由良屋のやつ?そんなので良いの?」

「世の女は茜丸みたいに2km走ればハイ痩ーせたとはならねーんですよ」

「普通に運動量が足りてないだけじゃん」

「それ禁忌ワードだから絶対他の子に言うなよ」

「り」

 

 はぁ……見た目は理想の女でスペックは理想の彼氏。だけど中身がクソピーキー。

 扱える人間には優越感と自分のデッカい力を貸したあと、役目を終えるまで尽くしに尽くす。なんかゲームでたまにある自我を持った伝説の剣みたいですね。マジで剣だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 やっべー……かんたんなえーあいがアホみたいに売れちゃった……。想定額を700万オーバーしたんだけどどうすんのこれ?申告ダルいよ助けてエマ姉……。

 

「茜君、私は今嫉妬しています。理由がなにか分かりますか?」

「ギャンブルで一発当てたから?」

「すみません、生徒会室までご同行して貰ってもよろしいでしょうか?」

「パイセンもユーモアが分かってきたね。嬉し過ぎてバグりそうだよ。ほら、クアンタも喜んでる」

「あっ、冗談だったんですか」

「せつ菜先輩はさぁ……」

 

 ついにギャンブルに手を染めた事を疑われない段階まで来ちゃった。まずパチンコ自体ウソップの武器と同じ名前だなー程度の知識しかないのに。

 

「で、菜々ちゃんの嫉妬ポイントは」

「私にも千夜一夜と輝夜物語してください!なんで璃奈さんにばかりサービス精神旺盛なんですか!私茜君の生き写しなんですよ!!!メインヒロインなんですよ!!!!」

「六兆年と一夜物語みたいに言わないでください。あと黒歴史誕生の瞬間に立ち会っちゃったので帰って良いですか?」

「ダメです。どうせお金稼いだのだって璃奈さんのためなんですよね?家でも買うんですか?」

「今ここで話題を止めてくれるなら一緒にカラオケ券あげます」

「やめます」

 

 ちょっっっっろ。やっぱダメだろこの生徒会長。どんだけ推しと出かけることに命賭けてるんだ?そこまでガっつくのはボクでもしないぞ。

 そもそもウチらインドア派だから家にいるほうが落ち着くんよ。

 

「話切る前に動機だけ教えてくれませんか?」

「ガイアがオレに輝けと言っていたので」

「テンション上がってゲーミング発光しちゃったんですね」

「ウルトラマンじゃねーですよ」

 

 菜々ちゃん先輩の方が七色発光しそうなのは黙っておいた方が良いのかどうか。夕雲ひまりを出す気はないけどボクをボクのまま歌わせるメリットってそんな無いし……うーん、わからん。

 店につくまで何歌おうか本気で悩んだけど、実際はデュエット式のアニソンをひたすら歌わされるだけで終わった。

 余談として男パートには必ず告白文が入ってたぞ。悦に浸かってやがる。

 

 

 

 

 

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