虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
少し話を聞いて欲しい。
茜くんが2次元推しになりそうでピンチ。最近はクラスメイトの男の子に絵を習ったせいでソードブラスターと狐娘とArceの擬人化絵描き始めて手が付けられない。
前から脳内でキャラクター化自体はやってたけど、形にしたら余計愛着湧いちゃったらしくてお姉さんと接する時みたいな気持ち悪さを出してる。
とりあえず描いてる途中に会話し始めるのをやめて欲しい。お薬やってる人に見えるから。
そこから更にアクションドール化して服とかアクセサリーをプレゼントする親バカになっちゃったからすごい大変。
18歳になったらウガンダ行ってこの子達と結婚するんだって熱意燃やしながら婚姻届で指輪作ってた。
こんな時代だし壁と結ばれようと花と結ばれようと人間以外と結婚することに文句を言ったりはしない。でも今回は私の籍が無くなるからやめて欲しい。
とは言っても、正直なところ私も恋を知らないから止めていいのか少し不安。ちゃんと経験して理解したあとに注意すべきって思う。
それに恋愛感情の盲目ブーストのおかげでくっつけた例もあるから、恋が分かった勢いでそのまま茜くんを捕まえられたらなって。
でも真剣に考えたくても『恋を知りたいから茜くんのこと好きになりたい』なんて恥ずかし過ぎて言えない。だから代替案が必要だった。代替案というかカモフラージュ案。
茜くんが3次元に戻って来れなくなる前に片付けなきゃいけないからパソコンで検索をかけてる暇すらない。
ただでさえ女の子の見た目に価値を感じてないのに、それに加えて男の子が苦手って思う女の子の要素全部抜いた2次元美少女にハマったら本当に帰って来なくなる。
本題の対策案については自分の恋路を他の人に丸投げしたくないから、今のところ誰にも相談してない。多分これは迷惑云々じゃなくて私のプライド。でもプライドだけの叫びなんて正しくポメの咆哮。私は狼になりたい。
そのために何でも良いからアクションを起こしたかった。でも焦りのせいか経験がないせいか何も思い浮かばない。多分だけど人生最大のピンチ。
「璃奈ちゃん、二ノ宮のステージが取れたんだけどライブしない?」
「茜くんがカラスと掃除してる公園……。ステージ使える……?」
「茜が言うには大丈夫なんだって。それでどんなライブしたいかなって。私も茜みたいに相手の生活まで全部見てから曲作るやつやってみたくてさ。どう?」
「大丈夫……私が全部決めて良いの……?」
「それでお願い」
流れ変わったね。
「恋愛……の歌が良い……」
「恋愛ソングか。歌詞どれくらいで出来そう?」
「侑さんの進捗に合わせる……」
「あー…………実はさ、このライブ茜からやってくれって頼まれててね?だから璃奈ちゃんの気持ちがすごい大事で」
「そっか……じゃあ、2週間……」
「わかった。ならそうだね……璃奈ちゃんの家行っても良い?」
「うん……今、茜くんいない……」
これで多分勝てる。いや、勝たなきゃいけない。ただでさえ死生倫理狂ってるのに、そこからプラスで2次元主義者になんかなったら現実で生きる楽しみ無くなってほんとに死相実行しちゃう。
おまけに殺した蚊の数を覚えてるくらいには命と向き合ってるから一般道徳じゃ茜くんを止められない。さっさと動いて私の隣に縛り付けなきゃ。
────
侑さんと一緒に恋愛ソングの歌詞を調べて使えそうな単語を色々拾った。現代は類型創作が基本だし、先人達が死ぬほど沢山の言葉遊びを開発したから新しい表現を作るなんて10年20年費やさないと無理。
集めた単語はほとんど私に合う表現に置換したから歌詞はすぐ書けそうだけど、私情のために茜くんの手は借りる。
「あ、茜くん……お願いしたいこと……ある……」
「良いよ、何すれば良い?」
「ら、ライブで使うための曲作ってて……イメージ材料のために恋愛っぽいこと、必要……」
「交際前と交際後どっちにする?」
「どっちも……」
結構すんなり受け入れてくれた。あまりにすんなり過ぎて何したいか思いつかない。予想だと恋愛とは何かを10分くらい語られると思ってたから。
思えば深く考えた事がなかったけど、茜くんにして欲しい事ってなんだろう…………付き合う前の男女がする事はだいたい終わってる。そもそも一緒の家に住んでご飯作って貰ってる時点でネットの知識が効かない。
数分悩んだけどキスくらいしか思い浮かばなかった。夕飯の買い物がデートモドキになってるし、半分同棲みたいなものだから一緒の布団で寝てる。強いてあげるならボディータッチがほとんどないくらい?
でも、そっか。私と茜くんってちゃんとしたデートはした事ないんだよね。
「そんで、お互い交際経験が無いからカップルっぽいことがいまいち分からない訳だが。とりまアクセでも買いに行く?」
「茜くんなら、それっぽい雰囲気になった事くらいあるはず……」
「記憶にないぞよ」
「ペア物の服とかヘアピンとか……お揃いとかカラバリにしよう、って言われたり……」
「ああ、そういうのもカウント出来るの?だったらあるよ。お揃いのピアス空けようって何度か誘われたことある」
独占欲……。茜くんの通ってた中学校、大人の恋愛し過ぎてて怖い。いやもしかしたら綺麗な物を汚したいだけ……どっちにしろやってる事がめんどくさい女のそれだけど。
茜くんが金属アレルギー持ってる可能性を微塵も考慮しないで初手勧誘から入るの、だいぶ自己中の極みだと思う。無理やりアクセショップに連れて行かれたりなんて事は流石にないよね?
「軽い謎なんだが、ピアスってノンホールあるのになんで穴空けるの?正直耳とか自分のでも見ないし見た目的にもオシャレ研鑽でも重要度低くない?ピアス周りにかける金でリップ買った方が有意義じゃん?」
「……ピアス以外にも、なにかしようって言われたことある……?」
「知らない内にスマホが位置情報アプリと連携されてたりとか?」
「その人とは縁切れてる……?」
「中3の6月5日を境に相手が不登校になったため強制終了」
良かった……付き合い続けてたら今頃相手に捕まってた。多分茜くんがいつものノリで働いた親切が異性から受ける優しさの初体験だったんだと思う。勘違いしちゃった。
でも、茜くんはいつも通りお姉さんに何か利益があったから助けただけ。ビジネスだから自分のしたことをログとして残してたけど、相手はそれを自分の事が大切だから覚えててくれたって勘違いして悪循環。
痴情のもつれしかない最悪のアンジャッシュだった。
「茜くん、中学の頃はボディータッチとかしてた……?」
「ボディータッチというかやたら髪をブラッシングさせてくる女がいたからそれを梳かしてたくらい?」
「他には……?」
「手が凝ってるから揉んで欲しいとか……これはちょっと違うか」
物の見事にアピール貰いまくってる。いたとしても3,4人だと思ってたんだけど、普通に10人超えてそうで想定外。
いくら茜くんが可愛いくて褒め上手で都合良いからってちょっと寄りすぎな気がする。それだけ全盛期の茜くんが魅力と善性いっぱいの人だったって事なんだと思うけど。
「茜くん、体良く使われてるから……正しいボディータッチの仕方……練習しておいた方が良い……。女の子に触れる機会、これからもたくさん増える……」
「これ以上知り合い増えるの嫌なんだけど」
「私に触る機会……いっぱい……」
「璃奈りーってそんなボディータッチ好きだったっけ?ギャル子先輩以外とジャレてるところ見たことないんじゃが」
「みんな遠慮してるけど……私は好き……」
好きな人に触られる分ならいくらでも大丈夫。仲良くない人からされても嬉しくないけど。LINEと一緒でどうでも良い人からのアクションはどこまで行ってもどうでも良い。人間の真理。
「まあ、璃奈りーが良いなら特に言う事はないけど。とりあえず無難にメンソールでも交換しとく?」
「無難……なの……?」
「香料リップの貸し借りとか皆してたよ?ボクの時は貸せ貸せ言うやつしかいなかったけど」
「…………そっか」
茜くんってほんとにめんどくさい女の子しか引き寄せないんだね。私が寄り付いちゃう理由もわかった。となるとあのミャー子って子もめんどくさいタイプなのかな?
漫画でたまに見る男の子の服を嗅ぐやつ、現実で見るとこんなに気持ち悪い気分になるんだね。漫画だと隠れてやってるぶんまだ平和だけど。
とりあえず茜くんの異常な距離の詰め方の原因は、周囲の女の子から受けた過剰アピールのせいって事で良いと思う。初っ端からイレギュラー引いちゃったせいで普通の肉体言語を知らないコミュ強(癖)になっちゃった。
「茜くん……手、出して欲しい……。女の子の正しい触り方、教える……」
「右手で良い?」
「んっ……。多分、菜々さんとかエマさんは、こうされると……喜ぶと思う……」
「頭撫でるのが良いの?犬でもないのに?他人に髪触らせるの嫌くない?シコった後ちゃんと手洗ってるか分からないし5時間前にポテチ食ったままかもしれないんだよ?」
「それは女の子も同じ……。あと、拘ってる場所だからこそ……触らせるのは愛情表現……」
「嫌じゃない?」
「私は平気……。他の人も……茜くんなら大丈夫……」
菜々さんは最悪トビ顔晒すと思う。ああ見えて人に甘えるの大好きだから許可さえ降りればいくらでも突っ込む。というか黙認状態の現時点でさえ躊躇いなくDIVEしてるし。
両親が厳しいって言ってたし、多分小2の頃には大人に向けての教育をされてたんだと思う。けど、本人は元々甘えたい気質があるから微妙にストレス貯めてた。それを茜くんで発散。
菜々さんは生徒会長とかアイドルしてる時を見れば分かる通り、元々の資質と教育の成果ででリーダーシップが強くなってる。オマケにキャラ設定でお堅い人を演じて来たから、みんなに正体を明かせても本気で甘える段階まで行けてない。
もちろん皆いつでもウェルカム状態なんだけど、菜々さんは菜々さんで『人に甘えるのは情けないこと』ってストイックさを無意識でパッシブアクションさせてるせいで動きにくくなってるのが現状。
『甘え』は甘えって律しなくていい時まで律して来たのが高1から今までの菜々さん。そこに茜くんっていう嫌々言いながらも最後にはやってくれる異性が出て来ちゃって、男の背中パワーとカリギュラブーストで気づいたら突撃してた。
菜々さんが全自動ミサイルになってる原因の5割は脊髄反射だったりする。茜くんは幼妻だけどオカンみたいな父性持ってるママだから、無意識特攻しちゃうのも無理はない。
それはそれとして匂いを嗅いでる時の顔はどうにかした方が良いと思う。
「璃奈りーが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけどさ。とりあえず許可が降りたら菜々ちゃん先輩辺りにやってみるよ。1回こっきりで良いの?」
「なるべく……定期的に……」
「それだったら申告制にした方が良さげかもね。髪の毛コンディションがばっちりの時に合図出す感じで。まとまり悪くて微風で崩れるみたいな日に触られたらキレ散らかす自信がボクにはある」
「わかった……そうする……」
なんだかホストのオプションみたいなになっちゃったけど、こうしないと茜くんは触ってくれないから仕方ない。
今気づいたけど、茜くんがラブコメ主人公っぽいのにラブコメ主人公味がない理由がちょっとだけわかった。
ラノベでも漫画でも死ぬほど見て来た撫で作業をしてないからそこに少しだけ違いを感じたんだと思う。
そもそも私と茜くんが触れ合った経験、寝てる時を除くと最初のホッカイロしかない。茜くんが本気にならなかったのってこういうところが響いてるからだったりする?
ちょうど自己申告制でスキンシップできるしこれからは私も積極的に触らせてみる。そしたら少しくらいは私を意識してくれるかも。
「で、ボクはあとどれくらい撫でれば良いの?あんまやると髪ボサボサなるし枝毛出てくるよ?」
「もう少し……あと5……7分……。すごい……ドキドキしてるから……ちゃんと覚えておきたい……」
「り。じゃあこっちはぼちぼち加減するから時間いっぱい学んでおくれ。でもマジでヤバくなったら中断するからね?」
「んっ……」
…………なんか私、今サラッと茜くんにドキドキしてるって言った気がする。
今まで何度か『もっと私のこと見て』とか『デート楽しそうだね』とか間接的に悪態つく事はして来たけど、こんなド直球でデレたのは初めて。危ない。恋愛ソング作るためっていう建前がなかったら距離置かれてた。
「……茜くんから見て、女の子撫でるの……どんな感覚……?」
「んー……これで相手が落ちるならタイパ良くて殿堂一直線なんだろうけど、主観で語って良いならつまらんの一言に尽きる。そもそも目当てのブツを手に入れる過程とかどうでも良いって考えてる人種だし。あとは腕が疲れるとか?その他諸々考慮して総評すると『別にしなくても良くね?』って結論になるけど」
「私はすごい……嬉しい……」
「いつものマドレーヌ食べた手で触られたとしても?」
「それは……どうだろ……試しても良い……?」
「ボクはおやつ食べられるから特に言うことはないけど……ほんとに良いの?」
「んっ……お願い……」
…………全然意識して貰えなかった。なに食わぬ顔でマドレーヌ食べ始めちゃったし。
それと今更だけど、茜くんがいつも食べてるそのネチャネチャしたマドレーヌなに?手も口もベタつくし食べたあと毎回洗ってる。既製品買った方が早いしコスパ良いのに。
なんて言えば良いのか分からないけど、効率厨やってる茜くんらしくない手間のかけ方だなって。
地元にいるお姉さんを感じられる1番の証って言ってたけど、あの料理上手で茜くん大好きのお姉さんがしっとりし過ぎてカスさえ零れない程度のギリギリ固形を保ってるお菓子を作るとは思えない。
勝手な予想だけどお姉さんが初めて作ってくれたお菓子を再現した……とかだと思う。今頃お姉さんは気恥ずかしさで悶えてるかもしれない。羞恥プレイが過ぎる。
料理失敗しても大丈夫って言う保険が出来たのは嬉しいけど、命を食べる時は美味しく食うのが礼儀と敬意っていう茜くんのポリシーに反する。
ここを破るならお姉さん相手でも愛想尽かすって言ってたから茜くんは絶対残さない。その料理に籠った題材を否定してでも美味しく食べられるように作り直す。
菜々さんのメシマズ料理を食べる理由もこれがあるから。あとレシピ通り作らせれば普通にメシウマって言ってた。
こうして見ると、茜くんってほんとに中身でしか人を見れないんだね。自分がどれだけ楽しめるかっていう中身の機工で相手を決めちゃうのも仕方ないのかもしれない。
「それで……恋愛らしい情報の収集、出来た?撫でるだけで恋が知れるならこれから菜々ちゃん先輩と侑先輩の頭スクラッチしてくるけど。多分あの二人が1番面白いデータ残してくれるはず」
「やっぱり……なにか、機械的な……無垢なマシンの……加えて……ぬいぐるみ的な可愛さも……何も知らないから……それをそのまま歌にしたい……どこか赤ちゃんみたいな無垢があって、でもどこか機械みたいで……」
「ロボッツでも見る?」
「……見てみる……」
機械の恋愛ってなに語ったら良いんだろ。とりあえず恋はバグ系の歌詞だけはお門違い。茜くんへの気持ちはバグなんかじゃないから。
予想してたより恋の容量がすごくてキャパオーバーしそうって感じのを…………これを歌詞にすれば解決だった。閉廷。