虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
茜くんに30分撫で続けて貰ったら元気出た。10分に1回手を離そうとしてたけど、その都度申告したからどれくらい撫でれば良いか茜くんにも伝わったと思う。これからいっぱい撫でさせてゆくゆくは自分の意思で触ってくれるように育てたい。
髪と肌は可愛い人間の命と自負する茜くんが、進んでスキンシップを取れるようになれば今よりもっといっぱいくっつける……かも。
今回は歌詞作りのためっていう建前があって、歌詞に必要なデータも貰っちゃったから早く文にしないと怪しまれちゃう。ここで疑われたら今後のスキンシップに影響が出る。
……って思ってペンを走らせたけど、純粋に難航を極めてた。
「ペン止まってるけど平気?しずくちゃん呼んで文章添削でもして貰う?」
「文自体は、いっぱい出てくる……けど、どれもポエムみたいになっちゃって……単語から見直した方が良いかも知れない……」
「恋愛ソングなのに何の捻りもない歌詞綴ったって意味無くない?平安すら比喩だの体言止めだの隠喩だのでこだわり入れてたのに」
「……それだと……この世の恋愛ソング、全部歌詞がポエムってことになる……」
「『ことになる』っていうか実際その通りでは?とりあえずなんでも良いから歌詞検索して音読してみ?ムズ痒くなるから」
そんなことある?って思って好きなアニメの恋愛系キャラソンを声に出して読んだけど、大分恥ずかしくなった。音楽ついてるかそうじゃないかでこんな変わるんだ。
「逆に言えばどんな痛い詩でもメロ付けちゃえばそれっぽくなるってこった。ボカロだってよく厨二病3年目みたいな文を束ねた歌詞あるでしょ?闇病みとかメロついてるのに痛さ全開だし。いやそういう題材の曲なんだけどさ。あとはエイエンサイエンスとか。何度転生しても科学者になる男の歌。メロが重いだけで歌詞自体はあんまかっこよくない。同じ実験で同じ失敗を何回もするし、なんなら発明した物が毎回兵器利用されてるし」
「前世のしがらみから解放されても……魂同じなら似たようなこと繰り返すって部分がメインの歌だから……」
「それにしたってアホすぎない?仮にも賞取った人間だよその科学者。天才への解像度が低くて萎える。利用されるならせめて危険性を自覚して封印した後にパクられたとかにして欲しい。なんかアレすぎて有能人間のイメージダウンしてやろう的な思惑すら感じる」
「ボカロPの人そこまで考えて無いと思うよ……」
仮にそんなぶっ飛んだ理論を利用する天才の歌詞を書いたって、聞く人が同調できなきゃ意味ないし……。最悪検索してはいけないワードに入っちゃう。
あと斜め上の有能過ぎてボカロ好きどころか一般のライトファンすら感情移入できないから、多分売れないと思う。
「まあ、結局エイエンサイエンスも100万再生されてるからボクのセンスの問題なんだけどさ。とは言えどれもポエムで出来ている事には変わりない。ポエムだから恥ずかして無理──みたいな言い訳繰り返してたらなんにもチャレンジしない人になっちゃうよ?自分には仲間内があるからとか、漫画を語れるからとか、部活頑張ってるからみたいな言い訳でやらなきゃ行けない面倒事から目を背ける」
「なんでも良いから……とりあえずやってみろってこと……?」
「別に言葉選びが酷くたって死ぬわけじゃないし、失敗と再挑戦は人間様の十八番だぞ。それともボクに猿回しされるのがお望みかい?」
「言葉選び最悪だね……」
「でもこれだってメロつけて流しちゃえば60万再生は行く。結局最後は誰が作ったかと運だからね。こう言っちゃあれだがそこまで気張らなくて良い」
茜くんが好きな本に載ってた言葉らしい。菜々さんにあげた本にも載ってるって。
それと一応聞いておくけど……もしかして茜くん、その化け狐みたいな態度昔も取ってたの?多感な中学生相手に?異性の好み歪みそう。
でも、茜くんの性悪音頭を聞いてたら私のポエムがしょぼく見えて来た。音頭に比べたらこんな歌詞なんてネットに公開されてるフリーテキスト以下。ベットの下に隠す価値さえない。
偶然かわざとかは分からないけど、ポエムが音頭を上塗りしてた。恥の上塗り。狙ったのかな?
「んっ……少しだけ、書けそうな気がする……。形はまだ見えてないけど……」
「そうかいそうかい。追い討ちで中3厨二スレ小僧の詠唱全文印刷した紙置いとくね。これには子供らしい見栄とネタ的な痛さと学生が心の奥底に眠らせてるロマンが全部載ってるから。DKの心グッと掴んで大きな子供の厨二心弄んでやれば良い」
「ありがと……」
「んじゃ、余はテキトーにスフレケーキでも焼いてるからキリの良い所まで行ったら教えてくれたまえ」
「んっ……」
あんまり使い道が分からないけど、何とかワールドとかそれっぽいこと書いてた気がするし部分的には役に立つはず。多分。
思い返すとあのスレの呪文って読んだことなかった気がする。茜くん、こういう深夜テンションみたいなやつ大好きだから覚えておいて損は無いかも。
「…………茜くん、少し良い……?」
「ん?どしたん?」
「私もそんな詳しくないけど、紙に載ってる文……だいぶ間違える……」
「マ?」
「リアルは偽りのセカイのところ、リアルは小さな世界になってる」
「原文が窮屈な世界がウザいって言ってたから、箱庭って意味の小さな世界を選んでた気が」
「すごい誤訳だね……」
2段階くらい意味をねじ曲げたらディズニーに行っちゃうの、もはや奇跡を感じる。うろ覚えだからだいぶ脚色されちゃってた。そこまで記憶が薄れてるなら書いたのは最近として、いつ写したんだろ……そもそもなんのために写したんだろ……。
「茜くん、これって本当に元スレ思い出しながら書いたやつ……?」
「そんな痛ましい文章書けるのなんて中3小僧しかおらんぞよ。余はパクっただけに過ぎん」
「初めの挨拶から違う……」
「マ?」
茜くんのは色んな言語を混ぜたオリジナルワード。原文は英語オンリーなのに何をどうパロったらこうなるんだろ。ノムリッシュ翻訳?
「面白そうだしボクの文もネットに放流しておこ。璃奈りーも何か書いとく?」
「大丈夫……。今は歌詞に集中したいし……」
「おけー。じゃ、ボクは終わるまで自由にしてるよ。何かあったら呼んでね」
「んっ……」
今ぐらいなら茜くんも休むかなとかなんとか思ったけど、戸棚のエコバッグを取り出し始めて買い物に行く気でいる。今はお姉さんが絡んでないんだから休んでれば良いのに……。
「なにか切れてた……?」
「卵がギリ足りねー」
「夕飯と朝、優先……無理に作らなくて良い……」
「そう?頭使い過ぎると筋肉痛の知恵熱起こさない?」
「これくらいなら平気……」
「なら良いけど。頃合見て勝手に休憩入れるからね」
「んっ……」
お金稼ぎまくってて余裕あるっていうのは分かるけど、娯楽に分類される間食のためにわざわざ材料買いに行くの、なかなか食費を圧迫させそうな生活方法。
こういう予定外のお金は全部茜くんが出しちゃうから無駄遣いさせないようにしてる。必要かどうか確認はしてくれるし断ったらそこでスパッと終わるけど、賞味期限切れの近いパンのために安いひき肉を買ってきて、パンを繋ぎに使うくらいはするから見張ってなきゃ行けない。
それとたまに安いからって和牛の切り落とし肉を買おうとする。和牛としては安いけどひき肉として400円近く高い。『料理を美味しく作れる』と『高い肉の安売り』と『捨てる部分の有効活用』でプレイバリュー厨の血が騒いじゃったのは分かるけどすぐ財布出すのやめて。
茜くんが食べるだけなら私も受け入れられたけど、茜くんはそんな冷たい人じゃないから私が止めるしかなかった。『お金出すよ』って脅す私の身にもなって欲しい。
「やることなくなったし歌詞見て良い?見た感じファミコン系とコンピュータ世界のかけあわせにしたっぽいけど」
「表情なくて機械みたいだから……私らしいかなって……」
「感情もあるしAI成分足したら?心の同時接続数に幸せ感じるAI」
「私にはAIみたいな面白みない……。いじりがいだってないし……」
「いじりがいなんてかすみさんと被るからやめとけやめとけ。あの女の愛嬌って雑に肩パン出来る友達のそれだから誰も勝てん。璃奈りーには星の板と好感ランク一定以上で素面の表情が見れるっていうリピーターポイントがあるんだから、そこ押しときゃ9割型何とかなるよ。ポイントカードと同じで視覚効果が高いから脳内麻薬がいっぱい出るはず。人間視覚が8割だし」
「……ありがと……」
こんなこと言ったら怒られちゃうかもだけど、私が初めて出す本当の……本気の笑顔は茜くんに見せたい。それ以降も私の笑った顔を見た回数が1番多い人は茜くんが良い。
友達とか家族とかファンとか、私の大事なものを全部超えた特別な……愛さん達にも抱けない特別な気持ちの笑顔。それを茜くんに見せたい。見てもらいたい。絶対に。
……でも特別どころか基礎も出来てないから3日前に見た夢を思い出すようなチャレンジだけど。果てしなさすぎて怖くなって来た。
「もう何回も言ってるけど、表情出す基盤は出来てるからさ。あとは深呼吸と意識し過ぎないことさえ出来たら璃奈りーは皆の歌姫様だ。笑った顔の形が1番緊張解してくれるし最初さえ超えればあとはもうゴールと同義。もしも『笑顔1個でこんな難航してるのに……』みたいな重積持ってるなら捨てて良い。笑えれば表情スキルツリーが全部繋がって逆にやることなくなるぞ。そういうわけで笑顔鍛えるのが最短最安。死ぬほど時間かけて良いから焦らないで良いよ」
「死ぬまで一緒にいてくれる……?」
「時間による」
「最大何歳……?」
「95歳」
16歳スタートと仮定したら79年。嬉しいけどその時の関係性によっては逆に泣く。1番最悪なのは今の関係のまま時間が止まってること。
せめて実質の友達を名乗れるくらいの関係にはなりたい。欲を言うならいつ手を握っても男の手は汚い云々言われない程度の関係性は欲しい。
「まあ、そんな時間かけなくてもボクの手腕ならあと3年以内に全部片付くよ。そしたらなんの不安要素も無く璃奈りーは皆と一緒に楽しいスクドルライフを送って幕引きだ。どんな雑魚アイドルでも終わる時はバズるしラストは楽しい画がたくさん見れる。ソシャゲと一緒」
「茜くんはいつまで夕雲ひまりをやる予定なの……?」
「この世からヒーローとか英雄みたいな救済装置がいらなくなるまで。感情の埃や役割を受け持つとか姉さんにはして欲しくない。金だの知名度だの営業だのそういうのを気にしなくて良い全力で歌って踊れるアイドル。それが見たいし姉さんに似合ってる」
「ヒーローじゃなくて良いの?」
「アイドルやってる時くらい自分のわがまま優先して欲しいじゃん。究極言っちゃうとヒーローっていう有能に厄介事を全投げするのは人類進化の放棄だからやめて欲しいって思ってるし。壁にぶち当たって研究失敗対策して乗り越えた末の発展でしか人間は成長出来ない。『助けて貰う』っていうワンパターンしか考えられなくなった脳死雑魚クラゲがその時の周辺環境全部失ったら、路頭に迷うことすらしないで即行ムショ行きになるよ」
言い分はわかるし茜くんらしいって思うけど、一番気になるのはヒーローがいらなくなったその時代に茜くんが生きてるのかを聞きたい。お姉さんがいる限りは大丈夫だと思うけど、そもそも実在してるのかどうかが最近は怪しくなってきたし。
本人を見た事ないって言うのもあるけど、前に間違えて茜くんのLINE画面開いちゃった時にお姉さんのアカウントを確認出来なかった。茜くんなら絶対お気に入りのピン立てて常時トップにトーク通知が来るようにするはずだから。
そもそも出会った時点で機械が実在しないって言ってるから、本当にイマジナリーの可能性がある。
生まれてから今日まで男の子と女の子の狭間で過ごして来て、そのせいで女の子部分が分離したあとイマジナリーお姉さんになった……みたいな事情があるのかもしれない。
頭の中のお姉さんだった場合、夕雲ひまりの雰囲気を出すようになったここ最近は2つの自我が混ざり始めたってことになる。それが良いことなのか悪いことなのかはよく分からない。
「お姉さんのヒーローやりたいって願い、否定しちゃって良いの……?」
「笑顔で皆を元気づけるならヒーローよりリーダーの方が良い。物語じゃないヒーローはただの万能装置だからね。現実にフィクションを混ぜたところで完成するのは中途半端な何か。少なくともハピエンもビタエンもメリバもバドエンもない汚いだけのプログラムなのは確定してる。クソゲーにすらなれなかった作りかけのスパゲティーコード」
「ヒーローがいらないんじゃなくて……現実にヒーローがいない方が人類のため……?」
「自分でやらなくて良いならやらないのが人間。壁の突破を確定演出で全部代替してくれるやつがいたら押し付けるに決まってる。風景や音が綺麗なのはフィクションと同じだけど、人の汚さだけは現実が勝ってる。どんな闇系作品も上回るのが現実だよ。じゃなきゃリアルはラノベより奇怪なりとか言う風刺文句は生まれてない。正直劇中世界の『愚かな人間を生かして何になる』系の語りには反論するけど、現実で同じことを起こせる敵が出たらボクは速攻そっちに就く」
すごい3次元アンチ。ほんとにお姉さんの存在を世界に刻みつけるためだけに生きてたんだ。嫌いな物の相手をしなきゃいけないの、ゴキブリ研究所の研究員みたいだね。
やらなきゃ行けないからやってるだけで辞められるならいつでも辞める。イヤイヤな本能はあるから茜くんも人間。飛んでるのは思考だけ。
お姉さんを世界に刻むっていうのは実質達成してるようなものだし、私との契約が完了してお姉さんもイマジナリーだったら全てが終わる。最低でも地元帰りは確定事項。
やっぱり茜くんは私の隣に縛り付けなきゃダメ。
「茜くんが引越しちゃったら……皆寂しい……私も寂しい……」
「夏に帰って来れば平気へーき。どうせ大人になったら年1年2くらいでしか会わんし」
「もっと一緒にいたい……」
「気が向いたらね」
そもそもそんないきなり夕雲ひまりが消えたら大騒動で特定祭り。引越しだのヒーローだの言える状態じゃ………………もしかして茜くん、夕雲ひまりの代わりを作ろうとしてる……?代わりというか話題逸らしのためのデコイ。
公園のステージを使えるようにしたのも箱枠増設してより多くのアイドルが使えるようにするためとか?ライブ機会が増える=人や企業の目に止まりやすくなるから数で攻める予定だったり。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式。
「…………アイドルやめたあと……何するの……?」
「家帰ってUSAスマッシュしに行く」
「茜くんの代わり……私は嫌……」
「璃奈りーアイドル航海譚にそんな大層なことができる未来を記したぺージなんてないから安心しな。まあ、無名でもステージとの相乗効果で有名ブースト出来ましたってことで知名度上がる可能性はあるけど」
「別に効果実験されるのは良いけど……茜くんがいなくなる道に繋がるなら私はやらない……」
「何をどう頑張ってもボクを手放す未来は確定してるんだから最後までやった方がお得だよ。六法全書にもそう載ってる。それに璃奈りーの持ってる人柱じゃこの道を塞ぐのは無理だし諦める道しかない。大人しく過去の栄光を掲げて社会の奔流に揉まれるのが吉さね」
「もしその未来……変えたら……?」
「璃奈りーのお願いなんでも聞いてあげるよ」
『人に頼り慣れてないし人の相談を解決した事がない璃奈じゃ今の状況をどうにかするのは無理。自分のことはさっさと忘れて楽しかったアイ活と友達の思い出だけ糧にしながら普通の生活送った方が良いよ。
──でも、それでも君が迷惑千万顧みず、皆を全力で振り回して自分のシステムコードを書き変える事ができたのなら、その時は嫁にでもパパにでもなってやるよ』
って茜くんは言ってる。
たかだか一般家庭で生きた精神医療の知識も資格も経験もない素人が、メンタルクリニック全否定精神で医者よりデカい治療法を確立した姿を見せるなら、もしかしたら人に期待する心が少しだけ復活するかもね。
とも言ってる。
免許無しで精神医療とかいうグレーな行動取ってる時点で印象最悪だけどやれるもんならやってみろ──って王座にふんぞり返ってる茜くん。
人の心理にある『この異物に害を受けてるから消したい』っていう排除本能と復讐精神を煽ったってことは、心の隅っこでは私ならやり返してくれるし成功するかもって少しだけ信じてくれてる証拠。
茜くんが信じてるなら私も自分とみんなを信じる。それで茜くんを王座から引きずり下ろした後に城から連れ出してサクナヒメさせる。
このエセ英雄と悪役オスガ・キングダムの帝王はもっと平民の心を知った方が良い。絶対分からせる。