虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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42.キングエマージェンシー

 

 

 茜くんの未来を変えるために茜くんの予定めちゃくちゃにする(鋼の意思)。

 

 だから侑さんに頼み込んで曲を3日早くあげて貰った。愛さんと菜々さんに頼んでダンスのコツも教えて貰った。

 予定早めてゲリラライブしてあのステージで上がる私の知名度比率を下げる。これでライブするアイドルの数が減ってステージ自体の利用もそこそこに留まる計算。

 

 この段階で既にたくさん迷惑をかけた。無理もさせた。

 どうすればお礼をできるのかも頭の中で沢山考えたけど、愛さんも侑さんもかすみさんも、私が茜くんを捕まえてくれるならそれで良いって言ってくれた。

 

 正直に打ち明けるとめちゃくちゃ疲れる。アホみたいに頭使って10年20年単位のクソ長い計画になったし、身体自体もダンスの練習とステージの下見とリハーサル、あとは急場しのぎだけど体力作りのランニングで大分死にかけてる。

 それと柔軟運動で関節が甲虫の節みたいな音上げてた。死ぬ。

 

 ライブステージ自体にも流行りの3DPMがあって、オリ装飾を持参して良いらしい。だから4日間朝と昼休みと深夜30時まで作業を続けて完成させた。ライブ自体は本気でやる。それはアイドルとして当たり前。でも死ぬ。

 

 

 茜くんが報復精神を煽ってまでして私を動かしてくれた。皆に頼りやすい口実も、無くしたくない物のためにプライドを賭けて頑張る力も、失敗なんて気にしてる暇がないほどの本気の努力も。全部材料を用意してくれて使い方も教えてくれた。

 でもやっぱり茜くんは優しさを出してる自覚がなくて、『人の育て方を勉強しないデカいガキに現実見せてるだけ。この世には根性だの絆だの助け合いだのはないからね。あるのは生物の機能ただ一つ』ってトレギアみたいなこと言ってた。

 

 多分だけどその内シャフ度で高笑いし始めるって勝手に思ってる。茜くんにダークヒーロー感じてる菜々さんが泣いちゃうからやめて欲しい。

 

 本当に何があったらこんな思考回路を宇宙の果てまで配線できるんだろう。単純に物は言いよう精神で生きてるだけなのに、妖しさ成分のせいですごい世渡り上手に見えちゃう。私ですらたまに疑心が勝つし。

 それにあのしずくさんが疑いの敵意むき出しにして嫌ってるから、茜くんはミステリアスキャラを装うのが上手い。どうあがいても手玉に取ってくる。

 

 そう考えると彼方さんが茜くんを反抗期の孫を宥めるみたいな態度で接してたの、鰐を宥めるみたいな匠の技だったのかもしれない。エマさんも一瞬で距離詰めたし。

 

 エマさんと彼方さんは茜くん特攻持ってて、何言われても『茜はしっかりしてるねー』で片付けたあとに髪結ったりお菓子上げたりして茜くんパワーを受け流す。ジャスガもパリィもしないで力場に身を任せる回避術。年上の余裕すごい。果林さんは……その……キャラに比べて勉強苦手と方向音痴を知られたって言うのが痛手。

 

 

 …………なんか茜くん、同好会で姫みたいな扱いになってる。全員が全員違う好意の抱き方をしてるから助かってるけど、これがオール恋愛感情だったら血みどろのアイドルバトルが始まってた。着々と出会った女の子を狂わせて行くのタイフーンが過ぎる。

 部内で茜くんに興味が無い人…………いない。3年生組は出会ってまだ1週間と4日しか経ってないのに。確かに茜くんは近所の可愛い小学生みたいな雰囲気があるから世話を焼きたくなるのは仕方ない……けど、それにしたって距離が近い気がする。

 エマさんなんて枝毛出てるよとか茜くんに合いそうなヘアオイル持ってきてつけてあげてた。応急処置用の保湿効果あるオイル。すごいナチュラルに頭触ってて茜くんを手懐けてた。

 彼方さんは……なんだろう、異性としてくっついてると言うよりかは侑さん寄りの動機。でも侑さんみたいなガチ感が出てなくて、どちらかと言うと百合風作品で見るスキンシップ?じゃれるみたいな容量で自然にくっ付いて、あとは何をするでもなくたまに香る茜くんの匂いを楽しみながらボーッとしてる。5回に1回そのまま寝落ちするのが恒例。

 

 似たような感じに見えるけど、例えるならエマさんは膝枕しながら茜くんの寝顔見る包容力で、彼方さんは一緒の布団で寝ながらほのぼの空気を出して癒す包容力。

 茜くんは末っ子だからこういう姉ムーブに抵抗がない。それにどう攻撃してもスルスル攻撃の隙間を縫って迫って来る相手を前に為す術がなくなった。最後の抵抗で支離滅裂な屁理屈を捏ねてプライド張ってるけど、効果としては水素水と同じレベル。

 2人の前では茜くんなんて精神年齢がロリの弟キャラでしかなかった。強過ぎる……。

 

 果林さんは…………オシャレセンスが昭和の肩パッドレディーみたいって言われてソファーで撃沈することがよくある。服や髪型じゃなくて、香水選びの時にやたらセンスが古臭くなるって言ってた。

 もうビューティー系で攻めるのはやめて普通のお姉さんになろうと家庭教師役を買って出たら、格差で茜くんの方が頭良くて自分が教わる側になってた。それで開き直ってからは勉強教わる同級生側に進化。

 たまに読モやらない?って誘ってるけどだいたい中指突き刺されて撃沈する。でも果林さんが作りたかった茜くんとの関係は偶然完成してるから勝負には勝ってる……はず。

 

 ライバルとは違うけど、別にそんな大層な過程は必要ないくらいには皆いつでも交際OK状態だし、誰にでも盗られるって意味ではライバルだった。油断出来ない。

 別に告ってOKが貰えるなら私も普通に告る。でも茜くんは家族愛以外が分からない重症者だから、恋愛構築デッキの初期カードにある『交際を前提に友達になって欲しい』が使えない。

 だって友情を知らないからいくら友達として接したって友情営業だと思われる。かと言ってこのままビジネス関係を続けててもジリ貧。

 

 

 思ったけど、やっぱりこれ感情なら私の方が勝ってるよね?

 表情は茜くんが上だけど気持ちの種類ではこっちの方が上なのかもしれない。友情のデータを欲しがってたし知らない感情データ教えてあげるって言ったら乗ってくれるかも。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「エマさーん、ちょっと良い?」

「侑ちゃん、しー」

「えっ、なんで?」

「あーちゃんが今寝てるの。ほら」

 

 相談したいことがあってエマさんに連絡入れたら部室にいるって返って来て、直接話すために会いに行ったら茜がエマさんの膝枕で寝てた。

 茜って誰かの膝の上で寝ることあるの?野良猫がお腹見せるくらい有り得ないことだと思ってたんだけど。私の時なんて数秒押さえつけないとすぐ逃げるのに。えっ、妬く。

 

「その……もしかして具合悪い?」

「疲れすぎーって感じだね。璃奈ちゃんに充電切れがバレてないのが奇跡なくらい酷い疲れ方してる。それに頑張り方も小さい子のそれだし、集中力が切れるまでずーっと手を動かしちゃうし。はぁ……細いなー……」

「すごい人って集中力高いって言うし茜の才能なだけだったりしない?」

「ううん、あーちゃんのはただガムシャラなだけ。多分だけど、今の実力になるまでにものすごい苦労と時間をかけてる。遠回りな努力しか知らなくて、変な体力がついちゃった」

「遠回りな努力って?」

「うーん……テストで1位を取るために教科書の内容を全部覚えた……みたいな?」

「力技……」

 

 それが成功してるからすごいと言えばすごいけど、茜の秀才具合は桁外れの努力の上に成り立ってる……らしい。

 どれだけ偉大な人でも大なり小なり努力をしてて、しっかり頑張ったから今がある。茜はその努力が普通の人以上に必要だった。

 多分努力自体もそうだけどやり方が脳筋過ぎて頭は良くなるだろうけど頭しか良くならない……ってエマさんは言ってる。

 

「あーちゃんの発想力とか知識とか、今言った頑張り方も。全部小さい子が好きそうなものしかないんだー。弟達もこういう難しい話好きでね。この子はそれをいじってもっと意地悪なものにしちゃうけど。でも、それでもやっぱり子供」

「だから茜をほっとけない?」

「弟代わりにしちゃってるのはごめんなさいだけど、やっぱり弟が無理してるのを見てるみたいで我慢できなくてさ。でも、ダメって言ったら余計ムキになっちゃうから無理やり休ませることしか出来ない。誰かが止めないとゲームのやめ時を見つけられない子供みたいになっちゃうから」

「興味の種が尽きないからヤメ時がない?」

「うん。それに元々やらなきゃいけない事が多いから、余計進まなくて夜遅くまでずっとって感じかな。それと勉強は筋トレだーって言ってたから、多分使わないとすぐ鈍るって思ってるんだろうね」

 

 そういえば茜、脳は使えば鍛えられるし小さな疑問を解決するのがトレーニング法だから楽しい……って言ってたっけ。

 ランニングで息を切らさなくて良いし、腹筋でお腹ぷるぷるさせる必要も無い。おまけに鍛えたあとの使い勝手も最高なんだぞーって。おまけに怪我するリスクも熱中症のリスクもない上に賢くなれる。だから脳筋は最高の筋トレ……らしい。

 また反感買いそうな演説をしてて、ほんとに人からの評判がどうでも良いって顔をしてて感心した。そこまで行ったら一つの信念だしカッコいいよ。

 

「なんて言うんだろう……あーちゃんって教科書に載ってる機能って意味の心しか知らないからさ、心からちゃんと頼れる人がいなさそうだなって。相談出来ない子って一人でどんどん進んで行っちゃうからね」

「でも学校の勉強が休憩になってるし、手を止めさせたら逆にストレスになるんじゃない?」

「それはあるけど、あーちゃんは必要ならなんでもする人だよ」

 

 知識欲しさに薬買っちゃうとか、爆弾作り始めたりとか?

 やるかやらないかで言えば絶対やらないけど、仮に極みの道を進むなら明らか危ない物を作るくらいの信頼は確かにある。

 

「あーちゃんが頑張り屋さんで、頑張り屋さん過ぎて危なっかしいのは見て分かったよ。でも、少し違和感っていうか……目的がなさ過ぎて、普段のあーちゃんならここまでしなさそうだなって思うんだ」

「茜が欲しかったのは教科書の内容じゃなくて、もっと別の何かってこと?」

「多分?それでその何かで……なにするんだろ……。人を小馬鹿にするだけならもっと簡単に済ませるはず。あーちゃん絶対に効率人間だし」

「あー……うん、めっちゃ効率厨だよ。茜は」

「あとは頭使えーとか勉強しろーとか、親みたいな言葉でしか人をバカにしない理由ってなにかあるのかな?『罠が作れる頭があれば二兎でも五兎でも無限に捕れる』みたいなこと言ってそう」

「絶対言う」

「そっかー……」

 

 なんならその言葉を言ったあとに『知恵の種族なんだしもうちょい頭と言葉捻れよ。ギャルスラング見習えバーーーーカ(中指×10)』って煽ってくる。

 死ぬほど敵を作りそうだけど、璃奈ちゃんが『茜くんはリアルレスバが好き。開幕挨拶がカドショ帰り?で、時間差で意味に気づいた相手がキレて、そこから屁理屈で押し潰すのが基本デッキ。時間差ダメージ戦法』って言ってたから多分趣味なんだと思う。

 

 だけど、エマさんはそんな軽い感じで受け取ってなくて、普段優しいお母さんが怒った時みたいな顔してる。

 

「何となくわかったけど、あーちゃんって学校行ってなかったんだね。行ってない時期があったって言った方が正しいかも」

「むしろ長年学校の人で色々試した結果こうなったって感じがするけど……」

「あーちゃんは皆と同じ時間学校に言ってたら思い切り人を馬鹿にするようになるよ。同じルール、同じ試合時間。そこで勝てたからゲームの言葉を使ってたくさん馬鹿にする」

「……割と今もしてない?」

「でもちょっとだけさ、『ボクでさえここまで来れたのに』みたいな雰囲気出してない?」

「…………言われてみればそんな気もする……かな?定期テストで1位取るとすごいつまんなそうな顔するって前に璃奈ちゃんも言ってたし」

 

 ということは、茜は学校に行ってなかったことに加えてその理由も自分がやりたい勉強のためとかじゃなく、なにか嫌なことがあったから。

 それで数年ぶりに学校行って勉強を頑張ったら皆を追い越しちゃって、「ボクの倍は学校にいたのにお前ら何してたの?」って嫌気がさした。みたいな。

 周りが弱すぎて失望したんだろうなって言うのはわかるけど……茜にしてはやけに感情的というか、もっとこう『人間って思ったよりバカだった』で済ませそうな気がする。

 

「あんまり茜っぽくないね」

「うーん……多分だけど、自分を標的にさせて『不完全で無能なボク』に負けた普通の人達を躍起にさせようとしてる……とか」

「茜ならやりそうだけど、躍起で成長させた人になにさせるんだろ。もう信じるのをやめちゃってるのに」

「私もそこだけが分からないんだ。もし成功したとしても皆からすればあーちゃんは悪者。皆の方は仕返し……復讐心?を持ってるから普段しない悪いことだってしちゃう。あーちゃんならそれが自分以外の人にも行くって絶対分かってるはずなのに」

 

『皆がある程度育ったら自分から死ぬ』くらいはやっちゃいそうだけど、ひまりちゃんを置いてそんな行動を取るとは思えないから一旦保留。やるとしてもなにか対策を作って……国外逃亡とか?

 ジャンヌダルクみたいに死にたいとは言ってたけど、璃奈ちゃんとひまりちゃんがいる限り二次被害について考えてるはずから絶対行動しない。

 だからこそエマさんもそこが引っかかって悩んでる。

 

「理由はどうあれいつか人を焚きつけるために危ない行動するから放っておけない?」

「その時が来たら怖いなって。あーちゃんが何をしたいのかさえ話してくれれば一緒に方法考えられるのに。はぁ……もっと皆を頼れるようになって欲しいなぁ……」

「手伝おうとしても偽善とか自己満足で話片付けられちゃうから、多分強引に行くしかないんだと思う」

「強引かぁ……部屋呼んでも来てくれないし、お家行っても大丈夫かなって聞いても断られるし……難しいなー……」

 

 こんなにため息をついてるエマさんは初めて見た。救えないかもしれないけどちょっとで良いから助けになりたい。そう思ってる。

 でも、私からすればエマさんといる時の茜は私の時より自然体を出してるよ。璃奈ちゃん程じゃないけど警戒心が少し緩んで根元の明るさに素直さ、あとはひまりちゃんみたいな雰囲気……笑った顔?を出す。茜はちゃんとひまりちゃんの弟なんだなって。

 そういえばこの事を璃奈ちゃんに話したらすごい詰め寄られたっけ。ボードも少しシワになるくらい強く握っていたし、この辺りの情報がすごい欲しかったのかも。

 

「あーちゃんだってまだまだ子供なのに、どうして私よりしっかりしちゃったんだろうね。あとあーちゃんは真面目を超えて堅物?だと思うよ。はぁ……ほんとに……姉不孝者はいけないことなんだよー………家に連れて帰ろうかな」

「エマさん落ち着いて」

 

 茜がほっとけないのはわかったから一旦落ち着いて欲しい。いきなり本気の目になられると私も背筋が伸びちゃう。

 エマさんを国外誘拐犯にしないためにも私がもっとしっかりしなきゃ。とは言っても私自身煙たがれてる内の1人だから真面目に近づくことすら出来ない……お菓子で誘導していけば話をする隙くらいは生まれるかも。

 

 あとはもう包み隠さず全部ド直球で言うしかない。取り繕うのが1番ダメ。別に茜は困ってるわけでもないし助けてとも言ってないから。そこに茜のためって語ったところで恩着せがましいの一言で終わる。

 それに私達がこうして勝手に動いてるのは、茜が突然いなくなりそうって理由で焦ってるからだし。最初からいなかったみたいに消えそうで、皆怖がってる。

 

 

 茜がいなくなったら皆悲しい。気持ちは全員揃ってるのにどうして誰の願いも届かないんだろうね。茜だって性格は悪いけど、人の嫌がることを楽しんでるわけじゃない。でも誰にも相談しない。

 

 

 璃奈ちゃんといる時だって普段より少しだけ幸せそうってだけ。でもあんまり嬉しさは出さないんだよね。顔にも言葉にも。なんというか罪悪感?感じてる顔でさ。茜のことだから最初あんなに冷たくしたのに……とか思ってたり?

 長く一緒にいるのに茜の事をなにも知らない。頑張ってひまりちゃんの連絡先を調べてみようかな?そしたら少しくらいは茜の事わかるかも。

 

 

 

 

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