虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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46.かすみんのPresent'll by CEO教室

 今朝、バターロールを貪りながらかすみんは思ったのです。

 始まりは就職氷河期の再来がどうたらって言うニュース。若者がまた雇われにくくなってるらしいと言ってました。

 大学生に向けたインタビューでは慈善活動のボランティアやゼミ?とやらでリーダーシップを持って皆を引っ張ったとか、評定もテストも全部良好で万全のはずだって愚痴を吐いてまして。

 専門家さんはそこまで多く雇えるほど利益がある企業が少なくなって来ていて、就活生を雇いきれないとか何とか。少子高齢化を考慮しても溢れちゃうらしいです。

 

 私はこういう人達も雇えるくらいしっかりした経営をできるようになろうって呑気に考えていたのですが、そこで気づいたのです。仮にニュースと似たような学生が100人来たとして、それを採った後どう使えば良いのかと。

 だって仕事に役立つリーダーシップとか奉仕精神みたいな心持ちの人とか1年上や2年上の若い社員にいますし。しかも経験持ち。なんかそれを想像したら5年くらいはそういう人いらなくない?って思っちゃったんです。

 でも多分茜丸にアドバイスを貰いながら考えれば上手いこと活用法が思いつくはずなので相談したんですよ。

 

「ゴミ拾いとか川掃除とかキャンプ場警備をやって来たボランティア精神持ちと、リーダーシップがあるだけで特にプレゼン資料や損益計算書を作れるわけでもない事務希望の新卒を100人雇って活かす方法……?えっ、ないけど」

 

 むちゃくちゃバッサリ切られました。シンキングタイム1秒もなかったですよ?

 

「いつもの思考の発展は……?」

「そういう新しい考えを産む時ってさ、すげー大量のデータがいるのよ。色んな方向性のデータ。例えば鉛筆の先にネオジウム磁石つけて黒板ダーツしようぜ!って遊びを思いつくとする。その案に辿り着くには磁力の強いネオジウム磁石って言う存在と購入方法、黒板に磁石が引っ付くって言う情報。あとはダーツを知ってるかどうか。こんなしょーもない事にさえ作るためには指3つ分の知識がいる」

「な、なるほど……新卒さんの場合は……?」

「精神の育ったやつならかすみんの言う通りもう会社にいる。そんでパソコン使うだけとか今の時代誰でも出来るし。正直実家の手伝いでコピー機やエアコンの修理を100件以上やって来たのでいざと言う時役に立ちます──とかあってやっと土台が作れるかなって思える。スキル手札多くて事務以外と掛け合わせて良いならいくらでも思いつくけど、皆バランスタイプで異動ダメなんでしょ?無理無理」

「ですけど……皆さんそれなりの努力はして来ましたし、報われないのはあんまりじゃ……?」

「努力した新卒Aよりもっと上手い努力をして来た使える新卒Bがいるだろうし、企業としては利益を出さなきゃいけないから少しでも早く仕事を覚えさせたくてBを取るよ。お前の努力とか企業は知らん」

 

 身も蓋もない。これが現実ですか。冬休みまで皆で楽しく旅行とかしてたのに4年生に上がった瞬間この現実を突きつけられるのめちゃくちゃ残酷では。

 

「結構……こう……はっきり道具扱いしてるって感じられるんですね……」

「感じるも何も『人材』だからねー。材料の材。利益出す材料。人財って言う意識高い言葉もあるけど、結局材料も財産だって大事に使って貰えるようになっただけで熱血漫画の友情スポコン努力みたいな見方をしてくれるわけじゃない。百均のハサミを百均扱いのまま使うか老舗ハサミ店みたいに扱ってくれるかの違いだよ。文字を読め」

「会社の上の人達酷すぎません?」

「まあ、首輪のリードを辿れば最後は社長に行き着くけど、社長は税金で政府に首輪繋がれてるし、その政府も国を良くするために奮闘してる。結局首輪を纏めてるのは社会って言う概念そのものなんじゃよ。社会性生物の宿命」

 

 人が人である限り誰も首輪からは逃れられないと。別に会社のトップが楽してるとかではないんですね。確かにやる事は少ないのでしょうが1個1個が会社の命運握ってるミスが許されない仕事……的な。

 全部の会社がそんな責任背負ってやってるわけではないでしょうけど少なくとも普通の会社はこんな感じなんだと思います。多分。

 

「あの、スキルカードが精神面だけだった場合って何で評価すれば良いんですか?」

「えっ、学歴」

「1番嫌われるやつでは」

「無鉄砲に東大卒選べば良いってわけじゃないから割とムズいよ。例えばかすみ社にクソ強美術大学を出た圧倒的デザインセンスを持つAさんが応募して来たとする。それと同時に偏差値49の一般美術大学を出たボクも来ました。圧倒的デザインセンスは同じでどっちも資格欄には大会受賞記録以外の記載は無し。どっち取る?両方初対面だったとして」

「…………クソ強美大出身?そっちの方が役立ちそうですし」

「役立つと思った理由は?」

「こう……レベル高い環境でやって来れた……すごさ?」

「そうなるでしょ?難しい環境で頑張れて、さらに実力も伸ばした実績。これだけやれればうちの会社でも上手くやって行けるって安心と信頼を抱ける。相手がどの学校でどれだけ努力出来たかを示す歴史。それが学歴。まあたまに難関出身だからって脳死で選ぶダメな人事がいるけど」

 

 就職の門ってマジで地獄ですね……。もう小学生から大学卒業まで色んな経験積んどかないとすぐに手札と山札切れ起こして詰むじゃないですか。リスタートも効きませんし。これどこで遊べば良いんです?どうしましょう、化粧品しか取り柄がない。

 

「で、これの続きだけど、ボクとA以外に微量なデザインセンスと大会予選越えの実績を持つフツー美大のフツーな人間が50人来ました。誰取る?」

「役に立ちそうな順から10人くらい取ってあとは………………あの、私の勝手な仮定なんですけど……もしかして普通より少し優秀なだけのバランスタイプってどの企業からしても器用貧乏にしかならなかったりします……?」

「お気づきになりましたか。無敵級ビリーバーからするとリクルートファイターXの一般プレイヤーなんて大した商品価値がないんだよ。だから履歴書の書き方サイトにだって自分の売り込み文句を考えろって載ってる」

「あれそういう意味だったんですか……企業目線でやれと……」

「簡単でしょ?まあ世の大人はこんな簡単なものにも気づけず、下手な鉄砲数打ちゃ当たるでガンガン凸って無駄に精神すり減らすわけだが」

 

 なんで自分の事じゃないのにここまでガッカリしているのでしょうか。そんな見ず知らずの一般人に理由のない期待を抱くほど茜丸は頭弱くないのですけど。

 昔は全人類が東大行けるレベルだと思っていたとか?茜丸の中学には頭良い人しかいなかったのかな。

 

「理系文系問わずここら辺は皆ヤケクソだから、かすみさん大躍進だね」

「かすみんまず文系とか理系とかそれ以前の問題なので……」

「努力の仕方は理詰めだしかすみさん理系寄りだよ。正しいやり方で努力をしてるって前提条件だと右に出る者はいない。かすみさんは人間が出せる成長率で限界数値叩き出しながら努力してるから自信持っていいよ。努力が必要な素質って言う人間らしい範疇ではてっぺん取ってる」

「成長効率が良いって事ですか?」

「努力の基本は資金と情報と失敗した時の保険を用意して、結果から良い点を上げて自分のご機嫌取りながら失敗した部分の改善案を考える。そんでまた実践。これが本来の努力でかすみさんがやってるやつ」

「皆さんもしてるんじゃ……?」

「たまにガムシャラに頑張れば報われるとか考えてるやついない?」

「あー……」

 

 集中力のガムシャラを勢いのガムシャラだと思っちゃう人ですよね。漫画でもたまに見ますけど……近場の現実だと運動部の1部と顧問とか……?さすがに根性1本では無いですが根性論が多い気がします。

 

「割と努力って字の並びも原因になってたりしません?なんかすごい当たって砕けろ精神を煽ってくると言うか」

「とは言っても聞こえが良いから辞められねーんだ。『憧れのアイドルに近づきたくていっぱい努力してここまで来ました!』って言ったら親近感湧くし可愛いでしょ?応援したくなる」

「まあ、はい。在り来りな気もしますけど」

「それはあるけど一旦置いといて。そんでさ、もしその子が『憧れのアイドルに近づきたくて毎日7時間アイドルさんのダンス動画見て真似して覚えてアイドルさんみたいな笑顔が欲しくて笑った顔の目と口の角度測って自分に似合うように研究してやっとここまで来れました!』って言ってたらどう?」

「そっちの方が私は好きですけど……少しだけ才能を感じちゃいますね。難しそうな事してるなって…………あぁ、この難しそうな感じがダメって事ですか?」

「あんま難解なこと言うと勉強サボってスポーツに逃げるバカが増えるからさ。努力って言葉使っとけばどんなバカでもとりま一歩は動く。研究とか勤勉っていう元の意味に言いかえただけで蜘蛛の子ショットガンしていくのはそれはそれで面白いけどさ」

 

 おぉう……努力搾取……で良いんでしょうか?夢ビジネスでどんな人にも活力を。近いものですとアイドルスカウト詐欺とか。かすみんも夏休み入ってすぐに賊が来ましたよ。断りましたけど。私の憧れるアイドル像にデビューまでは自分の力で行くって姿がありますし。

 

「結局さ、夢とか努力とかいう都合の良い言葉は本来の言葉が持ってる厄介オーラとか難しさ、責任や焦燥感から目を背向けさせるための言葉遊びに過ぎないんだよ。作った人もここまでお膳立てしなきゃ何も出来ないIQチキンにだいぶ失望したと思う」

「そうかもですけど……でもスタートするエネルギーには必要だと思いますし消すわけにはいかないんじゃ?」

「で、起爆剤にしか使った事ない人はどこにいるの?そのまま酸化剤と燃料目的で併用して太陽まで行こうとするでしょ?」

「使い様……と」

「そっ。目先にある都合の良さに甘えて喜劇しか見ず、先人達の悲劇を否定する奴ら。ツイドリで有償依頼受けて逃げられる自称中堅と一緒。そんなリスク管理ガッタガタなやつとかアイドルでも会社でも絶対やらかすでしょ。だからちゃんと努力出来るやつが欲しいのよ」

 

 相変わらず成功体験語る職人みたいなこと言いますね。外見年齢と見合ってなさすぎる。漫画とかラノベ読んでて前世の経験込みでその精神年齢?って引いたことはありますけど、逆は初めて見ました。

 一体過去にどれだけ自分を鍛え抜いたらここまでの悟りが開けるのでしょうか。

 

「茜丸ってそういう努力の魔力?みたいなのに振り回されたりはなかったんですか?」

「可能性はあった。ただなんというか……真剣に人と話してる暇がなかったからさ、実力が付き始めたあとに努力って言葉を知ったんだ」

「努力って言葉を知らないで努力してたんですか?」

「ずっと研究って言ってて、姉さんの取り巻き1号に話し聞かれたあと努力すごいねって言われて。その時に初めて知った……この話し内密にしといて欲しいんだけど良い?」

「大丈夫ですけど」

 

 努力って言葉を知らないバカだった自分を知られたくないとか理由があるのでしょうか。茜丸が無知を恥じるのって珍しいですね。知識ないことを馬鹿にする事はしないのに。

 茜丸がキレるのは無知を攻める人を見た時と無知を自覚したまま勉強しない人を見た時ですし。やる気ないやつにしかキレない。あとは陰口で愚痴って本人が傷つかないようにしてます。嫌われ大好き人間がなんで苦手なタイプに配慮しているのかは甚だ疑問ですが。

 

 成績悪い私をバカにして来ないのも多分これが理由です。私が中間テストで赤点採った時も補習対策の勉強に付き合ってくれましたし、全然フツーに勉強見てくれます。

 特にバカにする訳でもなく淡々と。以前隣の席になった男子とはエラい違い。あいつすごかったですよ。小テストで1桁取る度にめちゃくちゃ茶化して来ました。茶化すというか明らか見下してる。おそらく小学生の頃は面白いけど授業中もネタに走って笑い取ってたタイプです。

 

 それでですね。茜丸と一緒に勉強してた時もちょっかいかけて来たんですよ。いつも通りデカい態度で『中須バカだし勉強教えてやろうか?そいつもバカっぽいし』みたいな自信満々の煽りを披露しながら嘲笑。うぉお……思い出すだけでもムカつくー……。親戚に小2の男の子がいるのですが、そのマセガキにスカート捲られた時と同じイラつきを抱いて…………こう考えると大した怒りではありませんね。今度ちょっとだけ反抗してみますか。

 

 話を戻して。いつも通りマセガキ(高一)の対処っていう事務作業に取り掛かろうと思ってら茜丸が『生まれた頃から割引計算できてたみたいで羨ましいね。母親大喜びでしょ。家系図にアインシュタインとマリリン・モンローでもいるの?』ってゲノハラ食わせたあと追っ払ってくれました。

 何言ってたんだこいつって不気味がってたのでむちゃくちゃスッキリ。あぁ、この男学校の勉強しか出来ないんだなって。あとIQ差が30あると話が通じなくなる定説の実例を見れた。

 

 今気づいたのですが、私ってこの時から既に茜丸の影響を受けていたんですね。性格ねじ曲がるのは宿命だったと。

 1/5茜丸みたいな性格の悪さなのですが、バランス持った可愛さを保ちながら相手の気持ちになれば良いって答えは得られたので喜ぶべきか悲しむべきか。

 茜丸自身も『もう少し上を見ろ』ってアドバイスを茜節に込めて分かりにくく伝えてるだけですし。ただの優しさ。

 

 いやでも最近の侑先輩とりな子へのこき使い具合を見てるとガチめな独裁皇帝感が否めない。茜丸は口下手なので誤解が起こらないようにこれくらいは愛嬌として教えても良いのでは。

 

「えっと…………茜丸の身の上話をりな子が欲しがってるのでそっちには話して──」

「1番知られたくない相手が璃奈りー」

「えっ、なぜ?」

「ボクの身の上話を探ってるから」

「なんかヤバめの犯罪歴でもあるんですか?」

「なんかヤバめの犯罪歴が1つ。知られたら交渉材料にされて逃げられなくなる」

「自首は?」

「しようとしたけど取り合って貰えなかった」

 

 国家権力が機能してない……それとも本当は冤罪だったパターン?または何かのすれ違いで自分が犯人だと思い込んでるとか。意外と決済バグでお金払えないままパソコン買っちゃったとかだったりして。こっそりご両親が払い終えてそう。

 

 茜丸って元々責任感が強いんですけど、罪悪感が絡むと後先考えず賠償行為に走るんですよ。仮にですけど、ここで私が『前に貸したお金返して』って嘘をついたら10万くらいは即座に払ってきます。人の話を聞け。

 あとはですね、期末終わりに遊びに行った時の事なんですけど。あの時にひまり先輩がつけたら似合いそうなペンダントを見つけたんですよ。一瞬だけですけどめちゃくちゃ目が輝いてました。

 でもすぐに萎えたみたいな顔をしたあと落ち着いちゃいまして。多分金欠で持ち合わせがなかったんだと思います。何とかしたかったけどお高くて私も手が出せずって結果でして。クレカが欲しい。仮にクレカがあったとしても割り勘でどうにかなる額じゃなかったので分割MAXにはなりますが。

 というか良さげな結婚指輪が2個買えるくらいの値段してましたよあれ。普段からこのレベルの贈り物してたらそりゃお金無くなります。

 

「りな子も頑張ってますし少しくらい警戒緩めても良いんじゃ?」

「これ以外だったらいくらでも許容するのでここだけはノータッチでいて欲しい」

「そんなに。ではこの話は内密にするとして、代わりにひまり先輩と3人で遊びに行くとかはどうですか?インスラ見てると最近やっと忙しさが落ち着いたようですし、良い機会だと思うのですけど」

「今友達の家でお泊まりしてる」

「相変わらずのアグレッシブさですね……」

 

 確かにひまり先輩ならそれくらいはしますけど、やっぱり茜丸の姉って点で見るとあまりにも活発的過ぎる。いやまぁそれくらいの元気がないとアイドルなんて務まらないですし納得はできますが。

 けどもう少しりな子に会ってあげて欲しいと言うか、茜丸とも一緒にいてあげて欲しいって言うか。姉弟一緒に揃ってる所とか見た事ないですもん私。忙しくて会えないのはわかるのですが夏休みくらい一緒にプール行ったりはして欲しいなって思います。

 

「ひまり先輩といれなくて寂しいとかはないんですか?」

「覚えてて貰えれば良い」

「せめて心は一緒くらいの啖呵は切りましょうよ……」

「ジブン貧乏性なんで」

 

 これが贅沢とかメンタルの生活水準低すぎでは?江戸ソウルかクソデカ崇拝を感じる。

 思えば茜丸ってひまり先輩になにかあげる事はあっても求める事ってないですしね。一緒に居られればそれで良い精神。好きな相手への奉仕精神がぶっ飛んでてもう危うさしかないです。

 いや最初からここら辺は一貫してましたね。ヤバさに気づけるくらい茜丸が見えたと言う点では喜びましょう。それ以外がほんとにダメダメですけど。

 

「はぁ……もっと欲望見せてくださいよ。おじいちゃんじゃないんですし」

「心はおじさんやぞ」

「こどおじに茜丸ほどの知性はありません」

「口悪っ……」

「誰のせいだと……」

 

 生産者写真首からぶら下げて校内を歩いてあげましょうか。

 いつも通り周りの人で可愛い研鑽してたら素のかすみちゃん可愛いねって言われた私の気持ち分かります?頭鍛えて一般人に化ければ終わりって言う呆気なさに分からされた私の気持ち分かります?茜丸を超えればなにかすごい可愛いが手に入ると思って頑張ったら倫理観の無さだけが超えちゃった私の気持ち分かります?

 

 いや倫理観に関しては今も自覚できてないんですけど、しず子に『かすみさん、どんどん残酷になっていくね……私は良いけど茜丸さんとかは引いてたから少しだけ……その、抑えてあげて……?』って言わせちゃったんですよ。願いの叶い方歪みすぎでは。私以外のアイドル消せば私が神ドルとかそこら辺の叶い方ですよこれ。泣く。

 

「私このままだと友達ゼロ√まっしぐらなのでその時は責任取ってくださいね。ダメって言っても家に入り浸かりますから。逃げられると思うなよ」

「はいはい。別に部屋貸すくらいはするから落ち着きなされ」

「……結構すんなり受け入れますね。断ると思ったのですけど」

「ボクに非があるならちゃんと責任は取る。恨みが溜まって何か事件起こされたら溜まったもんじゃないし」

「人間心理の悪いところだけ信じちゃうの辞めません?ほら、自分に都合の良い情報だけ集めちゃうやつあるじゃないですか。あれになるんじゃ?」

「都合の良い情報というか、プラス感情でそこまで長期的に頑張れるやつを見た記録がボクには無い。クラス団結して成績トップと礼儀正しい大人な雰囲気作ろうぜ、的なやつは一ヶ月も持たないのに、あいつウザイから無視したりノートのページ破いたりしようぜ、みたいなのは何ヶ月も続く。たまに年単位で続く」

 

 言ってる事は分かりますけど……。人間はそこまで綺麗な生き物じゃないって最近私も受け入れもしましたけども……。でもやっぱりちょっと極端というか。

 極端とは少し違うかもしれませんが、今の時代そんなアホみたいなノリでリスク背負う馬鹿とかいないと思うんですよね。受験期に訴状が郵送されるよう準備されればもうそこから叩き落としゲームに入って負けますし、その程度のリスク配分を考えられない人間が現代を生きるとか普通に無理だと思います。仮に生きて行けたとしても常時首の皮1枚状態。

 でもテレビのニュースではその類を見ますしやっぱりいるにはいるのでしょうか?人間はそこまでアホじゃないと信じたいですけど一旦そこは突き放すとして。

 

「人ってそんな頭弱いですかね?」

「排除本能が解消されてスッキリしちゃうからやめられねーんだ。コツコツ勉強するよりお手軽に脳汁が取れる。一応脳機能としては異物を排除して群れを守ろうとする正義パワーを働かせてるつもりだから本人たちは正しい行いだと思ってるし」

「排除快楽に命賭けてるって事ですか?」

「今までの人生全部賭けちゃったから高校か大学で勉強つまづくとその瞬間に人を貶す以外特に能の無い底辺よりのバランスタイプが出来上がる。多分そこら辺制御出来ればもうちょいマシな職場行けたと思うんだよね。可哀想に」

「とりあえずヤバい人見かけたら将来を悲観しつつ法律見とけば解決って事ですか」

「まあ、『こいつしょーもねー犯罪してんなー』って思うと怖かった存在が急にしょぼくなったって中学の同級生が言ってたし、それがベストだと思う」

「逞しいですねその人」

 

 おそらく長い間名誉を傷つけられて来たのでしょうけど、メンタルが育ったら相手の脅しにレッサーパンダを感じて微妙になったあと法律知識でフィニッシュと。これが知力の有効活用。

 確かにそこまで行ったら正義の断罪ごっこしてる先方なんてショボく見えちゃいますね。怖さを持った圧力がただの見栄っぱりになる。

 多分私なら1周回って『このガンダムキャラの私服みたいなやつにビビってたとかマジ?』って自分を叩きますよ。教育委員会か文化庁にチクった方が早く片付くらしいので行く場所行ってチクることをチクって終了。

 

「なんかあれですね、自分と同じ学校に通う子供って言う一般人として見ると勝てないなって諦めちゃいですけど、犯罪者っていう格下祖号が付くと可愛そうな生き物に見えるというか」

「前科が引っ付いて回るから多分平凡ちょい下の幸せしか拝めないだろうし、最悪親から見捨てられるだろうしね。でもここでアクションを起こせば被害者は自分のストーリーでやっと主人公になれる。与えられたダメージを糧に跳ね返してこそ勇者だよ。正当防衛っていうシールドカリバーで叩き切れば良い」

「手遅れに剣を刺すのもヒーローの務めなので覚悟決めるしかないと」

「それで良いんだよ。相手は可哀想な存在になったんだからその手で終わらせるのが温情と復讐を晴らす最善手。きっと手を下さなかったら相手は高校とか大学で別の被害者を生み出すしね。責任押しつけちゃってごめんだけど、被害者くんには英雄になって貰いたい。現実に必要なヒーローってのはそういう奴だから」

 

 確かにひまり先輩は都合の良い救済装置と慰み者って扱いになってますし、善意だけだと利用されちゃってダメなので誰の味方にもならない、そんなダークヒーローになるのが良いと言うのは分かります。

 

「これが茜丸の英雄論ですか。テレビのヒーローはいてはいけない存在だと」

「フィクションは現実の全部にフィルターを通して大分ろ過してるからね。それを直接持ってきたらあまりの都合の良さに人間がもっと醜くなる。だから現実用にデチューンしないといけない」

「なんと言いますか……そこまで持ち上げないと立ち上がれないなら居ない方がマシじゃないですか?現実的ヒーローって。フィクションレベルに人類が出来上がってから……そこまで完成したなら皆ヒーローレベルですし結局ヒーローそのものがいらない気がします。力がないだけで皆ヒーローになってる世界。茜丸的にこれって良いんですか?」

「ボクが夢見る世界はそんな世界」

 

 茜丸的には最初からヒーローがいらない世界を目標としていた。お姉さんのアイドルヒーローになりたいって願いを否定してるのですが良いのでしょうか?茜丸なら絶対しないと思っていたのですが。

 

「ひまり先輩ってヒーローみたいになりたくてアイドル始めたんですよね?茜丸もそんなヒーローを皆に知って欲しいって」

「ヒーローやりたい云々は姉さんの夢。ボクの夢は名を轟かせたいってだけでヒーローである必要はない。むしろありのままの姉さんを広めたいからヒーローなんかやらないで欲しい」

「なんか前と言ってる事違いません?」

「ずっと隠してたボクの本音。かすみさんにはもう話して良いって思ったから」

「遺言みたいで気色悪いので30年後くらいに話してください。ランチの小ネタとして聞いてあげます」

「立派になったねぇ」

「誰のせいだと……」

 

 そんなクッソ重い話は求めてないんですよ。私はただ茜丸に可愛いって言って貰いたいだけですからね。

 だってそっちの方がお互い楽しく過ごせますし。茜丸みたいな子供は私と一緒に一生化粧品探してご飯食べて髪型いじりあってれば良いんです。時々めんどくさい話もして。

 

 だからこんな私が望む未来とは真逆の道に繋がりそうなコソコソ丸秘ファイルなんていりません。

 ヒーローがいらないレベルで人間を変えたい理由も受け入れてはあげます。あまりにも周りのレベルが低くていつまで経ってもひまり先輩がヒーローをやめられないから呆れていること。茜丸が悪態を付き恨みを買って動かさなきゃ動くどころか知ろうとすらしない人間達が嫌いなこと。ここまでケツを拭いてあげなきゃ自分の鬱憤を撒き散らすことしかしない堕落な動物が苦手な事。

 

 何もしないで文句を言うだけ。自分の苦労を誰かに肩代わりさせる機会を期待し続けるバカが嫌い。

 

 全部わかりましたよ。えぇ、それはもう嫌ってほどに。

 

 わかりましたけど、英雄廃止活動は茜丸だけでやってください。私はそこら辺一切加担する気ないので。というか茜丸にゾッコンのりな子ですらそこだけは受け入れてませんよ。

 だって活動を手伝ったらハウトゥー後継育成を施されてそのまま茜丸が消えちゃいますもん。なんの比喩でもないフェードアウトそのもの。

 

 私達に損しかない。責任者他界で職務全部押し付けられるこの地獄に利益なんてあります?恩だの温情だの茜丸は言いませんし、きっと余命映画で見るような切なさから生まれる胸の苦しさ的な物だって生まれません。気まずさで同好会がサークラするくらいです。

 

 みんな茜丸の遺産とかいらないんですよ。茜丸との思い出を遺産にしたいから頑張ってるだけで。

 ひまり先輩に覚えてて貰えれば充分とか、今言ったこれとか、なんでこいつは肝心な部分や間違えちゃいけない価値観だけ間違っているのでしょうか。答えが違うかそもそも持ってないかの二択。誰かのためならドンピシャな答えを出せるのに。

 

「はぁ……茜丸はさぁ……」

「別に嫌なら猫かぶっときゃ良いじゃん。可愛いの基本は媚売りと猫かぶりでござるよ」

「そっちじゃねーですよ……」

「えっ、そっちってどっち?」

「自分で考えてください」

「パワハラじゃん。ウケる」

 

 あぁー……これが4歳児メンタルですか。この不器用さや優しさ、未知の価値観でなにを考えてるのか分からないところは確かに4歳児。あれですかね、噂の要介護系主人公ってやつ。

 なにがどうあれ茜丸を嫌いになれないのには変わりありませんし、これも惚れた弱みの一つって事で一緒にいてあげますか。

 カスミン社の隣のセコムは値が張りますよ。最低でも一生分の可愛いは貰います。

 

 

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