虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
どうしてこうも世界は残酷なんだろう。ボクの目の前に現れた留学生はアンジュ・ヴィエルジュみたいな名前の中華被れ。いや留学生だからモノホンの中華出身。
ボクが望んでいたのはみゃー子との再会だったはずなのに。きっと今頃はどこかの知らないイケメンに口説かれて楽しくやってるんだろうなぁ……。
以前聞いた予定から推察するにおそらく日本には来てるはずなんだよ。それで連絡が無いってことは仲良い人を見つけて平穏にやれてるって事だと思う。
だからそこについては安心。再会出来なかった以上ボクの代わりが必要だから。だがみゃー子と1番相性良いのはボクだという事を忘れるなよ。
もしもみゃー子を落としたら闇堕ち版みゃー子であるボクが出てくる事を染色体に刻ませておけ。セックスの度にボクの顔がチラつくようにしてやる。
「アカネ!ママに頼んで開発用の道具を全部揃えたの!だから入って良いわよ!」
「一体全体その金とスペースどこから出てくるの?地下施設?それとも改築?」
「古い方の体育倉庫を改築したって言ってた」
「なるほど。旧体育倉庫を3日で改築。骨組み風化と軽い強風で屋根が飛んで行った過去を持つ、冷房暖房無しの旧体育倉庫を3日で改築」
確実に現場猫案件で草。さては理事長ボクのこと嫌いだな?いや嵐珠の言い分から察するにお金だけ渡したって感じだけど。はてさてこの女はどうやって母親を丸め込んだのか。明細額には驚かないと思うけど、基盤プリンターやら電線やらの詳細を見て『これ本当にアイドルに必要なのか?』って思うはず。さっさと摘発されて見世物タイムが始まって欲しい。
あと資料を見た感じ『こんな用途のよく分からない機械に7万も出せない』って心境で選んだ初心者用工具がちらほらある。とりあえず指定金属扱う開発所でゴミ箱が可燃とプラスチックしかないのはどうかと思うぞ。回収業者と提携したって記載も特にないし。
「クルームボードpcでコード書けとか正気か?これと夢グループは女の子みたいに扱えって言われてるんだぞ」
「ダメなの?」
「ガラケーでPS4ソフトを動かそうとする感じ」
「じゃあ買え替えとくわね」
「部室行く気ないから返品するだけで良いよ。送料はボク持ちで良いから」
「ダメよ。アカネには絶対ランジュの部に来てもらうの」
「お熱いねー」
どうせ言い寄られるならアニックスプレイスの重役とかが良かった。エロゲー格ゲー問わずゲーム音楽に携わってる会社。最近はアニソンも監修してる。何とか交渉して生産終了ゲームの限定サントラ貰う計画も実行できたのに。璃奈りーが好きって言ってたアルトラバック2のやつ。
でも、ボクの目の前にいるのはスペックはあるけどアイドルとしては未熟かつ特に推せる要素のない中華王。勢いとエセ高潔とガチ傲慢だけを受け継いだ虚構の王。特別何かが響いてくる訳でも無く、技能で驚かす事はできてもボクらみたいな経験者を魅了するほど突出した魅力は無い。その乳に肉まん詰めてますとか言われて初めて興味が湧くと思う。
強いて褒めるなら…………パフォーマンスレベルの上昇が早そうだなって。環境良いだけで大成出来るなら今頃アニメーターも出版社も創作専門校も未経験乱雑採用して教育施してるはずだし。成長度に関しては嵐珠の気持ち次第で爆風になる。現在の『信じられるのは自分だけ』って状態じゃそよ風のままで終わるけど。ついでにそのままひっそり消えてマイナーアイドルになるぞ。らんじゅがんばえー。
「アカネはアイドル部の何が嫌なの?同好会より本気の人がたくさんいるのに。力のある人が協力し合って初めて良い物が完成するのよ?それに、1人じゃつまんないでしょ?」
「逆に聞くけど力無い人ってどこら辺の層?生まれたての赤子とか?」
「ライブに来る人や動画を見てる人達よ。力が無くて小さな働きしか出来ない人たち。だから頑張れるようにランジュ達が夢を与えるの。素敵でしょ?」
「素敵だね。嵐珠らしい考えだと思うよ」
「でしょ!」
どこかで見たような傲慢と油断で自滅する悪性CEOみたいな考えだ。本当に嵐珠らしいよ。うん。
一体全体、どんな教育をしたらこんな慢心と本気と敵の実力を見極められないギルガメッシュみたいな女が育つんだ。さてはあの理事長褒めるだけで説教をしてないな?非を認められない子供が全うに育ったらそりゃこうなるわ。
あとこの歳の人間の傲慢プライドって認めるまでにクソほど激しい抵抗をするから面倒臭いんだよな。ヒステリック疑うレベルで情緒不安定なキレ方するし。なんだろう、急でごめんだけどお家帰りたくなって来た。独裁スイッチでこいつを消したら、留学生の有能新人スクールアイドルって枠にみゃー子を置けないか?
ついでにだが嵐珠を見てもこれといって響くものを抱けなかった理由が分かったぞ。こいつ肩書きを失うと何も残らないから浅いんだ。年功序列で上がれただけの上司みたいな。
そんで真っ当なキラキラ青春を体験させてやっと意識が変わる人間だから、ボクとの相性が死ぬほど悪い。
こればっかりは高咲カウンセリングとサンリオセラピーがいるのでボク1人じゃどうにも出来ん。アイドル部の内情を抜き取るためにこき使うのが関の山。だけどその内情は愛さん先輩が皆に知らせるだろうから結局ボクが出る幕は無い。
と言うわけで両者相打ちで潰れた時のために責任被る準備をしておこう。相手に証拠と証言ネタをえるために暗躍ごっこをすれば万事解決。うーん、圧倒的スパイサークル。厨二心が疼いちゃうぜ。
「どう?アカネも一緒にアイドルしたくなったでしょ?」
「ボクが見たいのは巨神の戦争じゃなくて蟻の社会生活だからどうでも良い。そもそもアイドル部行ってる暇がないし」
「まだやらなきゃいけない事があるの?」
「推しが同好会にいるから考慮の余地無し」
「同好会なんてもうすぐ無くなるじゃない。アカネの好きな人もその内アイドル部に入るんだし変わらないわよ?」
「そんな薄情なやつだったらとっくの昔に見限ってる」
「部室と人が少し変わるだけでしょ?その子って決まった場所じゃないと何も出来ないの?融通効かないのね」
「どこでもなんでも出来る人だよ。ボクが望む質を出して貰うには今の黄金比が必要なだけって話だ」
この前もそうだったけどやっぱ嵐珠の微妙に棘のある言葉たまんねーな。わざとやってても無自覚でも面白い画が撮れるのが確定してる。だから鑑賞用には持って来いなんだよ。
その証拠に使ってるビデオカメラもやりがいを感じて喜んでるし。動作も普段よりほんのちょっと軽い。ほんとに気持ち軽い程度だけど。
「だったらアタシがもっとすごいパフォーマンスが出来るようにしてあげる!そしたらアカネも納得してくれるわよね?」
「ボクは責任感が大人なので結果で判断します。嵐珠の頑張り次第では同好会の事も手伝ってあげる」
「ほんと!?なら承诺ね!」
「はいはい。げんまんげんまん」
頑張り次第で同好会引き込みを手伝うか同好会そのものを手伝うか分岐するけど気をつけてね。嵐珠のスペックなら正しい道に進むと思うけど。
アイドル部に入った旨を寝取られビデオレター風に送ったらどうなるかな。とりましずくちゃんが凸って全てを破壊しに来るのは確定としてあと何があるか。
どんな結末でも面白そうだし、今度栞っちに撮影の依頼しよ。
◇
はんぺん、ほんの数日でだいぶおっきくなった……気がする。成猫って言うにはまだ微妙なサイズだけど、今からでも里親探しに入った方が良いかもしれない。
探すとしたらどんな人が良いかな。はんぺんのパートナーも欲しいし、出来れば猫を飼ってる人に引き取って欲しい。それで相手猫は茜くんみたいな性格で、はんぺんがすごい世話を焼きたくなるような受け体質が良いと思う。はんぺんのタイプがそんな感じだから。
正直に言って良いのか分からないけど、猫は種類が近いと顔も似て来るから誰を選べば良いか分からなくなる。
私視点だと全員可愛さとかっこよさを持っていて、見た目だけで判断するのが難しい。そもそも私が付き添いをしたとして、相手の人と上手くコミュニケーションが取れるのかって問題がある。
それに加えて同好会もだいぶピンチになってるから私だけサボって別行動はしたくない。私のプライドに関わる。とはいえはんぺんを蔑ろにはしたくない。
あと、ここで無理をすると「やめて」って茜くんが言ってくるからダメ。すごい泣きそうな顔で言ってくる。だから多忙にはなりたくなかった。
いつもの悪態も、嫌われる演技も、悪役面でも独裁者面でもない。茜くんが奥底の素から私を心配してた。あれは私が倒れて悲しい気持ちを味わいたくない……っていうお面に隠れた純粋な心配。
茜くんは心が4歳児だから無償の愛が使える。殴られても怒鳴られても八つ当たりされても、好きな人を好きって言える無償の愛。だから本当の心配を相手に向けられる。
私の知らない顔だったし、純粋だから綺麗だった。
でも、私が見たいのはそんな悲しい顔じゃない。
もっと綺麗で、子供っぽくて、茜くんの本当の……心の底から見せてくれる笑った顔。それが見たい。
だから今度は無理をしないで、茜くんに疲労顔を隠し撮りされない程度に頑張る。こっちの方が茜くんも納得してくれるし、無理のプロフェッショナルである茜くんがセーフ判定を出すなら皆も納得してくれるはずだから。
そのためにする事…………私が万全じゃないと調べが甘くなるから、はんぺんを変な人に渡しちゃうかも。だから同好会とアイドル部を片付けるのが最優先。
前の私だったら両方一気にやってたけど、豊かな社会には自分を含めた全員の幸せがいるって茜くんが言ってた。お金をたくさん持ってる時にしか人は人にお金を貸せないからって。
だからまずは私の幸せ。昨日茜くんが寝る前にこの話をしてくれたけど、茜くんははんぺんを知らないから多分偶然だと思う。
「外に放置しちゃってごめんね……。はんぺんを幸せにしてくれる人達、ちゃんと見つけるから……」
出会った頃に作った小さな家。使ってくれてるみたいだけど、やっぱりすきま風も湿気もあるからストレスだろうし。もっと住みやすい家、住んで欲しい。打ち水と湿気取りじゃギリギリ過ぎる。
それにあんまり時間をかけると学校が痺れを切らして保健所に連絡入れちゃうから。子供がいるし評判もあるから大丈夫なんて油断は捨てなきゃダメ。
「まずは……出来ること……相手の部員と誰か、コンタクト取る……とか」
緊急事態だし、相手のパソコンをジャックしてメールで呼びだし……は犯罪だからダメ。
となると……部員調査?あとは生徒会長が本当に後ろ盾になってるかどうか。愛さんに内部調査のスパイを頼めれば調べた部員情報も役立つ。とりあえず現時点で狙われてるのは愛さんと果林さんとベンチポジでエマさん……だと思う。菜々さんは大きすぎて手が出せないって判断されてた。
それと、多分だけど茜くんも狙われてる。
だって忙しそうだったから。追っ払うのが精一杯で大変なはずなのに、同好会も同じだからって茜くんは誰にも話してない。私にくらい打ち明けてくれても良いのに。あと、これくらいなら皆も察してると思う。
「これ以上余計なストレスを抱えたら、茜くんの胃に穴が空く……やる事決まったし行動──」
はんぺんを帰して、みんなの所で予定調整……って思ってたら間隣の草っ原に男の子……女の子?が寝てた。めちゃくちゃデカいハンバーガー食べてる。どこで売ってるんだろうあれ。
邪魔しちゃうけどシラミが怖いし起こしとこ。わっ、近くで見ると可愛い。
「あぁー……!Shit……ほんとにどうしよう……」
「だ、大丈夫……?」
「Ah……?あぁ、Sorry.うるさかったね。どうにも集中すると周りが見えなくて」
「えっと……留学生の子……?」
「3日前に来てね。結構楽しみにしてたんだけど……maybe……」
「馴染めなかった……?」
「Um……Class roomは平気なんだけど……その、Dilemma?みたいなのを抱えちゃってさ……はぁ……」
教室が大丈夫なら……他の科の人……?昔嫌いで別れた人が同じ学校にいたとか。学校もクラスも好きだけど、その嫌いな人にエンカしたくなくて迂闊に動けない。それで窮屈……みたいな。
「相手の子は何科……?」
「多分……Machine……音楽科にはいなかったからその辺。systemとmusicに強い」
「会いたくないけど会っちゃいそうで嫌……?」
「No.すごく会いたい……けど、ボクが音楽家にいるって知られたくないんだ……」
「相手の子、音楽自体は嫌い……?嫌々やってる、とか」
「好きだし詳しい……って勝手に予想してる。だからボクが音楽にconnectionしてる事を隠したくて……」
この子は作曲家で、相手も音楽が好き。だけど相手が音楽好きで、だからこそ作曲家だって知られたくない。1番話が弾みそうな話題を封印しちゃって良いのかな。
「えっと……音楽家って知られたら、ライバルとか敵だと思われちゃう……?」
「ううん……ボイジャーくんならきっと受け入れてくれる……けど、その…………ボク、ちょっとだけ賞とか取った事があって……でもボイジャーくんにはそこら辺を知られたくなくて……」
「有名な人って情報抜きで見て欲しい……?」
「Yes……ずっと、普通の関係のfriendが欲しくて。初めてだったから……ずっとこのままが良いって……。浮かれたまま自分が音楽科に留学申し込んだの忘れてて……ここに来てから気づいた……」
多分、有名だと知っても遠慮と配慮をしてくれる人はいる。でもこの子はその気遣いにさえ申し訳なさと気まずさを感じちゃって、そういうのが一切ない友達が欲しかった。
自分の実績を自覚していて、だからこそ『有名だからって理由で生まれた優しさ』に負い目を感じちゃってる。持ち上げやゴマすりだけじゃなくて、贔屓はしないって気遣いすらも全部。気遣いさせちゃってる事に負い目を感じる優しい子。
「あの……Sorry……自慢話みたいになっちゃって……Ah,これも失礼な言い方だな……」
「大丈夫。有名になった後の大変さ、いっぱい見てきたから……。良いことばかりじゃない……むしろ大変なことばっか……」
「Thanks……。キミもなにかやってるの……?」
「けん……友だち……か、かれs…………………一緒に住んでる男の子がちょっとだけ有名人……」
「それは……大丈夫なのかい?」
「大丈夫……中身赤ちゃんだから……」
茜くんとの関係、何も知らない人に説明しようと思うとだいぶ脚色しなきゃいけない…………説明めんどくさいから友達って紹介して良いか許可が取れれば、そこから派生して外堀埋められるかも。帰ったら聞く。
「それで……あなたは……あっ、名前……LINE出来る……?」
「この間入れたばっかりで使い方がよく分からないけど……それで良いなら」
「こういうの得意だから平気だよ……」
「ありがと……優しいね。ボーイフレンドがキミを見つけた理由が何となくわかったよ」
「う、うん……どういたしまして……」
LINEの一覧を見たけど誰もいない……アメリカだとfeelballメッセンジャーが主流なんだっけ?そっちの方が良かったかな。
「えっと、ミアちゃんは作曲家って情報が渡られなければ平気……?」
「テイラーってFamily nameも出来れば隠したい。音楽科にいる事も気づかれたくないけど、そこはもう諦める……無茶苦茶なこと言ってごめんね……」
「大丈夫。とりあえず普通科の学生のフリをして、ミアちゃんの教室の前ではその人と会わない……。会いに行く時はミアちゃんから会いに行く……あと音楽科用の校章も襟の裏につければ、半年くらいならごまかせる……」
「Badgeは見えなくて良いの?」
「そこら辺緩いから……制服だって判断できればある程度のオシャレはさせてくれる……」
「そっか……良かった……」
すごい安心しきった顔。ミアちゃん、その子のことがほんとに好きなんだね。
そういえば茜くんも仕事としてじゃなくて趣味として音楽を駄弁れる相手はいた方が良いって言ってたっけ。曲を作れるとは言え年頃だし、感情だけで盛り上がりたい気持ちはちゃんとある。そこに関してはライターも一般人も関係無いって言ってた。
「もうすぐ昼休み終わっちゃうけど……放課後とか、会いに行ってあげて……。多分、相手も待ってる……」
「Thanks……助かった。そうだ、お礼……えっと、なにか……um……璃奈は何が好き……?」
「じゃあ、今度……ミアちゃんが好きな男の子の話、聞かせて欲しい……」
「Yeah.喜んで」
私も余裕ないから遊びに行くとかはまだできないけど、作曲の事を知れれば茜くんの助けにもミアちゃんの助けにもなれる。初心者が作った音源をミアちゃんに渡せば茜くんを騙せるだろうし、私自身も茜くんの気持ちを知れるから一挙両得。
これくらいなら負担にはならないし私の問題にも支障はない。
肝心のアイドル部だけど……今度愛さんに聞いてみる。まずは大雑把に内情を掴むところから。