虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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57.詫び石デート

 

 果林さんにも友達ポジション盗られちゃった。私はまだ茜くんから手を繋いで貰ったことないのに。

 なんでかは分からないけど、付き合いが浅い人ほど茜くんの重要ポジを陣取れてる。共通点は年上。

 やっぱり茜くんって年上の方が好きなのかな……同い年でそういう雰囲気になる人はいないし。ミャーコちゃんはどっちかと言うと懐いてるって表現がしっくり来る。

 どっちにしろ私の影が薄れてるのは確定。このままじゃ二十歳になった瞬間茜くんがどっか行く。なんとかして手を繋ぐくらいはしないと……

 

「……茜くん、このちょっとだけ増えたお金何……?」

「スクールアイドルで風営業してたおっさんから巻き上げた金」

「…………あのLouTubeのやつ、片付いたの……?」

「初犯だしカンタンさいばんにしたら1日で終わった」

「なんで共用の方に入ってるの……?」

「菜々ちゃん先輩に渡しといて欲しくてさ。手段はなんでも良いから良さげな感じでお願い」

 

 茜くんから渡した方が菜々さんも喜ぶのに、なんでこんな遠回りなやり方するんだろう。それに菜々さんが茜くん以外にお金周りで誰かのお世話になるなんて絶対無いし。

 だから良い感じにって言われても無理って答える。

 

「私……茜くんみたいにお金使ったり、渡したりするコミュ力ない……。侑さんに渡して曲作って貰うのがやっと……」

「じゃあそれでお願い」

「茜くんから頼んだ方が流れが自然……」

「ボクにその財源を使う資格はない」

「優木せつ菜とセットになっちゃったのは不可抗力……。茜くんと菜々さんしか動画に出せる人がいなかっただけ……。それにメインは優木せつ菜だった……」

「ボクがいなければ優木せつ菜の名前が上がらなかった可能性は大いにある。たからボクが悪い」

 

 バカ真面目……。こういう時こそ悪役気取って菜々さんをこき使うとかすれば良いのに。それで給料としてお金渡す。

 あと悪いのは動画作った人だから、茜くんがそこまで責任を感じる必要はない。

 

「こういう時は軽く謝るだけで良い。むしろ、そんな態度取らせちゃった事に……負い目感じる……」

「今までだって謝るときはちゃんとして来たし今更じゃない?皆慣れてるでしょ」

「茜くんはもう少し自分がどう見られてるか気にした方がいい……」

「見られ方とか『性格最悪なのにこいつ使わないと解決しないの癪〜』以外になにかあるの?」

「私は好きだよ……茜くんのこと……。皆も同じ……」

「頭の片隅に入れておく」

 

 ここら辺は出会った時と変わらず不信を貫いてた。いつも通りだけどなんでそこまでして皆の気持ちを否定するんだろう。軽く好意を察するくらいはしてるはずなのに。

 

 私達だって話を聞いても何も出来ないかもって言う可能性はちゃんと考慮してる。

 でも何か出来る可能性だってゼロじゃない。だからまずは対話。茜くんが教えてくれる情報が少なすぎて私も皆も問題事のラフ予想すら出来てない。だから早く話して欲しい。

 

「茜くんは皆のこと信じてないの……?」

「信じてるよ。何をどこまで話したら誰がどうお節介を焼いて来るか。どんな言葉をかけてくるか。どんな迷惑をかけちゃうか。皆といたから皆のデータって言う信憑性がある。ボクはそれを信じてる」

「そういう仕事で使うやつじゃなくてもっと頭空っぽの状態で生まれる信頼を持って欲しい……」

「それは信頼じゃなくてボクが描いた陳腐な理想像だよ」

「期待自体は悪くない……。勝手に過大理想抱いて自滅する人が悪いだけ……。ちゃんと活用すれば便利な力になる……」

「人に期待しない人に言われても説得力ないぞ」

「それは昔の話……今はちゃんと頼るし期待もする……。納得出来ないなら証明だってする」

「なら見せてよ。期待が有用に使用出来るところを」

 

 なにも悪びれた様子もなく……ううん、違う。これはそもそも悪いことだってわかってない時の顔。ここを頑張れば茜くんと一歩仲良く慣れるチャンス。

 

「じゃあ……んっ……」

「…………手を握る事になんの意味が?」

「デート……」

「デート……これから……?学校は……?」

「茜くんといる方が大事」

「無駄手間だからやめといたほうが……」

「茜くんがデートしてくれるまで引きこもる。茜くんと一緒に」

「いやそれただの監禁……」

「嫌ならデートして。今すぐ」

 

 茜くんは渋々だけど私の手を取った。プランも何も無いしそもそもデートなのかも分からないけど、元々そこまで猶予があるわけじゃないからやるしかない。

 それに、こうでもしないと私は茜くんを誘えないと思うから。まだ少しだけ、茜くんに本音を言うのをためらっちゃう時がある。だからこれは私にとっても良い機会。

 

 

 

 ──────

 

 

 

「それで、期待の使い方とは」

「して欲しい事、全部言って……。茜くんがして欲しい事、欲しい物、全部……」

「5000兆円欲しい」

「本気の表情じゃない……」

「璃奈りーと合体して気持ち良くなる権利」

「家帰らないとダメだからダメ……」

「パチンコマクロスの話なんじゃが。てかラブホって未成年使えないの?」

「場所による…………パチンコもダメ……」

 

 茜くん、乗り気じゃないから面倒くさいモードで相手をキレさせて帰宅するルートを進もうとしてる。

 それが通じるって考えてる辺り、ほんとに私との仲の良さが出会った頃と変わってないと思ってるんだね。だから好意にも気付けない。私の気持ちも、皆の気持ちも。

 

「ここら辺封じられると、もう姉さんと食べたかったクッキーを買いに行くくらいしかネタがないよ」

「そう言うので良い……」

「ボクしか得して無いけど」

「それで良い……」

 

 こうやって茜くんのしたい事を叶えていけばそのうち自分の理想と望みを人に言えるようになるはず。手放しに人に寄りかかれる人になってくれれば私も動きやすい。

 

「どこで買うの……?」

「スーパー。お菓子売り場で売ってるやつ」

「普通のメーカーが売ってるやつ……?」

「うん」

「それで良いの……?もっと高いのとか……」

「大丈夫。なんだかんだそれが一番幸せだから」

 

 幸せの基準が低い……でも別にケチってるわけでもないし貧乏性なわけでもない。本当にこれが茜くんとお姉さんの幸せ。なんでこんなに水準が低いのかは分からないけど、私が口を出すべきじゃない。

 

「チョコとかグミは良いの……?」

「そこら辺は飽きるほど食ってきたから平気」

「マドレーヌは……?」

「ボク別に死ぬほどマドレーヌが好物ってわけじゃないし」

「いつも食べてるのに……?」

「姉さんが作った非売品だから食べてるだけよ」

「……やっぱり美味しくない……?」

「ちゃんと美味しいから安心しなされ」

 

 良かった。手作りお菓子で味が不味いと高確率で腹痛案件に繋がるらしいから安心。ネチャネチャさせる意味はよくわからないけど。

 

「お姉さんはお菓子と料理、どっちが得意だった……?」

「ご飯に関しては母さんがメインだったからそれほど……でもそこら辺の女が作る飯より何倍も美味しかったよ。舌に合わせて味付け変えるから店より美味い」

「茜くんがご飯作る時と同じ……?」

「うん。まったく同じ」

「そっか……」

 

 だから美味しいんだね。茜くんのご飯。料理は愛情を科学的に証明した結果なのかな。

 でもこれってもう私の味の好みすら筒抜けになってるって事だよね。私はまだ味の好みどころか好きな食べ物すら掴めてないのに。茜くんは見て盗めとかそんな下らない精神論を吐く人じゃないから、これからも含めて本気で教える気がないんだろうね。

 

「茜くんは……作って貰えるとしたらなにが食べたい……?」

「…………焼きおにぎり?」

「家族以外が作るご飯、あんまり食べたくない……?」

「食べた事ないから、好きな人が出来たら頼んでみようかなって思ってる」

「誰も作ってくれないの……?」

「おにぎりのわりに手間がかかるから」

「確かにそうだけど……」

 

 なんか、お義母さんにしては理由がドライすぎる。茜くんが迷惑かけたくないからって言えずにいたとしても、お姉さんが察して作るはずなのに。それでもなお誰も動かないのは余程の理由が隠れてる証拠。

 でも、そこまでして茜くんのお願いを拒む理由ってなんだろう。やっぱり茜くんの身体になにかあるのかな?私もそのうち家事をする日が来るだろうし、なんとかして聞き出さないと。

 

「もしも、私が作るってなったら……どう……?おにぎりに限らず……私の料理……」

「大丈夫。そこまで拘りないから」

「そっか……。あと、勉強として好き嫌いとか……アレルギー、教えて欲しい……」

「あまりにも細かいカスが出るとストップ入るので控えて貰えるとありがたい」

「誰からのストップ……?」

「医者からのストップ」

 

 …………薬を飲んでるのは知ってたし、通院してるのも知ってた。けど……茜くんはいつも『風邪みたいなもんだしそこまで大袈裟じゃない』って言ってた。

 私も重い病気じゃないならって思ってたのに……絶対無視しちゃいけないくらいの一大事だった。ドクターストップが入るかもしれないくらいの一大事。

 

「病名……教えて欲しい……」 

「あれ、言ってなかったっけ?喘息だよ喘息。小児喘息。あっ、軽めのやつね。今は予防薬飲んでるだけの準完治患者」

「じゃあ、なんでドクターストップが掛かるの……?」

「念のためって側面が強い。界隈だとカスが器官に入って、噎せたショックで炎症再発とかがザラらしくてさ。難儀よね〜」

 

 前に、遥ちゃんが茜くんにクッキーをあげようとした時、一瞬だけ本気で怖がってる顔をしてた。

 お菓子より再発への怖さが勝ってたってことは、それくらい酷い症状を経験して来た証拠。

 

 だから軽い症状って言うは嘘。焼きおにぎりに関してはもち米が窒息の代名詞みたいになってるから、誰も手をつけたがらなかったんだと思う。なんとなく良くない事が起こりそうで。

 茜くんが言うなら今はもう大丈夫なんだとは思うけど、医者が通院を進めるくらいの危うさは残ってるから注意しなきゃダメ。

 

「なんで……今まで教えてくれなかったの?」

「聞かれなかったからもう教えたものだとばかり。なんとなく言ったような記憶もあるんだけど……夢オチだったかもしれない。ごめん」

「今知れたから良い……けど、こういう大事なことはちゃんと教えて……。知らずに変なもの食べさせちゃったりしたら、誰も得しない最悪の自体になる……」

「リスクマネジメント能力最高だね。いつもそこまで気遣わなきゃいけないの面倒くさくない?」

「茜くんだって、皆が具合悪くした時のために救急箱持ち歩いてる……。茜くんが気遣ってくれるから、皆も気遣う気になる……たがら、これは当然……」

「こんな陳腐なエゴに付き合う必要ないのに」

「人を動かしたいなら自分が動く……。茜くんが菜々さんにあげた本に載ってた。人が動くには頑張ってる人に感化される必要があるから……アドバイスと一緒で動いてる人が全て……。だから、私のために頑張ってくれる、茜くんに感化されてこうやって動いてる……」

「だとするとボクは初めっから対応を間違えてたわけだ」

「もう半生分は奉仕されたから……今さら辞めても意味ないよ……」

「わーお」

 

 この話を聞いたら余計やめられなくなった。ただでさえ危なっかしい生き方をしてるのに、そこに病弱成分まで見せられちゃったらもう放っておく理由がない。最初から逃がす気なんてなかったけど。

 

「ボクのは別に、100%自分のためにやって来た人助けだからそこまで感化されなくて良いのに。璃奈りーは人のためにも動けるんだから、余計な成分を入れなくても良いんだよ」

「私はまだ人のために動いて良いほど、人を知らない……。それを教えて貰ったから、今は自分最優先で動くことにした……」

「まあ、人にお出しする前に自分を満足させなきゃだしね。料理と一緒。素人の創作菓子とか貰ったところでありがた迷惑だ。でも、少し硬すぎだよ。真面目とバカ真面目は違う」

「それはわかってる……嫌気が刺すくらいに……」

「左様で」

 

 何をするにしても人の声に耳を貸さない頑固そのもの。貸したとしても全く反映しない愚直な一直線。それがバカ真面目。真面目はもっと柔軟性と知性がある。

 家出る前の茜くんとか正にバカ真面目。こんな発展の最先端を行ってる時代に、古臭い親父の責任感を持ち出す必要なんかない。しかもあの時代の特権だった女を下に見れる権利を放棄してるからほんとに責任の背負い損。

 というかそもそもの大前提としてただの子供がこんな責任を背負ってるのがおかしい。大人でも背負わないからそこらの大人より覚悟決まっちゃってる。

 

 エマさんとか侑さん、あと愛さんと出かけてる時の茜くんを見た事があったけど、あの時の茜くんは相応の子供らしさがあった。お姉さんと食べるお菓子を選んでる今と同じ顔をしてたから、あれは茜くんの素。

 だから茜くんも守られるべき子供。降りかかるミサイルから本人を守れる人がいないだけで、本当は茜くんも守られるべき子供。

 

「よし、これだけ変えればしばらくオヤツには困ろんじゃろ」

「……ほんとに普通のお菓子で良いの……?」

「?……いつも二人で食べるのはここら辺だからね。きっと姉さんも喜んでくれると思う。会計してくるよ」

「向かいで待ってる……」

「よろー」

 

 茜くんは最初から幸が薄いとかそういう領域にはいなかった。本人が気合で抑えて、上手いこと幸薄として取り繕ってただけ。

 

 なんとなくだけど、「教え忘れてた」って言うのも嘘なんだと思う。聞かなかったらずっと教えるつもりはなかった。前の関係だと多分聞いてもダメだったけど、教えてくれた理由の大半は潮時と諦め。

 

 これと茜くんの中にある私達への印象を踏まえて考えると、今日の強引さは悪手だったかもしれない。だけどこのまま動かないのもそれはそれで悪手。

 

 茜くんの大変さはわかった。でも、だからこそお姉さんからのアクションの少なさが尚更謎。責任感が強くて家族だけで解決するつもりとか?前にお義父さんへ電話をかけようとした事があったけど、茜くんが必死に止めて来て出来なかった事があったし。

 前から思ってたけどその行き過ぎた家族に迷惑かけたくない精神はなに?代わりに家族以外を頼ってるかって言われると違うってなるし。

 

 相変わらず付き合いの長さに比べて酷い情報量の無さ。四の五の言ってる余裕もどんどんなくなってるし、なんとかお義父さんに会うくらいはしないと。

 

「おまたせー。次どこ行く?」

「茜くんが行きたい場所……」

「行きたい場所……うーん……テキトーなごはん屋の平日ランチが見てみたい。マンガ喫茶も、あとはホムセン。なにか配信で使えそうなゲームネタも探したい」

「わかった……。ランチタイムまで、少し時間あるから……ゲーセン……?」

「プリでもイジるか」

 

 茜くんは楽しそうにしてる……でもどっちかって言うと、箱入りお嬢様が知らない経験をしてる時みたいな雰囲気。ほんとに高校に来る前はどこで何してたんだろう。

 

 

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