虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
茜丸って女の子の初デートを汚さなきゃ気がすまない病気にでもかかってるんですか???
いえ、あの……昨日りな子と茜丸が学校を休んだので電話したんですけど、りな子から茜丸とデートして来たって返ってきまして。
青春してるなーって思ったのですが、デートに発展した経緯がそれはもう酷くて酷くてですね。あんなの最早介護じゃないですか。りな子には泣く権利があります。茜丸には拳が必要なのでそこを動くなよ。
それで今朝冷凍コッペパンを茜丸に叩きつけて来たんですけど、その後すぐに生徒会室へ行ってしまったので文句が言えずじまいなんです。
結果無事お昼になって解凍されました。放課後という選択肢が入ったため小豆バーチャンスです。りな子の仇(死んでない)。
「……それで、デート自体はどうだったんですか?あいつプランとかそういう言葉から一番かけ離れた位置にいる男ですし」
「多分、普通のデートが出来たと思う……。でも、色々新しい問題も見えて来て……」
「なるほど。皆と共有出来そうな情報ってありました?」
「一応……かすみさんになら言って良いって、茜くんから言われてる……」
「あぁ、大袈裟には受け取らないだろって事ですか。茜丸はなんて?」
「喘息持ってるから、皆のストッパーよろしくって……」
「反応に困る」
長年隠してた秘密その1が普通に重い。しかもこれが氷山の一角とかお腹下しそうになるんですが。私が背負って良い役目なんですかねこれ。紛う事なき侑先輩案件では?
いや、任されたからには全力でやりますけども。
「もっと早く言っといて欲しかった話題とは言え、よく聞き出せましたね」
「茜くんが折れたから……」
「諦めたということは、それ程までにりな子を受け入れたと?」
「それか……もうネタバラシしても良いレベルまで、終わりが近づいた……」
「大人になるまで一緒にいる約束は?」
「私が破棄せざるを得ない状況まで、持っていける準備が出来た……とか……」
「そんな事してる暇ありましたっけ」
「わからない……」
ほんとに意味がわからない。約束無下に出来るほど一般メンタルは育ってないので、そんな人道から外れた道は取らないと思いますが……いやどうでしょう。時が来たら確定で私とりな子が立ち塞がる壁になるので邪魔ですよね。茜丸の本気の抵抗を止められるかどうか……。
「りな子はどうするんですか?帰ってこない相手の帰りをずっと待つ道に片足突っ込んだわけですが」
「茜くんに関する情報が、圧倒的に足りない……」
「そう言えばしず子が茜丸の地元に行ったって話してましたけど、私達も行ってみます?」
「行ったのを知られた後、距離置かれないかが不安……」
「どうせ行かなくても距離置かれるのは確定してますし、今賭けに出ないと一生後悔しますよ。それに当のしず子は茜丸と仲良くなってますし」
いや改めて話すと訳わからん案件なんですが、茜丸の地元を訪れたしず子がそれをデートの時に本人に直接話したらしいんですよ。そしたら蟠りが消えたみたいに仲良くなって。
以前同様喧嘩夫婦みたいなやり取りはしてるんですけど、ほんとにしず子の態度が軟化いたしまして。一体全体なにが起こっているのやら。
「仮に行くとして……茜くんの実家の場所……どうやって聞く……?」
「あー…………しず子か茜丸のお義父さん辺りに……結構難しいてすね……。今度話してみるので一旦終わりにしましょう。で、これのついでと言ってはなんですけど、一つだけ相談良いですか?」
「うん……大丈夫……」
「実は、今朝からせつ菜先輩が欲しいもの捻り出してくれって茜丸から言われてるらしくてですね。なにか知りません?」
「…………多分、この間法定案件を1個片付けたから……」
「ついに裁判所デビューしたんですか。なんの罪?」
「LouTubeのやつ……」
「あー」
ついに決着がついたんですね。どうせなら傍聴したかった。多分ですが遥か未来で私も法定デビューするでしょうし。
「名誉の賠償で金取れたと……そういえばあの動画ってメインせつ菜先輩でしたっけ」
「だからお金を上手いこと渡しといてって言われて……。茜くんもせつ菜さんが遠慮しないようにしてる最中なんだと思う……」
「それ茜丸が直接やった方が違和感ないですし、筋も通ってません?」
「自分のせいでせつ菜さんがこうなったから……触る権利すらないって、ずっと言い張ってて……」
「確かに言いそー……」
マージであの男はさぁ……。なんで普段はバカな子供なのに責任絡んだ瞬間に大人になるんですか。もっと投げ出すべきでは。それに父親がめちゃくちゃ頼りがいのある仕事してるのに……お義父さんも頼って貰えなくて寂しがってるんじゃ?
「茜丸は触れないのにどうやって渡すんですか?カードはOKとか?」
「私と茜くんの口座に入れたから……勝手に出して使えってことだと思う……」
「……………すみません、りな子と茜丸の口座ってなんです?」
「共用口座……。茜くんが作ってくれた……」
「共用……口座……?」
それってあれですよね?同棲した男女が作るやつ。それを作るか作らないかで揉める事もあるという伝説の恋愛イベ。
少なくとも軽い関係の異性に渡すものじゃなかったはずなんですが……えっ、なに?惚気?
「実はもう付き合ってたりします?」
「まだ……。多分これもビジネス的な何かのはず……」
「ここまで来てビジネスはさすがに無理があると思うのですが…………」
「茜くん……全然そう言う素振り見せないし……。夜も未だに添い寝止まりだし……」
「いや…………めちゃくちゃ好かれてると思いますけど……」
別れる時の回収が鬼めんどいですし、そこ考えると一緒にいる覚悟を決めたとしか。逆に別れたあと返して貰うとしてどう切り出せと。もう自分のお金全部あげるからお前の人生全部くれルートでは。
それはそれとしてもっと自分の気持ちを前に出せ……!りな子も……!肝心な時にヒヨるな……!
「茜丸なんて嫌いな女が寝床にいたら警察呼ぶタイプですよ?」
「でも踏み込もうとすると逃げられる……」
「遠回しに手を伸ばすから逃げる隙が産まれちゃうんですよ。どストレートに全部教えてって言えば教えてくれます。現にしず子はそれで片付きましたし」
「変な距離感になりたくない……」
「夫婦喧嘩の一つも無しに深まる家族愛なんてないですよ?」
うーん……圧倒的チキン。今までのりな子は非が冤罪というか勝手な思い込みだったので、今の自分から殴り合いに行く状況にビビリ散らかしてる。迷惑とも違うから未知の体験過ぎて一歩を踏み出せずにいます。焦れって〜〜〜。
「はあぁ…………とりあえず茜丸と距離が出来ちゃった時は仲直りするまで私がキープしておきますので、りな子は1回衝突してきてください。そんな弱気じゃほんとに茜丸取り逃がしますよ?家でもそのテンションなんですか?」
「いつもはもうちょっと頑張れてる……はず……」
まあ、部室でのアタック具合を見ればなんとなく分かりますけど。あとは茜丸の過去をぶん殴れるフィジカルさえ手に入れればパーフェクトりな子の完成です。
茜丸もりな子も精神論だけで動いた事がないので、恋愛系との相性が最悪なんですよね。性愛ですしもうちょっとスケベに頼っても良いと思うのですけど。世の人間は後悔するほど性欲に振り回されてるというのに。ヤり欲金欲少ない恋愛ってこんなにピュアで面倒くさいんですね。漫画か?
◇
三船栞子は分からない。
目の前にて文化祭の会場準備を手伝ってくれている男の意図がわからない。自分のクラスはどうしたのかと尋ねたが、「ボク、王様だから」とよくわからない理由を返してきた妖怪一人百鬼が分からない。
いや、別にクラスをサボるのは分かる。いけない事だけど。栞子が聞きたいのは好きな人さえいる自教室の仕事をサボった挙げ句、なぜクラスの手伝いより大変な生徒会の仕事を手伝っているのかについてだ。
全くもって意味がわからなかった。なにか欲しい物でもあるのかと勘ぐってしまう。
「あの……クラスの方は良いんですか?推しさんとの思い出が作れる数少ない機会なのに……」
「別に文化祭ならあと2回あるし。それに栞っちのことだからどーせ適正任せの事務的マシンオペレーティングしてるんだろうなーって。支持率落ちて生徒会権力無くされるとボクが困るのよ」
「私のため……と?」
「株と一緒でライブ感多めだからたまに顔見んと不安になるんじゃ。それに同好会ばっか贔屓してもつまらないし。サファリドキュメントの撮影なのにライオンばっか撮影するバカな企画者はいないって話さね」
「茜さんが掲げる平等には差別も無ければ優遇もないと」
「ボクが面白いと感じられるならあとはどーでも。まあ、栞っちが好きなのはあるから、安心してドーンと任せておればえぇよ。ほっほっほ」
胡散臭せぇ……。
ここまで信用できない『好き』の2文字は初めてだった。相変わらず隙を見せる気になれない怪しい人間。メリットを提示すればメリット分働いてくれる事以外なにも信用できない、正しく神話の悪魔みたいな人。
最近はこれに気に入られた推しさんが少し心配になる程には、茜は酷い性格をしているのである。
「あ、そうだ。いいんちょから文化祭の個人目標の紙出しとけって言われてさ。これって最後は栞っちに行くんだよね?今渡しちゃって良い?」
「大丈夫ですけど……期日昨日まででは?」
「ペットのスパーダ元帥に納税する供物を採取してたら1日が終わってた」
「ペット飼ってるんですか。品種は?」
「アシダカグモ。好きなものは下水道産クロゴキブリ。特にバーガー屋の残飯食いたての個体はよく食べてくれる」
「な、なるほど」
瞬間脳裏に店の裏でゴキブリを漁っている茜が浮かび上がったが、さすがにそこまでではないと思い……おもい…………多分ちゃんとしてくれてるはずなのでこれ以上は聞かないことにする。
「……えっと、目標『運命を書き換える権利』……とは?目標と願いは違いますよ?」
「他に書くことがないから、とりあえずテストの空欄埋めとけ精神で書いといた。上手いこと先生説得しといて」
「いや、自由記載なので大丈夫ですけども……こういうのって七夕とかに願うものじゃ……?と言うか何に使うんですかこの権利……」
「宝くじ当てる」
「くだらな……そもそも茜さんなら自分で稼いだ方が早いのでは?」
「非課税の5000兆円欲しい」
「あっ、そう………」
頭の中が自由奔放過ぎるから話してるだけで疲れる。本当はどんな場でも上手く回す能力を持ってるはずなのに、事が起こったら場を引っ掻き回して帰ってくる未来が見えた。
そうして茜を見るたびに、適性とは何かという栞子のアイデンティティに関わる悩みが芽生えてしまう。
「茜さんって前はどんな人とお付き合いされてたんですか?」
「どんな人かー……うーん…………どんな人……人……人柄……」
「そんな熟考するほど癖が強いんですか……」
「いや、ごくごく一般の知り合い程度の人しかいない。付き合いと呼べるほど付き合った人がいなくて」
「友達が0人のままだったと……?」
「一体全体摩訶不思議な話だが、ボクはボッチだったらしい」
そりゃそんな性格してたら人は寄り付かないだろ……とは思ったものの、これを口に出したら人としてなにかが終わる気がしたので黙りこくった。栞子にだって社交辞令を使うくらいの経験値はある。
しかし、そんなぼっちが高校に上がった瞬間に男女問わず慕われまくり。大人という意味で打算的になった弊害であるというのは分かるのだが、それを考慮してもなおこれに全幅の信頼を置くのは無理に等しいと思えた。
「気になったのですが、茜さんって私以外の人にもそうしてるんですか?」
「そう……とは」
「その胡乱で手放しに信用できない感じです」
「まるでボクが怪しいおじさんみたいに」
「おじさんかどうかはどうでも良いですけど、怪しすぎますよ。どうやって同好会の皆さんを説得したんですか?」
「わかんない。なんか勝手に振り回して来たと思ったら、『お前も部員だ』って組織に組み込もうとして来て。十中八九ファミパンサポーターとコッペパン部長が原因なんだけど、何故か身内もノリノリで。特にパンチー馬菜々会長がしつこくてしつこくてっすね」
めちゃくちゃ遠い目をしてるのを見るにだいぶ振り回されたのが伺える。あの茜が何かを毛嫌いしているのは新鮮だけど、やはり聞くたびに危なさがヒシヒシと伝わってくる。
だが迷惑だったのならそう言えば良いのに。それをしなかった事実を考えると好きな部分もあったのでは……と、栞子は考えながら茜の真意を探った。
「やっぱり会長とお付き合いしてるんですか?茜さんって」
「してないけど。てか『やっぱり』ってなんぞ?」
「皆さんが噂してましたよ?お二人の交際がどうこうって」
「なにそれ知らない」
「意外ですね。自分の見られ方についてはいつも気にかけてそうなのに」
「これを好きになる女がいるかいないかで聞かれるといないって答える」
「そこについては確かに同意ですけど……」
どうやら本人にも自覚はあったらしい。栞子も茜の意見に同感だが、以前取材した同級生の評価を見るにもう少し自己評価を高く見積もっても良いような気がした。
「とりあえず会長との交際はデタラメ、と」
「前にも言ったがボクは独身を貫く予定なので。そもそも推しアイドルと健全な関係を築き続けてるこのボクが、女周りで緩くなるわけないだろう。段階は踏むし、付き合ってるならちゃんとアピールもする」
「健全……?」
「おうおうなんだその目は喧嘩なら買うぞこら」
「一緒に住んでるのはちょっと……」
「家政婦だと思えばなんともないでしょ」
「それならまあ…………いや家政婦は家政婦で体よく使われてるみたいで健全ではない気がするのですが。特に目に見える報酬があるわけでもなく」
「仮にそうだっとして、栞っちには止める義理なんてないんだしどうでも良くね」
「いやそれくらいは──」
──ある。とは言えなかった。言おうとしたけど言えなかった。なにか、茜の事が好きで必要以上に気にかけているように見えたから。
瞬間、栞子の頭は混乱に沈んだ。なぜ今、自分は茜を庇おうとしたのか。茜の言う通りそこまでの情はなかったはずなのに。一体全体どういうマジックが隠されているのだろう。
「そんな一瞬で情に流されてたら、適性作業で賄賂に屈する羽目になるよ。土下座された瞬間に絆される」
「な、なんですか急に……。なにが言いたいんですか……」
「そうやってすぐ狼狽えないの。弱み見せたら悪〜いおじさんに騙されちゃうよ?栞っちは恨みを買いやすいやり方をしてるんだし、もしその恨みを買った人にハメられたら目も当てられない惨状になる」
「もうちょっと脈絡を用意してくれませんか……」
「ペンで起こした戦争に脈絡とけ関係無いからね。いつどこで相手が仕掛けてくるか分からんのに予定組んでも無駄手間だよ」
「…………私のため、と?」
「言うとすれば……スポンサーの気まぐれ抜き打ち適正検査?張り合いある画にしないとクソ映画としてさえ扱われないからね。真のクソは誰も反応しない作品だし、そういう作品にしないための検査だ。栞っちは普通に育って普通程度の曇りイベしか経験してない普通の優等生だから、メインキャラにしてはちょっと映えなくて」
カチン……とは来たけど、過去にドラマで見た悪役のテレビ局員がこんな感じだったのでそれを真似てるだけ……と栞子は自身に言い聞かせた。大人の世界はこういうやつがわんさかいるぞという茜なりの気遣い。
だが、やっぱり薫子との出来事を普通だの地味だの言われるとムカッとする。今回は茜なりの教育として受け入れるため不問とするが、次に言われたらちゃんと言い返す。
「…………悪かったですね。普通の子供で」
「しっかりしてるね。個人的には反論を待ってたんだけど」
「言い争ってなにかありますか?」
「うーん……まあいいや。争いにするほどじゃない思い出なら、これが栞っちの起源ってわけじゃなさそうだし。宛が外れたけど新しい宛が見つかったから大丈夫」
そう言いながら茜は会計の元まで走ってしまった。なぜだかこちら側が悪いみたいな空気になっていたが、栞子は大人なのでグッと堪えた。積もるものは山ほどあるが。
「……はぁ」
言い返さない理由?争うほどじゃない?周囲と法が許すなら殴り殺してましたが???
めちゃくちゃ悔しいけどここで口車に乗ったらなにか人としてアウトな気がして栞子は動けなかった。
しかし同好会を手にかける際の情は一切なくなったので、そこだけは茜に感謝の意を送った。あんな男のフィクションに振り回されてたら出来る事も出来なくなる。そう栞子は学んだのだ。
運命とか筋書きとかもうどうでも良い。きっと茜には人道の適正がないだけ。だからこれからは頭半分に話を聞く。
こうして栞子は再度決意を固め、奮起を燃やした。全部終わったら茜の言ってた事を訂正させて謝罪させて、そのあと自分の側近にする。お前が大嫌いだって言いながら監視してこき使うんだ……と、栞子は恨みの火を燃やした。