虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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63.遥か彼方の夕雲まで、行くぜかっとびケモノ飛びィ!!!

 近江彼方は虎である。故に餌である夕雲茜を付け狙っていた。

 

「あ〜く〜ん、いくらコスプレOKって言ってもー、あの格好で外を出歩くのは危ないと思うなー」

「隠すところは隠したので大丈夫です」

「おねーちゃん良くないと思うな〜」

「話聞いてくれませんかね……」

 

 近江遥は龍である。故に供物である夕雲茜を付け狙っていた。

 

「大丈夫って言っても実際に見るとかしない限り納得できないなー。お姉ちゃんも私も茜後輩が心配なんだけどなー」

「すいません衣装は暖炉にくべましたので。あとボク明日仕事なので帰りますね」

「そういうと思って作り直して来たよ。はい、着よっか。先輩命令だから拒否権はなしね」

「ボクと遥さん同い年──うわなにこの完成度キッッッショ」

 

 夕雲茜は贄である。最高級の贄である。故に獣を目覚めさせてしまった。

 

「ほらほら、早く着ないとお人形さんになっちゃうよ?茜後輩も楽になりたいでしょ?」

「尊厳と性奴隷という言葉がありまして」

「この世にはね、大切だけど盗んでも良い「こ」から始まるものがあるの。なんだか分かる?」

「こ、心……?」

「衣だよ」

「追い剥ぎじゃないか……いやそれ犯罪ィ……!」

「はっはっは、じょーだんじょーだん」

「そっすよね……」

「じゃあ脱ごっか」

「そこはマジなんだ……」

 

 ジリジリ躙り寄ってくる龍虎を前に成す術なく、茜は壁際に追い詰められていく。死ぬわけじゃないのに走馬灯が頭を駆け巡り、正しく"終わり"がにじみ出ていた。シンプルに窓ガラスを突き破って逃走しようかと瞑想してしまう程には酷い。

 

「どうしても着なきゃ駄目でしょうか……」

「かすみちゃんにだけ見せるのはフェアじゃないよねー?私も見たいな〜」

「皆に内緒でデートに行くからこうなるんだよ」

「それとこれになんの関係が……なんで怒なの……?」

「そういうところだよ〜」

「茜後輩はダメダメだねぇ」

 

 

 ──だってしてみたいじゃん。茜とデート。

 

 

 言外にそう圧をかけてみるが伝わるはずもなく。二人はため息を吐きながら目の前のふぇふぇオーラを出す正座男に目を向ける。

 

 ただのデートでさえした事ないのにそんな大阪でコスプレデートとかズルいじゃん。と、二人は情念を燃やしているのだ。デートの相手が璃奈なら受け入れられたのだが、あいにく今回はかすみという茜との仲が常識的かつ現実的な関係を築いてる人間。なので二人は「かすみと同じくらい仲良いんだしワンチャン私も行けたのでは?」と考える余地を得てしまったのだ。

 

 その結果、分かりやすい羨望を抱いた。恨めしいのではなく羨ましい。隣の家はなんでも買って貰えて良いなと思う感情に近い。

 

「えっと……確認なのですが、着せたあとのご予定は?」

「えっ。撮影?」

「あと昼寝〜」

「写真に収めてなにするん?」

「歩夢先輩だけ写真持ってるのズルいじゃん。茜後輩にエロ写送らせたんじゃないかって侑先輩だけは思い詰めてたけど」

「なにその面白そうなすれ違い。絶対良い画とれるじゃん」

「ちゃんと説明しとくんだよ〜」

「ボクが出ても拗れる気しかしませんけど」

 

 おそらく今の状況で侑の前に出たら確実に殺されると想像がつく。死ぬのは良いが人の手で地獄に落ちるとか茜のプライドが許さないので御免被りたかった。あと侑を犯罪者にしないため。道を外れた歩夢を元に戻すためなら高咲侑は平気で体を差し出してくる。スケべでも臓器でも何でも差し出してしまう。そういう人なのだ、あの先輩は。

 

「というか歩夢先輩に写真貰えば済む話では」 

「茜後輩、発明家のくせしてオリジナルの良さがわからないの?」

「だとしても近江ハウスに誘拐する意味はないと思われますが」

「あーくんの家行く〜?」

「えっ、絶対嫌です」

「なら他に場所はないでしょ?」

「部室」

「いつもと同じ背景じゃ新鮮味が足りない」

「青姦するカップルと同じ理由じゃん。つまり公然わいせつ。ボク帰るね」

 

 流れるままに部屋のドアへフェードアウトをしようと試みたが、残念ながら立とうとする意思を見せた瞬間に腕をホールドされてしまった。

 こうしてエステの定期契約と変わらない悪徳性獣と化した龍虎姉妹を前に、茜もついに覚悟を决める。

 

 

 価格交渉だ。

 

 

「1枚5000円で許可する」

 

 

 その瞬間に5000円が出てきた。2人から10枚ずつ。

 

 どうやらこの姉妹の脳内には茜の知らない世界が広がっているらしい。ただの男のチャイナドレスに計10万?頭のネジとかそういうのを超えて、もうグラボやCPU全部抜いたPCケースしかないやろと頭を抱えた。

 

 

 そして変わらずジリジリとにじり寄ってくる近江姉妹。このままでは金さえ払えばどーたらこーたらと二人に悪影響が出てしまう。なので璃奈に持たせられた防犯ブザーを鳴らし2人を正気に戻した後、茜は正座した二人に対して返金とガチ説教をした。

 そのあとあまりの落ち込み具合に同情してしまったので、10円だけ貰ってサービスタイムを開始。茜は喰われる事を選んだ。

 

 しかし結局は写真など関係なく抱き枕にされたため、衣装とはなにかを考える茜。抱きまくらカバーに近い趣向だろうか。

 そのまま近江姉妹が目覚める2時間後まで茜は熟考したが、結局チャイナ服を来た意味は分からないまま帰宅することに。帰ったら璃奈に押し倒された。Why.

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 問おう。幼馴染みのスマホからエロ自撮りが出てきたらどうする?

 

 問おう。あなたの家族が合法未成熟男児の極みスリッドチャイナドレス写真を所持していたらどうする?

 

 問おう。姉妹に等しい親友がその写真をなんの悪びれもなくホーム画面の壁紙にしていたらどうする。

 

 

 

 答えは簡単。

 

 

 

 寝込むしかないだろ。

 

 

 

「……あの、侑先輩?どうしたんですか?茜丸が寝取られかけた時のりな子みたいな顔してますけど」

「あ、鮎……あびゅ……歩夢が……えっちな自撮り持ってて……つ、捕まる……」

「別にアルバムに入ってるくらいなら大丈夫ですよ。誰にだって羽目を外したい時はありますから」

「LINEに……載ってた……」

「oh……」

 

 あの歩夢がエロ自撮りを送るほど惚れ込んだ相手が出来たと。侑にもバレずに?

 

 あまりにも不可能な影にイマジナリーを疑うかすみ。いや、確かに歩夢の男ウケが良いのは認めるけども。仮にかすみが男だったら確実に告っていたし確定でフラレていた。

 

 だから歩夢に男が近づくところまでは理解できるのだ。何をどうしたらそこまで侵食出来るのかがまったく理解できないだけで。かすみの知っている範疇だと、それができそうなのは本当に茜くらいしかいなかった。

 

 そもそも歩夢は高身長かつ男らしいイケメンを見ると怖がってしまう質なのだ。なので茜くらい女を生きる男じゃないと御免と無理を被る人だった。そしてそんな歩夢にマッチした茜と同等の男の存在。

 無理くり候補を立てるとすれば、茜が好きだけど璃奈がいるからと優しさを発揮してしまい、誰にも打ち明けられず近所の中3としっぽり………ガチの事案臭が漂って来たな。茜に責任取らせた方が良いだろこれ。

 

「えっと……今のところ事件的なあれは……?」

「ただ写真があるだけで他には…………どうだろう……触るくらいはしてるかもしれない……」

「中々大胆ですね……というかお互い揃った状態で写真撮ったんですか……」

「着替える時から一緒だったって…………これあれだよね……コスプレものってやつ…………」

「ちなみに場所は?」

「歩夢の家……」

「相手のメンタル鋼過ぎません……?」

 

 いつ侑が来るかわからない場所で、よくもまあそのレベルの矜持におよんだものだとかすみは苦汁を飲んだ顔を見せる。もしかしたら青姦と同じ感覚だったのかもしれない。十年来の友情がセックスのスパイスに使われたのは何とも胸糞悪い話だが。

 おまけに歩夢は強く頼まれると大体のことは受け入れてしまう。きっと彼氏の土下座を見てしまいしょうがなくやったのだろう。

 

 そんな風にかすみはモヤモヤを溜めながら、この準寝取られ事案をどう料理しようかと思い悩んだ。こういう痴情のもつれを茜に見せると璃奈を警戒してしまうので、なるべく当事者とかすみだけで解決したいところである。

 

「写真って見せてもらうこと出来ます?」

「い、良いけど。あんまり幻滅しないでね?歩夢にもきっとなにか事情があって──」

 

 むしろ被害者なのにどこをどう幻滅しろというのか。

 そう思うかすみに対し、侑は申し訳無さそうにスマホの写真を見せて来て──

 

「か、かすみちゃん……?なんで土下座してるの……?」

「ごめんなさい侑先輩これ私のせいです」

 

 確かにコス用衣装を歩夢に見て貰ったと茜から聞いていた。資料用に写真も共有したと聞いていた。でもまさか件の写真がこんな俯瞰照明45度盛りのガチ自撮りだとは想像できず。かすみが思い浮かべたのはなんというかこう……設定資料集に載っているような前後横の全体図みたいなものだったから。 

 

「あの、この間茜丸と大阪行ったって話したじゃないですか」

「そ、そうだけど……使いどころ無くない?」

「今年できたコスプレパーク的な場所に行ってきまして……そこが自前の衣装でもパーク内を歩けるという事だったので、可愛さ勝負をしようって……服装からメイクまでオリジナルで……それでその……」

「そのチェックのために歩夢を……ってこと?じゃあかすみちゃんも?」

「は、はい……私は愛先輩に見てもらって……」

 

 安易にウリ耳をつけて行ったけど、予想通り想定以上のものをお出しされて惨敗した。もはやトータルでは勝てないと事前に分かっていたので対策もしたのだが、完膚無きまでにボコボコにされた。

 

「そっか……歩夢が特殊な趣味に目覚めちゃったわけじゃないんだね……。いやでも壁紙にする必要は無くない……?」

「単純に勿体ない精神では?消される前に保存してなんとなく壁紙にしたとか。ほら、歩夢先輩ってそこら辺の概念薄いじゃないですか」

「万が一の可能性とかない……?」

「大丈夫ですよ。今のところ恋愛には乗り気じゃないらしいですし」

「でも……一昨日からずっと茜の話しかしなくなったし……スマホの履歴もちょっと前から『姉代わり、まだ仲良くない』とか『小さい男の子の好きなもの』とか『素直じゃない子への寄り添い方』とかでいっぱいだし……その内茜を養子にしようとか言われるんじゃ……」

「いやぁ…………ほんのちょっと行き過ぎただけの世話焼きかと」

 

 なぜそんな子育て中の母親みたいなサジェストが。一体どれだけの濃い思い出を詰め込まれたのだろう。いや、茜の事だから勝手に歩夢を気ぶらせてるだけなのはわかるが……。だがもうちょっとこう良い感じの距離感で収まらなかったものかとかすみは思いを馳せる。

 

「そもそも茜丸ってえっち方面の話がてんでダメじゃ無いですか。性欲見せると即行で離れていきますし」

「彼方さんの事は受け入れてるから……」

「あれは受け入れてるんじゃなくて諦めてるんですよ」

「わりと満更でも無いって顔してない……?」

「末っ子気質はどうあがいても隠せないのでしょう。ですが茜丸の意思の範疇では受け入れてません」

 

 さすがの茜も彼方のような人間は初めてだったのか、いつも対応は後手後手に回っていた。そして今も彼方を止められるのはエマだけだとそこを宛に逃げるのだが、三年生かつ茜と出会った時期が同じという共通点があるため、エマとの反応の差にジェラって彼方は余計攻めてしまうのだ。

 

「いっそのこと歩夢先輩に聞いてみるのはどうでしょう?これが一番安心できると思うのですが」

「だ、大丈夫かな……?」

「侑先輩が茜丸を好きになってたらどうしようって、歩夢先輩も似たよう不安を零してましたし大丈夫だと思いますよ。そもそもの話、茜丸がりな子を振り切れるわけないじゃないですか」

「そ、そっか……そうだよね……うん……茜だもんね……。ちょ、ちょっと、帰ったら聞いてみる……。ありがとね……」

 

 なんとかこうにか立ち上がれそうな侑を前に、かすみは安堵の息を漏らす。些かキョドり過ぎな気がしなくもないが、長年連れ添ったパートナーが寝盗犯になる可能性を突きつけられたら誰だってこうなるかと察し落ち着いた。

 とうのかすみもどこの誰かも知らん女に茜が逆レされたら、相手の上と下の口に残飯捨て場のクロGを敷き詰めると思うのでやっぱり気持ちは理解できた。口の中に詰めるだけで食わせるわけではないので茜の生命第一主義にも反してない……と思う。別にGからすれば口の中とか入り慣れてるだろうし。

 

 まあ、あくまで妄想なので実際は穏便に済ますだろうけど。誰だって頭の中では嫌いな人を殴るくらいの妄想はしているし、夢と恨みは抱くだけならタダの権利と夕雲ゼミで教わった。

 

「茜丸が絡むとみんなガタガタになっちゃいますからね。もう少し内側をさらけ出してくれれば不安にもならず帰りを待てるんですが……今度全員で囲い込んで親睦会でもしてみます?」

「囲い込む所まで持っていけ無くない?」

「せつ菜先輩に頼めば連れて来てくれますよ」

「かすみちゃんでもりなちゃんでもなく……せつ菜ちゃん?逃げられたりしない?頼み事の一言一句全部突っぱられてそうなイメージあるんだけど……」

「茜丸って意外とゴリ押しには弱いんですよ。だから迷いの無いせつ菜先輩の頼み事なら通ります。一切グダらずひるまないで行く事が条件になりますが……でも、そこさえ押さえれば絶対行けます。私の知る限り、確定ゴリ押しを決められるのはせつ菜先輩だけです」

「りなちゃんさえいれば解決って感じにはならないんだね」

「そこら辺の男と同格だったらそれで済んだのですが、茜丸はめんどくさいの擬人化なので……適材適所で人を組み込まないと連絡どころか影すら掴めなくて……はぁ……」

「あはは……いつも頼ってばっかでごめんね……」

「いえ、茜丸関係は私が舵切らないと部が崩壊するので。あとこうしてれば事務的にですけど茜丸に会えますし」

「茜っぽいね」

「いや……あの、違うんです……」

 

 別に乙女で子供みたいな言葉がポンポン思い浮かばなくなっただけで、ロマンチックに「寂しいから会いたい」と感情語を吐きたい気持ちはかすみにだってあるのだ。というか昔はそれが紛いも異論もない一番の純愛だと思っていた。

 

 でもずっとやってると疲れるからなぁ……とかすみは自分のつまんない心をつつく。大人になるということは心が詰まらなくなることだと茜は言っていたが、これがそうなのだろうか。だとすれば茜の心はもっとカラッカラに干からびている事になるわけだが。

 

 

 きっとこういう不安感を無意識で煽るから茜周りは厄介なんだろうなと察し、かすみはしず子に愚痴りに行った。

 

 

 その結果……縁か腹、どちらか切ってこようかと言うしずくの提案はマジかガチか。ひとまずその薙刀の刃が模造刀であることを願うばかり。

 そういえばしずくは模造刀でスイカを斬る特技を持っていた気がするが……きっと大丈夫だろう。多分。おそらく。

 

 

 

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