虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
へびゃぁ
申し訳ありません。噛んでしまいました。64回もやっていれば噛んでしまう事くらいあります。
して
この度、「おしりの妖精しずくちゃん 〜仁義なき弐死ヶ崎戦乱編〜」のBlu-ray・DVDが発売される事となりました。感謝のペコペコ大車輪です。
限定生産版には購入特典として、ここでしか見られない限定描き下ろし短編アニメーション「しずくのお小遣い大作戦」が収録されており──
「…………茜丸さん、聞いてますか?」
「ぇ……?あーごめん、ホシボッチ育美のこと考えてた──ごめん謝るからその五右衛門ソードしまって。ボクが捕まる」
「次はないですからね」
「出来れば言葉で解決して欲しいという願いをおじさんは提示するぞ」
かすみというしずくの推しとデートしたのは謝るから、もう少し落ち着いて欲しいと茜はライオンを宥めた。以前にしずくとの示談デートは済ましたのだが、その時に刑務として「私の誘いはできるだけ乗れ」と誓約を取り付けられたのだ。そのためにこんな有り様へと変わり果ててしまった。もはや誓約というより呪いである。
「まあまあ、そんなぷりぷりプリズナーせずにお茶でも飲もんで休もうよ。せっかく季節も心地よくなって来た事だしさ」
「私がなんで怒ってるか分かりますか?」
「季節の変わり目だから気象と一緒に荒ぶってる。気性……だけに!──ごめん謝るからその必殺お仕事ニードルしまって。怖くてお注射行けなくなっちゃう」
「私がなんで怒ってるか分かりますか?」
「普段見れないかすみさんの激レア衣装を見たから……それとも許可なくデートに行ったから?」
「ズルいからです」
「バリクソ私怨で草」
これが噂の同担拒否。担当のグッズ交換目的で別担当者とグッズを交換する時、同担が多いとヒット率が下がるからと仲間を蹴落とす巷で流行りの同担拒否。茜は身震いした。
「とは言っても何がどうズルいのかがいまいちでして」
「私って茜丸さんよりかすみさんの事好きじゃないですか。少なく見積もっても茜丸さん5人分くらいはかすみさんが好きです」
「そうだね」
「でもかすみさんがデート誘う時って決まって相手は茜丸さんじゃないですか」
「男だからじゃない。かすみさんノンケだし」
「それは知ってます。私の好きもそういうのとは別物ですし。でもやっぱりかすみさんからデートに誘われたあげく大阪行きはズルいじゃないですか。言ってくれればハワイだろうと京都だろうとどこへでもお連れしたのに」
「うーん……あんまり粗雑に扱いたくないんじゃない?しずくさんの事」
「茜丸さんは言いましたよね。雑に扱っても関係が切れないというお互いの断言こそ強い信頼だって。そしてかすみさんは茜丸さんに染められている。つまり私は茜丸さんより大事にされてないという事になるのでは?」
「ボクも璃奈りーの事は大事にしたいと思ってるよ。早く健康な生活送って欲しいから周りを利用しまくってるし」
「特例もあると」
「何事にも例外はあるものさ」
ふと、頭の中でしずくから誘えば万事解決なのではという考えがよぎったが、多分言ったら再度刃を突きつけられるので黙っておいた。茜は賢いアイドル──いやでも早く帰りたいしワンチャンこれで解決するのでは???
「しずくさんから誘えば──いえなんでもないです」
「相変わらず乙女心がわからない人ですね」
「だってボク男だし。女性ホルモンぶち込むとかしない限り理解するのは無理だよ」
「せめてやる気と姿勢は見せてください」
「ダルいじゃん。なんで大して仲良くない人間相手にそこまでしなきゃいけないの。時間の無駄では。ギブ&テイクの責務だってもう果たしてるし」
「そろそろ認めたらどうですか?かすみさんもりなさんも大切な存在だって」
「ここにいるボクの中にあるのはどうでもいい物だけだよ。友達ごっこが限界」
「茜丸さんとは思えないギャグセンスの無さですね」
「こっわー」
絶対零度の眼差しに吐息が白くなる茜。よくもまあそんなずけずけとかすみに惚れ込んだ態度を出せるものだ。数年後に疎遠になって気まずくなる可能性を考慮してないのだろうか。引っ越しやその他諸々、離れ離れになる原因なんてたくさんあるのに。
「そんなにボクと仲良しこよしがしたいの?噂のアンチ擬態系のファンかなにかで?」
「あなたが嫌いなのは認めますが、別に消えてほしい訳じゃ無いですし放っておきたいわけでもないんです。むしろふらっとどこかへ行かれる方が困るくらいですので」
「ボクの周り束縛強い女しかいないんだけど、しずくさんが手引きしてたりする?」
「亡霊みたいな生気の無さを毎日漂わせてるからそうなるんですよ。自業自得です」
「人死の悲しさに溺れることしか出来ない相手が悪いやろ。ボクは悲しさと喪失感を引き連れなんて頼んでない」
「こればっかりは茜丸さんの感性がズレているのが原因なので直してください」
「日本人の底辺側に合わせる習慣大嫌いだから遠慮しとく。たまには環境に合わせなよ。環境に合わせて貰う事しか出来ないやつが誰かを変えられるわけないんだし」
「相変わらず付き合い浅い人には辛辣ですね。付き合い深い人には厳しくなるのであんまり変わりませんが。まあ、りなさんにはダダ甘ですけども」
「はぁ、なるほど」
茜に『何いってんだこいつ』という目を向けられたが、今の部分だけなら茜の考えてる事がわかるためなにも言わなかった。概ね『あんなに暴言吐いてるボクが璃奈りーに甘い……?』とか思っているのだろう。
しずくは内心で"言葉はそうだが行動を思い返してみろ"と煽った。どこかの寺でも語っていたが、言ってる事ではなくやってる事がそいつの本性であり本音なのだ。この男がしてきたことを振り返れば嫌われる可能性なぞ0そのものである。
そもそもの話、茜は嫌われだなんだを語る割には協力的すぎるのだ。りなに関しては言うまでもないが、一応の体裁上ではよく思ってない侑相手でさえ、茜は一般以上の気遣いを向けている。夏の補修で侑が熱中症気味になった時、それを自分で予測して連絡なしで即座にポカリを持っていくのは嫌われとどう繋がりがあるのか。仮に根が善性でも普通は連絡を貰って初めて状況を知るだろうに。
そして、そこまでしてもなお茜は嫌われると思っている。加えてそこに王様モードの横暴な振る舞いを足せば、嫌悪感の助長で簡単に人が離れていく……という仕組みらしい。全く持って効果は出てないし、むしろ余裕と貫禄が出ているため頼りがいすら生まれてしまっている。
結局、どうあがいても茜は誠心誠意まっすぐに尽くす事が本質の眩しい太陽であり、現在はそれにしっかり蓋をしたデバフ状態という事が証明された。
この状態になるまでにどれだけの本音本質本当の茜を捨てたのか。そして本物の扉を閉め切り、完全な偽物を完成させた茜のパチモン魂が心底無理だった。生理的に無理。気に食わない事この上ない。
「ふぅ……やっぱり私はあなたが嫌いみたいです」
「そんなほくそ笑まなくても良いじゃん。ボクにだって傷つく心はあるんだぞ」
「私の言葉程度で傷つくやわな茜丸さんなんて、この世に存在しませんので」
「期待キッショ」
「事実ですから」
実際気にも止めずにストローをティーカップに差し、そのまま汚い音を立てながら紅茶を飲み始める茜。おそらくガチギレ帰宅を狙っているのだろう。
相変わらず素行を悪くすれば相手は自分を嫌うと信じきっている茜の自己評価の低さは嫌いだが、こうして心の底から"苦手な相手を前にした態度"を出せるようになったのは嬉しかった。そこだけなら素直に褒めてあげられる。以前は空かした語り手みたいな態度で流されるだけだったから。
「嫌いな相手だとしても言って良い事と悪い事があるんやぞ。しずくさんのこと遺書にでも書いたろか」
「それが無駄手間なのは茜丸さんが一番わかっているでしょうに」
「ぶっちゃけただの金持ち娘に人殺しが出来るとは到底思えない」
「あなたを終わらせるだけですのでお気遣いなく。絵本を破り捨てるのと一緒です。心は痛みますがそこまで大層な気持ちにはなりませんので」
「かすみさんとの仲は?」
「他人の心配してる余裕があるんですか?」
「後味悪くて盛大に逝けない。もっとカーニバルみたいな雰囲気出せんの?」
「その辺りは契約範囲外なので自分で考えてください」
「ぶーぶー」
最後くらい大盤振る舞いしてくれないかと問う茜だが、全て契約範囲外の一言でしずくに一蹴されてしまった。
あいも変わらず当たりは強いしかすみが絡むと修羅と化すし、推しのためなら茜さえぶっコロせるイカれた女である。
「ぶっちゃけボクの人生ストーリーを自分の手で終わらせたいって気持ちに言うことは無いのよ。ただボクのために手を汚すしずくさんとかキャラ振れ酷すぎ案件ってだけで」
「自惚れないでください。私はかすみさんと私のために契約を持ちかけたんです。茜丸さんへの配慮なんて微塵もありません」
「ぶっちゃけなにが地雷になったのかが皆目検討もつかん」
「理由自体は単純ですよ。私のプライドが傷ついたってだけですので」
「プライドのどこらへんが傷ついたの?」
「それに答えたら茜さんは今すぐ思想を捨てて皆と仲良くしてくれるんですか?」
「しないけど」
「なら私も答えません」
馬鹿げた役を掲げてアホみたいに幼稚な理論を振りかざし、極端な屁理屈をこねくり回す自称頭の良いメンタルベイビー。
そしてアイドル世界では道行く人々全てを魅了し、人の汚さとは無縁そうな圧倒的眩しさを振りまき輝くトップスクールアイドル──を完璧に演じてみせる虚構の王。
そんなフィクションを超えた嘘の擬人化が皆の記憶にこびりつくのが許せなかったしずく。なので時が来たら自分の手で茜を終わらせたいとワガママを聞いて貰ったのだ。
それを受理して貰い、最悪を回避する保険が手に入ったのでその日以降ほんの少しだけ茜と仲良くなった。皆からは急に仲良くなったと不気味がられたが。
「ずっと思ってるけどさ、誰も彼もがボクに固執し過ぎなんだよ。特に同好会。大してアイドル活動の役に立ってないのになにが楽しいん」
「茜さんは楽しくないと?」
「楽しいけど。ボクだけ得しても……あー、そうだ。こないだの璃奈りーもそうだった。友達ごっこ申し込んだ対価を要求したら利益度外視の助け合い関係と、ボクの昔が知りたいって言って来てさ。璃奈りーは別に貧乏性ってわけじゃないのに」
「物事の価値感なんて人それぞれなんですし、りなさんの意思を尊重してみては?それともまだなにか隠してるんですか?」
「そうじゃないけど。なんだかなーって。ボクの幸せとパンビーの幸せは相容れないし、何しても無駄なんだからさっさと縁を切って青春を楽しめば良いのにって思う」
やはり茜は責任感だけがやたらと強い。いや、本人も責任感だけは大人でいたいと語っていたのでそこら自他ともに認知済みなのだが……やはり誰から見ても行き過ぎていると感じてしまうのだ。
こんなクソガキが何故そこまで……と時折悩むしずく。無論子供とて取らねばならない責任はある。だが茜の場合は取らなくても良い責任と言うか、そもそも自分の責任ではないので背負う必要のない責任なのだ。
「そもそも茜丸さんってりなさんとお姉さん以外だと、何に幸せを感じるんですか?」
「ifの未来を妄想してる時とか」
「例えば?」
「嫌いなやつが生まれて来なかった世界を創造したり」
「いや……確かに誰しもがそういう想像はしますけども……。もっと楽しい事とか……」
「幸せだよ。こいつさえ生まれなきゃ全部上手くいくって楽しめるから」
「水準低すぎません?」
「ジブン貧乏性なんで」
さすがのしずくも少しだけ不安を覚えてしまう。茜なら嫌いな相手が生まれなかった世界線を本当に作り出してしまいそうだから。
「もしかして愛さんにお絵かきやビーズ硬めがしたいって言っていたの、本心だったりします?」
「そこら辺嘘ついて何になるん」
「いえ、同情を買う以外の有効性が思い浮かばず」
「前に家のアルバムを見てたら『そういえば前に姉さんとビーズ作りしたなぁ』って思い出して。またやりたくなったんだ」
「お姉さん以外とやって楽しめたんですか?」
「結構楽しめたよ?愛さん先輩も笑ってたし。あと、帰ってから部屋を漁ったら昔姉さんから貰ったキットが未開封で出てきた」
「一人でやっても楽しいですよね、あれ」
「あんまり楽しくなかった。なんかパン工場の生産ライン立ってるみたいで」
「…………なるほど」
ふと、件の話としずくが見てきた茜の純粋部分を見て、ある仮説が脳裏を過った。
──もしかしてこいつ、人と気持ちを共有して初めて成長するタイプなのでは?
……と。
一人だと永遠自論の殻に閉じこもってしまう。その殻に閉じこもって何が守れるのかは定かじゃないが、茜は一人でいさせると勝手に悟って息を絶ってしまう人間。
知恵や苦労が豊富で絵に書いたような電波人間で、そのせいで死生観が狂っているから自分の命程度なら平気で投げ出す。
今までは『 こんなぶっ飛んだバカをどう矯正しろと……』と何度か思い悩んでいたしずくだが、もしかしたら茜は思い込みが激しいだけなのかもと解決の糸口が見えて来た。
「今度りなさんを遊びに誘ってみては?」
「周囲にデートって思われたらファンとアイドルのバランスが崩れる」
「友達として出かけたって後で説明すれば良いじゃないですか」
「めんどくさい。ボクはひっそり穏やかにりなりーを好きでいたいんだよ。そんな弁明の非日常は御免被る」
「家に住んでる非日常は?」
「そこら辺は勝手に情報が広まって勝手に馴染んだから。でも今回はどう頑張っても勘違いされる」
「嫌なんですか?りなさんのファンなのに」
「別れづらくなるの純粋にめんどい」
この男は今も璃奈から逃げる機会を伺っているのかとしずくは呆れた。おそらく璃奈の気持ち的にも無理だし、物理的にもGPSやらハッキングやらで居場所が割れると思うので逃げるのは無理だと思えるのだ。
それを振り切りながらの生活なんて脱獄逃亡生活そのものでは。そっちの方がめんどくさい気がするのだが……茜からすれば後者の方が良いらしい。
「なんというか……変わってないところは本当に変わってないんですね……」
「ボクはもう完成されてるからこれ以上の成長はないよ。んで、どうする?しずくさんが話してた『皆といても何も変われないなら、皆の記憶にこびりつく前に私が斬る』ってやつ、実行するかい?ボクはいつでも良いよ」
「今の軽い雰囲気でやると私の記憶に残らないのでやめておきます」
「残すの?忘れるんじゃなくて?」
「どれだけ御託を並べようと殺しは殺しです。それに皆さんも悲しむでしょう。なので私は、私の責任から皆さんの葛藤と感情、果ては貴方の存在まで。全てを背負うと決めています……いえ、これは義務です」
「重すぎて体重に影響出てそう」
「ご心配なく」
「今更だけど、なんでただの部活アイドルがそこまで覚悟決めてるの?」
「キラびやかで楽しい青春のアイドルを貴方が潰したからじゃないですかね」
バッドエンドを迎えた夕雲茜を覚えているのは自分だけで良い。
消したあとは恨みのバッシングでも同情の慰め会でもアフターケアになるならどんな事でも受け入れる。
それで皆(主にかすみ)の茜に対する悲しさが消え、立ち直れるならいくらでも汚れる。
そんなクソ重い人想いを前に茜は胃もたれを起こした。そもそもそんな大げさな反応をされるほど皆とイベントを起こした記憶がないのだが。
いつも過剰に感謝されるがこんなの姉の人助けに比べたらごっこ遊びも良いとこだし、仮にそういう反応をしてくれる人がいるなら璃奈ぐらいしか思い浮かばない。だって茜が恩を押し付けたと自覚できているのが璃奈だけだから。
なので、しずくの覚悟は抱き損なのではないかと茜は思うのだ。おそらくしずくが手を汚さなくても皆はすぐに茜を忘れる。環境適応と知恵と理性は人が持つ数少ない武器なのだから。
だからしずくが覚悟を遂行する日はないと見据え、茶化しがてらストローで紅茶を飲んだ茜。直後、隣の席のマダムから紅茶の飲み方を指導された。違うんです聞いてください。