虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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69.茜係の朝は早い。まずは一撫でのスキンシップから始まる

 茜係である天王寺璃奈の朝は早い。

 

 まず目が覚めたら、隣に眠る男の手や頬をベタベタ触るところから始まる。

 虚構の王を名乗る通り本人がフィクションめいているため、ある日突然夢や幻のようにふわっと消えていないか触って確かめるのだ。

 

 ──という名目で日頃触れないし触って貰えないフラストレーションを解放する。

 

 頬をペタペタお手々をニギニギ、髪をさわさわ靡かせて。逆に相手の手を自分の頭の上に載せたりして、璃奈はなんとか自分の中の鬱憤を解消しているのだ。

 

 そして満足したら二度寝する。朝ごはん?あとで茜が作るから問題ない。

 

 弁明しておくと一応朝食を作ろうと試みた事はある。以前に茜の真似をして、朝の5時に起き自分で料理をしたのだ。

 いっちょ前にベーコンエッグと超熟でもキメてやるかと意気込んで、広く分厚く逞しく、サービス精神旺盛で大胆豪快にぶった切ったベーコンをフライパンにin。結果、肉が厚すぎて上の卵に火が通らなかった。そして火力を盛ったら無事ベーコンがお亡くなりになった。

 

 仕方ないので普通の目玉焼きにして、焦げたベーコンは別で食べたのだが正直食えたものじゃなかった。それはもう純粋に「苦い」という概念を食べていると錯覚するほどに。

 しかし、捨てるのは茜の思想上マイナスだし、璃奈からしても紛うことなきアウトサイドだった。なので頑張ってちびちびとカジったのだ。

 

 

 ──その最中に茜が起きてきた。

 

 スマホの新パスワードを突破し、目覚まし時計を切ったから絶対起きる事なんてないはずの茜が。アロマまで炊いたのにどうして。

 

 

 肝心の茜は勝手に目覚めたと主張していたけど、確実に焦げ臭さで起きたのが目に見えた。しかし、そんなの気にしてないという様子で即席フレンチトーストを作った後、璃奈作の物体化した苦味(焦げたベーコン)を豪快に食べ始めた時は流石に思考が飛んだ。

 

 無理に気遣わなくても良いと謝ったけど、茜は曹爽としながら「甘い物に苦さとしょっぱさがよく合うのは世界の定石ぞ?それにこれくらいならボクのスーパー知能でいくらでもカバー可能だから、頭を下げられても困る」と失敗としてすら扱われなかった。

 これがスキルの差。ただ純粋に家族を想って作ってきた人間と、茜にモテたいという不純な動機でイキり散らした性欲ザルの大きな隙間。璃奈は嘆いた。

 

 結局、ただただ2人が早起きして終わっただけの、ちょっと特別な朝になった。穏やかで平和な時間と言って差し支えないだろう。

 

 しかし人間とは面倒くさいもので、完璧に全てをフォローされるとそれはそれで自分の存在意義が感じられず不安になるのだ。

 だから茜に"失敗はちゃんと失敗って言って欲しい"と頼んだ。ついでにポロッと「ちゃんと頑張って直すから」と重い女の常套句を吐きめちゃくちゃ慌てふためいた記憶がある。

 それ以降は荒ぶった気性のせいで記憶が飛んでしまったが、あの日見たデレ茜の笑顔を見たような気がした。

 

 なんとかこうにか茜の顔を思い出そうと、全校集会中も延々記憶階層に潜っていた璃奈。しかし集会が終わり教室に戻った瞬間、茜に人が群がり始めたのでそれどころではなくなった。

 万年モテ期の茜の事だから今更恋愛絡みではないとして、一体何の話題で群れたのかと璃奈は盗み聞きを働かせる。結果、アイドルという言葉が聞こえてきた。

 

 どうやら、臨時の理事長が学園全面協力のもとスクールアイドルのイベントをやるらしい。夕雲ひまりがそれに出るか出ないかの情報を茜から聞き出そうとしているらしかった。

 結局『要話し合い』で片付き、昼休みはどこかに消えた事で茜は人波を逃れた。

 

 またしばらく茜と学校で話せなくなる事を察した璃奈。そろそろ『くじ引き操作席替え作戦』を実行した方が良いだろうか。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 茜係である三船栞子の朝は早い。まずは姉の薫子が来る事を黙ってやがった妖怪化け猫運命狐を正座させるところから始まる。

 

「いやだって薫子ねえねがサプライズだよって言うから……」

「喜びに繋がらないサプライズはアクシデントって言うんですよ。知らないんですか?」

「黙ってたのは謝るけどキレすぎじゃない?いつもはそこまで怒らないじゃん。ねえねに賄賂渡しましたとかでもないんだし」

「そ、それは……」

 

 思った以上に姉と仲が良いし、なんか本当の姉弟のような距離感で妬いてしまったなんて到底言えなかった。

 茜は姉に盗られたし、姉は茜に盗られた。好きな人が好きな人に盗られてしまい嫉妬の行き先を失った結果、栞子の愛憎の火はふわふわと彷徨う事になってしまった。

 

「まあ、何がどうなろうと栞っちの損にはならないから安心しな。上手く行けばスクドルエキシビションで、合法的に同好会とアイドル部の強制合併権が手に入るんだし」

「……はい」

 

 相変わらず茜は同好会潰しに積極的であった。だが、やはり……というか日が経つ事に考えてしまう。

 

 本当に同好会がなくなった時、茜はどうなってしまうのかを。

 

 もしかしたら全部どうでも良くなって、栞子が側近契約を提案する前にどこかへ消えてしまうのでは。死期が近づいた猫のように、人知れず姿を消してしまうのでは。そんな不安が栞子の胸の内を過ってしまう。

 

「あの、茜さん──」

 

 不安のせいか、意図せず口から茜の名が零れた。

 

「アカネー!!!同好会の人たち引き入れる作戦できたってホント!?!?」

 

 しかし、その声は嵐珠にかき消されてしまう。

 

「落ち着け赤さんや。別に今日明日で完遂できる作戦じゃないから慌てんで良いさ」

「内容は!?」

「スクールアイドルエキシビションのルールに則り、勝った方が負けた部を統合。その時にこれを渡す」

「これは……なに?」

「同好会がアイドル関連の部を立てないって約束させる誓約書。勝負に勝ったらかすみさんに渡して欲しい。ほら、ここに『同好会部長こと中須かすみは今後アイドルに関わる部の発足を──』って書いてあるでしょ?とりま目通しといて」

「エキシビションはどうやって勝つの?」

「そこはオメーの力でねじ伏せるんだよ。CE王とは言えテッペン見せなきゃ誰も納得せん。助言も格言も誰が言ったかが全てであり、雑魚の戯言とかただのオママゴトだからな。だから負けないでくれたまえ」

「わかった!!!」

 

 ワクワクホクホクの嵐珠に対し、これから起こる事が全部わかっているかのような茜。反応を見る限りでは台本通りらしかった。

 そんな策略模様を見せられるたびに、栞子の頭に不安がよぎる。それが茜の身を案じてるのか、自分たちの身を案じているのかは栞子には分からなかった。

 

「茜は同好会がなくなったらどうするの?」

「おや、嵐珠が面倒を見てくれるんじゃないのかい?まっ、ボクのお世話は大変だからヒヨるのは理解できるけど」

「やっとランジュについてきてくれる気になったのね!なら絶対勝たなきゃ……!約束!」

「うん、約束」

 

 透かした態度で嵐珠のグーに自分の拳を合わせた茜。この態度を出す時の茜は大抵一癖二癖策を引いてる時なのだ。というか既にもう自分好みのエンタメが出来ることに甘美して若干震えている。

 しかし、それは形の問わない終わりが近づいているということ。いつもは警戒を強める栞子だが、今だけは不安になる事しか出来なかった。

 

「じゃっ、とりあえず知名度ゲット用のライブして来よっか」

「ステージ取ってくるわ!」

「いってらー」

 

 嵐のように去って行った嵐珠。そして嵐珠がいなくなった瞬間に酷く疲れたような顔をさらす茜。本当に嵐珠が苦手なんだな……と少しいたたまれなくなった。

 そんな茜を労いつつ、栞子は胸の中で積もらせた本来の議題を相談する。

 

「あの、茜さん」

「どうしたの?真面目な顔して。今ちょっと疲れてるから……あっ、そうだ。再来週にやるオープンキャンパスの書類貰って来たよ。あらかた準備はネエネがしたから大丈夫だって。あとはこのプリント配布しといてだとさ」

「あ、ありがとうござい──なんで茜さんが持ってるんですか?」

「薫子ねえねが栞っちにって。全然会いに来てくれないからねえね泣いてたよ〜……って、なんで嫉妬したヒロインみたいな顔してんの?思春期?」

「…………べつに」

 

 本当に妬いてるのか、それとも腹立たしいだけなのか、距離感に戸惑っているだけなのかは自分にも分からない。

 茜は自分のものではない。ましてや誰のものでもない。そんな事は最初から分かっていたはずなのに。

 

「私、貴方が嫌いです……」

「知ってる」

 

 栞子の技能は冷静さを欠いたらまともに機能しなくなる。そして茜は栞子の冷静さをいつも乱して来る。なんなら破壊もするしぐちゃぐちゃにもする。

 そんな要注意警戒人物に栞子は顔をしかめながら、胸の内のモヤモヤと自分の頭を抱えなが心の中で吐き捨てた。

 

 ──私ってまだ茜さんの事が好きだったんだな……、と。

 

 ほんとに面倒くさい。拳で殴りたい気持ちとお手々繋いでデートしたい気持ちが同居している。これだから茜は……。

 

 

 

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