虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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71.電電ムシムシあかつむり。お前はどうしてここにいる

 嵐珠が同好会に実力を見てもらいたいとの事なので、話をした翌日にかすみの元へと足を運び、嵐珠のために枠を貰って来た。そして今は枠を貰う事の対価として課されたステージ準備の手伝いをしている。

 

「茜さん、どうしたんですか?梅干し食べた時みたいな顔してますけど」

「うーーーーんや、なんでもない。スピーカーが生産数少ないレア物だったからパクろうかなって考えてただけ」

「えぇ……」

 

 茜が担当しているのは、同好会が見学会のライブイベで使う巨大モニター。

 

 特に理由のない遊び心でそれに自作テスター(璃奈との共同開発)を指して遊んでいたら、断線一歩手前のブツを見つけてしまったのだ。多分ちょっと強い風が吹いただけで映像が落ちる。正確には線というよりコネクタの問題なのだが、どのみち起こる事象は変わらない。

 故に茜は迷う。自分は明日の璃奈を守るべきか、それともこの壁を乗り超えて強くなるかもしれない未来の璃奈を守るべきか……はてさてどうしたものか。

 

「……栞っち…………じゃダメだ。電話電話」

「今すごい失礼なこと言いましよね?別に多少の機械知識くらいなら私にも──」

「もしもし菜々ちゃん先輩?明日デートしてあげるので卒業後は交流禁止言い渡されるのと、明日我慢すれば40歳までは確定でボクといられるの、どっちが良いですか?」

……そんな事してるから妖怪って言われるんですよ……タラシ猫

 

 "なんで私じゃなくて前会長を頼るのか"

 "今の茜さんの会長は私なのに"

 "私の方が適正あるのに"

 

 そんな嫉妬と煩悩を栞子は抱き、そして振り払う。

 

 対する茜は電話先の菜々から『未来が楽しい方が断然良い。それはそれとしてデートはくれ』と答えを手に入れ、ケーブルを切る意思を固めた。ついでに電話も切った。

 しかし、これではライブ時に同好会の株が下がるだけな上、アイドル部の方もライブが出来ず評判は足踏み。進歩がないんじゃ感動的(略)バラエティの質も下がる。おまけに推しライブが見れない。なにをどうあがいてもカバープランが必要だった。

 

「だいたい茜さんはいつもいつも人の扱いが雑なんですよ。誰の気持ちも汲み取らない行動ばっかりで……一体私がどれだけ茜さんを気にかけているか……じゃない、私の気も知らずに引っ掻き回して勝手にことを進めて、少しは私の事も気にかけてもっと大切に……じゃなくて、もっと予定会議や相談をですね──」

「栞っち、明後日辺りに作文持って行くから添削お願い」

「………今回はそれで手を打ってあげます」

「ありがと」

 

 何かブツブツ言いながらぶーたれている栞子にお礼を良い、茜は会場を後にした。どのみち今回は会場設営なので栞子の事務的かつ理論的説明が最適解。そして栞子は茜の上司なので責任を押し付けても問題ないだろう。旅は道連れとも言うし。

 

 ついでに、この機会に栞子が適材適所の真髄を掴んでくれたりしないかと妄想してみる。どう頑張っても茜の力だけじゃ栞子のお固い部分を解せないから。

 やはり栞子にはもっと子供でいて欲しいと思ってしまう。栞子が大人を捨てられるように、良さげな相手をあてがわなければならない……茜はそう決意した。

 

 

……もうちょっと一緒にいてくれても良いのに……ばか……

 

 

 

 ─────

 

 

 

 ライブでモニターが落ちた後のプランニング。はてさて代替プランはどうしようかと思いながら歩いていた茜。気づけばアイドル部の部室前まで来てしまった。

 

「あるじゃん、最高のプラン」

 

 嵐珠立たせりゃ全部解決だったわ。よっしゃ交渉しよ──と茜はノック無しで部屋に突撃した。ついでに愛の様子でも見ておこうと思ったのだが、生憎嵐珠と知らない数名しかいなかったため願いは叶わず。

 

「嵐珠、いま暇?」

「えぇ、モーマンタイ。どうしたの?」

「明日のイベで変更点が出来た。ライブ出るのは変わらんから安心して」

「具体的には?」

「ボクが途中でモニターの電源落とすから、そこで順番抜かしの電撃ライブをして欲しい」

「……それ、アカネはどうなるの?」

「問題ない。モニターのコントラストが目に悪くて色覚酔いを起こしました。それで変なことしちゃったぜー。で通す」

「大分無理がある気がするけど……日本だとそういうサプライズが喜ばれるの?」

「うんや、むしろ混乱でキレ芸披露するやつもいる。だから嵐珠が鎮めて。構成は任せる」

「何もかもが無茶苦茶ね。目的も不明瞭で必要性を感じない。皆無そのもの」

「普通にやっても記憶に残るのは最初と取りを飾った同好会のライブだけ。人は最初になった基準以外は新しいもの好き精神で記憶の濃度が決まっていく。末っ子贔屓が起こる原因がこれだ。だからイレギュラーを起こして皆の記憶に嵐珠を残す」

「評判は来るけど何が来るかは分からない。諸刃の剣ね」

「零れる刃はボクがリカバリーする。面白そうだし付き合ってくれない?」

「ふふっ、良いわよ。アタシもそういうの好きだもの」

 

 頼もしいことこの上ない。前に比べて幾分か物腰が柔らかくなったせいか、嵐珠から大分話の分かるやつ感が出ていた。

 ひとまずこれにて目的は達成したため部室を後にした茜……部屋を出たら愛がスタンバっていた。おっとー?

 いや落ち着け。ドア越しかつ入口からも離れた場所での会話だ。聞こえているわけがない。ひとまず鼻で深呼吸をして茜は冷静さを装った。

 

「……えっと、入部希望?なんちゃって……」

「いえ、愛先輩の様子を見に。部に送ったは良いけどそこからずっと放置だったのでなんだかなーって。とりあえず歩きましょうか。たむろってても邪魔ですし」

「…………弟くん、嵐珠となに話してたの?」

「えっ、なにも。ボクが嵐珠と話すような人に見えます?」

「じゃあ、なんでここにいるの?」

「だから愛さん先輩がちゃんとやってるかなーって」

「弟くんがこんな事でアタシを心配するわけないじゃん」

 

 おっとー???

 

「ボクってそんな薄情なやつだと思われてたんですか……」

「逆だよ。信頼してるからわざわざ確認するまでもないって弟くんは思ってる。だから今この状況がすっごい変」

「薄情ではないですがそこまで尻軽でもないですよ……」

「弟くん、ちゃんと話して。嵐珠?それとも他の部員?」

「愛さん……愛サン?目が怖いですよ?」

 

 愛が勘づいたのかと思っていたが茜の勘違いだった。ただ愛の勘違いが茜の勘違いよりも厄介なため内心で頭を抱えてしまう。

 そういえばこの人ってめちゃくちゃ人情派だったっけ……と愛の太陽パワーを思い出す茜。たとえ嫌いな相手でも心配なものは心配。だから助ける。そういうスタンスの人間だったなと思い出した。

 

 だから茜がアイドル部に脅されていると勘違いした瞬間にこの詰め寄り。これは真実を話すまで引き下がらないだろう。

 

 全て察した茜はただただ一つ溜息をつき、天井のシミを数えたあと愛を屋上に誘拐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 宮下愛から見た鐘嵐珠の印象。どう足掻いても毒舌。オブラートやサランラップ、アルミホイルで包んで金庫にぶち込んだとしても『言い方に棘がある』が隠しきれない人間だった。

 だから嵐珠の純粋な頼みを茜が脅しと勘違いし、しかし何かしらの事情で従わざるを得ない状況だったら……と勘違いした瞬間にすごい詰め寄ってしまったのだ。杞憂だったけど。

 

「──と、ここまでが現段階でのボクのプランです」

「えっと……チャートだっけ?ガバガバ過ぎない?」

「今までもこんな感じでしたし」

「弟くんって結構ギャンブラーなんだね……」

 

 茜はいつもどうやって計画を立てているのかと愛は考えていたが、そもそもそこまで必死になって計画立案をしていなかった。

 いや、正確には大雑把に段階を組み立てた後、状況に合わせて軌道修正……といったやり方で進めていたのだ。

 早い話が『風邪を引かないように全メタ張るより、風邪引いたあとを対策した方が楽で安くて現実的』みたいな話だったのだ。

 

「大雑把にまとめると、りなりーのライブの質が落ちるのが嫌で邪魔なものを消そうと色々頑張ってる……って事でいい?」

「はい。でも消すだけだと璃奈りーが納得しないので、スーパー同好会ランドの国民として黄金比に組み込まないといけないんです。たぶん潰したら責任を背負うな云々叱って来ますよ絶対。ボクにそういうのは似合わないとかなんとかも一緒に」

「あー……うん、そっか」

「我が主はほんとにワガママでしてねー。束縛は厳しいのに束縛原因の交友は間引かないですし、なんなら助けようとしますし、さらには交友者への迷惑まで考えて勝手にチキってますし。真面目で優しいっていう社会じゃ邪魔になる要素しかないけど、それでも絶対出世街道を走って倒れそうなくらい人情で有能。なんかもう危なっかしい要素しか無くて。でも、そういう危なっかしいところ含めて好きなんですよね。まず顔が良いですし。表情を見せようと顔をプルプルさせてる時は特に可愛い。あと初めてボクの手料理を食べた時の顔も良かった。感情のプラズマが勝手に送られてきてですね、それでボクまで嬉しくなって……今更なんですけどなんで璃奈りーって彼氏いないんですか?」

「あーー…………うん、なんでだろうねぇ……」

 

 ──めちゃくちやりなりーの事好きじゃん……。

 

 人って好意だけでここまで危なっかしい橋を渡れるんだな……と感心を超えて愛は引いた。

 

 もう完璧惚れた顔をしているし、今までの行動も全部璃奈が動機なのがわかった。でも、肝心の茜は見守る姿勢で身を引く気満々だし、身を引くどころか死に別れ含めた距離を置く未来が自然だと決めつけている。特にライバルもいるわけでもないのに何故そこは消極的なのか。いつものアグレッシブさは……と思った所で溜息を吐いた。流石の愛でもここら辺は薄っすらと感じ取れているから。

 

 この子は、『立場』を除いた自分自身の自己評価と肯定感がすこぶる低い。夕雲茜という一個人の人としてはなんの魅力も価値もない人間だと考えているのだ。

 

「りなりーのこと、大好きなんだね」

「はい。みゃー子と璃奈りーが好きな女です」

「ならさ、りなりーと一緒にいてあげることって出来ないかな?この先もずっと。アタシとは縁切って良いからその時間を回して……ダメ?」

「大切な存在にした分だけ、看取りイベントが惨劇になりますよ」

「そこまで見据えてるのに大人になったら別れちゃうの?なんかちょっと矛盾してない?」

「……今日の先輩めっちゃグイグイ来ますね」

「アタシは弟くんの友達だもん。気にかけるよ」

「友達ごっこです。間違えないでください」

 

 やっぱりそこら辺の境界線は変わらないか……と愛は肩を落とした。こうしてなんの進展も成長もなく、茜との仲を変えられてない事実はさすがの愛でも少し凹んでしまう。

 

「ねぇ、弟くん──」

「すいません愛さん先輩。栞っちから呼び出し入ったのでお暇しますね」

「……っぱ遮られちゃうよねー……。いいよ、いってらっしゃい」

「はい。あと、ここで話した話は漏洩厳禁ですよ」

「わかってるわかってる。さすがの愛さんもそこまで馬鹿じゃない」

「約束ですからね。破ったら絶交ですよ」

「…………うん、わかった」

 

 なんともないように帰っていった茜。それを見送ったあと、愛はその場で寝転んで空を見上げた。真昼の太陽……一時間話し込んで昼になってしまったらしい。

 アイドル部に戻ってもやることはないし寝るか、と開き直って愛は目を閉じる。

 

「絶交かぁ……初めて言われたなー……」

 

 結構心にクる事を言われてしまった。茜の難しさはやっぱり変わらない。

 

 

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