虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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73.葛藤なんかねぇよ(アストロアイドル)

 あのバカがまたやらかしてくれたおかげで、中須かすみは退屈平和の対義語ライフを送るはめになった。

 

 堂々と悪びれる様子もなく、悪の道を突き進み嵐珠に手を貸していた茜。

 そしてそれを見て動揺するガチ勢とアンチと歩夢。とりあえず傷の浅そうな3年組からケアをしようとかすみは話しかけたのだ。

 

 結果──

 

『あれ絶対脅されてるわよ。取られた分はこっちが返してアピールしなくちゃね』

『えぇ……』

 

 一人は己の貢ぎ癖に意味を見出し、

 

『ど、どうしよう……一回私の家に匿った方が良いのかな……?あーちゃんってパスポート持ってたよね……?』

『えぇ……』

 

 一人は国外拉致計画を企て、

 

『あーくんのピンチってことは〜、今が絶好のおねーちゃん呼びチャンスって事だよね〜?』

『えぇ……』

 

 一人はただ願望が叶うチャンスに打ち震えていただけだった。怖っ……。

 そうして3年組は思いの外大丈夫だったので、それ以外にも声はかけたのだが──

 

『あ、あかねくん……大丈夫かな……。怖くて泣いてないかな……隠して我慢しちゃう子だから不安だな……。電話しても出てくれないし……璃奈ちゃんの家に帰ってれば良いんだけど……』

 

 一人は過保護なおねーちゃん。

 

『璃奈さんのためによくやりますよね。しかも好かれたいわけでもなくほんとに100%相手のため。利害一致のビジネスを掲げて、それを度外視して行動起こせるバカはいないって人の性質をバカにしてたくせに、あいつ自身が誰よりも理想の人間をやれてるんです──ほんとに気持ち悪い……そういうところが嫌いなんですよ……』

 

 一人はアンチ活動が行き過ぎて過激なツンデレファンと化した元アンチ。

 

 三者三様反応はあれど、皆揃って『茜は被害者』だと認識していた。疑いの余地すら微塵もなく、裏切ったどころか魔が差した可能性も疑わない酷い信頼を抱かれている。

 

 きっと茜の中では、璃奈は駄目でも他は絶対に嫌ったはずだとルンルン気分で縄と高台を目指していたはずだ。なんだかもうここまで来るとちょっと可愛そうだった。

 しかし、当のかすみも茜を疑う事が出来なかった。だってあいつ口が悪いだけで根は人の役に立つのが好きな人だから。包容力を超えた奴隷根性が染み付いている、異常なまでの奉仕モンスターだから。

 

 この際だからとかすみは断言するが、あの男に王は向いていない。盛っても小国の騎士。ヒーローなんて以ての外。「身体の傷とか痛いだけ」みたいな事をほざきながら、自分の傷はただの必要経費としか思えないアホンナイト。ぶっちゃけてしまうと心配が勝つ。

 

 だからこの程度で茜への信頼が欠けることはない。かすみとしても「あー、段階が進んだんだな」程度にしか思えなかった。

 

 

「さてと……どうしますか侑先輩。茜丸の行動からして嵐珠を同好会に馴染ませたがってますが。おそらく私達と同じ目標を掲げてますよ」

「これ、どうかな?代理の理事長が持ってきたやつ。ファンの投票で決める全国のスクールアイドルマッチ。ソロもグループもごちゃまぜ」

「親睦、深めてみると?嵐珠の事ですしめっちゃ対立してきますよ」

「茜が見ててくれるなら間違いは起こさないよ。変な道に進んだり悩んだりは絶対するけど」

「そこはまあ、致し方なしってことで」

 

 全部にすぐ答えを出し悩ませないのは茜の主義に反する。故に今は嵐珠に自由を与え失敗と挫折、そこにのしかかる責任の圧力を感じさせるために行っている所業。

 相変わらず繊細かつ酷いパワーレベリングだと二人は笑った。

 

「全部終わったあとさ、どうやって茜と寄り戻す?」

「嫌われ決まって満面にほくそ笑んでる最中ですし、 多分しばらくは聞く耳を持たないと思いますよ」

「茜の性格を考えるとさ、そのままずっと疎遠になっちゃわない?」

「なります。絶対に」

「……今までの茜って、贅沢なくらい私達の話に付き合ってくれてたんだね。当たり前にしちゃってたんだなー……」

「とは言ってもグチグチ言ったところで茜丸には届きませんし、打開策が思い浮かぶまではアイドル部に専念しましょう。両方同時にやったら全部失います」

「……だね」

 

 人の話を……同好会の話に付き合えなくなった茜を前にガランとした静けさを感じた二人。

 これがただの鼓舞要因だったら青春して終われたのに……なんてリアル思考が過ったかすみだが、今はそんな人事ごっこをしている場合ではないので頭をフル回転させた。

 

 

 ◇

 

 

 同好会一同が動揺と混乱で満たされる中、原因のハイパーキングアイドルは推しドルと一緒に復縁同棲生活を再開し満喫しており──

 

「みゃー子……ロスかベガスの良さげな不動産教えてくれない……?」

「なんだいいきなり。アメリカに住みたいならボクの家に来れば良いじゃないか」

 

 ──茜がそんな夢物語一辺倒な道を歩むはずもなく、現実は初恋相手の寮でうどんをつまみに愚痴会を開くという愚行に出ていた。

 

 事の発端はミアに相談をしようと連絡を入れた事だった。ついでにデートでも出来ないかと下心半分に電話を入れたのだが、いくらコールをしても、いくらメッセージを送っても返事がない。そのまま半日音沙汰がなかったため、不安でミアの部屋まで様子を見に来たのだ。

 そして、部屋の中で倒れているミアを発見した。健康かつ優良で峰麗しゅう女が、ダニとホコリと雑菌がはびこる床で横になるとか言語道断。キレイな肌に変なシミが出来たらどうする。

 

 なのでベッドにそっと寝かせたあと、目測で体調を測ったのちに飯を作り始めた。そして完成と共にミアが起き、成り行きで相席。現在に至る。

 

「冗談はここら辺にしといて。みゃー子、本当に何してたの?ズボラな生活をしていたわけじゃなさそうだけど」

「趣味関連で少し……ついついHEAT UPしちゃってね」

「合鍵預けてくれたのは嬉しいけど、あんまりアルソック目的で使わせないでおくれ」

「それは…………Sorry.気をつける」

 

 パソコンをシャットダウンしておいて良かったと安堵したミア。茜が夕雲ひまりであり自分と同等の立場なのはライブを見て確信したが、それでもやっぱり自分のことを打ち明ける気にはなれなかった。

 それに茜はミアといるありのままの時間に何も疑問を抱かない。気にしてないなら自分語りは控えるべきだと判断した。

 

 補足しておくと茜は別にミア自身に興味がないわけではない。ただ立場なんてどうでも良く、ここに一緒にいられるだけで満足なのだ。

 

「そういえば璃奈はどうしたんだい?ボイジャーくんが来るなら一緒に来そうなものだけど」

「部活で一日って感じ。あー、でも、そろそろ夕飯時で活動も占めるはずだし連絡入れとくか。もうここに呼んじゃっていい?」

「No Problem.賑やかな方が楽しいしね」

「左様で」

 

 そしてラインにて招集願いをかけたら即効で連絡が帰ってきた。過去一返信が早くてミアへの愛を感じる。わかるよその気持ち……と、茜は理解を示した。ミアは人間国宝。少し危なっかしいところもあるから守ってあげたくもなる。可愛い。

 

 なんて理解の相槌を打ちながら、茜は璃奈にメッセージを送る。彼は馬鹿であった。

 

「そういえば璃奈りーってここの場所知ってるの?」

「前に鍵と一緒に知らせてあるよ。だから大丈夫」

「そんなにポンポン家の鍵渡して大丈夫なの?文化?」

「違うよ。大切な人にしか渡してないし、璃奈とボイジャーくんにしか渡してない」

「そりゃ光栄だ」

 

 璃奈とミアが仲良くやってるようで何より。心開く前のミアは少し当たりが強いから、璃奈が怖がらないかと少々過保護になっていたけど杞憂だったようだ。

 

 いつか、三人で遊びに行くなんて日が来るのかもしれない。

 

「今更聞くのも何だけど、子供の一人暮らしってどんな感じなの?楽しいと寂しいどっちが勝つ?」

「日による?なにかに没頭している時はHAPPY、ふとした時にぼーっとすると静けさにクラっと……みたいな」

「ほーん……いつでも連絡入れて良いからね?夜の3時までならいつでも出れる。いざとなればタクシー呼べるし」

「11時過ぎたらOUTなんだろう?」

「金払えばレイパーすら解放できる国やぞここ。マニー積んどきゃなんとかなる」

「ボイジャーくんのそういう危なっかしいところ、ボクは良くないと思う」

「おやおや?心配してくれてるの?」

「当たり前だろ。友達なんだから」

「はっはっは、嬉しい限りだねぇ」

 

 あまりのミアのイケメンぶりに、思わず告白しそうになる茜。友達の好きに混ぜてなら好きって言っていいのかもしれん……なんてジョークを考えていたらところで、部屋のインターホンが鳴り響いた。

 

「もうついたのか。璃奈りーの体力を考えると早すぎるな……宅配便?」

「ホームの荷物は明日かその次。ボイジャーくんが出た方が良いよ」

「家主差し置いて?」

「その家主が言ってるんだ」

「それもそっか」

 

 

 来客を待たせるわけにはいかんと急ぎ足で玄関に向かう来客。ドアを開けたら死にそうな顔で息を切らした璃奈がいた。そんなに?

 

 

「えーっと……先に上がる?それとも息が落ち着くまで待ってた方が良い?とりあえず汗は拭いた方が良いか……はい、ハンカチ」

「……んっ……はぁ……っ……あ、ありがと……」

 

 膝に手をついて息切れを起こしている璃奈。その姿はあのライブの時に見た謎パワーで労基ガン無視スーパーワークをしていた時に似ている。

 そんな限界を越えてまで……と訝しげに璃奈を見つめる茜。ここまで来るとミアが茜に襲われないか焦っていたのではと勘ぐってしまう。男と女が二人きりな上、男の方がロリコンだから気持ちはわかるけど……なんだか悲しい気持ちになってしまう。

 

「大丈夫そ?」

「少し、落ち着いた……あ、あかねくんは……どうしてミアちゃんのところに……?」

「今日スポンサー業が休みで暇だから、みゃー子とゲーセンにでも行こうかなって。んで、連絡入れても出ないからさ」

「……そっか。ミアちゃんは大丈夫……?」

「趣味にのめり込んで3日絶食してたらしくてなー。だから今は薄口の鍋うどん食わせてる」

「……なら、よかった……」

 

 安堵の一息。茜がなんの思惑もなく表立って動くのは基本緊急事態の時だけなので、璃奈は"もしも"を考えたがさすがに杞憂だった。

 

 そんな杞憂に肝を冷やした璃奈の姿を、茜は『ミアを純粋に心配している姿』として勝手に勘違いし人徳を感じていた。それと同時に以前璃奈と交わした約束を思い出す。

 

「あ、同好会以外の人と遊びに行く時は連絡いれるんだっけ?ごめん、うっかりしてた」

「大丈夫……ミアちゃんだし……それに、緊急だったし……」

 

 最高速ABCDHLoveで産婦人科に緊急外来みたいな案件を予想してた璃奈にとって、こんなものは許容の範囲内。何事もなかったようで安心だと一つ息を吐きながら部屋に上がった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 良かった……茜くんがミアちゃんに告ってたら私の人生終わってた……。

 毎回毎回危ない橋を渡り続ける茜くんにはヒヤヒヤしていたけど、今日は別の意味でヒヤヒヤした。正直こっちのヒヤヒヤの方が二度と経験したくない度数が高い。

 

「なんか今日ずっとくっついてたね?別にみゃー子はボクのことを友達だとしか思ってないから、そこまで警戒することないんだよ?」

「うん……知ってる……」

「心配症だねぇ。別に家を出ていったりはしないし、みゃー子も攻める気はないからもっとドッシリ構えてて良いのに」

「……うん」

 

 私が警戒してる理由は茜くんがミアちゃんに告らないかだから根本が違う。

 あと、ミアちゃんはそういう気持ちがないだけで、茜くんへの理解度がナチュラルに彼女してるから嫌でも警戒しちゃう。

 

 茜くんは知らないと思うけど、ミアちゃんは茜くんの秘密を全部知ってるよ。というかライブを見ただけで粗方察してた。

 

 夕雲ひまりのノーマルライブ映像を見ただけで「ボイジャーくん、変わったプランでアイドルやってるんだね」って言ってきた時は本当に反応に困った。雑談のノリで茜くんの秘密を暴いて来たから。

 それで理由を聞いてみたら『ボイジャーくんの声でオクターブ上げるとあんな感じになるんだよ。音無しだったらわからなかったと思う。あっ、ボクもあの声出せるよ?ほら』って言ってきて、そのまま夕雲ひまりの雰囲気モノマネ(うり二つ)まで見せられた。

 

 めちゃくちゃ焦ったし、そこまで見せられたらそれはもう宣戦布告と同義。

 

 音楽っていう同じ道を歩いているのもあるけど、生理的に相性が最高だから本能的にわかり合ってる。心じゃなくてその先の本能でわかり合っちゃってる。だからテレビの中の夕雲ひまりも、本能で茜くんって分かる。ミアちゃんは最初から夕雲ひまりを『夕雲ひまりを演じてる夕雲茜』として解釈した。というか多分だけど、無意識かなにかで『ボクがここまで惹かれるならこの人はボイジャー君だな』みたいな事を考えてる。

 

 そこまでのものを披露されたら、茜くんが家に遊びに行くってだけでもう酷いピンチになるわけで……初恋でドンピシャクリティカルを引いちゃった茜くんを見ていたら居ても立ってもいられなかった。

 

 なんかこう……めんどくさい女とは別方面で恋愛が怖くなって来る。ミアちゃんに勝てるビジョンが全く見えない。歩夢さんの正妻力とかすみさんの悪友パワーを持った相性完璧年下ヒロイン(茜くんはロリコン)をどうやって出し抜けば……やっぱりこれ詰んでるのかな?

 

 

 

 

 

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