虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
茜さんがパソコンを見ながら楽しそうにニヤニヤしている。あそこまでわかりやすさを出していると言うことはバラエティ周りで吉報があったか、単純に罠か、それともシンプルにえっちなやつか。
どれにしろ私にとっては悲報なので、今のうちに芽を摘んでおかないといけません。
「茜さん、何してるんですか?」
「ランジュの評判が鰻登りだし同好会も理想のペースで腕を付けててホクホクなんだー。うへへ……編集が捗るぜ……」
「私の計画を番組にするのはもう良いですが、わざわざ映画にする必要はあったんですか?小説とか漫画とか、茜さんなら色々手段がありますよね?」
「映画館で映画。夢あるじゃん」
「えっ、監督業志望してたんですか……初めて知りました……」
「あんな意識高く怒鳴りつけてれば良いだけの職とか心底御免だが。どうせなるならcgクリエイターとか演出家の方が百倍技量と知恵が手に入る」
「じゃあ、映画のどこに夢を見てるんですか?」
「ポップコーンとコーラを飲みながら大迫力の音と映像を見てドキドキするの、夢があるじゃん。それを好きな人と共有するのが叶えたい夢の一つ」
「……それ、夢にするほどの事じゃなくないですか?推しさんと行けば全部解決では?」
「保護者じゃなくて対等な人と行きたいじゃん」
「友達申請は?」
「いや」
「めんどくさ……」
もうアンドロイドを作って充てがうくらいしか方法がないじゃないですか。そのこだわりの強さはなに。映画の内容じゃなくて見る環境にグチグチ言ってる人とか初めて見ましたよ。
「はぁ……良ければ今度一緒に行きましょか?一応ビジネスという対等な関係ではありますし。接待や営業みたいになっても良ければの話になりますけど」
「ホント?じゃあ……うーんと、予定予定……14日の土曜は大丈夫そ?」
「土日開けたらテストじゃないですか──いえ、分かりました。付き合います。映画だけですからね」
「うん、ありがと」
「………はぁ……ほんとに……」
苦手なんですよ。あなたのそういう子供みたいなとこ。
変な時に不安になって、自信をなくした顔をするところとか、唐突に素直になるところとか、予定が決まっただけで心の底から好奇心を募らせるところとか。
これも全部計算?計算ですよね?だって妖狐ですし。化け猫ですもんね。妖怪や悪魔は友好的なフリが得意で……
あぁ……ダメだ。これを素の反応だって信じたい自分がいます。
ほんとに……ほんとにこの感情には毎度毎度困らされていてですね。しかも日が経つごとに大きくなるんですよ。まったく、これだから茜さんは。ほんとに嫌い……いえ、もう大嫌いにしてしまいましょう。
はぁ……それで、なんでしたっけ……。あぁ、デート……土曜ですか……何着ていこう……。茜さんも女性物着ますし……去年貰ったブーツ……どこにしまったっけ……。
◇
茜からいきなり連絡が入り、そしてそのまま服や髪の色々を試したいとエマの部屋まで遊びに来る事になってしまった。今まで呼んでも絶対来なかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。
「普通の子とデートするからボクの可愛さを普通程度に留める拘束具が欲しい」
「……えっと、あーちゃんの可愛さを残したまま、普通のカップルみたいな雰囲気が出せるセットが欲しい……って感じかな?」
「そんな感じ」
こういう風の吹き回しらしい。中々難しい注文をしてくれた。
しかし、デートと聞くと嫌でも顔をしかめてしまう。こう言ってはあれなのだが、茜を狙う女の九割はろくでもない奴と言う印象がエマにはあるのだ。残り一割が璃奈やかすみなどのまとも勢。
だから璃奈やかすみ、菜々や侑でもない『普通の子』と言われるとどうしても警戒してしまう。
「どこまで行くの?」
「映画見て帰るだけなのでそんな遠くには。近場の映画館が……駅から20分の場所なので多分ここになりますね」
「ほんと?変な場所に誘われても着いて行っちゃ駄目だよ?」
「もう、エマ姉は心配し過ぎ。相手の子はそんな港女みたいな人じゃない」
「そういう子に限って肉食だったりするんだよ〜……」
同好会の範囲なら余裕のグッドサインで送り出せるのだけど、相手の子が他所の誰かも知れない人。不安になるなという方が無理なのだ。
しかし幸いな事に今回の茜は『普通』を目指して頑張ろうとしている。ならばありったけを込めて地味オブ普通The普通にすれば良い。それはもう土の中にある掘り出されてすらいない芋のように。
「危なくなったらちゃんと連絡するって約束できる?」
「ちゃんとします。約束です」
「なら……うん、私からは大丈夫。それで肝心の服だけど…………さすがに私のはサイズ合わないから無理だよね?」
「なので1から作ろうと思い呉服屋でテキトーに生地を買ってきました。ベージュと白と黒と茶。地味な色しかないので大丈夫な筈です」
「そ、そっか……私で良かったの?」
「エマ姉が一番男のファッションわかってるので」
「複雑だなー……」
確かに茜に似合う服を求めてメンズファッションやボーイッシュファッションの本を何度か読みふけったけども。だが、それは茜に合う服を探すためであって、男への理解を深めたかったわけじゃない。
「とりあえず、こういう時は採寸から……かな?」
「はい。どこから図ります?ボクは特にこだわりとかないですが」
「うーん……お腹、が良いのかな?」
「どうぞ」
なんの恥じらいもなく服を脱いだ茜。一瞬ドキっとしたけどその細さを見て我に返った。いや、確かにパット見はある。というかあるように見えるけど……足が太いから誤魔化されるだけでそこ以外は平均以下。クビレがくっきりしすぎている……こんなやり過ぎなウエスト、モデルくらいでしか見た事ないのだが。
「あーちゃん、ご飯食べてる?」
「1日3食健康に食べてますが」
「筋肉ないアスリートみたいな体系だけど」
「でもガリガリではないじゃないですか。足は出てます。あとお腹も寝転がれば垂れますよ?」
「そういうことじゃなくて!もう……あーちゃんはほんとに悪い子なんだから」
「そう言われてもこれが当たり前だし」
しっかり図って数字として見てもやはり細い。いや、女の子の理想的な体系といえばそちらよりなのだけど。骨が浮き出てるわけでもないし。だが、やっぱり細いし軽い。
アルプスでの低血糖低脂肪は死への片道切符。古より祖国に伝わる教訓だ。
食わせねば。
「じゃあ、お洋服のデザイン決めるからあーちゃんは待ってて。はい、これお菓子。あとコーラ。コロッケとかもあるよ」
「おかーちゃん……?」
「良いから食べる!食べないなら家に連れ帰って濃い口のチーズ食べさせちゃうよ?1ブロック丸々、良いの?」
「……いただきます」
そうして一人モクモクと食べ始めた茜……一口ちっちゃ……姿勢良っ……育ちの良さが滲み出ている。あれは前にテレビで見た茶道の所作。
「ずっと前から聞こうと思ってたんだけど、あーちゃんって書道とか生け花とか習ってた?」
「母さんが華道の先生をやっていてそれの真似事を少しだけ。礼儀作法は家の教育です。なので習い事は特に」
「それだけでここまで綺麗に育つものなんだねー」
「むしろ家で教えなきゃ永遠育ちませんよ。子供が一番過ごす場所って家ですし。そんな塾だの書道だのを毎日数時間やらせた程度で学力や性格が改善するなら、この世からFランはなくなってますし毒親なんて言葉も生まれてません」
「あはは……」
相変わらずの物言いだし相変わらず手厳しい。でもやっぱり奥底に眠るのは『やろうと思えばいくらでも出来る環境があるのに、全く動こうとしない"普通"への説教』。大人だの子供だの関係なく腰の重い人間への当たりが強い。
「ねえ、あーちゃんってさ……小学校どこ行ってた?」
「小学生時代は中南米で麻薬の栽培をしてました。大麻だの売ってたくせに賃金がエラく低くて……休みはないし周りはバタバタ倒れていくし……おまけに鞭で叩いてしごき回すくせに、医療が整ってないから傷口から感染症引き起こしたりで大変で………冗談ですよ?」
「……えっ……ぁっ、あーちゃん!」
「この時代にそこまで過去を患ったやつが平和に生きていけるわけないじゃないですか。日本に来る前に野垂れ死んでますよ」
「もう……」
さも当たり前の過去のように話すから本気にしてしまった。臨場感を出されない方が逆に日常として過ごしてきた雰囲気が増してしまう。
「……それで、結局学校は言ってたの?」
「小学生時代は研究機関で遺伝子操作実験をされて──」
「言いたくないって事は行ってなかったんだね」
「日常にメンタリズムを持って来ないでください」
「あーちゃんにだけは言われたくないかな」
そこまでして隠したいほどに悲惨な小学生時代。このまま聞き出さずに帰すのは難しくなって来た。しかし、縛りつけたら二度と来なくなってしまう……中々難しい問題だった。
エマは必死で考えたがやはり打開策など出るはずもなく。もうお金しか手段がない。だが、エマが出せる程度の金なぞ茜にとっては紙切れ同然である。
「まあ、そこまで大げさなものじゃないですし良いですよ。要約すれば小児喘息で欠席と早退が多かったってだけですし」
「……でも、それでも他の子より勉強が出来ちゃったから、普通の人に失望しちゃったりしたんだよね……?」
「なんですかそれ」
「だって、そういう雰囲気を出してる時があるし」
「考えたこともないですが……まあ、普通が嫌いというよりかは、普通に可愛く、一般程度の社交力があって、ありきたりなキャラをした女が姉さんを利用して甘い汁を吸っていたので、そいつがフラッシュバックしていたってだけだと思います」
「そ、そうだっんだ……」
どこか苛立ったような顔をしながら、それを隠し通せてると勘違いした口ぶりで茜は語る。エマの中にあるお姉ちゃんゲージがぐんぐんと上がった。
「それでですね……実はボク、将来的にその女を殺したいんですけど、もし事が起こったら菜々ちゃんと璃奈りーとかすみさんを──」
「絶対引き受けないからね」
「駄目ですか。歩夢先輩にもお願いしてみたのですが断られてしまって……中々上手くいきませんねー」
「そういう冗談、良くないと思うよ」
「それくらい恨んでるってことですよ。ボクは頭が良いちゃんとした人間なので、怒りとかいう獲物を狩り殺すためだけの下等生物特権を制御できます。ボクは頭が良いので」
「恨みダダ漏れだけど」
隠しきれないほどの恨み。ここまで露骨に嫌われるとは、一体相手の子は茜に何をしたのだろうか。
「はぁ……辛いならちゃんと言えば良いのに。お金の関係で良いから、これからは私に相談してね?あーちゃんもそれなら良いでしょ?」
「……まあ、それなら」
「じゃあ、さっそく今日からね」
「なんでエマ姉がサイフ出すの?」
「お金の関係だから?」
「ボクが出すんじゃないんですか?」
「そしたら私、エッチなお店の店員さんになっちゃうよ?」
「ホストになるのは嫌なのですが。ボクはチンコじゃない」
「じゃあ、半分ずつ出す?」
「まあ……それが一番平和ですかね……」
そえして、エマと茜はお互いに千円札を渡しあったが、やること自体は普段と変わりなかった。仮にあったとすれば茜が膝枕をしてくれたぐらいか。自分から頼むのと相手から誘ってもらうのとでは、また違った趣があるのだなとエマは茜の足に沈みながら思った。