虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング 作:コントラポストは全てを解決する
最近、菜々ちゃん先輩に会う頻度が増えた気がする。一応最初の頃から週4で来てたけど、あの頃は長くても10分くらいの会話で解放されてたんだよ。
それが今じゃ昼休み全部校舎裏密会に消費されたり、こうやって一緒に璃奈りー特訓用空き教室で飯食ったりするようになった。
パイセンは早くボクを解放しろ体操第一。まずはスマホを取り出して110に連打する指の運動。
「茜君、私はとっても悲しいです」
「そうですね……マルマント死んじゃった……」
「違います。先週の光鉄アイガラルの話をしているわけではありません。日曜のデートについてです」
「何にキレてるんですか?メロンソーダ押し付けたこと?トイレ行くふりしてコンビニでカイロ買ってたこと?それともツイドリの炎上を抑えるためにデートじゃないって再三弁明したこと?」
「2つ目は後日問い詰めます。弁明に関しては怒ってません。ですがなんですかあの『ただのビジネスだし友達とは程遠い。最近やっと話せるレベルの知り合いができたのに』って」
「イメ損になったなら謝ります」
「違います。あの話せる知り合いって璃奈さんの事ですよね?」
「はい」
「先に出会ったのは?」
「せつ菜先輩」
「茜君と一番仲が良いのは?」
「璃奈りー?」
「スウ………」
バチくそにキレてるやん……。菜々ちゃん先輩がそんな本気で男女仲を気にする人だとは思わず。そもそも友達志望だったはずでは……?
一体全体なにがどう転んで『ははっ、デートじゃなくてただの荷物持ちだよ』って言われたヒロインみたいなリアクション取るようになったんだ?そういうのはもっとイケメンで身長高いやつとやってくれよ。
「はい。で、ぜっつー先輩の要求は?簡潔に完結まで飛ばすと詫び石寄越せって話ですよね?」
「反省してないのが異様に腹立しいですね……。でも……はい、大雑把に言うと茜君の解釈通りです」
「何が欲しいんです?曲作れとかユニット組もうとかなら無理ですが」
「百合営業」
「嫌です」
「親友になってください」
「嫌です」
「では友達」
「嫌です」
嫌ですって断る度に菜々ちゃん先輩からハイライトが消えていった。素直に『私の言うことを聞け!(ギアス発動)』ってすれば遊びに行ったり一緒に写真撮ってインタス投稿くらいはするのに。
菜々ちゃん先輩も友達になれとか百合営業とか直接言わずにこっそり写真撮って、撮影した画像をそのままアップすれば良いんだよ。間違えて上げちゃったんなら言い訳できるし。
それに試食爆食い動画とか校舎の窓ガラスにインクぶっかけた!みたいなガイジ投稿するわけじゃないんだからさ、上手く誘導すれば良い。
不意打ちで盗られたならボクも自然な脈ナシ反応入れられるし。
「……茜君、詫びる気あります?」
「菜々ちゃん先輩っていつもこんなド直球な交渉してるんですか?駆け引きとか相手のメリットとかもっと考えません?ビジネスって自分だけでなく相手にも利益を分けて初めて成立するんですよ?」
「いや……それは分かってますけど。妥協してくれるかなって……」
「ドアフェス的な?あれってデコイ用のクソコテ提案と真面目な本命のギャップで相手に本命側を取らせる交渉術ですよね?1個目の提案に比べればマシかってなるやつ。今のだとギャップが小さすぎて別にクソコテと変わらないから何とも思いませんよ?」
「茜君の中で百合営業と友達ってそんなに変わらないんですか?ビジネスパートナーと本物の関係が変わらないって言うんですか?」
「だって周りにボク達が一緒にいることを認知されるとまずいっていう前提条件がありますし。トランザム先輩とつるむだけでボクは命取りですもん」
「そこまで警戒することないじゃないですか……やる人がいてもすぐ諦めると思いますし……」
「夕雲ひまりを特定した人の名前と役職。20文字以内。第2の特定班が出ない証拠の卒論発表。できますか?」
「うっ……」
菜々ちゃん先輩の境遇を考えれば確かに気持ちは分かるけど。どう頑張っても精神的一人ぼっちが確定してたところに同類が来たらそりゃエンジンが入る。
そして実際にここまで仲良くなっちゃったのならもう手放せないって気持ちも分かる。
でも生憎とこっちにも事情があるからね。それはそれ、これはこれ。
「ボク達の関係はあんまり公に出さない方が良いんですよ。それにこっちからしたらリスクの塊過ぎて乗り気になれないですし。どう頑張っても優木せつ菜が夕雲茜に専属サポーター契約を迫ってるって見られる関係が限界なんです」
「……この間のデートも、私が茜君に接待してるだけって見られる事が分かってたから引き受けたんですか?茜君自身もその程度の認識しかないからデートって意識してくれなかったんですか?確かに私も悪いですが……茜君はいっつも仕事のことばっかで……」
「はぁ……メンヘラみたいなこと言わないでください。良いですか?確かにボクはリスクデカすぎて無理って言いましたけど、リスクあるのは菜々ちゃん先輩も同じですからね?ていうか菜々ちゃん先輩の方がリスクデカいんですよ?」
「…………茜君がバレたら仲良い私もなにか疑われるのはわかりますが……でも……もっと一緒にいたいです……」
マジでこの人ボクといる危険性をなにも考えてなかったのか……。
いやそんなの最初からわかってたけどさ、なんとうか無意識とか本能的に危機感覚えてる事を願ってたというか。あともっと男女の壁を感じろ。そんな簡単に男に心開いてたらオールカラオケに連行されるぞ。
「菜々ちゃん先輩がバレた場合、中川菜々は優木せつ菜だった・なら親友の夕雲茜は?・おっ、夕雲ひまりじゃん。女だと思ってたけど男かぁ……せつ菜ちゃん推しで良かったーで収まります。まず菜々ちゃん先輩の正体がメインで、ボクは副産物なので。注目度はせつ菜先輩が上。OK?」
「……それで、私と茜君が逆になるとどうなるんですか?」
「夕雲ひまりの正体暴露をメインに活動したファンが無事真理を暴きます。ひまりファンたいへん民度低いアル。つるんでた菜々ちゃん先輩ヤバい中のヤバいアルヨ。OK?」
「ぐ、具体的にはなにが?」
「多分初っ端から『茜に股開いて優遇して貰ってたんだろ。曲とか作って貰ったり』みたいな終わったこと言い出しますよ。セットで中川菜々だとバレたらもう家に被害が行くこと確定です」
「ぎゃ、逆になっただけでそんな変わるんですか……?」
「菜々ちゃん先輩のファンは民度高いので。マイ ファン イズ 民度おぶエンド」
「な、なるほど……」
「なのでひまりとせつ菜は一緒にいてはいけません。あーゆーOK?」
「嫌です」
分かって貰えたけど理解は得られなかったみたいだ。
ぶっちゃけると本当は夕雲茜として優木せつ菜に会うならまだ大丈夫だし良いかなと思う事はある。
それだけなら裏方とアイドルなので曲とか振り付けの依頼してたり、見積もり作ってるのかなくらいにしか思われないから。
最悪の状況を警戒してその甘さは封じてるけど。
「あの、茜君。1つ提案……打開策を提示してもしても良いでしょうか?」
「聞きましょう」
「変装をもっと凝れば誰にも気づかれないのではないでしょうか?ウィッグ被って服装もガラリと変えて。どうですか?」
「それなら良いですけど、そこまでして仲良くしたいんですか?菜々ちゃん先輩が卒業する頃に辛くなりますよ。好きな人と別れるのって辛いですから」
「別に遠くの大学へ行く予定などはないですよ?」
「中川夫妻の事だから60%くらいの確率で留学しろとか言ってきそうじゃないですか」
「…………茜君はもし私が留学するってなったらどうしますか?」
「他所の家庭に口出しは出来ないのでお父様に委ねるしかないですが……まあ、会えなかったら会えないで静か過ぎて寂しくなると思いますし、国際回線くらいは契約しといてあげますよ」
「ふふ、そうですか」
なんか知らんが菜々ちゃん先輩の機嫌が少し復活した。こういうのって『菜々ちゃんパパと言い合ってでも止めます!』みたいなこと言わないとダメなんじゃないの?
ボク的には付き合ってもない先輩をそんなラブロマンスに引き止めるのはお門違いだから絶対したくない。
こっちのわがままで菜々ちゃん先輩の可能性潰すなんて知り合いの風上にもおけないじゃん。
仮に恋人になって一緒にいようってなったとしても歳食えば役に立たなくなるダンスと歌をやり続けるだけだし。
更にはその商売も27歳辺りになったら強制引退。で、その後なにが残るかと問われれば名声と金。だけどそれも何年持つか分からない中途半端なモノ。
ボクの見立てだと現役時代と同じ感覚で使うはずだから予定より早く貯金が切れるはずなのでお先真っ暗に等しい。
仕事掴むにしてもボクは良いとして菜々ちゃん先輩は?今の時代高卒ってバイトでも採用が不安定っしょ?
だからなにかしらの保険が欲しいボクにとっても留学は賛成。
仮にボクが会社の面接官なら異国という知らない場所に馴染める社交性と、慣れない価値観や土地にストレスを感じながらそれでも学問に勤しめる努力で十分高評価をあげられる。
「菜々ちゃん先輩、今の話にボクを許せる要素ありました?いつも身バレ特攻持ち同士みたいに言ってましたけど実際はボクの方が爆弾でしたってオチですよ?」
「私のこと、ちゃんと見ていてくれた事がわかりましたから。これからもその調子でお願いします。あと離れたら泣きます」
「先輩ってアイドルにしては恐ろしい程のめんどくささ持ってますよね」
「泣きます。今ここで」
新品の箱ティッシュを取り出しこれ見よがしに泣くモーションを準備するメンヘラドル。めんどくせ〜。
「そんな事してると推し変されちゃいますよ」
「茜君が資料を捨てるわけないので大丈夫です」
「アイドルの側面に関してはぶっちゃけどうでも良いです。曲が良ければ誰であろうと聞きます。優木せつ菜でも、こないだのギャルドルでも。だからせつ菜先輩もギャルドルも捨てようと思えばポイ出来ますよ」
「……ちなみにですけど、どういう系統の曲が好きなんですか?」
「どの曲にも使える材料は眠ってますので選り好みはしません。今の時代ソフトの修正でなんとでも出来ちゃいますからね。底辺から神まで全てが宝。ですが星の数ほどあるが故に整理が必要になってきます。だからポイです」
ぶっちゃけアイドル側の歌声とかどうでも良いしインストバージョンしか買わないときもある。仮に見るとしても歌唱力より表現力の方を重視する程度。
姉さんの歌声という好みドンピシャ超絶神作品があるのになんでそれ以外の性癖外れな声聴かなイカンの?って話だ。
菜々ちゃん先輩の歌を聞けって言うなら喜んで聞くけどさ。姉さんと肩を並べる歌神だし。
「茜君って自分を除いたアイドルでランキング作るなら誰が上位に来ます?」
「1位璃奈りー2位かすみさん3位ポム先輩」
「……璃奈さんってまだデビューすらしてませんよ?かすみさんと歩夢さんもMVをLouTubeに上げたのとライブが決まったところですし」
「えっ、はい。それが何か?アイドル研究生とアイドル準備勢やってるばりくそ才能秘めた知り合いを推す事に何か問題が?」
「いや……もう少しこう、ポピュラーな感じのを……」
「菜々ちゃん先輩って知名度ない地下アイドルはアイドルにあらずとか思ってる人間なんですか?」
「そ、そういう訳ではないのですが……」
むしろ菜々ちゃん先輩の方が皆に可能性感じてそうって思ってたんだけど。いきなり身近過ぎる人を出されて困惑してるとかかな。
去年のスクールアイドル人気投票で上位だった東雲あまねとか明坂レイネとか出した方が良かった?でもどうでも良い存在を上げるのはなぁ……。自分の心に嘘はつくなって姉さんから教わったし。
「えっと……璃奈さんに惹かれる理由を聞いても?やっぱり弟子だからですか?」
「いや、寡黙で無表情で実は努力家な美少女ロリですよ?身内事情とか同情票なしにしても普通にてっぺん入るでしょ。合法ロリは国宝なんです。小動物的な可愛さと人間の美人的可愛さ、そして属性的可愛さが合身した奇跡の生人神。そして発明家。性癖が壊れる」
「多分世のみなさんは夕雲ひまりの正体を知った時の方が性癖壊れると思いますが。あとロリコンだったんですね。茜君ってあれですか?日本のオタクは処女厨でロリコンだって言う定説者」
「ロリコンなのは認めますがボクは別に絶対純血主義って訳じゃありません。むしろ璃奈りーの可愛さで初めて残ってる事を不思議に思います。それに処女失ってるからなんだって話ですし」
「好きになった女の子を最初に汚すのは自分が良いって気持ちと、処女の純情がない=穢れみたいに思ってるって前にクラスの男子が言ってました」
「矛盾とはまた違うパラドクスですね。自分が抱くなら汚れにはならないってナルシスト思考でも持ってる人とか?」
キッショ。ここらへん突き詰めるとアイドルとか女優が結婚した時に荒れる人間になるんだろうな。さすがにあれはネタでやってるってわかるけど、それでもキショいし怖いんだよ。
頼むから当事者になった時の気持ちを想像して欲しい。事務所に殺害予告が来て出待ちを食らい家のポストには陰毛が入ってる。プラモ作ってる最中にふと後ろの窓を見たら鼻息荒いおっさんが張り付いてるの怖過ぎないか?ボクならおしっこチビるね。
「茜君はバツイチでも受け入れる人でしたか」
「どうせ結婚するならシングルマザーが良いって思ってます。セックスしなくて良いし結婚してるのに子供がいないって言う哀れみの視線を怖がって無理に子供を作るとか言うバカな真似もしなくて済みますし」
「倫理観があるのかないのか分からない答えですね」
「必要なら使う、いらないなら捨てる。倫理観とか大事にしてたら蚊も殺せませんよ。倫理に人間の道徳を混ぜるとフィクションめいて現実の人間は罪悪感に苦しむことしか出来なくなります」
「3次元が汚いみたいに言いますね」
「3次元の汚点を濾過したものが二次元であり、その二次元の中の理想論を綺麗事って鼻で笑うのが3次元。夢には溺れど魔法を笑い、夢と向き合う戦う人には寄って集って罵詈雑言。世界は反転、人は汚点。それがこの世だ3次元。うぇい」
「いきなり思想の強いジョイマンになるのやめてくれませんか……」
ジョイマンさんはこんなノリの悪いラップ作らんだろ。もっと頭が良くてユーモアに溢れてるぞ。
あとボクのはラップじゃなくてオヤジギャグだから。脳の感情操作機能が低下して笑いのツボが小学生になった中年。だからお子様レベルのダジャレで笑うし上手いこと言った気になれる。
「茜君ってこう……現実に偏った印象持ってますよね……」
「豚とかいう魔改造ポケモン産みだしといて今更クローンの倫理観がうんちゃら言ってる人間……滅ぼしたくないですか?」
「思想……」
いや、真理では?やっぱりバイオハザードするべきだよ。とりあえず自分の体にブツを打って自爆すれば責任取らなくて良いからやるならこれ。死人に口なしはマスコミも使ってる常套手段だぞ。だからボクは悪くない。
◇
やっぱ自論語る時って人の上に立った気持ちよさでドーパミンがドパドパ出るから止まらないんだよなぁ……。ついつい話し込んでしまった。
「茜ー、今日暇ー?」
「侑先輩の用事によっては暇」
「ゲーセンは?」
「暇」
「歩夢の好きなにゃるまーって言うキャラのストラップがゲーセン限定で出てさ、ちょっとだけ教えて欲しいんだけど……ダメかな?」
「暇じゃないので良いですよ。千円で個体を空にしてあげます」
「そこまではしなくて良いかな……」
そしてゲーセンにてボクをストーカーしてた菜々ちゃん先輩を捕まえた。もう一人のストーカーはひっ捕らえようと思ったときには消えていたため無念の撤退。おそらくあれはプロ。
というかストーカーってダブルブッキングするんだね。おかげで脳細胞がライザップしてしまった。いらない経験値過ぎる。