虹ヶ咲ヒーローorナイト&キング   作:コントラポストは全てを解決する

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9.璃奈ちゃん(の表情筋ダイアリー)ボード

 茜くんに教えて貰ったトレーニングを始めてからちょうど1週間。効果が出てるのかまだわかってないけど、愛さんには『りなりー週明けからご機嫌じゃん!良い事あったの?』って言われたから少しは変わったのかも……愛さんにしか言われなかったからやっぱり変わってないかもしれない。

 

 まだデビューすらしてない私とは違って、茜くんは人気スクールアイドルの夕雲ひまりをやってる。それと一緒に裏方も全部1人でやるから忙しい。

 歌も、踊りも、衣装作りも、MV作成と編集も、その他全部。ワンマン営業。

 だから私も早く自分の目標を叶えて、忙しいのに私のわがままを聞いてくれた茜くんに応えたい。茜くんの秘密を使って脅しと同じ事をしたから早く解放してあげたいって気持ちもある。

 茜くんが一緒にいてくれるのは逃げたら情報をバラされるって分かってるから。だから契約完了まで離れない。

 

 警戒しすぎって思うのは私のわがままなのかどうかよく分かってない。

 

 ただ分かるのは、きっと私といても楽しくないだろうなって部分。

 茜くんはちょっとだけ私の考えてる事がわかるって言うけど、やっぱり可愛く笑えない女の子なんて好みにかすりもしないと思う。男の子はおっぱいと太ももが大きい女の子が好きらしいから。

 それに茜くんの好みは明るく笑顔が似合うお姉さんみたいな人。多分愛さんみたいな明るさだと思う。ひまり状態の茜くんはそんな感じだし。

 だから特徴が正反対の私といたってつまんないはず。

 

「最近のゲームのグラフィックえっぐ……なにこれ、ほぼリアルじゃん……Vitaよりレベル高いとかマジ……?えっ、このゲーム機ストレージ1Tあるじゃん?GBじゃなくてTB?やば……。こっちの海馬社長みたいなゲーム機は?」

「PS5……その1Tのゲーム機の後継機……」

「PS5……あのよく転売されてるやつ?」

「転売されてるやつ……SONYが大量に生産したから、普通に買えるようになった……」

「おぉ、やっぱりこういうのって待てば買えるんだね。ボクも3DS買う時にめっちゃ苦労したんだ。あれ、皮と基盤を別々に売るやつ。基盤を500円で出して皮が欲しけりゃ4万出せって転売する方法」

「DSLiteから続く、伝統のDS転売方……。茜くんは公式の再販売待ったの……?」

「結局買うことは出来なかったけど、父さんが職場の人から要らなくなったのを姉さんの分と一緒に買い取って来たんだ。職場の人は息子兄弟の誕生日にサプライズで買ったらしいんだけど、誕生日前日になってWiiUが欲しいってなったららしくて。あとおじいちゃんが3DS送り付けて来たんだと。それでプランがお釈迦」

「それは……可哀想だね……」

 

 …………茜くん、普通に私の家で遊んでる。『トレーニングとひまりさんの話聞きたいから家に来て欲しい』って頼んだら来てくれた。

 茜くん側は私の両親にも話をしておきたいとかその内私の家集合になる日も来るはずだって理由で乗って来た。

 正直に言うとどうして受け入れてくれたのか分からない。親はいないし茜くんはゲームしないらしいから多分一緒にやってもつまらないはずなのに。そもそも私といること自体つまらないのに。

 

「茜くん……ゲームは大丈夫だから……トレーニングやって欲しい……」

「とは言ってもなー……ストレッチはやってるんでしょ?」

「うん……」

「今は衰えまくってる表情筋を手の刺激で解して筋トレできる状態にまで持って行ってる段階だし。だからいきなり訓練メニューやると筋肉がブチッと行くぞ。だから今は楽しいことやって無意識的にゆっくり筋肉使うことで表情筋を慣れさせて行くシーズンなの」

「私の顔の筋力……肉離れするほど酷い……?」

「強硬性に関しては人間の限界レベルに達してる。衰えてるって言うのも筋力落ちてるって意味じゃなくて柔らかさが歳以上って意味。いや、歳以上とかそういうのじゃないな……ずっと冷蔵庫の中に放置したせいで水分飛んじゃったのと、冷気凝固で固まったタンパク質?」

「茜くん……女の子相手に容赦無いね……」

「前にも言ったけど男が女に優しくするのって基本狙ってる時だけだからなぁ……それか可愛いからとりあえず良くしちゃってる時。顔が良い子にお礼言われると自尊心が満ちるからやる。で、ボクが自尊心満たされる時って姉さんに褒められた時しかないからさ。だからそれ以外の女に優しくする理由がない」

 

 かすみさんから聞いた通り茜くんは厨二病だった。それも1番めんどくさい『世界に定着した共通概念の短所をマジレスしてくる』タイプ。

 あと菜々さんからも思想が強いって聞いてる。確かに強火思想と厨二臭い屁理屈を感じた。

 

 でも、この心の底から人を憎んでる表情には厨二病以外のものを感じる。もしかして過去に人を殺しちゃった事があったり……?お姉さんをいじめるイジメっ子の始末とか。

 本人が話すお姉さんへの愛の深さを考慮すると75%くらいの確率でやりそうだから否定は出来ない。

 

 茜くんもお姉さんの好きな所とか思い出は語ってくれるけど、生い立ちとか現在はなにも話してくれない。

 それに嘘発見器の時も『夕雲ひまりは実在する』って茜くんが言ったら嘘判定出たし。本当に謎が多い。謎が多いから本当に何かあったのかもって心配になる。

 

「茜くんはやっぱり……お姉さん以外の女の子、興味無い……?」

「ないけど。全日本ミスコンテストで1位取れるくらい可愛い女の子がいつも傍にいるのに、それ以外を見ても何もなくない?」

「その……最後にはお姉さんに行くとして……女の子にいっぱいモテたいとか、ない……?」

「最後には全部捨てるのがわかってるし、ボクにはもうただ1人尽くす主がいるからモテる必要がない。」

「私とか菜々さん……かすみさんがいるのは良いの……?」

「だってお互い知り合い程度にしか思ってないじゃん?あんまり踏み込んだ交流もしてないから恋愛や異性愛どころか友愛もないし。強いて言えば軽い仲間意識があるくらいか?でもそもそもボクはかすみん達のファンであって友達じゃないからさ。だから多分スタートラインにすら立ててないと思うよ」

「…………そっか」

 

 私と茜くん、友達じゃなかったんだ。ちょっと……結構寂しいこと言われちゃった。

 アニメでよく見る相手に好かれてるって勘違いした男の子みたいな事が起こってる。でも実際に体験すると出てくる気持ちは羞恥心とか落胆より悲しさがほとんど。

 

「なんで友達、作らないの……?茜くんならいっぱい作れるのに……」

「一匹狼は厨二病の大好物設定なので」

「厨二病って自虐すれば……何言っても良いわけじゃないよ……?いつか自分の首締めるかも、しれない……」

「じゃあガイジとして売り出すか」

「ファッション障害者は、1番やっちゃダメ……」

「そう?でもどうせ今の時代ならボクみたいな体格の男は低身長症って言われるだろうし、こんなお子ちゃまじみた性格してるから確実に発達障害って診断下されるでしょ。とりあえず性格に難があったら発達障害言い渡すのが今のトレンドだし。迷惑系LouTuberとか客テロするやつとかだいたい診断結果で障害ありって言われたあと減刑貰ってSNSが荒れるじゃん。そこで素人が正義感発散して気持ちよくなるところまでがセットのエンタメ」

「茜くん……それ外で言ったら、絶対嫌われるから言わないでね……」

「菜々ちゃんみたいなこと言うね」

 

 他人からの評価とか全部どうでも良いって思ってる顔だ……。お姉さんが一緒にいてくれるなら他は無関心って本気で思ってそうだし。家族が好きなのはわかるけど、茜くんがそこまで青春を捨ててまで優先する理由が分からない。

 私は愛さんや侑さん、同好会の皆と……茜くんといる時の方が楽しい。昔みたいに手放しに家族大好きって言えなくなった。多分そこも茜くんの考えが分からない理由だと思う。

 もちろんお父さんとお母さんの事は好き。でもやっぱり会えないのは寂しい。

 

「まっ、別にボクが嫌われたところで誰の迷惑にもならんから大丈夫でしょ」

「お父さんとお母さん、お姉さん……迷惑かからないの……?」

「平気へーき。皆は出来すぎなくらいしっかりしてるから影響ない。出がらしの出来損ないに等しいボクが目立てば『一番下だけ不出来で可哀想』って哀れみポイント貰えるよ」

「あんまり強く言えないけど……茜くんの家族は、その状況を許さないと思うよ……」

「そしたらもっと悪い事をして家族平和を勝ち取れば良いさね。人の不快感を煽るのなんて簡単だからポイントはいくらでも稼げる」

「平和ではあるけど、幸せじゃないから駄目だと思うよ……」

 

 茜くん、家族の事が嫌いなのかな……。せっかく家で会えるのにこれじゃあいないのと一緒。

 …………ううん、違う。茜くんの嫌悪の対象はきっと自分自身。家族大好き茜くんが家族の嫌がることをするはずないから。

 

「茜くんは、お母さんとお父さんのこと……好き……?」

「好きだよ。璃奈りーもわかってる通りボクは家族以外どうでも良いって育った人間だ。友達がいない今も寂しくない理由。確かに人は寄ってくるけど見世物パンダくらいの意味合いしかない」

「そうなの……?茜くんならリーダーみたいなポジション……出来そうなのに……」

「ボクがそんな役職についたら国が出来上がってしまう」

「すごい自信だね……」

「世界で1番可愛い姉さんと顔がそっくりなボクが王をやれば政治なんてするまでもなく地球を統べることができるよ。色気はないけど偶像も軍師も務められる」

「色気は仕方ないと思う……」

 

 茜くん男の子だし。それに私より胸があったら普通に凹む。

 ただ男の子に胸の大きさで負けるとどれくらいのショックなのかは知りたい。もしショックが大きかったら私の表情にも少しは現れるのかな。

 

「茜くん……自分に自信持っててすごいね……」

「ぶっちゃけるとボク単体の自己評価は低いよ。姉さんが一緒にいてくれたから頑張れたし、もっと姉さんの役に立ちたいから今まで生きて来れた。1人だったら惨め過ぎて確実に死ぬこと選んでたよ」

「あんまり死ぬとか言わない方が良い……軽口で言うなら、まだ大丈夫かもだけど……」

「そうだねぇ。でもボクにとっては姉さんが消えた生活とかルーのないカレーだから」

「ただの白ご飯……」

「うん。カレー食いたいのに白ご飯だけ出されても普通にイラッとするし虚無いしガッカリするでしょ?そんな感じ。姉さんっていうルーがないと意味無いのに目の前には白米の地球しかない。なんでここにいるんだってなる」

 

 前から思ってたけど、お姉さんは茜くんにどんな接し方をしてたのかな。普通の家で普通に生活してたらこうは育たない。絶対ウザがって姉に近づかなると思う。ここまで酷いともはやファンタジーの領域。

 

 茜くんの発言と嘘発見器のデータを照らし合わして推測すると、お姉さんは生きてるはず。少なくとも嘘発見器のログを見るに茜くん自身はお姉さんが生きてるって信じてる。

 ただ脳波の1部が『いない』って判断してるから何か事情があって今は茜くんの傍にいられない。

 

 親が離婚して連れ子として別れちゃったとか、なにかの病で入院暮ししてるとかおそらくそこら辺。あんまり触れない方が良い話題。

 

「とりあえず姉さんの存在はカレーをただの白ご飯にしちゃうみたいに、ボクにとっては世界の認識を変えちゃうくらい大事な存在なんだ。いなくなるのは無理」

「お姉さんがいない生活に……慣れないようにするの……?辛いと思うから、やめた方が良い……」

「理屈じゃさ、どうにも出来ないのよ。辛い経験を受け入れながら慣れて行って、そこから新しい生活を始める生物の心理からは外れるけど」

「死んだ人全員にそうしてたら……生きるのが嫌になると思う……」

「これは姉さんだけの特別だよ。申し訳ないけどその他全ては普通に死んだって認識する。けど姉さんの時だけはどうしても認めたくない」

「あんまり、印象良くない……」

 

 他の人を蔑んだり雑に扱ってるんじゃなくてお姉さんが特別待遇すぎるだけなのは理解してる。でもどうしてもお姉さん以外に気持ちが同調しちゃう。

 確かに茜くんが特別な人に特別な対応をするのはわかる。昔で言うと王様のお墓を誰よりも豪華にしたいって言うのとやってる事は同じだし。

 今の時代からして見ればすごく歪んだ考えだけど、茜くんにとってのお姉さんは王様とか神様みたいな存在だから仕方ないのかもしれない。

 

「璃奈りーもボクへの好感度下がった?」

「『璃奈りーも』って、他に誰かいるの……?好感度下がった人……」

「菜々ちゃん先輩とかすみさん。もうブイブイかまして来たからドン底中のドン底よ」

「…………だと良いね……」

 

 菜々さんは次の出かけ先をググってたし、かすみさんは直近のライブを予約してたしで嫌われてる気配とか微塵もなかったけど。

 言葉には出来ないけど、茜くんは『信頼を築くためには長い時間がかかるけど、失う時は一瞬で崩れる』って言葉を過信し過ぎだと思う。自分の積み重ねたものと需要を理解してないから失うためのアタックが機能してない。

 

 あと私の勝手な憶測だけど、茜くんは嫌われ役向いてないと思うよ。

 

「ボクの顔まじまじ見てどうしたの?」

「茜くんは……みんなへの好感度、変わった……?」

「いや、ファンだからそんなガチな好感度は抱いておらんよ」

「ドライだね……」

「空気読んで璃奈りー最推しって言った方が良かった?」

「ううん……本気じゃない言葉に、意味なんてないから……」

「そう言うと思った」

 

 茜くんがそこまで私にのめり込むとは思えないけど、いつか『好き』って言葉を貰えたら良いなって思ってる。

 応援でも良いし、友達に向ける感情でも良い。大好きって気持ちを向けて欲しい。でもやっぱり私じゃ駄目かもしれない。

 

「茜くんは……自分の正体知ってる人と……知らない人で……好感度変わる……?」

「知られたからには野放しにする訳にはいかないし。好感度かどうかは知らないけど友好的にはなる。菜々ちゃん先輩とはお互い銃口突きつけ合ってる状態だから例外だけど。向こうがバラすならこっちもバラすだけだし」

「……問題は、私……?」

「璃奈りーは大丈夫って分かってるけど、やっぱり本能的に警戒してる部分は否定できない。ごめん」

「ううん……大丈夫……元凶なのは自覚してるし……。でも、その……私が最初に知ったのは、夕雲茜だから……だから……そこだけは知ってて欲しい……」

「わかった。しっかり記憶しとくよ」

 

 高等部の教室に入って最初にクラスで認識したのが茜くんだった。名前通り日没や夕焼け空みたいなノスタルジーで静かな色香を出す女の子。男の子だったけど。

 彼岸花が似合いそうな人でなんとなく死気を漂わせてた。そのせいか話しかける人なんていなくて。多分お姉さんとなにかあったのがここら辺なんだと思う。

 

 そのあと茜くんが……夕雲ひまりが出てきて、どんなアイドルをやってるのかなって見てみたらすごく理想的な笑い方をしてて。見入っちゃって。

 

 最後にエンドロが決め手になって、もともとあった『友達になりたい気持ち』と『表情を教えて貰いたい気持ち』が止められなくなってあんな暴挙に出た。

 普段の私はあそこまで積極的にはなれない。仮になれる人なら今頃は愛さんと幼馴染をやってる。

 

「璃奈りーはあれ?夕雲ひまりよりボクの方が好きな物好きタイプ?」

「……ちょっと違うけど、茜くんの事は好きだよ……」

「今更聞くのも変なんだけどさ、ボクのこと見てて楽しいの?」

「見るだけなら普通……一緒にいられるなら楽しい……」

 

 他とは違うアピールになるかもだけど、私は夕雲ひまりが出てくる前から茜くんのことが気になってた。そのせいか茜くんのアイドル活動については『仕事』って見方が勝ってる。

 

「一緒になんかしてる方が良いのか。ゲームでもやる?璃奈りーの好きなタイトルで」

「良いけど……茜くん……ゲーム苦手なんでしょ……?」

「苦手だけど。でも配信でプレイするかもだし流行りのゲームくらいはやっときたいじゃん。それと単純に璃奈りーと遊ぶの楽しそうだから」

「…………そっか」

 

 友達…………じゃないんだよね?こんな近い距離感で言われたら友達って思っちゃう。

 お姉さんは人たらしみたいに言ってたけど、茜くんも大概勘違いを生み出す素質があるよ。

 これをブーストさせたのがお姉さんだと思うと普通に怖さを感じちゃう。多分だけど愛さんに優しくされた男の子くらい酷いことになってるはず。

 

 とりあえず配信向けの流行りゲーだとFPSのXEPBが1番良いかなって思って勧めた。バトロワ式で楽しいし。

 あとは茜くんのプレイスキル次第だったけど普通にめちゃくちゃ下手くそだった。敵と対峙した時に慣れてなくて銃撃ボタンの位置が記憶から飛ぶみたいな話じゃなくて、コントローラーを使うこと自体に慣れてないタイプ。

 握る手がプルプル震えてて操作以前の問題だったし、このままやらせたらコントローラーを壊しそうだったから一旦中断をして訓練場行き。

 もっと優しく握ってって言ったけど茜くんはどうしても力んじゃうから無理だーって。

 

 一応茜くんみたいにコントローラーを握る事自体に適正がない人は一定数いる。デュアルショック式のデュアル部分が馴染まないタイプ。

 こういう人にはAC持ちが適合するって定説を信じて半分冗談で教えたらマッチしちゃった。ネット対戦で残り18人まで生き残るレベルになって素直に恐怖。これがいわゆる『おもしれー女』……。

 ネットでよく言われるAC持ちはアーマードコア玄人かホンモノのコントローラー音痴にしか扱えない説、本当だったんだ。

 

 

 

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