破壊され、倒壊したビル群。黒煙が立ちこめ、かつて賑わっていた商店街や商業施設は硝煙と泥と血の匂いが漂う名もなき戦場へと姿を変えた。
辺りに数えきれない骸や、機能停止したオートマタが転がっている。
果てしない攻防戦、激しい戦いがひとまずの終わりを告げる。戦場に静けさが広がり、ポツポツと雨が降る。
血に塗れ、傷だらけの身体で立ち尽くす。だが留まるわけにはいかない、一介の大隊を殲滅したに過ぎない。敵はまだ来る。
一歩ずつ、廃墟と化した大地を踏み締めるように歩き続ける。
地下鉄に入り、路線図と案内掲示板が立てかけてあった柱にもたれかかる。
血を流しすぎた。ナイフで弾丸を抉り出し、ポーチから包帯とタンポンを取り出して手早く止血する。
マガジンポーチに残ったマガジンを取り出す。少ないがまだ戦える。彼のためにも戦い続けなければ。
そう心に思い、立ち上がると同時にホームから音がし、このご時世には不自然すぎるほど無傷の列車が停車する。
ドアが誘うように開く。不審に思いながらも
引き寄せられるように乗り込んだ。
しばらくして走り出した列車は外に出た。夜が明け、雨も止んだ。朝陽が電灯の消えた車内を明るく照らす。
「……………声が……聞こえますか…?」
咄嗟に拳銃を抜き声の主の方向に振り向く。
白い車内に蒼い髪色の少女が、陽光に照らされながら、物静かに佇んでいた。
彼女は傷だらけでところどころ血を流し、白い制服に血が赤く滲み、足元には血が溜まっている。
彼女の頭に浮かんでいるヘイローはヒビ割れ、不規則に乱れている。今、弾丸に撃ち抜かれることがあれば命を落としてしまうだろう。
彼女が誰かはすぐにわかった。拳銃を下ろし、ホルスターにしまう。
彼女を責める気持ちにはなれない、こんな結末に至ったのは事実だが、彼女が人一倍、このキヴォトスを想っていたことも事実だ。それゆえの選択だったのだろう。
ゆっくりと、俯いたままの彼女は話を続ける。
「…………これは私の、ミスです…私が、選択を誤ることがなければ……このようなことにはならなかった………」
悲痛、責任が混じりながらも尚優しき声。
"あなたのせいじゃないよ"
"……責任は、私が負うからね"
"それが、大人のやるべきことだから"
彼なら、そんな優しい言葉をかけることができただろう。
「…ですが………ですが私が信じられる「大人」であるあなたなら…全てを救うことができるはずです………私や、彼、あなたが守りたかった全てを…」
「この捻れて歪んだ世界の終着点とは、また別の終着点……その先へ続く旅路……そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかるはずです」
「何もわからなくても、何も覚えてなくても、何も思い出せなくても………きっと、あなたなら同じ状況に際した時、あの人と同じ選択を取るでしょうから……」
「だから……今更図々しいかもしれませんが……どうか、よろしくお願いします」
「先生…………」
…私が果たさなければならないようだ。
彼のためにも、彼女のためにも、私がやらなくてはならない。
もう一度、方舟へ行き、私が、全てを取り返してみせる。
我々は望む、七つの嘆きを。
我々は覚えている、ジェリコの古則を。
接続パスワード承認ー
シッテムの箱へようこそ⬛︎⬛︎先生。
……い
…誰だ……?
…んせい、起きてください
………誰かが、私を呼んでいるのか…?
「先生!」
私はゆっくりと重い瞼を開き、身を起こした。目を光にならしながら周りを見る。何やら奇妙な夢を見ていた気がしたが内容は思い出せない。
「…ここは?」
「大丈夫ですか先生」
「少々待っていて下さいと云いましたのに、かなりお疲れだったみたいですね、中々起きない程に熟睡されるとは」
「夢でも見られていたようですね、ちゃんと目を覚まして、集中してください」
声の主の方へ目線を向ける。尖った耳と黒い髪を持ち、メガネをかけた女性。年齢は10代後半ぐらいだろう。本来初対面の筈だが咄嗟に名前が脳裏に思い浮かんだ。
「君は……………リン……か?」
「はい、連邦生徒会所属の幹部、七神リンです」
「そして貴方はおそらく、私たちが呼び出した先生……と見受けられます」
「……なぜ推測形なんだ?」
「……私も、先生がここに来た理由を詳しく知らないからです」
「…………そうか…」
「…混乱されていても無理はありません。ですが、先生にやってもらわなければいけないことがあります」
「なので、今は私についてきてください。」
「どうぞ先生、こちらへ」
そう告げられ、リンについていく。エレベータの一つに乗り込み、ボタンを押す。硝子の外に映る美しい街並みに目を奪われた。
高層ビル群の奥に一つの光の柱が空に向かって先が見えぬほど伸びている。どの建物よりも長く、はっきりと見える
かつてこの光景を見た覚えがあるが、気のせいだろう。
「改めまして、学園都市、キヴォトスにようこそ、先生」
───────────────────
エレベーターが停止し、ドアが開く。部屋に足を踏み入れるや否や、数人の若い少女たちがリンに向かって声を張り上げた。
リンはため息を吐き、表情をすこし変えた。
「あぁ……どうやら面倒な方々に捕まってしまいましたね、まぁ理由は分かり切っていますが」
「分かっているなら何とかしなさいよ!数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!? この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「ヴァルキューレ警察学校で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
「主力戦車や戦闘ヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しています、これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
「こんな状況で連邦生徒会長は一体何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの、今すぐに会わせて!」
何が起きているのかはわからないがとにかくかなり面倒な状況にあるのはわかった。
リンはやれやれとでもいうようにまたため息を吐き、額を抑えた。しかし口を開き。
「正直に言いますと、連邦生徒会長は今、席におりません。行方不明になりました。」
と告げた。周囲の生徒がざわついた。連邦生徒会が今まで対応していなかった理由が生徒会長の行方不明というここにいる誰も予想もできなかった理由だったからだ。
「…………それと、そこにいる大人はいったい誰なんです?どうしてここにいるんです?」
混乱の理由がわかったところで、濃い青色の髪とツインテールが特徴的な少女がこちらに向かって聞いてきた。
一同の目線が集まる。私は言葉に詰まったが、代わりにリンが前に出て告げた。
「この方は新しくキヴォトスで働くことになった先生であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
「そして、連邦生徒会の制御権を握る『サンクトゥムタワー』の認証を迂回できる方法。この先生こそが、そのフィクサーになってくれるはずです。」
また、周囲の生徒がざわつく、それもそのはず、見ず知らずの初めて出会った大人がそのサンクトゥムタワーの制御権を取り戻すことができる人間だと思えないだろう。
「……新しく、先生になった者だ。まだ解らぬことも多いが、どうかよろしく頼む」
とりあえず頭を下げ、挨拶をしておくことにした。
私の挨拶の後、MPXサブマシンガンを携帯した女子生徒が軽く挨拶をしてくれた。名は「早瀬ユウカ」ミレニアムサイエンススクールの生徒でセミナーと呼ばれる組織にに所属しているらしい。そうして、その場にいた主要な生徒四人と軽い挨拶を行った。
そしてリンからなぜ私がこのキヴォトス来ることになったのかという理由を詳しく知った。
「連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の顧問として必要だから」ということだった。
それは連邦捜査部。通称「S.C.H.A.L.E」と呼ばれていた。
もう一つ伝えられたことは私はここから30km以上離れたシャーレの部室へ向かわなければならないことだった。
シャーレの部室はサンクトゥムタワーの制御権を取り戻すことができる唯一の場所であるとリンは告げた。
輸送ヘリを要請しようとしたが、シャーレオフィスの近くは激戦区となっており、ヘリで上空を飛ぼうものなら携帯式対空ミサイルで撃墜されるだろうと、リンの通話相手は言った。
どうやら捕らえられていた停学中の生徒が騒ぎを起こしているのが原因らしい。そこにPMCが戦闘ヘリや装甲車、戦車まで展開し、さらに悪化しているとのこと。さらに増える面倒ごとにリンはまたため息をつき、恐ろしい表情の片鱗を見せる。
がすぐに落ち着き、ユウカ達の方を見る。何か思いついたようだ。
「ちょうどここに各学園を代表する立派で暇そうな生徒がいますね」
「このキヴォトスの正常化のためにも、暇を持て余した皆さんの力が必要です。行きましょう」
そう言いリンはすぐに歩き出した。困惑するユウカもそれについていく。
「それと、先生の私物を預かっていましたね、そこにおいてありますので受けとってもらえると幸いです」
私物を預けた覚えはなかったが、そこには一本の古刀と、骸骨が描かれたバラクラバが置いてあった。
何故だろうか、懐かしい気持ちになった。私はバラクラバを被り、古刀を握り締めるよう持っていった。
ヘリでの移動は諦め、シャーレ付近までは装甲車で行き、そこからは徒歩で進むこととなった。
やがてシャーレ周辺に到着したが、紛争地域の如く銃声や爆発音が響き、戦車や装甲車が走り回り、武装ヘリロケットを打ちながら飛び回っている。とにかく乱戦状態であるのは間違いない。
私を含めた五人が下車すると、装甲車は逃げるように去っていった。
「な、なんで私たちが不良やPMCを相手に戦わなきゃいけないの!!」
「サンクトゥムタワーの制御権を取り返すためには、あの部室の奪還が必須ですから」
「そ、それは聞いたけど…!私はこれでもセミナーに所属してて、それなりな扱いを…」
荒ぶるユウカをゲヘナ学園風紀委員会所属のチナツが
宥める様に話す。それを尻目にこちらに気づいた不良たちが突然発砲してきた。
「みんな!伏せろ!!」
私は叫んだ。トリニティ所属のハスミとスズミ、チナツは咄嗟に物陰に隠れたが、ユウカは間に合わなかった。
ユウカは数発の弾丸を受けた。
「ユウカ!大丈夫か?」
「いっ!痛っ!!あいつら違法な[[rb:JHP弾 > ホローポイント]]を使ってるじゃないの!!」
愚痴を言えるのから無事な様だ。本来ホローポイント弾など、殺傷力の強い弾をまともに受ければただではすまないが弾丸を受けたユウカのふとももには傷こそできていたものの、この程度では大事には至らないだろう。
「キヴォトスの人間は頑丈なんだな」
「ええ、私たち生徒は大丈夫ですが、先生はどうか気をつけてください」
「先生はキヴォトスの外からやって来た方ですから、弾丸一つでも命に危険が……」
ハスミとチナツが説明してくれた。どうやら彼女達のヘイローと呼ばれる頭上に浮遊する装置が生命とあの耐久性を維持しているらしい。
「なるほど、だから戦闘は君達に任せた方が良いと」
「はい」
「先生はここにいてください、ここなら一応安全ですので」
「…そうか、だが私も戦う、戦闘の指揮をさせてくれ」
「え?先生が戦術指揮をですか?まあ…先生ですし……」
「わかりました、私たちは従いますので指揮をお願いします」
「先生、私からいいでしょうか?」
トリニティ自警団所属のスズミが駆け寄って来た。
「先生、もしものこともありますので、これを」
そう言って差し出したのは拳銃、M9ピストルだ。
「私たちが守りますが万が一に持っておいてください、使い方はわかりますか?」
「40口径、弾薬は9mmパラベラムか、この型には慣れてないが…大丈夫だ」
「準備ができたようですね、では行きましょう、部室を奪還しに!」
To Be Continude……