雨が降っている。辺りは、黒一面。
「……先生」
ホシノさんが先生に声を掛けるが、声を返さない。
「風邪、ひくよ」
そう言って、ホシノさんが傘に先生を入れる。
先生は、感謝も言わずに、モブ子に話しかける。
「ねえ、私達が会ったのも、こんな雨の日だったよね」
モブ子は答えない。
「たまたま、私が辿り着いたのがモブ子の家の前だっただけなのに、私のこと、ずーっと守ってくれたよね」
モブ子は答えない。
「それからさ、いろんな人を繋げていったよね。凄かったよ、ホントに今までなんで表舞台に出てなかったんだろーって」
モブ子は答えない。
「最初は、ワカモだよね。聞いただけだけど、ワカモから接近したんだっけ?あの人と接するのが苦手だった子が、友達をね……」
モブ子は答えない。
「で、ヒナとか、アビドスとか、ミレニアムとか……」
モブ子は答えない。
「あのゲマトリアとも、ちゃんと会話できるなんてすごいよ」
モブ子は答えない。
「……ねえ、私、さ、言いたかったこと、あるんだ」
モブ子は答えない。
「…………好き、です。付き合ってください」
モブ子は答えない。
「……そう、言いたかった。言いたかったのにっ……!」
モブ子は答えない。
「なんでっ、居なくなっちゃったのっ……!?わたしっ、言いたいことっ、他にもあったんだよっ!?あなたの名前とかっ!」
「……ホシノさん、もう下がらせてください」
「うん」
泣きながら崩れ落ちた先生を、ホシノさんが抱えて離れた。
わたくしは、葬儀を終わらせるために、続けた。
辺り一面に広がっていた黒はもうわたくしだけだった。
わたくしは、目の前の箱に話しかけた。
「……はぁ、何をしてますの?先生をお守りする、という約束を忘れたのですか?」
そう言っても、声は帰ってこない。
それもそのはず、彼女は――モブ子は、もう、
「折角なら、顔を合わせて文句言いたかったのですが、もうあなたは粉になってますものね」
モブ子の遺体は、すぐに燃やして粉にした。
……言葉にはできないくらいに、体は壊されていたから。
尊厳を破壊するためとしか考えられないほどに。
「あなたがいなくなってしまったせいで、キヴォトスは混沌と化していたんですよ。……あなたはもう、先生と同じくらい、重要になっていたんです」
わたくしはつい笑いが零れる。
「あなたがいなくなり、見つかった後はもう大変でしたよ。阿鼻叫喚という言葉ではすまされないほどに。わたくしですか?もちろん怒りましたよ。……先生以外にこんなことを言うとは思いませんでした」
でも、わたくしが最も許せないのは。
「先生を泣かせて、勝手にいなくなってしまったことです。絶対に、許しませんから」
まあ本気で怒るときは、わたくしがそっちに行ってからにしますが。
「それより、今日はこれを一緒に飲みに来たんです」
持っていた瓶の蓋を開けて、上から墓にかける。
「……懐かしい。そう思いませんか?あの時飲んだワインです」
半分ほどかけたら、わたくしは一口飲む。
「ぷはっ……味、変わってませんね」
わたくし達は、大きく変わったというのに。
残りを全てかけ、瓶を横に置いた。
「……もう、行きます。次は分かりませんが、まあ、すぐに来ます。……心配せずとも、先生は任せてください。あなたの元には行かせませんから。……また」
わたくしは後ろに振り返って、歩いた。
モブ子は、答えなかった。
もう見えなくなるところまで歩くと、目の前の木に背中を預けた状態で立っている人がいた。
「……終わった?」
「ここに来たということはそういうことでしょう」
「でしょうね」
その人物は、さっきまでいた黒の一人。
空崎ヒナだった。
服はその時から変わっていない。
「伝えたの、あのこと」
「いえ、そんな度胸、わたくしには無かったみたいですわ」
「そう……それでいいのかもね、
地味子は、どこかへ消えてしまった。
そして消えた次の日から、次々と裏組織が消えていき、死体が増えていった。
「どうするの。あなたも、同じようにする?」
「……少し前のわたくしなら、そうしたでしょうね」
ヒナのその質問でわたくしは決意を固めた。
「後を追います。モブ子と、地味子のために……モブ子に、先生は任せろと言ってしまいましたが、あなた達がいれば問題ないでしょう?」
「……私は風紀委員を辞めた」
「……馬鹿なんですね」
「あなたもでしょう。だからこれをぶら下げてるの」
そう言ってヒナは愛銃を見せつけてきた。
何故か片方の手にはわたくしの銃がありましたが。
「はい、行きましょ。さっさと止めて、彼女のことを言いに行きましょう」
「そうですね。……ありがとう」
わたくしは銃を受け取って、ヒナと共に歩き出した。
絶対に、終わらせる。負の連鎖を。
はい、遅れて申し訳ありません。本当にごめんなさい!
どうしても、これで良いのかと悩むと、時間が掛かりまして……
で、生存報告とリハビリを兼ねてまたショートネタに手を出しました。
本当に申し訳ございません!
感想も、返せてないものが多いんですが、今更返すのもあれかと思いまして、今回の話から再開させていただきます。