……このテキーラはサービスだからまず飲んで落ち着いてほしい。
うん、「また」なんだ。すまない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思ってない。
でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って、この話を書いたんだ。
言い訳だけ聞いてもらっていいですか?
まず暑くて暑くてひからびそ~ってわけで動けなかったんです。それはもう、百話越えの動画見切っちゃうくらいには。記憶リープ!
で、見終わって気づいたら来てたんです、AC6が。はいそういうことです。
完結までは行きたいとは思っているので、どうか良ければ記憶の片隅にでもおいていただけると幸いです……
――私は、一人分の食事を持ってとある部屋へ歩いていた。
逸る気持ちとは裏腹に足取りは重い。
それでも歩みは止まることなく、一歩一歩目的の場所へ歩いていっていた。
そして、扉が目の前に現れた。
ノックをして、声を掛ける。
「……モブ子」
私は扉を開けた。
そこには、ベッドに横になって、私を怯えた目で見つめるモブ子がいた。
「ひっ……」
「大丈夫、大丈夫だから……何も、しないから……」
そう言っても、怯えた顔は消えない。
でも、ごはんを食べさせなきゃいけないから、ゆっくりと近づく。
「やめて、こないで……!」
そう言われても、止めることは出来ない。
ごめんね、苦しいよね……
一歩、二歩、三歩。そうしてベッドの横まで来た。
「ぅ、あ……」
「大丈夫、何も、仕込んでないから。……ん、ほら、ね?」
持ってきた食事をスプーンでモブ子の口まで運ぶも、首を左右に振って拒否される。私は一口含んで飲み込み、安全であることを示すも、それでも拒否感が生まれるらしい。
……それもそうだ、彼女は……モブ子は、
ぐちゃぐちゃになるまで、壊されたのだから。
体は隅から隅まで殴られ、切られ、撃たれ……犯された。
それだけならまだよかっただろう。
彼女は今、
足も、右目も、左耳も、全部奪われた。
どうして?どうして彼女がこんな目に遭わなきゃいけないの?
そう思っても、今はしょうがない。
どうにかして、食べてもらわなきゃ。
「あーん……」
そう言ってスプーンをモブ子の口元の近くに置くモブ子はそれを不安そうな目で見るだけだった。
だけど、一分程度経つと、口を寄せてくれた。
そして、口に含んだ。
やった――と思った次の瞬間。
「おえっ!?」
「あ――モブ子!」
吐いてしまった。それも口のものだけでなく、胃の中のものも。
急いでそれを片付けよう、そう思ったときにそれは聞こえた。
「たすけ……ワカモさ……」
私は泣きたくなる衝動を抑えながら、スマホを取り出してワカモを呼び出した。
「――大丈夫ですか!?」
電話をして、三十秒もかからずワカモはやってきた。
一応、吐いたものを片付けようとしたけど、モブ子は嫌がった。近づくだけで、恐怖が膨れ上がるみたいだった。
だけど、ワカモがすれば、抵抗もせず、あっという間に綺麗な状態に戻った。
「はい、うがいして……」
「うん……ぐちゅぐちゅ、ぺー……」
私は遠巻きに、それを見ることしかできなかった。
……今、心を開いているのは、ワカモにだけ。モブ子の目の前でモブ子を救った、ワカモにだけだった。
「……ワカモ、さん」
「分かってますわ……ん」
「んぅ……」
モブ子がワカモの名前を呼ぶと、分かっていると言って……キスをした。
今、モブ子にとって心休まることは、ワカモとのキス、そして――
――二つの影が完全に重なった。
「という夢を見て脳が破壊されたので慰謝料を請求しに来ました」
「仮にも教師が朝から何言ってんだ」
「コーラルを浴びすぎたんだろ」
「……最近気づいたのですが、先生ってもしかして結構バ……いえ……」
「そこまで言ったら全部言って!?」
「そもそも、私が両手両足右目左耳奪われたところで壊れんわ!
現に今そうだし」
「説得力半端ないけど次言ったらキレるからな……」
「強化人間621です☆」
「やっぱりこの人メンタルおかしいですって」
……夢なら、モブ子の欠損も夢であってよ……