第一話
出会いとは、突然である。
そして、人生は出会いの連続である。物しかり、人しかり、物事の始まりしかり。
つまり出会いが無かったら、人は何もない生き物じゃないのだろうか。
そんなことを何処かで聞いた気がする。覚えてない。
まあ、そんなことは今はどうでもよくて。要は出会ったのだ、初めての存在と、死ぬほど降ってる雨の中で。
それが誰かと言うと―
「ぁ……ぅ……」
―かの有名なシャーレの先生だ。我が家の前で怯えてる、先生だ。
私の名は……まあモブ子でいっか、特に知る必要もないただの学生Bだ。
このキヴォトスでちっちゃい学校に通っている。まあトリニティやゲヘナに比べりゃ何処も大概ちっちゃくなるか。
そんな訳でドンパチがよく起こるこのキヴォトスでも大した問題は起こっていない。
せいぜい不良が暴れるくらい。それもヴァルキューレを呼べば解決する。
だから、問題解決のプロ、シャーレの先生と出会うことなんてないのだ。
「いや出会ってるんだよなぁ……」
帰ってきたら家の前に成人女性がうずくまってるなんて思うわけないでしょ。
いやぁ、どうしたものか。目がちょっと合っただけで凄い震え出したし。
「ヴァルキューレかぁ?」
困った時の警察である。
そう思いポケットからスマホを取り出そうとすると―
「やっ、やめて!」
「うぉ!?」
―と、先生に縋りつかれ、止められてしまった。
その力は、とても弱々しい。ガチで嫌みたいだ。
でもヴァルキューレの狂犬だったか、なんか偉い人と仲良さそうに歩いてるの聞いたことあるんだけど……
えーどうしよ。放置するわけにもいかないし……
「……あのー、よかったら
「……ぇ?」
仕方なく、家に入れることにしたのだった。
玄関に入れてから気づいたけど、すごいボロボロ……というか、なんというか……スケベだ。
この女……スケベすぎる!
冗談はさておき、ホントにやらしい格好だ。特にスーツがはだけてるのがエッチだ。
……あれ?なんではだけてんの?
ままええわ、とりあえずやることは、っと。
「今からお風呂沸かしますんで、よかったら入りませんか?このままだと、風邪引いちゃいますし」
そう靴を脱いでいる先生に呼びかける。
先生は緊張しているのか、カチカチな動きで目が凄い泳いでる。
「え……と」
「まあ無理に言わない……やっぱ入ってください部屋が濡れる」
畳多めだから濡れてるのはまずいっす。
「ほらほら、こっちですこっち」
そう言いながら手を引っ張ってお風呂場にまで連れていく。
小さい悲鳴は聞こえるけど、素直について来てくれる。
「えーっと、沸かしながらシャワー使えるとこなんで、ばんばん使っちゃってください。……体格私よりちょい小さいくらいか……服、置いときますから、じゃまた後で」
「ぁ……うん……」
私はそのまま台所に歩いていく。普通にお腹空いて帰ってきたからご飯を作る。あっスーパーよっときゃ良かった!
深い悲しみと後悔に襲われながら、パックご飯と卵スープの素と惣菜の餃子を見つける。あ、コーラも。
鍋に水を入れ、お湯を作りながらご飯と餃子をレンチンする。ポイントは別々にチンすること。複数だと丁度良くならないから。温度が。
そういや、先生はご飯いるかな……?
ここまで先生を気に掛けるのには理由がある。
単純に媚び売っときたい。
いやそんな必要になることも無いだろうけど、一応あったらいいじゃん?安定は大事だよ。だから、媚びを売っておく必要があったんですねって。あっ、服置いとかなきゃ。
そんなこんなでご飯ができた。できたご飯をリビングに……リビング?リビングか……?
リビングって言うかは分からないけどリビングって言おう、に持っていく。
タイミングよくリビングに先生が私の服を着てやってきた。
「あ、あの……お風呂、ありがとう……」
「いえいえ、媚び売るためにやってるだけあっやべ言っちゃった」
「えぇ……」
完全に可哀そうな子を見る目だ……やめろ、そんな目で見るな!
話を変えよう。ご飯食べたいし。
「ん”ん”、そういえばごはんはどうします?一応、簡単なやつならありますけど」
「……それ……って、て、手作り?」
「え?えーっとですね、こっちはパックで、こっちは半額シールで……こっちは卵スープの素だから……はい!手作りです!」
「…………」
「ハイ嘘です文句あんのかちきしょー!」
「い、いやないけど……じゃあ、もらっても、いい……?」
私ははーいと言って台所から片方にパックのご飯を、もう片方にスープを入れたお椀を持ってくる。あと箸。
それを机に置いてはい完璧。
いただきますと食事の号令をかけてご飯を口に運ぶ。うんうまい。そうそうマズくなんないんだパックご飯は。
先生の方を見てみると小さく卵スープを啜ってる。
そしてほっと一息。
「……おいしい」
と小さな声で言う先生。市販品の溶かすだけのやつっすよ?
超分かる。
このまま静かにご飯を食べてても良かったけど、なんとなく話を振ってみる。
「あの、一つ聞きたいんですけど、いいですか?」
「う、うん……答えれることなら……」
「なんで私の家の前にいたんです?」
「……」
黙って俯いちゃった。聞かない方が良かったかぁ?
すぐに言わなくてもいいと言おうとしたが、その前にゆっくりと口を開かれた。
「逃げ……てて……休む……ために……たまたま……」
「はーん……」
逃げてて、か……まあシャーレの先生って命狙われそうな職業だし、逃げることもあるんでしょう!はっはっは!
うん。
尚更ヴァルキューレの方がいいでしょ!?なんで止めたの!?
止めたってことは言えない理由が……!?
「えーっと、やっぱりヴァルキューレとか、トリニティとかゲヘナとか、連絡取って守ってもらった方がいいんじゃないですか?何に追われてるか知らないですけど」
先生は凄く言いづらそうにしていた。
無理に聞くことでもないし、いいですよと言いかけたところ、先生は口を開いた。
「に、げてるのは、そこ……から……なんだ」
……へー、ヴァルキューレとか、トリニティとか、ゲヘナとかか~
一瞬目の前が真っ暗になった。
何したら追われることになるん!?はぁ!?
「ミレニアムとか、百鬼夜行とかは!?」
「そこも……だね……」
「なんで?????」
マジで何してんの?
「いや追われてることにもびっくりしてますけど、よく今まで逃げられましたね……」
「光学迷彩とか、シッテム……このタブレットとかで、なんとか、ね……」
すごいなシャーレの先生。なんで光学迷彩とか持ってんの?
しかし……結構大変そうな話だし、続けるのは良くないかな……
別の話題にするために、テレビをつける。
『――繰り返します!現在、シャーレの先生が行方不明になっているとのことです!トリニティやゲヘナ、ミレニアムなど、各マンモス校が協力して、捜索に当たっているとのこと!もし先生らしき人を見た方は以下の連絡――』
テレビを消す。
おかしい……明るい話題にするはずだったのに絶対良くない奴引いちゃった……
汗を全身から溢れ出してると、先生が急に立ってこっちを見る。
「……これ以上、長くいると君に迷惑を掛けちゃう。ちょっとだったけど、ありがとう」
そうして頭を下げる先生。
うーーーーーん……………
よし、しゃーない。
「よかったら、好きなだけ居ていいですよ」
そう言うと、先生は目を丸くして私を再度見る。
「え?でっ、でも……」
「流石にそんな悲しそうな顔をしてる人をさよならバイバイはできないっすよ。誰も味方がいないってのは、辛いですから……」
「……もしかして、君も……」
回復キャラを一時離脱させるの勘弁な!
「まあ最後に決めるのは先生ですから、どうぞ、好きに決めちゃって」
先生は悩みに悩み、悩んだ姿を数分続け、ついに口を開いた。
「名前、教えてもらっても、いい?」
「モブ子って呼んでください。お気になんで」
「えぇ…………も、モブ子。……少しでいいから、いても、いい?」
私は微笑んで
「はい、いいですよ」
と言った。
こうして、私達の奇妙な共同生活が始まったのだった。
ちょっと冷めたご飯を温めなおして、食べ終わった後、洗い物をしようとすると、先生が手伝うよと言ってきた。
私はせっかくならと手伝ってもらうことにした。
ゴミを捨て、お椀を洗う。先生には洗ったお椀をキッチンペーパーで拭いてもらう。拭くことなんてほぼやらないけど、そうじゃないと仕事がないのでやってることにする。
そんなことをしながら先生と喋る。
「……ねぇ、なんで逃げてるのか、気にならない?」
「気になるけど無理に聞くことではないので気になりません」
「……つまり?」
「超気になる」
「そっか……ちょっと、ショッキングだけど、いい?」
「グロじゃなかったら大丈夫ですけど……まさか、エッチなことですか~!?」
「うん」
「は?」
「無理矢理、いろんな子から、襲われてて……それだけなら、まだよかったんだけど、ご飯とか、いろんなものに薬を盛られたりして……一番嫌だったのは、私も、まんざらじゃなかった、ってとこなんだけど……」
「待って待って情報が多い情報が多い急に情報で殴ってくるな!」
とても奇妙な話をぶら下げた先生との、生活が始まったのだった。
好評だったら続きます。