なんか先生拾ったんだが……   作:紫彩

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第三話

「終わ、ったぁ~」

 

背筋を伸ばして気持ちよくなる。なんで背筋を伸ばすと気持ちよくなるんだ?筋肉?筋肉が引き伸ばしてるから?

そういつものようにくだらないことを考えながら帰宅の準備をする。帰りにトイレットペーパー買わなきゃ。

 

「ねぇ、あれ誰?」

「さぁ?誰かの知り合いかな?」

 

不意に教室の窓に集まってるグループが騒ぎ出す。窓の外……場所的に校門を見てそうなってるみたいだ。

私も気になるけど、先生のためにも急がないといけないし、さっさと教室を出る。校門通るし運が良かったら見れるでしょ。

 

そして靴に履き替え外に出る。玄関から校門が見える位置にあるため、遠目から件の人影を見つける。

白とピンクの傘と和服が目立つ美人さん。そんな風に感じた。顔が見えないから断定はできないけど。

でもそんな目立つ格好した……百鬼夜行っぽい子には知り合いにいないから私じゃないか、いこーっと。あわよくば顔が見えたらいいなーくらいだった。

歩いていって、ついに横を通る瞬間――

 

「お待ちください」

 

――顔を見る前に話しかけられてしまった。

 

「は、はい……なんでしょう?」

 

見知らぬ人に呼び止められるの超怖いんだけど!?

ま、まあまだ私が目的の人じゃないかもしれないしね、ダイジョブダイジョブ平常心。

 

「少し、お時間を取らせていただいてもよろしいでしょうか、モブ子様」

 

ハイもうダメそー!

 

 

 

 

 

謎の美女に連行されたのは近くにある焼肉屋の個室。

 

「いやなぜ焼肉!?」

「個室がある店がここにしかなかったもので」

 

なるほど……なぜ個室!?

いやこれ以上ツッコんでいてもしょうがない。本題を聞くことにする。

 

「で……私に何か用でふか?モグモグ」

「……まずは、精一杯の誠意を」

「せいいだけに……?」

「は?」

「黙ります」

 

目だけで人を殺せるぞこの人!

一呼吸置き、美女は言った。

 

「わたくしの名は、狐坂ワカモでございます」

「へー、いい名前ですnワカモぉ!?

 

私はキュウリを置かれた猫のように飛びあがる。

まさか、かの有名な!?

 

「鋼鉄の七人の……」

「七囚人です。七と人しかあってないではありませんか」

「でも、なぜワカモ……さんが?というか顔を隠してたはずじゃ?」

「これが、誠意です」

 

狐坂ワカモと言えば、超やばい犯罪者で有名な人で、何度捕まえても逃げるし顔も分かっていない、という超危険人物。

そんな人が、なぜ私に?

 

「疑問に思っていることでしょうが、心当たりはあるのでは?」

「心当たりー?なんの事だろー?」

「……」

「マジで思いつかねぇ」

 

目を合わせ続ける。

何故か息苦しいけど、黙って合わせる。

数十秒無言でいると、ワカモさんから口を開いた。

 

「合格です。そう簡単に口を割られては困りますから」

 

そう言うと息苦しさから解放された。マジで何だったの?

 

「わたくしが持ちうる最大の殺気であなたを包んでいたので、さぞ苦しかったでしょう」

「何してくれてんの?」

「さて、本当に本題に入ります。先生のことです」

「……」

 

下手なこと言えないので黙って聞く。誠意は見せてくれても何するかはまだ分からないから。

 

「言葉だけでは信じてはいただけないかもしれませんが、わたくしは先生を襲おうとは思ってはいません。……会おうとも」

「……」

「お願いはただ一つ……先生を、守っていただきたいのです」

「……!」

「わたくしにはやるべきことがあります。それをしながらでは、悔しくも守れません。ですから、きっと、唯一心を許しているあなたに……お願いします」

 

そう言ってワカモさんは頭を下げた。

私は気になってたことを聞く。

 

「ワカモさんにとって、先生はなんですか?よく分かってないんですけど、シャーレってあなたの敵じゃ?」

「……わたくしにとって、初恋の人、と言えば、笑いますか?」

「……ぶっちゃけ半分しかホントって信じてないけど……信じる。だって、先生が目的なら、私を知ってるってことは、先生の居場所も知ってるってことでしょ?それでも手を出してないってことは……たぶん大丈夫と思う」

 

多分!自分の推理に自信がない!ナルホドできない女なんです……

ワカモさんはホッと息を吐いて顔を綻ばせた。

 

「良かった……先生以外に頭を下げるなんて腹を掻っ捌いても嫌でしたが……背に腹は代えられません」

「掻っ捌くならどのように?」

「三文字です」

「滅茶苦茶嫌じゃん……そういえば、どうやって見つけたんすか?先生のこと」

「先生は逃げる際、光学迷彩など、数々の道具を用いて逃亡しました。便利ですが、どうしてもそれらには充電が必要……上手くやりくりしていたようですが跡は残ってしまいます。それを誰よりも先に追い、痕跡を消していきながら追いかけたのです。時折、捜索隊の邪魔をしながら」

 

すっげー優秀じゃん……通りで七囚人と呼ばれるわけだ。

 

「あなたの先生への接し方も見ていました。……襲う気は無さそうですね」

「私は女に興奮しないし……あっ、別に否定してるわけじゃないですよ。……思えば、ワカモさんも襲わなかったんですね?好きならやってそうなのに」

「……私は先生が好きです」

「はい」

「バレンタインで一対一でチョコを渡すために暴れるくらいには好きです」

「あれワカモさんのせいだったのかよ」

「ですが、その時は拒否されてしまいました。周りに迷惑を掛けるのはいけないと」

「ど正論」

「わたくしは泣き喚きました。先生に嫌われてしまったと、怖くなり、悲しくなり」

「はあ」

「……つまり、言いたいことはですね」

「はい」

「強姦して、好かれますか?」

「なるほどなぁ」

 

そらそうだ。すっげー分かりやすい。

 

ともかくして、私とワカモさんはこうして仲間……仲間?仲間となった。

買い物やいろいろあるため、もう帰ろうとしたところ、ワカモさんに呼び止められる。

なんでも、先生がやられたことを知っておいた方がいいだろうとのこと。

そうしてワカモさんのスマホを覗く。

 

「……動画には撮ってるんですね」

「わたくしではありません。裏サイト、というのがあるのです」

「……撮ってネットに上げてる人たちがいる、ってことっすか」

「ええ。……忌々しい」

 

隣から殺気が来るけど気にしません。死ぬので。

とりあえず再生する。

 

……一言、最悪だ。

一部抜粋する。

 

『ぁ……も……やめ……』

『先生ってー、無理矢理されるのが好きなんでしょ?くふふっ、じゃあ、お望みどお、り!』

『あ”っ』

『可愛がってあげるね?せ~んせ♪』

 

首輪を繋がれ目隠しされ、嬌声を上げる先生。

相手は加工されて分からないけど……なんか小さそう。

 

「……これって、バレたらまずいんじゃ?」

「ミレニアムの天才達が隠してるそうですよ」

「そりゃ質が悪い」

 

……はぁ~、もっと優しくした方がいいのか……?

 

「……きっと、いつもどおりがあの人にとっていいと思います」

「ナチュラルに心読まれた……そうっすか、分かりました。今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ……これ、わたくしのモモトークです」

 

ワカモさんから英数字が書いてある一枚の紙を渡される。言われた通りモモトークの交換用のあれだろう。

 

「じゃあ、また何かあったら」

「ええ、お願いします」

 

そうして個室を出ようとしたが、少し止まってワカモさんに一言言うことにする。

 

「いつでも来てください。説明すれば、先生も落ち着けるでしょうし、安心出来る人は多いに限る」

「……ええ、考えておきます」

「それじゃ」

 

そうして私は個室を出て、ダッシュでスーパーに走っていった。トイレットペーパーあああ!!!

 

 

 

 

 

「……そう簡単にはいかないでしょう」

 

 

 

 

 

急いで買い物をして家に帰る。

ダッシュで玄関を開けて叫ぶ……前に閉めてから叫ぶ。

 

「ただいま!」

 

しかし返事は返ってこない。リビングに行ってみても、誰もいない。

何でだぁ?と思いながらトイレットペーパーをトイレに持っていこうとすると――

 

「……モブ子?」

 

――ずぶ濡れの先生がいた。

畳!ここ畳!つーかなんで服ごと!?なんて言えたら良かったんだけど、先生の纏う雰囲気に押しつぶされる。

 

「せ……んせ……?」

「……帰ってきてくれたの?」

「えっ、あっはい……家なんで……」

「……私、悪いことした?」

「いや、何も……」

 

いつもより帰るの遅くなったんだけど、それのせいか……?

先生はゆっくりと私に近づく。

後退りしそうになるも、意地で止める。

 

「……まだ、いっしょにいてくれる?」

「もちろん……ですけど……」

「よかったぁ!」

「おぅ!?」

 

先生は私に飛び込んで抱き着く。

 

「よかったぁ……よかったぁ……」

 

私の胸の中で泣く先生。私は困惑で泣きそうなんですけど。

 

「きらわれた、かとおも、って……」

「嫌いませんよ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「よかった……」

 

泣き続ける先生の頭を撫で続けること数分、先生は顔を枕に隠していた。

その隙間から見える色は赤色。私は腕が赤くなりそうなんだがー?

 

「ごめん」

「声ちっさ」

 

それでも頑張って捻り出した言葉なんで素直に受け取ろう。

タオルで拭きながら質問する。

 

「濡れてた理由は?」

「……黙秘は」

「畳腐るんすけど」

「笑わないで聞いてね。……あの時と同じだったら、帰ってくれるかなって」

 

あの時ぃ?濡れた状態であったことなんて……あっ。

 

「出会ったあの日、ですか?」

「…………うん」

 

そういや雨で馬鹿みたいに濡れてたな。あれを再現したら戻ってくるって?

別にそんなことしなくても帰ってくるよ……

 

「すいません、私も遅れること連絡してなかったですね、次からちゃんとしますね」

「う、うん……ちなみに、何してたの?」

「……友達と、ちょっと遊んでて」

「……ふーん」

 

なんかちょっと不機嫌になった?……気のせいか。

というか服はまだ濡れたままなんだが!?風邪ひいちゃうから着替えてもらわないと。

無理矢理服を脱がすか悩んだけど、多分トラウマになってそうだしやめておこう。お風呂にも入ってもらおっと。

 

「じゃ、お風呂入ってきてください。着替え、置いとくので」

「分かった。……置いていかないでね」

 

先生はそれだけ言ってお風呂へ向かっていった。

……うーん、なんだかなぁ。

言葉にしがたいものを抱えながら、私は晩御飯の準備を始めた。

 

 

 

 

 

逃れられようのない深い闇、まさに地獄と呼べる場所にいるとき、人は、か細い、クモの糸より細い糸を掴むのでしょうか。

……いえ、糸ですらない、実体の無い光でさえ掴んでしまうでしょう。

あるいは光だからこそ、掴むのでしょうか。暖かい光だからこそ。

その横に、地獄から逃れられる太い縄があったとしても。

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