ツルギ先輩ってどう喋んの!?
ナギサ様のあの声明から既に一日が過ぎた。
……明後日、大規模な戦争になるかもしれない。勿論、私は先生側につく、だが……
「ツルギ」
「……ハスミ」
「心なしか、緊張しているように見えますよ。少し、休んできたらどうですか?」
友人のその言葉に、少しの安心感と、大きな敵対心が湧く。
お前達のせいで……などとは口が裂けても言えない。ああ、と軽く頷き、私は待機部屋から出た。
外をなんとなく歩くが、気分は晴れない。すべてを破壊してしまいたくなる。
だがそれをしてしまえば、皆の努力が無駄になる。……耐え忍ぶほか無い。
……気を紛らわせるために、私にもできることを探そう。
とはいえ、大きく動くわけにもいかない……戦闘訓練程度か?
「ほ、ホントに私が行くの……?」
「他が呼びに行っても怪しまれますからね、さ、頑張ってください!」
「うぅ……」
うんうんと唸っていると、後ろから話し声が聞こえてきた。
少し経つと、その中の一人が私に近づいてきた。
誰かと思えば――
「あ、あの!ツルギ先輩!」
――後輩のコハルだった。
……コハルが襲ったという情報はない、が……信用してもいいものだろうか
「……なんだ」
「え、えっと……そ、その、ツルギ先輩が例の、明後日の重要な任務に就くと聞いたので、あの……その……」
「……ちゃんと聞いている。落ち着け」
「はっ、はい!わ、私っ、友達とツルギ先輩の激励、って言うとおこがましいですけど、応援会、したくて!」
コハルと、コハルの友達が?
「友達というのは」
「あ、あの、補習部の皆です!」
なるほど……だが、かかわりはあるが、私にしてもらう必要など……いや、軽くなら調べられるかもしれない。なら……
「分かった。どこでやる?」
「!ありがとうございます!あの、近くの空き教室で……」
私はコハルに言われるがまま、後ろをついて行った。
どうぞと言いながらコハルが扉を開けて、中に入れてくれる。
入ってみれば、残りの補習部の三人がスイーツがある机を囲むように、椅子に座っていた。
「お久しぶりです。ツルギさん」
そう言って微笑むのはハナコだった。……さっきまでコハルといなかったか?
ハナコも襲ったという報告はない。が……
残りの二人は……
「「……」」
……ヒフミとアズサは、応援というには暗すぎる顔を俯かせていた。
なぜだと思いながら二人を見ていると、急にハナコが頭を下げる。
「まずは、謝罪を。これは応援会なんてものではありません……
先生のことです」
「何?」
すぐに戦闘できるように、銃のグリップを握る。
だが、ヒフミがすぐに立ち上がり、叫ぶ。
「ま、待ってください!私達は戦いたいんじゃないです!……罪を、告白したいんです」
「……罪を……?」
「認める。私は……私とヒフミは、先生を襲った」
アズサの瞳を数秒睨んだ後、グリップから手を放す。
「……ありがとうございます」
「なぜ、それを私に」
「私がいろいろ調査したところ、トリニティで先生の味方である可能性が一番高かったので。少し、博打でしたが」
「調査?」
はい、と言って、ハナコが説明を始めた。
こう、自分で言うのも恥ずかしいのですが、私は先生に好意を持っています。
しかし、とある時期からこのような感情が芽生えてきました。
襲ってしまいたい、と。
そのような感情が今までも無かったわけではありませんが、急にその感情が増幅されてくるなんて、おかしいとは思いませんか?
私は不思議に思いながら、過ごしていると、このような光景を見てしまったのです。
『ほら……!飲んでください……!私の愛を受け取ってください!』
『ナギ……あっ、げほっごほっ!』
ナギサさんが先生の顔に自分の恥部を近づけ、尿を飲ませているところを。
他の日にも、ハスミさんに無理矢理犯されている先生を見つけたり……
その光景を見た後に、先生に会ってみれば。
『……ぁっ、は、ハナコ……?ど、どうしたの……?』
自身の感情の増幅、急な生徒達の先生に対しての暴行、そして、先生の怯え……私は調査をすることに決めたのです。
そして、分かったこと。それは……
トリニティだけでなく、他の学園でも似た状況が発生していること。ほとんど同じ時期に発生していること。私の感情の増幅と同じ時期なこと。
……ヒフミちゃんとアズサちゃんが、先生を襲ったこと。
私は一人ずつ呼び、一対一で対話し、説得を試みました。
最初は知らぬ存ぜぬ、次は開き直り、そして……後悔。時間はかかりましたが自身の罪に気付いてくれました。
もしやと思い、コハルちゃんにも一度話してみてましたが、ぎりぎり行動に起こす前に正気に戻ってくれました。
その後は、先生を保護しようとも試みましたが、行方不明になってしまい……
仕方なく、別の行動を行いました。
それは、犯人の調査。
どう考えても、先生、もしくはキヴォトスに害を及ぼしたい者がいる。そう思い、探してみましたが、詳しくは……
そんな時に、先生の発見、先生を誘拐したとされる者の捕縛……
……もしかしたら、その誘拐犯は……
「先生の味方では?そう考え、その調査も……その流れで、ツルギさんを、というわけです」
私は、口から言葉が出なかった。そこまで調査をしていたとは……
……これは、もう少し早く出会いたかったと思いながら、ワカモの言っていたことを思い出す。
『証拠も事実もまだ発見していませんが、日ごろから水着で徘徊したりする人が先生を襲ってないわけがありません!』
……日頃の行いって、大事だな。
「……それで、私と接近して、何がしたい?」
ハナコは真剣な表情で、
「明後日の計画を、ぶっ壊したいのです」
そう言った。
「……それで、風紀委員長直々に私達に、警護の依頼を?」
「ええ」
コーヒーを一口飲む。
「……へぇ、あの風紀委員長が、私達便利屋68に?」
「委員長やっぱりやめましょうこんな奴らに頼む必要もありません!」
「アコ、うるさい」
ホントにうるさい横乳犬……ふふっ、いいあだ名をつけるわねモブ子も。
「でも!」
「アコ」
「……」
「……で、どうするのアルちゃん?受ける?受けない?」
「社長と言いなさい、ムツキ室長……空崎ヒナ。一つ聞きたいわ」
「何かしら?」
「あなた達にとって、犯罪者である私達になぜ、依頼を?」
「……何度も私達から逃げ出す実力。それが決め手よ」
「そう……それだけなら、断るわ。帰って頂戴」
めんどくさい……たしか……
「アウトローな便利屋」
「……!」
「どんな相手でも、金を積まれれば、依頼を受ける……」
「そ、それが何!?」
「ハードボイルドな便利屋」
「!!」
「今回は、先生の身が掛かってる。……あなた達も世話になったこともあるはずよ。義理には義理を返す……それがハードボイルドじゃないかしら?」
「……」
静かに私と陸八魔アルは握手をした。
……アウトローもハードボイルドも意味、違うと思うけど。
早速、話し合いのためにゲヘナまで連れて来た。
途中で役割分担のために別れてもらい、アルは私と来てもらう。
「……ちょ、ちょっと、私達を捕まえるためならただじゃ置かないわよ!?……ムツキとハルカが」
「しないわ。……でも、あなたには覚悟を決めてもらうつもりよ」
「……は?」
ほとんど誰も知らない、盗聴も出来ない小部屋にアルを案内する。
「……ここに、入れって?」
「これからのことで、とても重要な事よ。早く」
「ちょっま!?」
適当に押し込んで入れる。
私も入って扉を閉める。
「何をするのよ!?」
「これを見て」
スマホを起動して、三つの短い動画を見せる。
いたずらっ子のような少女が。
目つきの悪い少女が。
怯えているようで、強気な少女が。
先生を、襲っていた。
アルは、震えた、掠れた、もしくは笑っているような声を出す。
「……う、嘘よ……あの子達が、こんなこと……」
「事実よ。これを抑えるの、結構大変だった」
「嘘、フェイクに決まって「事実。あなたを騙すためだけにこんなもの作らないわ」……」
アルはへたり込み、黙ってしまう。
数分ほど経って、ようやくアルが口を開く。
「それが、事実だとして、どうする気?いいように使うの?」
「……はぁ、早とちりが過ぎるわ」
「え?」
「こいつらだけじゃない。他のゲヘナも、トリニティも、その他の学校も……先生と関わりの強かった生徒は大体襲ってた。私は違うけど」
「そ、それが何……」
「調査で分かったの。誰か、第三者の仕業かもしれないって」
「……」
「先生を襲ってないあなただからこそ、頼めること。あなたの仲間を、正気に戻してほしい。腕を買っているのは、本当だから。」
あなた達のためじゃない。先生が、私達、生徒、子どもを愛してるから。だから、元に戻さなくちゃ。
それを聞いても、アルは悩んでいる。……確かに、情報不足かもしれない。でも、時間が無い。
「……何を、すればいいの」
「……まだ行動は起こさないでほしい。明後日の、例の日に、一斉に起こす予定。まだ、細かいことは決まってないけれど」
「ムツキ達をおかしくした犯人捜しは?」
「先生の安全を確保してから。義理、大切にするんでしょ」
「…………お願い、少し考えさせて。誰にも言わないから」
……まあ、先生が言うなら、大丈夫のはず。
「分かった。これ、連絡用のスマホ。絶対に無くさないで……いいわね?」
「え、ええ……ねえ、今更なんだけど……先生の居場所、知ってるの?」
「ええ。会わせてあげてもいい。顔だけになるけど。でも……それはあなたが覚悟を決めた時だけ」
そう言って、私は部屋を出て行った。
……後、仲間になってくれそうな子、いないって本当……?ゲヘナ……どうなのこれ……