長いような、短いような、そんな廊下を私は歩く。
向かうところはただ一つ。
彼女がいるところ。
お腹を貫かれた彼女は、その後にやってきた医療班やファンクラブ達によって、懸命な治療を施された。
どうなったか?それは、目の前の扉を開けば分かる。
扉を開けるとそこには――
「……アッ」
――スーツの上からジャケットを羽織って、何処かへ行こうとしていたモブ子がいた。
「せ、先生……」
「……」
「……腹を割って話そう!」
私はキレた。
モブ子は謎の杭によって大怪我を負った後、先程の説明の通りにその場で治療された。
なんとか一命を取り留め、しかし大きく動かすのも不味いだろうとトリニティの一室で医療機器と共に休ませ、数日経ったのが現状だった。
だったのだけど!
「なんで動いてるの?」
「なんでやろn「は?」暇だったからです……」
治療のお陰か、三日後にはモブ子は意識を取り戻した。私達は泣いた。
そしてモブ子はいつもの調子で歩き回ろうとした。私達はキレた。
「いやーこのスーツのおかげかそこまで苦しくないですし……」
「そのスーツは身体の治療促進と緊急用のために着けてるの。今はまだ襲われていないとはいえ、また大怪我をするかも知れないんだよ?」
「仰る通り……」
私は
思い出したくない、あの景色。
血がまるで噴水のように噴き出し、それと一緒に
「先生」
モブ子の声で、私は意識を現実に戻す。
「……ごめん。別に、自分の命を軽く見てたわけじゃ無いんだけど……」
「……痕、残っちゃったね」
私にも、同じようにお腹に傷痕はある。けど、モブ子とは比にならない大きさ。
……本当に、今はファンクラブに感謝してる。いなかったら、ほとんどの内臓は機能しなくなったらしいから。
「……正直、モブ子はどれくらいに見てるの、この怪我」
「……言っても、怒りません?」
「怒らない」
「超いてぇけど、早々こんな経験ないしいいや「は?」は?」
本当にこの子は……
モブ子は基本的に怒らない。というか滅多に見ない。
怒るときは、自分の命を粗末にするときや、誰かを理不尽に傷つけたときぐらい。
……モブ子はその枠組みに入ってないけど。
「とにかく……もう動いちゃ駄目だから、大人しく寝てて。お客さんは今日は来なさそうだし」
「へいへい、分かりましたよ。……でも暇なんですよねぇ」
「んーじゃあ、何か持ってくるよ。漫画でも、ゲームでも」
「いいっすか?ありがとございーす」
私は部屋を出て、廊下を歩く。ファンクラブの奴らにでも頼もうかな……でもトリニティって誰が……あ、ゴルデカがいたっけ。
「お、先生」
そんなことを考えながら歩いていると、前から地味子と会う。
「どうも。地味子も、今からお見舞い?」
「そうすね。先生は?」
「モブ子が暇そうにしてたから何か持ってきてあげようと。……あ、ゴルデカってどこいる?」
「んー……あ、正実のとこっす」
「ありがと。あー、モブ子が勝手に動かないように見張っといて」
「うーっす」
そうして、私は地味子と別れた。地味子がいると人探しが楽でいいね。
教えてもらった通りに私は正実の部屋まで来て、ノックをして入る。
中にいたのは、ツルギとハスミ。そしてその他に、クロコもいた。
「先生」
「お邪魔するね。珍しいね、クロコがここにいるなんて」
「ん、ちょっと頼まれごと」
頼まれごと?
私は気になって、内容を尋ねてみた。三人に特に止められることもなく、内容を教えてくれた。
その内容はというと。
「ミカの、捜索……」
「はい。拘留していた……と言っても自室から出ないようにしていただいただけなのですが、そのミカ様が、突然消えてしまい……」
「結構大きく暴れたからね。ばたばたしてる今のあいだに別の問題を増やさないようにっていうのと、ミカを守るために」
「うーん……そっか」
あり得るかな、とは思ってたけど……
多分今のミカはこんな自分はいちゃいけないって思ってるんだろうな……
「手伝うよ」
「いえ、先生もお疲れでしょうし、何よりあいつの近くにいてあげたほうがいいでしょう」
「ツルギ……」
「なにより、ご迷惑をお掛けしたのはこちらですから」
「ゴフッ!」
「ハスミ!?」
「自業自得だから気にしないでいいよ」
「因果応報」
「全新系裂?」
「天破侠乱」
「流派東方不敗の話はしていませんが……」
クロコもツルギも染まったね……ほらハスミがキョトンとしてる。
なら、声がかかるまではお言葉に甘えて休んでいようかな。
「そういえば、先生はどうしてここに?」
「そうそう、ゴルデカに用があったの。ゴルコンダとデカルコマニーに。そういやいないな」
「え?ここには今日は一度も来ていませんが……」
おかしいな、地味子が間違えるわけ……まさか!
「クロコ!ワープって使える!?」
「う、うん。そう何度もじゃなかったら……」
「今すぐモブ子の部屋まで飛んで!お願い!」
「わ、分かった!」
お願い、予想は外れて……!
クロコの黒い穴に入り、その先に走ると、ついさっき見た部屋に出た。
ただし、そこで寝ているはずのモブ子がいないことだけが、違っていた。
「はぁ……」
何してるんだろ、私。
可愛くないパーカーとフードで体と顔を隠して、河川敷で座ってる。
暴れて、傷つけて、迷惑を掛けた存在、聖園ミカ。それが、私。
私は操られてたとはいえ、いろんな所を壊しまくって……大切な人も、傷つけて……
でも、皆は優しくしてくれてる。皆も、おんなじだからって。
でも……私が、居ていいわけ、ないよね……先生も、大切な人が、いるらしいし……だったら、もう、私が生きてる意味なんて……
「……どうやって、死のっかな」
「とりあえず、私の話を聞けよ。聖園ミカ」
この、声、って……
「よっ」
「……モブ子?」
……私が傷つけた、人。
何度か見たぴちぴちのスーツに、ジャケットを羽織っただけの姿で、私の後ろに立ってた。
「どうしてここに?」
「さて、どうだろうな」
「……なんの、用?」
「ん-?ちと、話し合いでもどうかなって」
「ないよ、何も」
私は突き放すように、言う。どうせ、もうどうでもいいし。
でも、モブ子は関係無しって感じで私の横に歩いてくる。
「……大怪我したって聞いたよ。帰って寝たら?」
「やることやったらな。……死にたいのか?」
「……」
だって、もう「死んだら未練たっぷりだろ、今のままだと」……え?
「大体見りゃ分かるよ。お前は本当に言いたいことを言わない奴だろ」
知り合いに似た奴が結構いるんだ。って繋げて言うモブ子。
「べ、別にそんなこと……」
「強情~……たくっ、しょうがねえな」
「な、何?」
モブ子は私の腕を掴んで、無理矢理立たせる。私は抵抗する気が起きなかったから、すぐに立つ。
「人は、ただ思ったことをなかなか言えない時がある。どうしたもんかと人は思いついた。
「乗せる……?」
「時に花や、歌や、ね」
「……」
「その中でも、常に人が乗せられるものがあるんだよ」
「え……?」
モブ子はにこりと笑い、
「おらぁ!」
「へぶっ!?」
私の顔を思いっきり殴った。
思いっきり殴った。グーで。
私は一瞬何も考えられなかった。自分が倒れたことにも気づけなかった。
それでもモブ子は倒れた私の胸ぐらを掴んで、立ち上がらせる。
「それは、拳だ」
「……えぇ……?」
「どーせ本人に言えないなら私にぶつけろ。正しく感情を爆発させろ。私も爆発させるから」
「ちょ、ちょっと待「ライダーの強さ談義いいけど結局のところ人の自由のために戦ってる時が皆最強なんだよ馬鹿が!」ぐえっ!?」
そんな感じで、私を殴る。
訳、分かんない……!
「言いたいことを口から出さない馬鹿ばっかだしぃ!」
「……っ」
なんで、こんな意味のないことをっ……!
「言わないのは一万と二千歩譲って良いとしてっ、自分の気持ちに蓋してっ嘘を吐いてっ、戦いから逃げてる真面目くんがよぉ!」
「……ぅぅぅ!」
なんで、私が一方的に……!
「好き好き大好き愛してる付き合ってくださいぐらい言えこんのド阿呆!」
「……るさい」
「ああ!?」
「うるさいっ!」
私は手のひらを閉じ、モブ子の顔目掛けて、思いっきり振りかぶって殴った。
モブ子はきりもみ回転して吹っ飛ぶ。
「――かはっ」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」
起き上がろうとするモブ子に跨って、何度も顔を殴る。
そして叫ぶ。
「私だって言いたい!好きって言いたい!でも言えるわけないじゃん!悪い子の私がっ!そんなっ、ひぐっ、権利っ、っえぐ……」
握りしめた拳はだんだんと弱まり、変わりに、私の瞳から大粒の雨が降る。
「……うそつき」
その優しく放たれた一言は、何故か、一番ぐさりと、私の心を貫いた。
「権利とか、悪い子とか、そんなつまらないもので止めるもんじゃないだろ?きっとお前は、怖いんだ」
「……こわ、い」
「ああ、怖い。もしそんなこと言って、大切な人から嫌われたらどうしようとか、関わりがなくなったらどうしようとか、そんなこと、だろ?」
「……ぁ……」
モブ子の言ったことは、きっと正しい。ううん、絶対。
自分でも知らないうちに、自分自身で分からないほどに隠してたもの。
きっと、それは、嫌われることの恐怖。だから私は、逃げて、嫌いって言われる前に、
モブ子は、軽く私を押して、上半身だけを起こす。今の状態は、足を伸ばして座ってるモブ子に、向い合わせで跨がってる、私。
なんだか、恋人同士みたいだな、なんて。
「どうしたい?」
微笑んで、モブ子は、そう聞いてくれる。
今、したいこと、は……
「先生に、告白したい。きっと、それで、辛く、なくなるから」
「……そうか」
でも、でも。
「でも、怖い。どうしたら、出来る、かな」
私のその言葉を聞いて、モブ子は目を閉じる。
「ん~♪」
そして、私の手を握った。
「Def Tech sound Shen and Micro 'round singing on and on and on~♪」
モブ子は、ゆっくりと、拙くも、歌を歌い始める。
「地に足付け、頭雲抜け、進む前に前に前に~♪」
上手いわけじゃない。けど、すっ、と、私の中に入ってくる。
「手を繋げば、怖くないから、そこまでお前は弱くないから~♪」
きっと、本当に心を込めて歌ってる。
「でもいつまでも、側にいないから、
Believe my way, my way, my way~♪」
そこで、モブ子は歌うのをやめる。
「その時は、手を繋いでやるよ。それなら、怖くないはずだろ?
さ、いくぞ」
モブ子はそう言って、私と一緒に、立ち上がる。
その視線の先には、先生が。
「待ってっ!」
「心の準備か?」
「ううん、聞きたいことがあるの。……なんで、こんなに私のこと、助けてくれるの?」
「簡単な話だよ。河川敷で、殴り合って、本音を言った。それで私達は助け合う仲だよ」
そう笑うモブ子。……変なの。だから、殴り合ったの?
「……そう。でも、歌だけでも、よかったんじゃない?」
「どうせ最初の状態じゃ聞かなかっただろ。ほら、いくぞ」
手を繋いで、先生の元まで歩く。よく見てみれば、正実の子とかもいる。
……怖い、気がする。でも、安心する、気がする。
ゆっくりと、一歩、二歩。時間を掛けて、先生の目の前まで来た。
「……先生」
「なあに」
優しい声。私の知ってる、先生だ。
……先生のために、断ち切るね。
「好きです。付き合ってください」
これで、終われるんだ。
「ごめんなさい」
ああ、終わった。これで、皆、進めるんだね。
「好きな人、いるから」
「……そっか」
先生も、見つけられたんだね。
きっと、私にとなりにいる、変人だ。
……お幸せに。
「でも、ね」
……え?
「まだ、OK、貰ってないんだ。男の人が、好きなんだって。だから、落とすしかないの」
そう、なんだ。
「だから、ミカ。あなたも……私のこと、落としてみせて」
――何、言って
「嘘、吐かないで。あなたの心に」
「……ぁ」
「諦めたくないって、顔、してるよ」
駄目だよ、ここで、終わらせなくちゃ。
……でも……終わらなくて、いいの……?
「まだ……いいの、かなあ……?……ねぇ」
「いいってよ。私には分からんしらん。……端から見れば、狂気かもな?」
ケラケラ笑う、モブ子。
そうだね、変で、おかしい。
それでも。
「分かった。絶対に、先生を私に振り向かせるよ」
私は、怪我だらけの顔で、精一杯、笑顔を作った。
まだ、私は、続けられるらしい。恋の、物語を。
「……あれ?急に重たく……モブ子!?」
「気絶してるっ!早く戻ろう!クロコっ!」
「うんっ!」
「あと隠れてる地味子は後で説教!」
「はい……」
hooo!書きたかったとこ書けたぜぇ!
一番最初にミカを止める方法を思い付いて、これでした!
そしてほぼ変わらず書けました!
無茶苦茶だと思うでしょ!?私もそう思う!
あとDef TechのMy Wayはいいぞ!