第十二話
「――ねえ、そろそろ飽きてきたんだけど」
「これやろうって言ったの誰だっけ」
「モブ子さんです」
「なんすか」
「なんすかじゃないが?」
やっぱ百年は辛いな、今度からは三年にしよう……
あ、どうもご無沙汰しております、モブ子です。
今現在はいつもの二人と、新メンバーの正義ちゃんとゲームをしていました。百年は長いって……(元凶)
止めるかと言ったら全員いいって言ったのでやめた。地獄じゃんあれ。
「んー……次何する?あ、サモンライドあるよ」
「なんでクソゲーしかないんですか?」
「複数人できないだろあれ」
「できないのが普通なのおかしくない?」
「だから、エンジニア部に改造してもらいました。優秀~」
正義ちゃんは同類タイプだったからすぐに馴染めた。
ちなみに正実からは許可をもらって来てるらしい。なんでもツルギさんが
『すぐに傷つくやつには、どれだけ見張りがいてもいい』
って言ったかららしい。誰の事やろなぁ……
ともかく、こうして今日はただただ遊ぶ日。
あの戦いの後も私はミカやら不良やらと戦って、ちゃんとした休暇が取れてなかったからちょっと嬉しい。え?全部自分から当たりに行っただろって?……なんすか(ずんだもん)
……デートはある意味、戦いだったからノーカンじゃい!地味子のいくじなし
「……思ったんだけどさぁ」
四人でレベル1縛りしてると、突然地味子がそう言って話を始める。
「私達って、なんやかんやで戦いの日々じゃん?」
「言うほど戦ってないけどな」
「例えだよ。……で、正義ちゃんとか先生はともかく、私達、おかしくね?」
「今更じゃないかな?」
「それはそうなんだけど……
我々の本分、勉学だぜ?」
「「「……」」」
「あ、死んだ」
……おっしゃる通りだわ。
言われてみれば、それはそうだな。
ミレニアムに匿われてからは特にそうだわ、学校には行ってないし、そもそも私指名手犯されてるし。
指名手犯に関してはいまマンモス校三銃士が何とかしてくれてるけど……マンモス校三銃士~!?
「確かに……私は正実ですし、勉強はしていますから大丈夫ですが……」
「二人は大変か」
「つっても、私は現状ミレニアム所属だし、まだ問題は無いんだけど……」
「……」
ふむ……
「結婚でもして、主婦にでもなれたら楽なんだろうけど……」
「「げっほっげっほっ!?」」
「不思議なクスリでも飲まされたか?」
お前ら二人が私のこと好きなのは分かるけどそこまで驚くことか?
あと軽く流されたけど別に主婦は楽じゃないからな?
「モブ子との……」
「生活……」
「妄想に入ってしまいましたね」
「だらしねぇ顔。だらしねぇな?」
その時、突然先生のスマホが鳴った。
「ん、誰からだろ……え!?」
「誰でした?」
先生がその名を吐いた瞬間、私達は武装した。
「――さて、あれは本当かな」
「聞こえる限りじゃ、攻撃の意志は無いな」
地味子が言うなら、そうなんだけど……
「先生、本当に行ける?」
「うん。本当なら見過ごせない」
「りょーかい。……正義ちゃん、いざという時は頼んだ」
「お任せください」
正義ちゃんはカバンに入ってるトマホークを掲げながらそう言ってくれる。
私は目の前の建物……ヴァルキューレを見る。
……んー、まあ為せば成るだろ。
私を先頭に――しようとしたら無言で正義ちゃんに抑えられ、地味子、先生、私、正義ちゃんの順で行くことになった。過保護すぎひん?
とりあえずと入り口に入れば、一人の警官らしき人が出てきた。
地味子がこっそり銃を握る。
「お待ちしていました、先生。と、そのお三方は……」
「ただの協力者。で、例の件なんだけど……」
「分かりました。では、ついて来てください」
そう言った警官はどこか焦りを見せる。あれが事実なら、そうもなるだろうけど……
一分ほど歩けば一つの部屋に辿り着いた。
「ここです。……どうか、よろしくお願いします」
そう言って警官は扉の横に立った。
「地味子」
「ああ」
先生が深呼吸して、扉を開ける。
開けた瞬間、酸っぱい匂いが鼻を刺激した。
「せ、んせい……?」
その次には人の声。これはー……かなり不味いな?
金髪の犬耳美人……でっか!?って言ってる場合じゃないなこれ、かなり苦しんでる。服がはだけてて、首元が少し赤い……自傷行為か?
先生はすぐに駆けて近づいた。
「大丈夫!?
カンナ!」
「あ、あぁ……ご、めんなさ……」
「落ち着いて、私は大丈夫、ここにいるよ……」
「先生、悪いがあと二人奥にいる。部屋の掃除は私達でやるから行ってやってくれ」
「分かった。頼んだよ」
「やっぱこの匂いは、吐いた感じか」
「ああ、それと血もな。少し時間が経っているものもあるから……正義ちゃん、ここの人から掃除道具貰いに行ってくれるか?」
「分かりました」
先生がカンナさんを支えながら、奥へと歩いていくのを見ながら部屋を見回す。
さて、本当にこれはどういうことか……
私達は……正確には先生だけど、一つの連絡が届いた。
何処からかというと、まあここ、ヴァルキューレ。
そこの生徒から計三人ほど、急に吐いたりして悲惨なことになっているとの連絡。
罠かもしれないが、先生が行くと言ったし来たわけ。でもみんなすぐ行く準備してたな……ははーんさてはお前ら善人だな~?
とりあえず部屋の汚物やらゴミを片付け、奥で先生にメンタルケアされている三人を見る。
すると横に来た地味子が口を開いた。
「……ヴァルキューレの局長、カンナ、生活安全局のキリノとフブキ。どちらも先生と関わりが深い奴らだ」
「よく知ってるな……まるでヴァルキューレ博士だ」
「まあ聞こえるからな。……そして先生を襲った奴らでもある」
「その方達が何故か、深刻な精神ダメージを受けたかのようになっている……先生にも謝罪して。いったいどういうことでしょうか……」
「先生を……?どういうことですか!?」
あ、正義ちゃんと警官さん。
「悪いけど、それは本人らの口からおなしゃす。それより、少し聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「な、なんでしょうか?」
「急に倒れたって聞いたんですけど、具体的にはどういう……?」
「ええと、局長達が倒れたのは今朝の事でして、本当に突然だったんです。しかも、ほとんど同じタイミングで三人が倒れるし、うわ言のように先生へ謝罪を繰り返して……それで、急遽空いていた部屋で休ませたんです」
「掃除をしなかった理由と、救急車を呼ばなかった理由は?」
「掃除は、部屋に入ろうとすると全員苦しむような顔をしてしまうので。救急車は……」
「上からの圧力があったとはいえ、一度汚職塗れだった。ただでさえ評価が危ういというのに……か?」
「一体どこでそれを……そう、なんですが」
「小耳に挟んでね」
小耳に挟む(本当)地味子に隠し事出来ないな。こわーとづまりすとこ。
「ま、今はそれが一番いいだろうな。無駄に面倒を広げる可能性がある」
「私達は面倒が嫌いなんだ、なんてね。……正義ちゃん?」
正義ちゃんが何か考え込んでいる。
「……少し、思ったんですが」
「はい」
「突然、局長さん達は元に戻ったんですよね?」
「……はい」
「それって……
他にもいるのでは?」
……
「地味子、こっから全域聞こえるか!?」
「流石に無理だ、とりあえず残ってるのを出してくぞ!すまん、紙とペンを!」
「はっ、はい!」
警官さんから紙とペンを借りながら学園の名前を言っていく。
百鬼夜行。
山海経。
SRT。
そして……連邦生徒会。
「マジかよ……連邦生徒会が麻痺したらキヴォトスがどうなるか分からんぞ……!」
「あれ、レッドウィンターが無いみたいですが?」
「あそこはクーデターでそれどころじゃないから……」
えぇ……まあ少し楽になるならいいけども、しかしどうすんだこれ……
正直どれも詳しいわけじゃないが、間違いなく潰れたらヤバいのは分かる。……SRTって潰れてなかったけ?まいいか、先生と関わりはあるだろ。
「みんな」
「……先生!三人は?」
「大丈夫……とは言い難いけど、落ち着いたみたい。とりあえず、これからの事を話す」
「これから、ですか?」
「うん。さっきの話は聞こえていたから。時間が無いから手短に言うね。まずすぐに戻って、ファンクラブの力で
各学園に向かう。そして各学園で苦しんでいるであろう子達をトリニティに集めるんだ。そこで治療と精神安定を図る」
「なるほど、いちいち先生が向かうより効率がいい、か」
「そういうこと。そこで地味子は他のメンバーと一緒に救出を。正義ちゃんはトリニティに説明、その後に救出に参加して」
「了解」「分かりました」
おお、先生が凄い的確に指示してる。そりゃキヴォトスでも重要な人物になるわな……
「あれ私は?」
「まだ指名手配中だからここで待機。説明してあるから安全だと思うよ。……よければ、三人をお願い」
「そういやそうだったわ、変装してきてるわ私。……分かった。 そっちは任せた」
三人は駆け足で出ていく……ように見せかけて、ファンクラブ製のワープ装置で戻っていった。
さて、私はっと。
さっきまで先生がいた部屋の奥まで歩いていく。
「ちわー、三河屋でーす」
そう小声で言いながらきょろきょろ探してみると、一つの影が見えた。
それはさっき見た金髪と同じ……
「カンナさん、でしたっけ」
「……あなた、は、モブ子、さん?」
タオルにくるまって座っているカンナさんに、軽く頭を下げる。
カンナさんは同じように頭を軽く下げてくれる。
「他の二人は……」
「奥の、ベッドで、寝ています」
ホントだ、並んで寝てる。
私は失礼と言いながらカンナさんの横に座る。
でもどうしようか。ぶっちゃけ私から話すことは無いぞ……?先生が話したし、今始めて会うし、私いじけちゃうし。
そう考え込んでいると、カンナさんから声を掛けられた。
「モブ子さん。先生を守っていただいて……ありがとうございます」
「ん?いや、感謝されることじゃないですよ。元々近付いたのも、恩売るためだし」
「だとしても、です。本来は私達がお守りしなければならないというのに……というのに……」
あからさまに落ち込んでいらっしゃる。まあ、正義感強そうだしな、警察だし。
「先生には許されたんじゃないですか?」
「ええ、もう気にしていないと。ですが」
「まあ本人からすれば気にしていないで済まされる方が落ち着きませんよねー」
「……ええ」
……先生は本当に甘いからな。
でも、許すってのは、罰を望む人にとっては最大限の嫌がらせみたいなもんだと思う。だから私は……
「カンナさん、こっちを向いてください」
「?わかりました」
「えいっ」
「いだっ!?きゅ、急になんですか……!?」
「デコピン」
「それは分かっていますが!」
「静かに騒ぐなんて器用だなこの人。これは私の分の罰です」
「罰……」
カンナさんの顔には困惑と、罰を受けた感謝と、それでも足りない、っていう感情が渦巻いていた。
「とりあえずそれで私にいろんな感情を持つ必要は無くなりました。あとは、その他ですが……」
「ま、まだ完全に理解はしていないのですが……」
「まあ聞いてなさい。……これは、私の勘だが。この大事件には首謀者がいると睨んでる。そして今、あんた達を元に戻したということは、そろそろ計画は大詰め、って所だろう。……きっと、簡単には済まないことになる。
だから、あんた達の力を借りたい。少しでも、良い方向に向くように」
カンナさんはポカンとした表情で、私を見ていた。
「そ、そんな、当たり前のことを「じゃあ誰よりも酷使させてもらう。それでいいか?」……え、えぇ?」
「少なくとも今思いつく罰はそれぐらいです。……ただ落ち込んでいるよりかいいだろ?」
「…………そう、ですね、分かりました。このままうじうじしているのは性に合いません」
「ようゆうた!それでこそ警官や!では、早速最初の仕事を頼んでも?」
「ええ、任せてください」
「休め。それがあんたが今すべき、最優先の仕事だ。
万全じゃないと逆に邪魔だしとか何とか言って休ませた私は、何か食べやすいものが無いか聞きに、廊下を歩いていた。
「でっきっれっば~お粥とかあればいいんだけど~」
しかし、ヴァルキューレか……凄いとこまで来たな。
アビドスだろ?ミレニアムだろ?ゲヘナにトリニティ、何故かそうそうたる奴らと縁を結んだな。
「本当にただのモブ、の筈なんだけどなぁ」
「ですが、そんなあなたが、全てを破壊する存在になるのです」
私はすぐにガトリングを展開し、後ろから聞こえた声の方に向ける。
だがそこには何もなく。
「――おぇっ」
べちゃ。
口から、塊のような血が吐き出された。
腹には
「おい、おい、もうやったろ、これ」
私は、刺さっている杭を触る。
ひんやりとした、鉄のようだ。
「どうする、つもり、だ」
何処にいるかもわからないそれに、そう問う。
返ってくるはずないと思っていたが、想像に反してそれは、律儀に答えた。
「言ったでしょう。あなたが、破壊する存在になるのだと」
……こいつは、そうか。なら……
私は、出来るだけ、優しい声で、言葉を贈った。
「好きにしろ」
そう言った次の瞬間、体は浮き、意識は暗闇に落ちていった――
「……モブ子?」
次回、最終章突入。