なんか先生拾ったんだが……   作:紫彩

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第二話

動き回りながら戦う四人に指示を飛ばしながら、私は離れた位置で思案する。

気になることは二つ、なぜ急に現れたのかと、モブ子の止め方。

 

まず前者、最初は負の感情を集めるためかと思ったけど、黒服の言ってたことが正しいなら、もうその意味は無いはず……

分からない、首謀者のただの嫌がらせか?

 

次、モブ子の止め方。

今のモブ子は強くなってる。それも、ヒナ、ネル、ワカモ、地味子というキヴォトスでもかなりの強者四人組でも有効打を与えられないほどには。

 

バリアはダメージを完全にシャットアウトする。近接武器なら突き破れるみたいだけど、それを持ってるのはワカモの銃剣だけ……

ガトリングは一射一射がまるで砲弾と思うほどの火力になっている。それをキヴォトス人なら耐えられるだろうけど、連続となると怪しい。

本人の身体能力も向上してるみたいで、射撃の間に近接攻撃を仕掛けようとしてもあっさり躱され反撃される。

 

マズい、対抗手段が思いつかない。たとえ今人を集めたとしても、攻撃が通らない状態じゃ意味がない。

 

「――ぐあっ!」

「地味子!」

 

隙を突かれて、攻撃を喰らった地味子に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「ごほっ、まだ動けはする。が……」

「このままじゃ負け確定ですわね」

 

そう言って私達を庇うようにワカモが前に立つ。

流れるようにしてヒナとネルもそばに寄ってきた。

 

「あっちはエネルギー切れが無いみたいだけど、こっちには弾丸っていうリミットがある」

「あたしは大丈夫だが、体力って問題もある」

 

確かに、皆肩で息をしてる。

このままじゃ全滅不可避、ってとこだろう。

 

「……バリアは、全方位だよね」

「ああ、そうだな」

「……武装は、腕は、二つだよね」

「……ああ、そうだな」

 

誰かが言い始めるでもなく、私以外の全員がモブ子に向かって走り出した。

 

ネルとヒナがモブ子に乱射しながら、挟み込むようにして跳ぶ。

地味子はリボルバーを連射しながら、モブ子の目の前にただただ突っ込んでいく。

モブ子は突っ込んでくる全員に対して、薙ぐようにしてガトリングをばら撒いて迎撃する。

 

それをネルと地味子は跳び、しゃがみ、回るようにして避ける。

ヒナは真正面から受けつつも、攻撃を止めない。

 

モブ子との距離が、一メートルほどになった。

 

 

「おらあっ!!」「せいっ!!」「ふんっ!!」

 

 

そして三人は、持っている銃でモブ子を殴ろうとした。

それらはバリアに防がれる。

ギリギリと、鍔迫り合いのような音が聞こえる。

モブ子はがら空きの三人の胴体に――

 

 

「遅いっ!」

 

 

――攻撃を仕掛ける前に、後ろからの攻撃によって中断させられた。

ワカモの銃剣がバリアを突き破り、背中に突き刺さろうとゆっくりと動いていた。

 

「ちくっと痛みますわよっ、我慢なさい……!」

 

力を籠めて、銃を槍のようにして刺していく。

四つの方向からの近接攻撃に、バリアに薄いひびが入っていく。

 

これで、動きを止めて……!

 

 

 

「――」

 

 

 

一瞬、モブ子の仮面が光った気がした。

私の全身に鳥肌が走った。

 

「皆避けて!!」

 

「っ!?離れ――」

 

私は気がついたら叫んでいた。

四人はすぐに距離を取ろうとしたが、

 

 

モブ子から発された光の壁によって弾き飛ばされていた。

 

「――あ"あ"!!いっ……で……」

「アサルトアーマー……あるのならそう言いなさいよ……!」

「失念していた……確かにガトリングとバリアがあるならそれもあるでしょうね……!」

「クソったれっ、あと少しでダメージを与えられそうだってのに……!」

 

その攻撃の余波は、私の所まで飛ばされていた。感づいてなかったら、飛ばされているほどには。

皆倒れた状態から起き上がれない様子だ。

どうするっ?このままじゃ被害は増すのみ……!

 

「……」

「クソっ、先生!逃げろっ!」

 

地味子のその声で、モブ子の方を見た。

私の方を、見ていた。

 

「先生!」

「このままじゃ先生がっ!」

「動け、動けっ、動けぇっ!わたくしっ!」

 

 

ゆっくりと、一秒ずつ。

 

 

「先生!」

 

 

二秒。

 

 

「先生!」

 

 

三秒。

 

 

「あなた様っ!」

 

 

銃口が、私を捉え――

 

 

 

 

「やらせないよ」

 

 

 

 

――私に降り注ぐと共に、一つの影が私の前に降り立った。

 

だん、だん、がん、がん。まるで地震が横から来るような衝撃音が聞こえる。

しかし、数秒後には途切れ、私には

 

 

 

「今度は、守れた」

 

 

 

怪我一つ無かった。

 

 

「おまたせ。待った?」

 

 

そう言って持っていた盾を投げ捨て、私を見たのは、ホシノだった。

 

「どうして、ここに」

「黒服から、ちょっとね」

 

ホシノは左手をアロハの形にして、左耳に当てる。

 

「急いで向かってほしいって言われたから」

「クロコ!」

 

後ろから現れたクロコはそう言いながら銃口をモブ子に向ける。

そうか、クロコのワープで来たんだ。

 

「もー、なんで逃げようとしなかったの?」

「……モブ子からは、ちゃんと向かいあいたいから」

 

それに一応守る手段もあるし。いつもありがとう、アロナ、プラナ。

 

「そっか。じゃ、しょうがないね。……休憩時間は終わった?」

 

呼びかけられた四人は既に立ち上がっていた。

 

「ああ」

「おう」

「問題ないわ」

「お任せを」

 

皆の強い意志は、まだ燃え上がっていた。

 

 

 

「「「「先生!」」」」

 

 

 

更に後ろから声が四つの声が飛んできた。

この声は……!

 

「モモイ、ミドリ!それにユズにアリスも!」

「困ってる聞いたから!助けに来たよ!」

「ですけど、あれって……!」

「モブ子、さん、ですよね……!?」

「……」

 

四人とも、モブ子を見て唖然としている。

それもそうだ、今のモブ子は前までと大きく変わっている。彼女達には刺激が強すぎるかも――

 

 

 

「……ブースター、全開」

 

 

 

――静かに、しかしハッキリと、私の耳にそう聞こえた。

 

振り返れば、モブ子は既にいなかった。

 

「なっ、どこに」

「きゃあ!!」

「アリス、ってうわあ!?」

「お姉ちゃん!」

 

悲鳴に視線を向ければ、モモイとミドリとユズが吹き飛ばされていた。

 

 

「うわああああ「っと、無事か?」あ!?あ、ありがとう」

 

 

「お怪我はありませんか?」

「は、はい」

 

 

「大丈夫?」

「え、えと、大丈夫です……」

 

 

地面に激突する前に、ネルがモモイを、ワカモがミドリを、クロコがユズを抱き止めたことで一大事にはならなかった。

ホッとしつつもモブ子の方を見ると、アリスを担ぎ上げていた。

呼びかけても、反応しない。気絶している?

 

「……まさかっ、目的は!?」

 

 

 

「ええ、そのまさかです」

 

 

 

声が、聞こえた。

奴の声が。

彼女の、そばから。

 

「お久しぶりですね、先生」

 

赤い肌。

 

白いシーツのような服。

 

人ならざる、多眼の顔。

 

 

ベアトリーチェ……!

 

「おお、怖い。それが子ども導く者の声ですか?」

 

 

低く出た私の声に反するかのように、楽しそうに発すベアトリーチェ。

隠さずに言えば、私は、殺意を隠せなかった。

 

「そんなに睨まなくともいいではないですか。ですが……ふふっ、随分と()らしくなりましたね。その顔、嫌いではないですよ」

 

モブ子の肩を掴むベアトリーチェ。

銃声が鳴った。

 

それはベアトリーチェに向かって飛んでいったが、モブ子のバリアによって防がれた。

 

「クソっ」

「危ないですね、この方がいなければ死んでいました」

 

地味子が放ったらしい弾丸だったようだが、一笑されてしまった。

馴れ馴れしくモブ子の体を触ったのが、気に触れたんだろう。私だってそうだ。

 

私は低い声のまま静かに叫ぶ。

 

「モブ子を、返せ」

「返せ?あなたのものでもないしょう。それに……彼女の方から、私の方へ来たのですよ」

「適当なことを言うなよ、化け物女」

「適当なものですか。事実ですよ、地味子さん」

 

かちりと、ハンマーが落ちる音がした。

 

「落ち着きなさい、どうせ効きません」

「……クソが」

 

地味子がワカモに窘められる。

だけど、この場にいるものは全員ベアトリーチェに銃口を向けていた。

私と、モブ子以外は。

 

「それにしても、モブ子、ですか……愛称とはいえ、酷い名だとは思いませんか?」

あ”?

「ですから、私が彼女に授けました。

 

怒り、

 

苦しみ、

 

哀しみ、

 

恐怖、

 

嫉妬……負の感情を内に秘めた、機械仕掛けの人であり、人で亡くなった者。

 

 

フィアーという名を。安直ですが、良い名でしょう?」

 

「……きっ、さまぁ……!!!」

 

今まで見せたことが無いほどの、負の感情が、私の身体を覆っていた。

ベアトリーチェは楽しそうに笑いながら、私を見る。

 

「怒っていらっしゃいますが、元凶はあなた達でしょう?自身の感情をコントロール出来なかった、あなた達が」

「詭弁を!」

「先生、指示を!」

「駄目に決まってんだろ」

「アリスもいる、下手に攻撃は出来ない」

 

キレる周りをネルとヒナが止める。

でも二人も、声が震えている。

 

「ふふふ、もう少し皆さんとお喋りしたいところですが……そろそろ我々も、用がありますので」

「逃がさない!」

 

その声に合わせて、ネル、ヒナ、ホシノ、クロコ、ワカモが突撃するも、虚空に消えてしまった。

もうそこには、モブ子達の痕跡は残されていなかった。

 

 

たった一枚の紙を、残して。

 

 

 

 

 

一週間後

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先生

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