「……ひっさびさ、だな」
私はとある家を見上げていた。そこは、前に見た時とほとんど、変わり無かった。
軽く眺めた後、玄関にゆっくりと近づき、開けた。
鼻に、穏やかで、落ち着く匂いが通り過ぎた。
それには、畳の香りも混じっていた。私の住んできた家は全てフローリングだったが、それでもこっちの方が落ち着く匂いだ。
それは、通い慣れたためか、それとも……
「あいつを思い出させる匂いだからか……」
そう考えながら、入った。
私、地味子は、モブ子の家へ来ていた。
玄関には、キレイとまではいかない程度に靴や傘が整頓されていた。
いつ頃からだっただろうか、皆で帰ってこなくなったのは。確か……ミレニアムでの出来事からだったはず。
あれから変わりなく、主が帰ってくるまでこの形を保っていたのだろう。
「最初のうちは一足二足しかなかったのにな……」
そこから、先生の靴から始まり、現ファンクラブのゲマトリア達、アビドスと続いてった。
あいつのコミュ力と心の深さがヤバ過ぎる。トップレベルでヤバいゲマトリアとなんで対話できてるんだよ。オタクだから?えぇ……
なんで殺しに来た奴と仲良くなれんの?たかが殺しに来ただけ?気にすることでもない?えぇ……
私は靴を脱いで中に入る。
まず最初に向かった場所は居間。実はモブ子の家はさほど大きくない。居間と台所とトイレとお風呂だけ。寝る時はいつも居間に布団を敷いている。
人が増えた頃はファンクラブの技術で大きくしたりしていたな。
居間には、テレビとパソコン、あとはこたつの布団を外した机。あとタンス。他にもいろいろ置いてはあるけど、それぐらい。
息を吸う。あいつの匂いがした。
人より五感が強い私は、些細な匂いでも濃く感じる。……言い方はあれかもしれないが、最近嗅げていなかった匂いを嗅げてとても心地よい。
うん、私は変態だと思う。
「傍から見れば、ただの変態にしか見えませんね」
「……遅かったな」
後ろにパッと現れたのは、黒服だった。
「こちらの準備に手間取りましてね。……ヒナさん達の装備は最終調整を除けば準備完了しました」
「扱えるようにしてるのか?」
「四苦八苦しながら学んでいますよ。そちらこそ、
「今捜すとこだよ」
嘘だ。もう少し堪能する。
目当てのものは予想が正しければ、居間にある。だから別の場所に移動することにする。
台所だ。
コンロがあって、炊飯器があって、冷蔵庫があって、電子レンジがあって。
誰がどう見ても普通の台所だ。
あいつは、ここでご飯を作ることは滅多になかった。少なくとも、先生と巡り合うまでは。
出会ってからは惣菜から、だんだんと手料理に変わっていった。
……私はあいつによって変えられたのに、あいつを変えたのが先生達なんて、妬けるな。
「本当に……悔しいな」
「……思えば、我々は、彼女の事を真に理解していないのでは、と思ったことがあるのです」
突然そんなことを言い始めた黒服に、目を向ける。
「どういうことだ?」
「彼女は理解することが得意です。が、それに甘えて合わせてもらうことに慣れきってしまっていたのではないのでしょうか……少なくとも、あなたを除いては」
「何言ってる。私も、理解出来てない側だよ」
「そうでしょうか?あなたが告白した時……ああ、実際は出来ていませんでしたね。それはどうでもいいんですが」
「異形ヘッドって脳みそあるのかな。風穴空けたら分かるか」
「人の機敏、感情を理解することが得意なモブ子さんが、あなたの心を見間違えました。これが、どういうことか分かりますか?」
「……んや、一切」
「あなたなら、彼女の目を目覚めさせるのでは、と」
私が、あいつの目を、か……
「いや、私よりも適任がいる」
「……」
「先生だよ。一番変えたのはあいつだからな」
「ですが、あの方もモブ子さんには見透かされているでしょう」
「その前提が分からん。なぜ私なんだ」
「今の彼女は意識が無い状態に近いものだと思われます。それを起こすには大きな衝撃を与える必要がある」
「だから私ってか?はっ、もうあいつに隠してるもんは無いし、あいつが勘違いしてるものもないさ」
「ならば、先生でなら、行けると?」
私は信じてるのさ。
「あいつは、元は完璧な……ある意味では主人公だった。導き、支え、そして信じられる存在。だが、それは壊れた。壊されたというべきか。そんなときに、モブ子と出会った。割れた瓶に流す接着剤のように、先生の一部となった」
「……そして、新しい者となった」
「ああ。言うなれば……あいつこそ、一番の繋がりになってるんだ。因果。モブ子が先生を助けたのなら、反対もあるはずだろう?」
「……」
「そもそもの話、私を勧める理由が分からない。お前は……何を見ている?」
「……恥ずかしいので、秘密にしていただけますか?」
「ああ」
「……私も、彼女に戻ってきてほしかった。ならば、最善を見つけたかった。それだけです」
顔を背けながらそう言う黒服に、私は笑った。
「ふっ、お前ならもっといい方法や意味を見つけられるだろ」
「どうやら、私は馬鹿になってしまった様子で。無理な理由付けしか作れなくなったのですよ」
「くくっ、そうか……」
「もういいでしょう。ここを堪能するのも。目的の物を取ってきてください」
バレてた。へいへい、分かりましたと言って、居間に戻り、タンスの中にあるものを手に取った。
「それが、彼女の?」
「ああ。肥やしになってたあいつの初めてだ」
手にある、二丁の拳銃、カスタムされた『ベレッタM93F』を見つめながら、来たる決戦を思い浮かべていた。
遅れあそばせ~~~~!!!
遂に次回から戦闘回ですわ~~~!多分!
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