伸びれば続き書きます。
誤字脱字はご愛敬。
夢の学園生活
数多の学校がひしめく学園都市。
学生自身が自治区を運営し、行政を担う不思議な世界『キヴォトス』。
毎日どこかで必ず銃撃戦が行われる、混沌とした空間の中に僕はいる。
洗練された造形の建物。
白を基調とした、教会を思わせるどこか神秘染みた建築物が群居している石畳の道、自販機の前に佇む小さな影。
『残高90円』
顔写真が入った学生証を翳し、パネルに映し出された非情な数字の羅列を見上げ厳しい現実を噛みしめる一人の少女。
雪のように白い髪、水色の瞳。庇護欲を描き立てられる、そんな整った顔は僅かに表情を崩す。
陶器の様な肌を覆い隠すのは建造物と似たような白亜の制服には
これだけなら、ただの美少女と言っても良いだろう。そう、これだけなら。
彼女には現実とは明らかに異なる部分が二つ存在する。
一つは腰部に生えた、およそ飛ぶには適してないであろう、純白の羽。
もう、一つは頭に浮かぶ
輪の上に三つの球体が等間隔に並んでおり、さらにその上の中心十字が鎮座している。
それらは、染み一つない純白で、羽と相まってまるで天使のような様相。
それらが相まって、目の前に少女にこの世の者ではないと示唆している。
そう、前の世界では......。
名前は井出リア。
家族は妹が一人。
所属学校は、
見ての通り身体は女性だが、前世では男。
前の人生では出来なかった学生生活を送っている普通の女の子。
喉の渇きと自身の情けなさで頭の中がグワングワンしてきた。
「90円......お金ないの忘れてた」
キヴォトスに於いて、生徒とは学生半分社会人半分と言った感じの特殊な立ち位置となっている。
というのも、生徒自身が自治区を収めており、建築、交通機関、警察......その全てを学生が行っているのだ。
当然働いているのだから、各学校によって出る給料の差はあれど、それらの労働によって少なくない給料も発生する。
それどころか、この世界では働く働かない問わず、余程の犯罪を犯さない限り学費を払うどころか、逆にお金を貰えてしまう。
その代わり、カリキュラムに射撃や最低限の戦闘技術が組み込まれ、有事の際は自治区防衛の兵士として戦闘に参加する義務が発生する。
と言っても、瀕死の重傷を負ったとしてもヘイローさえ無事ならば、数時間で完治してしまうこの世界では、前世では恐怖でしかない戦闘もこっちではちょっと危険なサバイバルゲーム。
怖くはあるが死にはしない。
だから実質生徒と言うだけでお金が貰えるようなものだ。
そして、ここはトリニティ総合学園はキヴォトス屈指のお嬢様校。
貰えるお金がそれはもう多い。
寮の家賃、食堂の食費、武器のメンテナンス、弾薬その他諸々払ったとしても最低数十万は手元に残る。
それに、トリニティはその他の自治区に比べて治安も良いから一番お金がかかる武器関連の出費を抑えれる為、生徒は皆金持ち。
だけれど、今自分は特殊な状況に置かれている為万年金欠気味。
まだ、月も折り返しだと言うのに、貯金が尽きてしまっている始末。
これじゃ送り出してくれた妹になんと言って良いのやら。
自販機に設置された炭酸飲料のサンプルを眺めていると、後方からワザとらしい咳払いが耳に刺さった。
反射的にビクリと身体を震わせ、振り向くとそこには三人組の生徒。
「買わないのならどいてくれないかしら」
棘のある語調で思わず竦む。
「そんなに自動販売機を見ても、値段は安くならないわよ?」
「ちょっとそんな事言ったら可哀そうじゃない。幾ら、
誰だか分からない三人に詰められていく僕。
ジリジリと下がっていき、自動販売機を背に、視線を合わせるのが辛くて地面に顔を向ける。
「いいのよこんな奴。いるだけ迷惑なんだから」
「うわ辛辣! ま! 本当の事なんだけどね!」
見た目はお嬢様っぽいのにその口から出て来る言葉は上品とは程遠い、陰湿な罵詈雑言の類。
そんな中、頭の中に浮かび上がった選択肢の中で僕は『我慢』を選んだ。
「ちょっと聞いてんの!?」
三人は僕の態度が気に入らないうようで、苛立ちを肉体的手段へと移行した。
頬に痛みが走る。
一人が始めれば、金魚の糞の如く他の二人も続き、二発三発と、上半身にまともにくらってしまい、衝撃で地面に倒れ込む。
ドスンと音と共に手に持っていた生徒証明書、それと、懐から折り畳み式携帯が飛び出し、地面に撒かれる。
それを、目で追いながら、静かに耐えた。
痛がってる表情も、怯えた声も全部この茶番を早く終わらせる為の演技だ。
所詮、女性。
それも、碌に運動もしてこなかったお嬢様。
やや身体に響くが、我慢できない事もない。
全ては流れモノ。我慢しさえすればいずれ去っていく。
「......」
「追放された分際で生意気なのよ貴方!」
早く終わらないかな、と思っていると不意に声が聞こえてきた。
「なにやってるのかな?」
長いピンクの髪を靡かせ、星の様な髪と同じ色のヘイローを揺らしながら近づいてくる一人の影。
「っ!」
「「み、ミカ様ッ」」
明らかに狼狽する三人。
それもその筈。目の前にいる神秘的なヘイローをもつ少女こそ、この学園における三分派のひとつ「パテル」の副首長。
他の学園とは違い、ここトリニティでは「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」と呼ばれる三つの派閥に選ばれた三名の首長が生徒会長となり、俗にいう三頭政治体制を採用している。
そして、生徒会を「ティーパーティー」と呼称し、一定の期間「ホスト」を入れ替え、運営しているのだ。
今現在のホストは「パテル」。つまり、目の前にいる
そんな、権力者を前にして一変。リーダー格の生徒が、青い顔で弁明し始めた。
「み、ミカ様ご機嫌麗しく」
「あはは。......貴方にはこの顔が麗しいように見えるのかな?」
至極平穏な声音。
しかし、彼女らにはそうは聞こえなかったようで、全身を震わせる。
「ひ、い、いいえ」
さっきまでの威勢は何処へやら。リーダーの女の子は顔を青白くさせ、まるで借りた猫のように身体を丸くさせた。
「あ、のえっと......」
息を吸う事すら憚られる張り詰めた空気の中、こちらに近づいてくるミカ。
静寂の中、彼女が鳴らす靴底の音が異様に耳に入って来た。
「貴方には私が見目麗しいように見えるのって聞いてるんだけど」
目と鼻の先。手を伸ばせば届く距離まで来ると、以前として平穏な表情を崩さず再度、リーダー格の生徒にそう言った。
「い、い、いい」
恐怖で強張った喉が、発声を阻害する。
学園の権力者を前にして、返事をしないのはあまりに礼にかく行為故に、震える身体で、筋肉が硬直する喉で、肯定の二文字を出そうと必死に、足掻く。
が、やはり出ない。
言わないと、でも声が出ない。言わないと、でも声が出ない。言わないと、でも――
「あばばば......」
リーダー格の生徒は泡を吹きながら後ろに倒れてしまった。
「大変☆ 貴方達、この子体調悪いみたいだから保健室に連れて行って上げてくれる?」
「「は、はいぃぃっ!!」」
悲鳴に似た声と共に、倒れた彼女を足と手を持ちながら、足早に去って行った。
「あ、あの」
「早く立ってくれないかな? ティーパーティーが貴方を呼んでるの」
一瞬呆気に取られたが、直ぐに立ち上がり手で軽く制服を払い、腰の翼をパタパタとはためかせ埃を叩き落とすと、速足で付いて行った。
大きな中庭を抜け、廊下を歩き、テラスへ。
道中、悪意の籠った視線を無視していると、なんの戯れかミカから話かけてきた。
「武器はどうしたの?」
「武器、ですか......」
最初に言っておくが、「人を撃ちたくない」だとか「銃が怖いから」とか言う理由ではない。
生徒ならば、通常、銃火器を携帯するのが普通であり、常識だ。
弾丸が当たっても気絶するぐらい、瀕死の重傷を負っても一時間で前回する生徒達が闊歩する世界。
みんなが皆、良識を持った生徒ばかりではない為、有事の際、自身の身は自身で守らなくてはならない。
そんなだから、どんなインドアな生徒でも運動が出来ない人でも、拳銃一丁携帯しているし、金銭的に銃の保有、維持が困難な場合でも大体の学校は申請さえすれば、拳銃から突撃銃まで色々な銃を貸してくれる。
最早銃は身体の一部と言った感じで。
故に、銃を持っていない僕の方がおかしいと言う訳だ。
勿論、僕だって銃を持っていたし、いざと言う時は自衛するだけの技能は習得している。
原因は僕の他にあるのだ。
「取られちゃいました」
「取られた? え? 銃を?」
歩みを止め、身体を反転「嘘、信じられない」と言った顔で僕を見る。
「は、い」
「ありえない」
そう言って再度、歩行を再開。
「すみません」
「謝らないでよ。――申請は?」
「しまし、たけど、......何度もなくすから貸して貰えなくなりました」
「......そう」
初めてトリニティに来た日に、銃を取られた。
次の日、バラバラの状態の自分の銃が机に置かれていた時、ここがどういう所か理解した。
助けてくれる人はいた。
同じクラスのヘンテコな鳥のリュックを背負った子は、いじめられている僕を助けてくれるし、食堂で食事が出されなかった時はこっそりご飯を分けてくれた。
階段から突き落とされた時は、救護騎士団の人達が治療してくれる。
追われている時は、図書委員の人がそっと匿ってくれる。
でも、僕は知っている。
いじめられている子を助けると、いじめられるという事を。
前世では嫌と言う程見た光景。
今世でも、きっとそうなるに違いない。
だから、みんなとは距離を置った。
親切な人達がいじめられるのは嫌だったから。
幸い、遠出すれば食べ物は調達できるし、制服や教科書はブラックマーケットで金を払えば手に入る。
「――聖園ミカでーす☆ 井出リアを連れて来ました」
「入りなさい」と入室を促す流麗な声が。
「失礼します」
「し、つれいします」
左右に立った警備が扉を開く。そして、僕達は部屋の中へと入って行く。
そこは、トリニティが見渡せる吹きさらしの空間に、四メートルもの白亜のテーブルがどんと置かれている。左右に一つづつ、真ん中に一つ、金細工の施された造形深い椅子。
「ありがとうミカ」
そして、それらに座する三つの影。
扉から入って右側に座る少女が、ミカに労いの言葉をかける。
「ミゾレ先輩の頼みならこれぐらい何てことありませんよ☆」
クスリと小さく笑い「そうですか」と近くに控えさせていた者にティーポットを持ってこさせた。
薄紫色のウェーブの掛かった長い髪。緩く編み込んだハーフアップの髪型はたれ目な瞳、整った顔立ちも相まってどこか女神のような神秘的な空気が漂っている。
彼女こそ、現「パテル」首長でありホスト。トリニティのトップであるティーパーティーの一人、立花ミゾレである。
「本題の前にまずはお茶を――」
テキパキとそれでいて空気を乱さないように自然な所作で目の前に運ばれた二つの椅子。
「座りなさい」
彼女の対面に座っているポニーテールの少女に促され、二人は椅子に座った。
漆黒の髪、整った容姿、やや切れ長な瞳は理知的な雰囲気も相まって「王子様」と言った感じの少女である。
「フィリウス」首長。
「......」
両者の真ん中で静かにティーカップを傾けているのは「サンクトゥス」首長。
空色の長い髪、前髪は横に切り揃えられ、どこか無機質な瞳は油断すると視線が引き込まれそうな不思議な魅力がある。
「いきなり呼び出してすまなかった」
腰を落としたのを見計らい、リコが話を振る。
「いいえ」
「何か困った事はないか?」
理不尽な行為の数々を頭に思い浮かべながらも、心のブレーキがかかった。
「大丈夫です」
言えない、「貴方の生徒にいじめられている」なんて。
僕がそう言うと、一瞬眉をひそめたような気がした。が、直ぐに
「経済的でも何でも構わない。困った事があったら私達に言いなさい」
「あり、ありがとうございます」
「――はい、どうぞ」
「ありがとうございます。――あつっ!」
リコに対してオドオドしていると、横からティーカップから差し出された。それを高ぶる意思を抑えるために急いで口に。適度に高温の紅茶が勢いよく口内に侵入。
静謐な空間を切り裂くように悲鳴を上げてしまった。
「ごめんなさいぃ......」
「熱いですから落ち着いてお飲みになってくださいね?」
「はい」
ミゾレはこちらを小さく微笑む。
リコも口角を上げ、付き人に僕の机の周りに跳んだ紅茶を拭かせるように言った。
スズとミカは無反応。
「美味しいです」
「それは良かったです」
「あのー。......もしかして、私何か迷惑を」
「いいえ。今日お呼びしたのは、貴方の立場の確認の為です」
「私の、立場?」
ミゾレは頷き、話を続けた。
「リアさんは我々トリニティとあのがくえ――......失礼、デウスとの重要なパイプ役」
「はい」
「あちらもそのつもりでリアさんをトリニティに転校させたと思いますし、我々もそのつもりで転校を許可しました」
カップを傾け、唇を湿らす。
僅かに首を傾け、微笑みを見せ。
カップを置き右手を上げると、ミカと僕の間に付き人がスッと数枚の写真が差し出された。
「ブッ!!」
見た瞬間、思わず口に含んだ紅茶を飛び出しそうなる。
そこには、ブラックマーケットを歩く僕の姿。過疎自治区を大きなバックパックを背負って歩く僕の姿。
その他多数の、あられもない自身の姿がそれらの写真に収められていた。
「これは、どういう事でしょう?」
笑顔のミゾレ。
青ざめる僕。
「あ、あの、あの」
忙しなく動く翼は焦りの表れ。
ここで初めて何故、自分が呼び出されたか理解した。
「おいそれと他の自治区に、それも
「すみません!」
「貴方の身にもしもの事があれば、我々とあちらとの間にいらぬ誤解が生まれかねないのです。そして、もしそのような事があれば和平に傷がついてしまう可能性が発生する。それは、大変よろしくありません」
穏やかながら、皮一枚剥いだその面はおそらく般若の如しであるだろう、と容易に想像できる。
僕は、青ざめた顔で震えながら、両手を膝に乗せ、深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「それに、貴方のその態度も問題です」
「......以後、迷惑をかけぬよう大人しくします」
「逆です。寧ろ、もっと我々を頼って貰わないと困まるのです」
「え?」
思わぬ回答に呆気に取られていると、ミゾレが話を続ける。
「リアさんが不特定多数の生徒から半ば迫害に似たいじめを受けている事は知っています」
「っ!!??」
血管の中を冷水が通るような感覚。
「そして、人と一線を引いて必要以上に関わり合おうとしないことも。......だからこそ、私は貴方から頼って欲しくこちらから手を出さないようにしていたのですが」
「......ごめんなさい」
「謝る必要はありませんよ。全てはVIPの貴方を野放しにした我々ティーパーティーに責がありますので。――ミカ」
「はいミゾレ先輩☆」
沈む僕とは裏腹に、溌剌とした明るいミカが立ち上がり手を上げながら元気よく声を上げた。
――貴方にリアさんの世話役を命じます。
空気が......凍った。
「......はぇ?」
「......え?」
上げた手をそのままに間抜けな声を漏らしながら固まったミカ。
放心状態の僕。
「既にリアさんの荷物はミカの部屋に運ばせています。今後は学園内では行動を共に、自治区外では事前に我々を通した受けでミカが同行をお願いしますね」
「先輩! 何言ってるんですか!?」
「言葉の通りです」
「何で私がこいっ......井出リアと」
バッとこちらに向かって指をさすミカ。
「本来なら我々で対処したい程デリケートな案件です。しかし、学園運営がありますので四六時中一緒という訳にはいきません。ですから、信頼できる副首長の貴方に任せたいのです」
「な、なら! ナギちゃんかセイアちゃんでも良いんじゃ――」
「ナギサさんとセイアさんには協定締結に集中する為、それ以外の空いた穴を埋めて貰います。それにいざと言う時、リアさんを守れるだけの戦闘力を持っているのは貴方だけ、今必要なのは考える頭ではなく、守る盾。それに、ミカもいづれ首長となるのですから、嫌な事でもきちんとやり抜くという事を学んで頂かないと」
「嫌な事......」
何気ない一言が心に突き刺さる。
「でも!「でもじゃありません」だって!「だってじゃありません」っ」
ミカは苦し紛れに隣に座る僕を睨みつける。
「ミカが責任もって彼女を守りなさい。――リアさん。何か困った事があればミカを通して何でも言って下さいね?」
「話は以上です」これ以上の言葉は受け付けないといった態度にミカは憤慨で顔を真っ赤にしながら「失礼します!」と僕の手を無理やり引きながら部屋の外へ出て行った。
乱暴に扉を閉め、大きな音が響き渡り、それから元の静けさが舞い戻る。
「手順を踏むべきでした」
スズのその言葉に同意するリンがミゾレに言う。
「強引に転校させ過ぎたな。時間をかけていればあの学校からの転校生と噂される心配もなかった。このまま彼女の身に何かあっていたのなら、目も当てられない状況になる所だったぞ」
「必要なのは彼女が安心して学園生活を送る事ではありません。最低限チャンネルとして機能すれば問題ないのです。それに、どういう訳か先方から「何かあれば別の者を送るから問題ない」と」
顔色ひとつ変えず、まるで今日の天気を言うみたいに話すミゾレ。
「その口ぶりからすると彼女は島流しにされたようだな」
「どうでしょう。案外あちら側も一枚岩ではないのかもしれません。そんな事より今は協定です。――何とかエデン条約までに、
『カナン秘密協定』と赤文字で「TopSecret」と書かれたファイルに手を伸ばし、今一度内容を確かめる。
過去の遺恨を注ぐために。
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