ブルーアーカイブ 外伝『カナン秘密協定』編   作:清姫

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 もう直ぐハフバの中皆さま如何お過ごしでしょうか。
 私は水おじと新しく来るキャラを引けるように石をかき集めてる最中です。
 予想ではセイアと言われてますが、どうなんですかね?
 
 
 


第一生徒発見

『デウス学園自治区』

 

 自治区を一望出来る広大なテラス。

 長方形のテーブルが置かれ、椅子には一人の女子生徒がティーカップから漂う芳醇な香りを楽しんでいる。

 時折吹く風は彼女の白銀の髪をふわりと揺らし、頭上に浮遊する金色のヘイローは太陽の光に当たる光り輝いている。

 

「......」

 

 左手に持ったソーサーにそっとカップを置くと、青色の瞳を外に。

 昼下がりの午後、雲一つない快晴もあって眩しそうに、しかし穏やかに、テラスから庭園を眺め、理路整然とした配置の色とりどりの花々を楽しむ。

 容姿、所作、佇まい、雰囲気......一つ一つの洗礼されたパーツ、それら全てがあるべき場所に存在し、彼女は勿論彼女の周りまでもが一つの芸術作品の体をなしていた。

 

 広さ、美しさ......制服までも全てがトリニティと同様。

 しかし、座れる椅子は一つだけ。

 

「――通して」

 

「かしこまりました」

 

 静謐の空気を乱さぬよう、足音を殺し彼女に耳打ちで来客を知らせる給仕役の生徒に於いても並々ならぬ品格を感じる。

 

「し、ししし失礼しまっす!!!」

 

「どうしました、ミオ」

 

 扉を開き入って来たのは、ミオと呼ばれる栗色の髪をした少女。

 タッタッタっと、顔を伏せ置物になるよう徹底した生徒たちが片目を開き一瞥する程大きな足音で少女に近づき。

 

「ご報告に来ました!!」

 

 息を忘れているのではないかと錯覚する程の強張った面持ちで、上擦った声音を放つ。

 快活の良い声で、自治区中に響き渡っているのではないかと思うぐらいの大声を出すものだから、生徒達は「ひぁ!」と可愛らしい悲鳴を上げながら身体を跳ねさせてしまう。

 しかし、一番近くに居た椅子に座った彼女は平然とした面持ちで片手を上げ生徒を呼びながら。

 

「お茶をしながら聞かせて貰います」

 

 落ち着いた語調で微笑みかけた。

 

「そ、そんな! おしょれおおいっす!! あ、いや、です!」

 

「構いません。それ程手間ではありませんし、貴方も走って来て喉が渇いたでしょう?」

 

「あ、いえ、まぁそうですけど」

 

「なら座りなさい」

 

 涼し気な笑顔から漏れる一筋の圧力。

 

「......はいっす。あ、です」

 

 いつの間にか用意されていた椅子に腰を下ろし、それに合わせて紅茶の入ったティーカップがミオの前に置かれた。

 

「いい匂いでしょう? このベルガモットの香りがなんとも――」

 

 淑女たるもの紅茶は一から十まで堪能するモノ。

 香りで鼻腔を楽しませ、気持ちを整える。

 次に味。お茶菓子と合わせて飲むのも良いが、まずは紅茶本来の風味を味わう。

 

 それらの理念が常識として身体に染み込んでいた彼女は、何時も通り静かにティーカップを揺らし、目を閉じ匂いを楽しみながらミオに紅茶の説明をしようとする。

 

「――ぷはぁ!」

 

 がしかし、この場に似つかわしくない声が聞こえ、目を開いた時にはミオのカップの中身は空になっていた。

 

「「......」」

 

 名状しがたい空気が二人の間に流れ、漂う。

 それから、一拍おいて。

 

「......あ、あぁ! はいっす! 凄くいい香りでした!!」

 

 慌てて自身にフォローを入れ、巻き返すように囃し立てた。

 だが、口から出て来た言葉はどれも表面的で、有体に言えば適当な答えで、余計空気を淀ませてしまう。

 それなのに当の本人は「ふぅ~」と額の汗を拭い、成し遂げたかのような様子。

 

「これ食べてもいいっすか! いや、よろしいでしょうか!」

 

 辺りから息を呑む声が。

 

「......どうぞ、召し上がって下さい」

 

 彼女の一言で雰囲気が一新され、ほっとする生徒達を他所に、当の本人は既に過去に起こった事のように忘れ、受け皿とトングを持ち「これとこれと」などと口ずさみながら次々に盛り付けていき、終いには皿の上にはスコーンとサンドイッチ、ケーキからなる塔が出来上がっていた。

 

 無論、品格と清楚を旨とするこのデウス学園で、そのような品にかく行為は許されない。

 それが分かっている生徒たちは再び、顔を青くしカップを傾け喉を潤している彼女に目を向ける。

 そこには何時も通りの美しい姿。

 ミオの行為を毛ほどにも思っていないであろう態度に総員安堵の声を出す。

 

「――ミオ」

 

 もぐもぐもぐもぐ。

 

「ミオ」

 

「もぐもぐ......んくっ。はい!」

 

「せめてフォークを使いなさい」

 

「そ、うでしたね。ははは。......箸とかってないですかね?」

 

 見よミオの姿を。

 片手で後頭部をかきながら、小さく謝る様を。

 地雷原の中をステップを踏みながらマラソンするかの如く蛮行。

 それも、よりによってこの場所で、彼女の前でだ。

 周りの生徒達は幽鬼の如く血の気のない肌になっており、無礼を働いた者の顛末を見ないようにする為か一同、視線を下に顔を伏せていた。

 

「――時にミオ。報告とはどのようなものなの?」

 

 だが、それでも怒らない。

 何もなかったかのような面持ちで、会話を続ける。

 

「もぐもぐ......ふぁい。ひめふぁまが、ごくり、ぷはぁ! 姫様がゲヘナ自治区へ移動しましたっす! 理由は不明。現在も追跡中とのことです!」

 

 ピキ......。

 何かに亀裂が入った音。

 

「......ミオ。貴方よくそんな大事な事ほっぽって、むしゃむしゃ食べれたわね」

 

 微笑みをもって、ミオに問いかける。

 怒っている様子はない、表情も雰囲気も変わらない。

 だが、明らかに何かが変わったのを感じた。

 

「え!? 会長が食べて良いって言ったんじゃないっすか!」

 

 カップを置き、涼し気な顔で言うミオに口元にパンくずを付けながら抗議する。

 

 ピキッ......。

 音が大きくなる。

 

 カップをソーサーに置く音と共に傍に仕えていた生徒に視線を向けた。

 

「ティーパーティーから連絡は」

 

「ありません。おそらく気付いていないのかと」

 

 手に持ったカップの中にある紅茶を一瞥し、未だ食べ続けるミオに言う。

 

「ミオ、それは何時の話?」

 

「モグモグモグ......」

 

「ミオ」

 

「――あ? あぁ! えっとですね......え~と......多分、一時間前かと」

 

「多分?」

 

 ピキピキッ......。

 

「あーははは......人数は一人で、タクシーに乗り領境橋に向かいました。武器は拳銃のみで何やら怪我を負っていた様子だったようっす......」

 

 流石の鈍感のミオも真顔になった彼女の顔を見て、不味いと思ったのか食べるのを止め持っている情報を全て吐き出した。

 

 紅茶を飲もうとするが、中断しテーブルに置く。

 両手を膝に置き、息をゆっくり吐き吸うと目を閉じ、言葉を飲み込み反芻する。

 頭の中で整理された情報を、推測し、推定し、推理し、推察を巡らせ足りない部分は蓄積した知識を用意て推量で補う。

 

万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)に連絡を」

 

 予期せぬ事態でも、常に冷静沈着。

 彼女こそ。現デウス学園生徒会『ラウンズ』の会長であり、井出リアの双子の妹。

 井出ミトなのである。

 

「それとミオは今晩食事抜きです」

 

「え゛!!??」

 

 

 

 

 

 何処の世界にも、掃き溜めは一定数あるものだ。

 貧民街(スラム)だったり、反社会的勢力が集まる地域だったり、形や形態は様々ではあるが皆共通して近寄りがたく厄介。

 勿論、キヴォトスでも例外なく存在する。

 それが『ブラックマーケット』と呼ばれる地域だ。

 そこは停学、休学、退学、様々な理由で学園から追放された生徒達により形成された、学園数個丸ごと入る程広い闇の市場で、金さえ払えば限定グッズから戦車、はたまた違法な武器など何でも手に入る。

 また、当該地域専門の金融機関や治安維持組織があり、最早そこは一つの大きなコミュニティーであり、余りの大きさから他の学園が手が出せない状況だ。

 

 どうして、いきなりそんな所の説明をしたのか。

 それは今から行く所が、ブラックマーケットに関連した所だからだ。

 

 ここがゲヘナ......。

 人も、建物の感じも全然違う。

 ......いや、ダメだ。今日来たのは観光の為じゃないんだぞ。早く、ペンダントを見つけてトリニティに帰らないと。

 まずは聞き込みからだ。

 出来るだけ優しそうな人は......。

 

 道を闊歩する人の中で、温厚そうな女子生徒を選定を始める。

 あの子にしよう。

 数分で見つけ、たれ目で見るからに優しそうなその生徒に向かって声をかけた。

 

「あの」

 

「――」

 

 帰って来た言葉はない。

 僕の顔を見た瞬間、視線を下から上へ。

 その過程で温厚そうな顔が見る見るうちに嫌悪の表情へと変貌。

 再び視線が交差した時には、肩から下げた自動小銃を向けられていた。

 

「へ?」

 

「こ」

 

「こ?」

 

「この鳥野郎がぁぁぁぁ」

 

「ひぃ!」

 

 パンッ! と乾いた音と共に耳元を通過する何か。

 掠った! 耳元掠った!

 

「逃げんじゃねぇクソトリニティッ!!」

 

「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」

 

 歯茎をむき出しにし、街中にも関わらず銃を撃ちまくる少女。

 その顔には出会った時の優し気な面影はなく、狂犬と表現した方がしっくりくるぐらいのヤバさを醸し出していた。

 

「どこに行きやがったクソボケ! 簀巻きにして焼き鳥にしてやる!」

 

 路地裏に入り、物陰の裏で自身の翼で身体を覆い隠れやり過ごす。

 その間、震えが止まらず一瞬ではあるがペンダントの事を忘れてしまっていた。

 

「こ、怖かった......」

 

 ちょこんと顔を出し、行った事を確認すると恐る恐る道に戻り、心の中でさっきまでの自分自身を叱責する。

 

 何やってんだ僕ッ。

 ゲヘナとトリニティは仲が悪いって知ってただろ!

 ......いや、でもここまで仲が悪いなんて......あの子僕がトリニティ生だって認識した瞬間撃ってた。

 ヤバい、ゲヘナコワい。

 今が授業中で本当に良かった。

 もし、今みたいに人は疎らじゃなかったら......。

 

『トリニティのひよこがのこのこ来やがって!』

 

『その羽根毟って羽根ペンにしてやんぜ!』

 

『ヒィィィィィィ!!』

 

「羽ペンは嫌だ!」

 

 自身の妄想に戦慄を覚えつつ、しかしやらないと時間が過ぎるばかりと己を奮い立たせ、再び建物の陰で次の人を吟味し始める。

  

 優しそうな人が怖かった。なら、逆に怖い人なら優しいのでは?

 

 先ほどの恐怖が心に残る中での突飛な思考に従い、人相の悪そうな生徒を待つ。

 

「......」

 

 灰色のポニーテール、切れ長な銀色の釣り目はまるで睨んでいるかのように凶悪、更にそこに側頭部から伸びた捻じれた角と高身長、肩に載せるように持つ茶色の狙撃銃も相まって辺りの生徒達の中で群を抜いて邪悪な雰囲気を帯びている。

 

 これだ。

 選び通り過ぎるのを待ってから、背中を追いかけ。

 

「あ――」

 

 バンッ!

 

 ......え? う、たれた?

 

 肩に乗せた状態でノールックの後方射撃。

 頭上を掠めていき、余りに唐突な出来事でバランスを崩し後ろに臀部から倒れてしまった。

 

「何だぁ......今マコト様は凄く虫の居所が悪いんだ――ん? トリニティ? ......キキキッ! 良かった。ゲヘナの生徒ならバレたら謹慎だったが――」

 

 腰を抜かした僕に銃口を向け、見下ろしながら。

 

「トリニティならお咎めなしだ!」

 

「キャァァァァァ!」

 

 横に転がり初弾を避け、素早く立ち上がると来た道を逃げた。

 

「キキキ、キキキキ!! 逃げろ逃げろ! 獲物は手ごわい程狩った時の達成感が大きいからな!!」

 

 逃げ込んだ路地裏に入っても、奇怪な笑い声を上げながら腰に構えた狙撃銃を撃ってきた。

 

 最悪最悪最悪!! 

 これは絶対にハズレッ。

 スカはスカでも大スカを選んでしまった!

 

「許してください!!」

 

「嫌だね死ね!」

 

 しかも笑い顔コワッ!

 

 路地を抜け、別の通りに。

 出来うる限りのスピードで走るが一向に距離は離れない。

 逃げる途中、流れ弾が露天の商品を破壊し、前の生徒の頭に当たろうとマコトは全く意に介さず進み続ける。

 それどころが、命中し気絶する生徒を「邪魔だ」と踏み越える傍若無人っぷりにに底知れぬ恐怖を覚えた。

 

「動くと当たらないだろうがぁ!」

 

「は゛ぁ゛......は゛ぁ゛」

 

 マガジンを交換しながら、意味の分からない事を叫ぶ余裕があるマコトに対して、息絶え絶えの僕は言葉を返す事が出来ない。

 何かしないと捕まるのは時間の問題だ。

 自然と視線が右手に持った拳銃へ。

 

「はぁはぁ......」

 

 弾は十六発。

 最小限に収めれば、人一人無力化する事くらい訳ない。

 でも――。

 

「逃げろ逃げろ! トリニティは全員焼き鳥にしてやる!」

 

「......ッ」

 

 考えてる暇はない。

 今、何とかしないとただでさえ少ない時間が減ってしまう。

 そうなったら探し物を見つけられない可能性が高くなる。

 皆に迷惑が掛かる。

 

 細道を抜け横断歩道を渡り、車道を挟さむとトリガーに指をかけ、銃を構えようと予備動作に入る瞬間、ふわりと漂う予期せぬ感覚に動きが鈍る。

 

 何この感じ。

 何かが引っかかるような......。

 

 顔を横に向けると、走りながら照準を僕に合わせ引き金を引こうとするマコトの姿。

 そして、それと同時にマコトの死角から車が走ってくるのが。

 走る速度からして丁度彼女と衝突するのが分かる。

 普通に走っていたら立ち止まることが出来るだろうが、今まさに銃を構えて走っている最中。

 周りが見えないとは言えないまでも、周囲を察知する能力は著しく低下しているのは確かだ。

 

 今、僕が取れる選択は二つ。

 彼女を助けて、僕が撃たれるか。

 彼女を助けないで、このまま見殺しにするか。

 

 そんなの決まってる。

 

「......ッ!」

 

 振り返り撃つ猶予も、銃を両手で構える暇すらもうない。

 それでも、出来る。

 確かな自信が僕にはあった。

 

 片手で、碌に狙いも定めずに......撃つ。

 

 パンと射撃音にほぼ同時に更に大きな射撃音。

 

 拳銃から発射された銃弾は、斜めにある店の窓枠へ命中する。

 きっとマコトは苦し紛れの乱射だと思っただろう。

 だが、そうじゃない。

 

 弾かれた銃弾は件の車のタイヤ。それも、ゴムの部分に吸い込まれるように飛んでゆき。

 

「何ぃっ!!」

 

 突然コントロールを失った車の主は、慌ててブレーキを踏み止める。

 大きく右側にそれて止まった車を、本来進むべき場所に立っていたマコトが茫然とした表情で車を見つめる。

 

「あいつまさか」

 

 歩道を渡り、前に倒れたトリニティの生徒を見下ろすと再び銃口を合わせ、引き金を――。

 

「――ッチ!」

 

 引き金から指を外し、安全装置をかけ肩に背負う。

 先ほどまでの、まるで狩りをしているようで気分が良かった気持ちはどこへやら。

 今は、もやもやするムカつきだけが胸の中にあった。

 

「こんな奴に借りなんかつくれるかッ!」

 

 誰が聞いているでもない言葉を地面に吐き捨て、目の前で気を失っている小鳥を拾い上げ、一人歩いてゆくのだった。




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