【完結保証】鬼目と名無しくん(仮)   作:奥州寛

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じゃんけん

「何名様でしょうか?」

「あ、三人です」

 

 列整理の係員に人数を聞かれて答えると、二人と一人の二組に分かれるように言われてしまった。

 

「うーん、どう別れようか」

「ジャン負けかジャン勝ちで一人になる奴決めようぜ」

「ん、私もそれでいい」

 

 沢村の提案で、三人でじゃんけんすることになった。

 

「じゃあ行くぞ、最初はグー、じゃんけん――」

 

 沙織、グー。

 沢村、パー。

 俺、パー。

 

「よっしゃああああ!! 勝った!!!」

「むぅ……」

 

 見事に一発で決まった。沢村は滅茶苦茶喜んでいた。沙織は不満げだった。そして俺は「アンブラ」がヤバい組織だと知って気が気じゃなかった。

 

 もしかして……この事実に気付いたら加入するか死ぬかの二択なんじゃないか? そんな疑念が頭から離れなかった。

 

「では、次の方どうぞー」

 

 案内されるまま、沢村に続いて二人掛け用の妙に長い木馬の後ろにまたがる。

 

「いやーしかしメリーゴーランドなんて久々だよな」

「ん、ああ、そうだな」

 

 動き出す前の少しの時間で、沢村がそんな事を呟いた。たしかに、俺達にしてみれば、もしかすると小学校以来の体験かもしれない。

 

 その頃は、混んでいたのと身体が小さかったので、たしか馬車的な奴に乗せられていた気がする。当時は跨るタイプのこれに乗りたくて仕方なかったような記憶があるが、いざ実際に座ってみると案外どうってことは無かった。

 

 音楽が鳴り始め、木馬が上下し始めると、周囲の景色がぐるぐると回転し始めた。

 

「そういやさ」

 

 沢村がつぶやく行に声を掛けてきたので、俺は顔を近づける。すると彼女は真面目な顔で見返してきたので、不覚にも心臓が跳ねてしまった。

 

「志藤もちゃんとアタシの心配してくれてたんだな」

「え? どういうことだ?」

 

 唐突な言葉に、俺は思わず聞き返していた。心配してると思われるようなことをした覚えはないが……いや、昨日は学校の課題が終わるかどうか心配だったが。

 

「とぼけんなよ、ハワイの爆発テロの事調べてただろ」

「えっ!? あっ……」

 

 そこで俺の思考がつながる。あのテロ現場には、沢村がいたのだ。なるほど彼女にとっては、そう思われても不思議ではない。

 

「……バレたか」

 

 そして、俺はその勘違いに全力で乗っかった。

 

 俺がアンブラと関係しているとは思われたくないし、沢村の意識がそちらにズレるのであれば、むしろ好都合だった。

 

「正直、ちょっと嬉しかった」

 

 俺の内心とは裏腹に、沢村はそのまま言葉を続ける。彼女をだましたまま話をするのは気が引けたが、多分この件を沢村が知ってしまうと、色々と厄介なことになりそうだったので、何とか切り抜けるしかなかった。

 

「ほら、アタシって男っぽいって言うか、志藤と友達みたいな感じで過ごしてるじゃん?」

「まあ、そうだな」

「だから結構心配だったんだ。アタシはちゃんと女として見られてるのかなって」

「そりゃまあ、幼馴染で友達だけど女としても見るだろ」

 

 異性として見られるかという事を言及するなら、当然沢村は異性である。そしてかなりの美人であることは疑いようが無い。

 

 活発で、ボーイッシュなファッションを好んでいるが、当然顔と身体は女の子で、肩まで伸びる金髪も、柔らかくさらさらと風を透かして、甘い匂いを俺の鼻腔へと運んでくる。

 

「ふーん、そっか、だったら安心だわ」

「安心?」

 

 相手が異性として意識していることを知って、安心するとはどういう事だろうか、俺はこいつが異性として見られたくないと思っていた。

 

「いや、こっちの話……何にせよ、ありがとうな」

「ん、ああ……?」

 

 沢村は納得したように頷いて、俺にはを見せて笑う。

 

 俺は彼女の笑みに少しの罪悪感を覚えつつ、目を細めた。傾き始めた太陽が目を焼いて、眩しかった。

 

 

――八月三十一日 早朝

 

 

「はぁ、はぁ……クソッ……!!」

 

 燃え盛るホストクラブからなんとか逃げ出したスコピオは、ボスと呼ばれた男を倒したことで、この深河繁華街を手中に収めた筈だった。

 

 しかし、深河繫華街の支配者は用心深く、自分が死んだ後でも暗殺者に復讐ができるよう、周到に罠を用意していた。

 

 幸いなことに、この港湾地区にあるセーフハウスは知られておらず、しばらくは身を隠せそうだったが、この先はどうにも手詰まりと言う外なかった。

 

 自分の手駒はすでに敵側に寝返っており、自分に残っているのはセーフハウス内にある予備の拳銃と弾薬、そして――

 

「こいつか……」

 

 ホストクラブから逃げ出す直前、ボスが秘密裏に作っていた薬剤のアンプル。それが今、彼の手にあった。

 

 中毒性があるものではなく、幻覚作用もない。ただ一つ、ある物を呼び覚ます効果のある薬剤で、彼に逆転の目があるとすれば、この薬剤による効果しか残されていなかった。

 

「チッ、あいつら……恩を仇で返しやがって」

 

 ボスを殺した後、スコピオがまず向かったのは麻薬取引の利鞘を計算する場所だった。クラブ経営の片手間で始めた麻薬取引だったが、現在スコピオは組織の中でトップクラスに稼いでいる男のうち一人で、麻薬取引に関しては自分のホームグラウンドだと思っていたのだ。

 

――スコピオの兄貴、すいません。

 

 かつての部下からそう言われて銃を向けられた時、スコピオは全てを理解し、全てに復讐しなければならないと理解した。

 

 スコピオが何とか持ち出した薬液の成分には違法な物は無く、ただ、生理食塩水と「二十年前から成層圏を滞留している物質と同じもの」が入っていた。その物質を有意な効果が出る程度まで集め、生理食塩水と混ぜるまで、相当な苦労があった。実験として、借金で首が回らなくなった多重債務者で試そうとも思ったが、スコピオの周囲にはもう人間はおらず、打てる対象は一人しかいなかった。

 

「一か八かだ……上手く行けば、あのガキ二人も始末してやる……!」

 

 誰に言うでもなく、スコピオは呟いて、自分の服を脱いだ後、左腕をゴムで縛り、注射器にその薬剤を充填させる。

 

 シリンダー内の空気を抜き、慎重に静脈へ針を刺して、静かに薬剤を注入していく。ピストンを押し終わると、針を引き抜いてゴムを外す。

 

「っ……ふぅ……」

 

 効果はすぐに表れたようで、左腕の辺りから寒気が広がる。しばらくここは安全だろう。スコピオはそう判断して目を閉じた。

 

 深夜からずっと気を張り詰めていて、体力を消耗していたことと、ナノマシンにより急速に体組成が変化しているのだろう。彼はすぐに眠りへと落ちていく。

 

 目が覚めて、身体が動くようになり、能力に目覚めた時、まずは自分を裏切った麻薬の流通経路を粛正して、次は売春、賭博部門――いや、そこは逃げようが無いからいつでもいいな。やはり初めに復讐するなら、全ての元凶になったあの二人――

 

 眠りに落ちる直前、彼が考えていたのは復讐の計画で、それを考える彼の表情は、どこか楽しげであった。

 

 

――八月三十一日 夕方

 

 

 メリーゴーランドを降りた俺たちは、少し早めだが深河ベイサイドパークから退場することにした。

 

「ちょっと混み始めてるな」

 

 道行く人々の数が、昼間に見た時よりも多い。コンビニにはまだ人は集まっていないようだが、恐らく時間の問題であろうことは伺えた。

 

「コンビニはまだ余裕があるみたいだし、先に場所とっちまおうぜ、その後一人がまとめて買いに行けばいいだろ」

 

 沢村の提案に、俺は頷いて同意する。沙織もそれで異論は無いようで、俺達はそのように行動開始した。

 

 港付近は既に何人か待機している人がいて、一番見やすい場所は既に全部埋まっているようだった。仕方なく俺たちは深河の港湾地区をしばらく歩いて、海浜公園のベンチに陣取る事にした。

 

「駅からちょっと歩くことになるけど、まあまあいい場所に座れてよかったな」

「じゃあ、私は梅干しとおかかね」

 

 買出しは自分で行く気が無いのか、沙織はそう言って座ってしまう。

 

「いや、じゃんけんはしようぜ……」

 

 沢村がツッコミを入れる。

 

「明菜はさっき優紀と一緒になったじゃん」

「ばっ……さっきのはそう言う事じゃねえよ、係の人がそうしてくれって言うから――」

「でも二人きりになれたのは事実だよね。なんか話してたし」

「ちょっ、もしかして聞こえてたか!?」

 

 沢村は慌てて沙織に顔を寄せるが、彼女は表情を崩すことなく答えを返す。

 

「ううん、聞こえなかったけど」

「はぁ……ならいいけどよ」

 

「まあまあ、とりあえずジャン負けでやろう。公平にさ」

 

 俺がなんとか間を取り持って、じゃんけんで負けた一人が全員分の夕食を買ってくることになった。

 

「よし、じゃあ行くぞ、最初はグー、じゃんけん――」

 

 俺、チョキ。

 沙織、チョキ。

 沢村、パー。

 

「あーあ、アタシかよ」

「……」

 

 沢村は息を吐き、沙織は無言で俺に向かってVサインをする。彼女は彼女で、じゃんけんも楽しんでいるようだった。

 

「んじゃ、行ってくる。沙織はさっき言ったやつで、志藤は……」

「いつも通り、お前と同じやつでいいよ」

「おっけ、じゃあすぐ行ってくるわ」

 

 小走りでコンビニへ向かう彼女の後姿を見ながら、考える。やっぱり、沢村にサンライトのボランティアをさせるのは止めさせたい。バイトくらいは賛成してやるべきだったか……

 

「優紀、じゃあ話の続きをしよう」

「続きって何だ?」

「スコピオの追撃について」

「いや、俺はやらないって言ってるだろ」

「どうしても?」

「ああ――」

 

 絶対にやらないからな。そう言おうとしたところで、再び幻覚が見える。

 

 今回は最初の時のように曖昧で抽象的な光景ではなく、はっきりとした。目で見ているように鮮明な光景だった。

 

 どこかの倉庫街で、沢村と沙織の二人がいて、沢村は紫髪の男――スコピオに銃口を突き付けられている。そして、緊張状態が続く中、遠くで花火が上がり、花が咲く音と同時にスコピオが引き金を引く。

 

 沢村の頭から赤とピンクの脳漿が飛び出して、彼女は力なく倒れる。沙織があの鉄棒を手にスコピオへ向かうが、彼女の行く手を遮るように十数人の男が立ちふさがり、彼女は数人を鉄棒で撲殺するが、人数には勝てず、男たちに取り押さえられ、歩いてきたスコピオは彼女の頭に向けて引き金を――

 

「っ……はぁ……はぁっ」

 

 銃声が聞こえる前に俺は我に返る。心臓の動悸が酷くて、日が沈んで涼しくなってきたというのに汗がどっと溢れてきた。

 

「大丈夫?」

「っ……ああ」

 

 フォーチュンの能力を思い出してから、俺の脳裏に現れるようになった幻覚、それは不幸を避けるための映像というよりは、行動を起こさなければこういう結果になる。という脅しのようにも見えた。

 

 その脅しに屈したくはない。だが、あの結果を見せられてなお、スコピオを放置しておくことはできなかった。

 

「分かった……手伝うよ、でも、やるのはスコピオだけだ。あと、今後沢村に関わるな」

 

 アンブラ所属の彼女が沢村と一緒にいると、間違いなく今後も危害が及ぶ、それだけは避けなければならなかった。

 

「わかった。ありがとう」

 

 俺の言葉を受けて、沙織は顔を綻ばせる。

 

「それと、教えてほしいんだけど,なんでそこまでスコピオに拘るんだ?」

 

 俺は彼女にそれを聞いてみたくなった。彼女のスコピオに対する態度は、少し異常な気がする。

 

「それは――うん、優紀には聞いておいてほしい」

 

 彼女はそう言って、過去を話し始めた。

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