双子の幼馴染(仮)   作:こーーーーーー

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お久しぶりです。思いついたので書きました。


2話

 入学してから一週間が経過した。

 まだ私のアイドルデビューは出来ていないけど、有馬かなが苺プロに入ってくれた。最初こそ断られたけどお兄ちゃんが説得したらころころと契約にサインを書いてくれた。少しこれからのお兄ちゃんの女性関係が心配だ。

 そしてお兄ちゃんの次のドラマが決まった。今からガチ恋始めます、という恋愛リアリティーショーだ。しかも、アキラ君も出演するらしい。

 アキラ君とはあれから話せていない。

 

 

 

 

 

 恋愛リアリティーショー。

 かれこれ20年続く番組らしく、主に中高生をターゲットにした番組の様だ。恋愛なんてやるつもりはないが、仕事は仕事だ。ならばやるしかないだろう。アドリブや素の自分を見せるのは苦手だが、結局は学校生活の延長戦だ。ならばやる事は大して変わらない。

 俺はベンチで座るアクアとMEMちょとアクアに近づく。

 

「二人とも何を話しているの?」

 

 ベンチの後ろに回り声を掛ける。

 

「アキラ君も見てみてーうちの犬ぅ」

「へー滅茶苦茶可愛いじゃん」

 

 MEMちょが見せてきたスマホにはクリーム色の毛をしたチワワが写っていた。

 

「それでね、こっちが猫でさぁ。どう?物凄く可愛くない?」

「猫も飼っているだー。犬と猫とかどうなの喧嘩しない?」

「うちのは喧嘩しないんだよねぇー。両方とも産まれてすぐから飼っているからー」

「俺猫と犬は喧嘩するイメージあたんだよねー。アクアはどう?なんか飼っていたりする?」

「いや、飼ってないだよね」

 

 それでねー、とMEMちょは言葉を続ける。

 アクアは俺が来たことによりホッとした表情を一瞬見せた。

 俺はこのアクアの親友ポジを獲得していく。

 

 

 

 

 

 

 

「あかねちゃん?どうなれた?」

 

 俺は後ろのカメラを意識しながら黒川あかねに声を掛ける。

 

「あっ、しら……アキラ君」

「あかねちゃんの言いやすい方でいいよ。俺はあかねちゃんでいい?嫌なら黒川ちゃんにするけど」

「大丈夫だよ。男の人からちゃんで呼ばれたことがなかったから少し驚いただけ」

「それなら、黒川ちゃんにするよ。俺も女性の下の名前をちゃん付けはちょっときついしね」

 

 あかねちゃんは表情でこそ見せていないが、仕草からホッとしたのが垣間見える。

 

「そうなんだね。てっきり不知火君は呼びなれているのかと思った」

「全然そんなことない。カメラの前だからちょっと見栄を張っただけ」

 

 カメラは未だにこちらを向いている。美味しいと判断されたのだろう。

 

「それにしても、まさかここであの黒川あかねと共演出来るとは思っていなかったよ」

「やめてよー……それに私もまさか不知火君とここでとは思っていなかったから」

 

 黒川あかね。劇団ララライに所属する天才女優。

 

「いや、黒川ちゃんにそこまで言われると嬉しいなよ」

「こちらこそだよ。同じ役者として嬉しいよ」

「俺は最初マルチタレントとして売り出していくつもりだったんだけどね。まあ、でもよしくね」

「うん!」

 

 同じ役者どうしというのもあり、その後も話が盛り上がっていった。

 後ろにはカメラは俺の方を向いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影が始まりしばらくすると各々の立ち位置というか、キャラクターが明確になってきた。

 コミュニケーション力が高く場を作るのが上手い奴、キャラクターに味がある奴、映えが悪くて露出が少ない奴。だいたいこの三つの見えないグループが出来ている。

 俺やアクアが何処かというとキャラクターに味がある所だろう。

 基本的にカメラはMEMちょや鷲見ゆきに当てられ、その二人が番組の流れを作っているといっても過言ではないだろう。

 だからこのような事が起こるのも必然なのだろう。

 

「私……もう今ガチ辞めたいかも……」

 

 周囲の面々がゆきの言葉に驚きを漏らしている。周りの声は様々でゆきの思いに同意する者や一緒に頑張ろうと励ます者。台本もないくせにカメラが最も欲しがっているものを映し出し、視聴者を煽りながらその日の撮影を終えた。

 

「やめないけどね」

 

 ゆきは今までの事が嘘のように笑っている。つい先ほど目尻に涙を溢れさせていたのに綺麗さっぱり無くなっている。悪女とはこういうことを言うのだろう。

 

「皆で飯食にいこーぜ。MEMちょのおごりでー!」

「えっ何でそうなるのー⁉」

 

 それぞれが和気あいあいと何処に行くかと話している時に一歩引いている奴に声を掛ける。

 

「ほら行くぞ。アクア」

「いや……家にめし」

「いいからいいから、行くぞ。アクアも行くってよー」

「おいアキラ!」

 

 アキラの腕を掴み引っ張っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ほらアクアー、たんとお食べ―玉ねぎ」

「いや俺も肉食べたいんだけど」

 

 焼肉店に入り、それぞれが学校で合ったことや、仕事での愚痴を話しながら進んでいく。

 

「アクアさんタン焼けたのでどうぞ―」

「いや、自分の分は自分で焼くから気にするな。こいつがうざいだけだから」

「私こういう場ではトング離さないですから!」

 

 黒川あかねはトングを自信げに握っている。

 俺は仕方なく星野アクアから返された玉ねぎをぼりぼりと食べる。

 

「でも本当にアクア君とアキラ君って仲いいよね」

「幼馴染なんだっけ?二人は」

 

 鷲見ゆきとMEMちょがそんな話を振ってくる。

 

「ああ、そうだな」

 

 俺は基本誰とでも話すが特にアクアと一緒にいることでカメラを集め、そこそこの地位を手に入れていた。

 

「知ってる?今はアクアキかアキアクかで結構話題なんだよ」

「知ってる知ってる!まさか最初のカップリングがこの二人だとはねー」

 

 二人がねーと頷いているとアクアがため息を漏らした。

 

「止めてくれ……カップリングとかこっちはそんなつもりないんだから」

「まあまあ、落ち着けってアクア。あっ、いっその事告白しとくか」

「おいこらアキラ。本当に止めろ……この前ルビーにもからかわれたんだぞ」

 

 実際SNSでは結構俺と星野アクアのカップリングが話題になっている。今ガチでは今一番話題のカップリングだと言っても過言ではないだろう。そういう狙いがあった訳ではない。俺も星野アクアも所詮は仕事だと割り切っているから恋なんてお互いしようとは思っていない。だから、まあ二人の会話が増えてきたからこんな珍事になった訳なのだが。トータルで見たら美味しい。アクアはそうとは思っていないが。

 

「でもさー、今求められているのモノは過激なものだよねー……」

 

 MEMちょの言葉に黒川あかねがメモをとる。本当に真面目だ。

 

「ほら黒川ちゃんもお肉食べなよ」

 

 俺は黒川の言葉を待つ前に肉を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

「日曜は家族でご飯を食べるって約束じゃん!」

 

 今ガチのメンバーで焼き肉を食べて帰ってきたアクアにルビーは詰め寄っていた。

 

「そうだよね可愛い子達との焼肉の方が良かったよね」

「仕方ないだろ。付き合いなんだから!」

「そんなに肌をプルプルさせて言うな!」

 

 ルビーの事流しながらアクアが雑誌を読んでいると、今までの強気な態度が嘘のように無くなっていた。

 

「ねえ……アキラ君も……来ていたんだよね……」

「ああ、当たり前だろ。まだ…アキラと話せてないのか?」

 

 ルビーは小さく頷いた。

 高校に入学してかれこれ一か月が経過しているが、未だにルビーはアキラと話せていない。

 挨拶はお互いする。学校に登校すれば「おはよう」と言い合い、下校するときには「バイバイ」という。でも、それだけでそこから先の言葉を交わしていない。明確に避けられいるわけではないが、それでも避けられていると錯覚してしまう。

 だからこそ、アクアは疑問に思ってしまう。アクアはアキラから距離は取られていない。それは収録内でも収録外でもだ。現にSNSではカップリング論争が白熱しているほどだ。

 

「やっぱり私アキラ君に嫌われているのかな?」

 

 乾いた笑みを零すルビーにアクアは何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 みんなで焼肉を食べて解散して家に着くころには22時を過ぎていた。

 シャワーを浴びながら眠気を覚まして今日振り返る。

 恋愛リアリティショーは基本的に番組側からのやらせはない。表も裏も十代思春期の男女の恋愛模様がメイン。俺のようにやっている奴はいるけどそれも少数派だ。基本はみんなカメラに良く見せている。やってみて何故これが人気シリーズであるのかが良くわかった。

 

 自分自身の人間性の切り売り

 

 この業界に入ったのなら誰しも切っては切れない事ではある。

 上手くいけばここから先の芸能活動においての自信にも仕事にも繋がるだろう。

 ただ、結局それは理想論だ。

 誰かにスポットライトが当たるという事は誰かが当たらないことに他ならない。

 影の部分を誰も見ようとも触れようともしない。そして皺になった個所をどうするかなんてすぐにわかる。

 俺はシャワーを止めて浴室から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 撮影は終盤に差し掛かり、カップリングが形成され始め必然的にそれがメインでカメラに映し出された。

 俺は鷲見ゆき争奪戦に深く関わることはなかったが、アクアとの絡みも人気でカメラに多く映し出された。

 多く映る者、少しだけ映る者。

 演者に関係ない所で撮影スタッフが、ファンたちが境界線を作り上げる。

 人によってはそんな境界線どうでもいいだろう。星野アクアなんかがいい例だ。きっとアイツは俺がいようがいなかろうが、この作品でのスタンスを変えることはないだろう。

 でもそんな人間はごく一部で、基本的に人はあがいてもがく。

 だからこうなることも往々にしてあることなのだろう。

 

「で、なんだよこんな所に呼んで」

「まあまあ、たまには一緒に昼飯食べようぜ」

 

 俺は星野アクアを中庭のベンチに呼び寄せた。

 

「それにさ、お前といると便利なんだよ。今ガチのお陰でさみんなお前と二人でいると遠慮して話しかけてこないからな。それにほらアキアク論争まだ熱いんだぜ」

「本当にそれはやめろ。何もないなら帰るぞ」

「ごめんごめんって。わかった話すから。……でもこれはお前もわかっているだろ」

 

 スマホを取り出しSNSを見せる。

 そこには今週の今ガチの最後の部分だけが切り抜かれた動画が上がっている。 

 

『そうやって男に簡単に引っ付いて。やり方が下品―――‼」

 

 スマホから流れてくる今週の今ガチの内容は黒川あかねが鷲見ゆきの顔を傷つけて終わった。

 

「なあ、アクア?これどう思う?」

 

 SNSには今ガチのコメントが多数書き込まれてあり、トレンドにまでなっている。

 

「……人を引き付ける動画として百点の編集じゃないか。だからこうして注目を集めてトレンドにまでなっている訳だからな」

 

 星野アクアは昼食のパンを食べながらSNSに目を向ける。

 

「だけど正直集め方としては下の下だろ。こんな炎上商法。下手したら最悪な事になりうるぞ」

 

 その眼光は鋭く、言葉の節々に苛立ちがにじみ出ているのが良くわかる。

 

「あかねは大丈夫なのか?」

「MEMちょやゆきちゃんが連絡とっているよ。大丈夫だから気にしないでって返信がきているって」

 

 俺の言葉に星野アクアは小さくそうかと言った。

 黒川あかねが無理していることは普段の行いで想像がつく。それでも俺たちが出来ることは大してないのだ。せいぜい最悪が起きないように十全の注意をするしかない。

 それにしても意外だな。ここまでアクアが心配しているなんて正直意外だ。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日したある台風の日に最悪は起こった。

 俺は仕事が終わり、タクシーで急ぐように渋谷警察署に向かう。

 警察に行くと廊下で若い集団が固まっていた。

 

「MEMちょごめん遅れた」

「あっ、アキラ君。仕事だったのにごめんね」

「全然大丈夫ちょうど終わった所だったから。それよりも大丈夫そうだけどどうだった?」

 

 MEMちょは視線を廊下の奥の部屋に向けた。

 その部屋の入口付近では星野アクアが母親らしき女性と話している。

 

「まだ取り調べ中らしいよ」

「怪我とかはないんだよね?」

「うん、雨に濡れて体温は下がっているらしいけど外傷はないみたいだよ」

 

 少しするとゆっくりと奥の部屋の扉が開く。

 小走り気味で部屋に向かうと出会ってすぐに鷲見ゆきが開口する前にパンと音を鳴らした。

 

「なんで……こんな!心配させて……!相談してよぉ!」

「ごめん……ごめんね……」

 

 黒川あかねと鷲見ゆきが抱き合い始める。

 正直辞めると思っていたが黒川あかねはまだやり続けたいと言ってその場は解散になった。

 気づけば星野アクアは誰にも別れを告げずにいなくなっていた。

 それぞれバラバラにいなくなり、最後に残った俺がタクシーを待っていると一人の女性が話しかけてきた。

 

「アキラ君よね。幼稚園ぶりだけど覚えているかしら?」

 

 声を掛けて来たのは先ほど星野アクアの横にいた女性だった。

 

「アクアのお母さんですよね。お久しぶりです」

 

 俺の言葉に女性は何故か戸惑うような表情を見せた。

 

「ええ……改めて斎藤ミヤコよ。アクアやルビーと同じ高校らしいしよろしくね」

 

 斎藤ミヤコさんは名刺を差し出してきた。

 

「……苗字違うのか」

 

 小さく言葉が漏れ出てしまったが、聞こえてないようで胸を下ろす。

 

「それではタクシー来たので」

 

 斎藤ミヤコさんに会釈して目の前に来たタクシーに乗り込む。

 タクシーに揺られながら窓の外を覗き込むと先ほどまで強かった雨風はいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 黒川あかねが自殺未遂をしたことが次の日にニュースとして取り扱われた。

 メンバー間では私たちで今ガチを作ろうという事になった。

 星野アクアが編集兼監督になり、森本ケンゴが音楽を担当して各々の得意分野を担当することになった。ただ、そういったスキルを持たない俺などは手伝えることが少なくて気が付けばガヤの一人になっていた。

 私たちの今ガチはMEMちょのプロデュースもあり見事にバズることに成功した。

 それから少ししてして黒川あかねが復帰することになり、スタジオに入ってきた。

 何故か短い黒髪が長く見えた。

 何故か黒川あかねがいつもとは毛色が違う明るさの笑顔が見えた。

 

「撮影って朝早くて大変だよねー」

 

 誰もが目を奪われた役者もカメラもその場の雰囲気すらも黒川あかねに奪われた。

 その姿は誰かに似ていて、どこかで見たことがあった。

 

『アクアとルビーの友達になってくれてありがとね』

 

 知らない記憶が脳裏に浮かんだ。

 知らない家で知らないけど知っていた女性に言われた言葉。

 そんな知らない女性と黒川あかねが重なって見えた。

 今ガチも終盤に近付きネットではあくあかのカップリングが快進撃のように話題になり、その熱に押されるように俺は降られ、星野アクアと黒川あかねがカップル成立して物語は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 スマホの画面から流れてくるのはガチ恋の最終話。

 兄のキスシーンをみてめちゃくちゃ気まずい。

 正直に言えば一回見るだけでいい。 

 それでもついつい何度も途中から見始めて兄のキスシーンの前に止めてしまう。

 正直今ガチが始まってからずっとこんな気持ちだ。その言葉が、その視線が私に向いていないのが、何故か分からないけれど悲しくて、悔しい。

 とても悲しくて、とっても悔しいから私は頑張れる。

 私がアイドルになれるまであと3日。

 

 

 

 

 

 

「なあ、アクアここで話すの?」

 

 今ガチが終わって2か月ほどが経過した。

 影響はそれなりにあり、仕事も少し増え始めた。

 今ガチが終わったことで星野アクアとも話すことは少なくなった。

 そんな星野アクアから仕事の事で会わないかと連絡を貰い、来たのはライブ会場だった。

 遠くに見えるステージには様々なアイドル達が歌って踊っていて、俺らの周りにいる観客たちは夢中に応援している。

 

「悪いもう一度言ってくれないか?」

「……」

 

 周りの喧騒のせいでアクアは何一つ聞き取れていない。

 てか、なんだこいつの恰好。ペンライトもってでっかいハートがプリントされたシャツを着ている。絶対こいつ話をするつもりで来てないだろう。いやまあTPO的には合ってはいるんだけどさ。

 

「……話がないなら帰るからな俺……なんだよ」

 

 帰ろうとすると腕を掴まれた。訝しげな視線をアクアに向ける本人はこちらなんて一瞥もしておらず、視線の先はステージで固定されていた。

 

「……そろそろか」

 

 アクアは呟くとこちらにペンライトを渡してきた。

 え、何俺もするの?

 ステージ上をみるが、今まで歌って踊っていたアイドル達がいなくなっていて無人の舞台が広がっている。

 

「悪いが仕事の話をするというのは嘘だ」

「いやまあそれは分かったから帰っていい?」

 

 アクアの視線は今まで以上に強くステージに向かっている。

 

「悪いが帰るのは次のグループを見てからな。今すぐ帰るのならお前のある事ない事をSNSで呟くからな」

 

 えー、脅迫してきたんだけどこいつ。

 

「……わかった、わかったよ。次だけだからな」

 

 俺はペンライトのスイッチを入れると赤く光り輝いた。

 その時周りが一斉に盛り上がった。どうやら新しいアイドルグループが出てきたようだ。

 視線の先をステージに向ける。

 脚光を浴びながら出てくる三人。

 アクアはこちらを向いて成功したと思わせる表情を向けてくる。

 ああ成功だよ。本当に最悪だ。

 無理矢理帰ればよかった。

 降りていたペンライトは持ち上がる。

 こんなのを魅せられたら誰でも動かされる。

 一番星に向かって赤い光を灯さずにはいられない。

 

 

 

 

 

「こけて当たり前!楽しく挑もう!」

 

 ビビっている先輩にはそういったが、正直これは私自身に言ったようなものだ。

 私も正直怖い。先輩もMEMちょも私が始めたことについてきてくれただけだ。そんなの怖くないわけがない。

 それでも幕はあがる。

 観客席には黄色の空が広がっていて、赤い光がまるで星のように点在している。

 ママも一番最初はこんな感じだったのかな?

 先輩もMEMちょも隣にいるのに孤独感が身体を犯してくる。

 隣にいる先輩も同じなのか何処か表情がぎこちない。

 ふと、観客席の最奥にある赤い光が目に入った。

 動きにくそうな服装を身に纏って、慣れない身振りでペンライトを振っている。

 

『すごいよ!おれがファン1号ね!』

 

 幼稚園の頃、男の子に見せるとそんなことを言ってくれた。

 短い手足で歌って踊る私を彼もまた楽しそうに見てくれた。

 懐かしい思い出が頬を緩ませる。

 あの一番星に向かって私はにこりと笑みを零す。

 ファンに恥じない歌と踊りをする。

 黄色い空の中で赤い光は確かに輝いていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、俺車だから」

 

 見終わるとアクアはすぐに帰っていった。

 

「……帰るか」

 

 この次にもアイドルのライブが控えているのか、未だに会場が冷める気配はない。

 喧騒を背にして俺は会場から出ている。

 全くなんだったんだ一体。

 急に呼び出されたかと思ったら用が終われば即帰宅。なんなら呼び出された要件何ひとつとして成していない。

 重いため息が零れる。

 それになんだアイツは隣で急にオタ芸始めたのは流石に引いたぞ。

 そこまでやるなら次のグループも見てやれよ。何でアイツすぐ帰ってるの。

 しばらく歩くと喧騒は遥か彼方に置いていっていた。

 未だにあの景色が脳内に広がる。

 未だにあの声が身体をこだまする

 未だにあの熱量は冷めない。

 繁華街にたどり着き、人混みに紛れていると携帯が音を立てた。

 見てみると俺を見捨てて帰った奴からの連絡だ。

 内容は先に帰ったことに対する謝罪でもなければ、今回の感想を聞きたいわけでもない。

 短い一言と知らない連絡先が一つあっただけだ。

 誰の連絡先は書いていないがなんとなく予想は着く。

 何で今日アクアはこんなことをしたのかと想像がつく。要はアイツはシスコンなのだろう。

 いつものならこんなの無視していただろう。

 けれど未だに熱気は無くならい。

 あんなものを魅せられてすぐに収まるわけがない。

 俺の想いがなんとちっぽけなものかが痛感した。

 俺は送られた連絡先に短くメッセージを投げる。

 夜空は広がっていてそこには一番星が光り輝いていた。

 

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