インフィニット・ストラトス~もしも凰鈴音がデュノア家のメイドになっていたら~   作:カイナ

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第一話 デュノア社ISテストパイロット候補生兼デュノア家メイド(バイト)、凰鈴音

 とある屋敷の一室。二人くらいなら寝られそうなサイズの大きなベッドの中、そこに実際に二人分の膨らみがあった。

 

「ん……」

 

 布団の中から一人の青年の声が漏れる。

 

「んん……」

 

 また声が漏れる。しかしそれは少女のものだった。

 そして再び布団がもぞりと動くと銀色の髪が見える。その銀髪の青年は自分の向かいで眠っていた金髪の少女を優しく抱きしめながら彼女の耳元に口を添えた。

 

「おはよう、シャルロット」

 

「えへへ。おはようございます、ミシェルさん」

 

 銀髪の青年――ミシェルの言葉に金髪の少女――シャルロットが照れくさそうにはにかみながら答え、そうして二人がベッドの中でいちゃいちゃしていた時だった。

 

「はいはーい。二人とも朝から乳繰り合ってないでさっさと起きなさーい」

 

 パンパンと手を叩くような音が聞こえたかと思えばそんな呆れ切った声も聞こえてくる。

 その途端シャルロットがガバっとベッドから跳ね上がるように飛び起きる。同時に彼女の着ているピンク色の可愛らしいパジャマも露わになった。

 

「ち、ちちくっ!? 鈴、べ、別に私とミシェルさんはそういうわけじゃっ!?」

 

「はいはい分かってるっての。もうすぐ朝食の準備が出来るから、さっさと着替えなさいって」

 

「う、うん!」

 

 シャルロットが顔を真っ赤にして弁明する先にいるのはメイド服を着た、茶髪をツインテールにした可愛らしい小柄な少女。恐らくシャルロット達と同年代だろう、吊り目を呆れたように垂れ下げさせている彼女の言葉にシャルロットは慌ててベッドから降りるとクローゼットから服を取り出し始め、ミシェルもそれに倣うようにベッドから降りると、シャルロットとは別のクローゼットから着替えを取り出し始める。

 ちなみにこの部屋はミシェルの部屋なのだが、大抵シャルロットが一緒に寝ており朝いちいち彼女の部屋に戻って着替えるというのも手間だとシャルロットの着替えも何着か置かれてそれ専用のクローゼットも準備されているというわけだ。

 

「じゃ、あたし外で待ってるから手早くね。着替え中に盛ったりしないでね?」

 

「鈴!!」

 

 からかい交じりに言う鈴にシャルロットがまた顔を赤くして叫ぶが、鈴は楽しそうに笑いながらバイバイと手を振って部屋を出て行くのみ。シャルロットは「もう」と唇を尖らせながら着替え、ミシェルもそれらの掛け合いを見守って苦笑しながら黒色と白色のモノクロなパジャマから私服へと着替えるのだった。

 

 それから私服に着替えて、部屋の外で待っていた鈴と合流。二人は朝食を食べに食堂へと移動して既にデュノア家お抱えのシェフが準備してメイドが配膳まで済ませていた朝食を食べると、今はミシェルの自室に戻って食後のティータイムと称してカフェオレを飲んでいた。

 

「それにしても。もう二月の中旬かー、あたしがデュノア家に来て一年。早いわねー」

 

 メイドだというのに何故かミシェルとシャルロットと同じ席について一緒にカフェオレを飲んでいる鈴(本人曰く「今のあたしの仕事は二人の話し相手だから」とのこと)の言葉にシャルロットも穏やかに笑う。

 

「そうだね。それにしても鈴、最初はフランス語全然喋れなかったのに、あっという間に覚えちゃった時はビックリしたよ。皆も唖然としてたっけね」

 

「ま、為せば成るってやつよ。父さんが日本で中華料理屋始めるからって日本に行った時も習うより慣れろってやつで、最低限の挨拶くらい覚えたら後は現地で覚えたし」

 

 シャルロットの言葉に鈴はからからと快活に笑いながら答え、シャルロットもくすくすと笑う。

 

「でも、鈴が日本語を喋れるおかげで、私も本場の日本語経験者から教えてもらったんだからありがたいよ。IS学園は基本的に日本語だし」

 

「あたしの喋り方なんて身につけちゃったらお嬢様も台無しだけどね。そこまではならなくて安心したわ」

 

 再びのシャルロットの言葉に鈴が冗談っぽく笑う。実際はきちんとした日本語を学んだフランス人講師から喋り方を教わっており、鈴はその横から当時の自分の経験として気をつけていた事を口出ししていたような感じなのだが。

 

「だが、シャルロットもIS学園に行くわけか」

 

「フランス代表候補生でデュノア社からの推薦もあったのが後押しですね。IS学園で頑張って、出来ればフランス代表になりたいけどもしダメでもデュノア社の力になれるように頑張ります!」

 

「ああ、頑張ってくれ。シャル。俺もデュノア社の跡取り候補筆頭として恥ずかしくない結果を出してみせるよ」

 

「はい」

 

 ミシェルとシャルロットが見つめ合い再びイチャイチャし始める。それを見て目を細めた鈴がゴホンゴホンと咳払いをするとシャルロットが「ふひゃあ!」と変な声をあげた。

 

「あ、あー! そういえば鈴は本格的にデュノア社でテストパイロットをする事になるんだっけ!?」

 

 そして誤魔化すように鈴に話を振るシャルロットだったが、続けて彼女の顔がどこか曇る。

 

「で、でも、いいの? 鈴、結構成績優秀だし真面目だし、ホントならもっと――」

「あー別にいいわよ。あたしはデュノア社のテストパイロットとしてスカウト受けた身なんだし。その時期になればデュノア社に入社するのが筋ってもんよ。支援の一環って義務教育だけでも受けさせてくれた社長(アルベールさん)には感謝してるし、充分よ」

 

 シャルロットの言葉にあっけらかんと答える鈴だがシャルロットの顔は曇り、ミシェルもなんとも言い難い顔を見せ、その様子に妙に居心地が悪そうに頭をかいた鈴は「カフェとお菓子のお替わり持ってくるわ」とだけ行って退室。

 残された二人の間に変な沈黙が走り、その沈黙を嫌ったかのようにミシェルは手元にあったテレビのリモコンを操作。ちょうどそのチャンネルでやっていたニュースが流れ始めると共に鈴がカフェとお菓子のお替わりを手に戻ってくる。

 

「はい、お坊ちゃまにお嬢様、カフェのお替わりでございます」

 

 わざとらしいくらいに恭しくミシェルのカップにカフェを注ぐ鈴の姿は「あたしは満足してるから話を掘り返すな」と語っており、シャルロットは何も言えずに沈黙するしかない。

 

「速報です。日本でISを男が動かしたというニュースが入りました」

 

 女性のニュースキャスターからそんな速報が伝えられ、鈴が「へぇ」と声を漏らす。

 

「男がISをねぇ。それにしても日本かぁ……あいつ元気かしら」

 

 世界的ニュースとはいえ、自分に関係ないならそこまで興味は持てないのか。鈴は昔の思い出を思い出すきっかけとしか思わずどこか懐かしむように呟きながら、ミシェルのカップにカフェのお替わりを注ぎ終えたので次はシャルロットのカップへと移ってカフェを注ぎ始める。

 

「ISを動かしたという男の名は織斑一夏といい、フランス政府は日本政府への情報提供を――」

「はああぁぁぁっ!!??」

 

 しかし続けてのニュースキャスターからの報道を聞いた途端鈴は素っ頓狂な声を上げてテレビの方に目を向ける。

 

「わ、鈴! カフェ零れてる零れてる!?」

 

「わっとごめん!? って、それより、織斑一夏!? 一夏ってあの一夏――だわ何やってんのあいつ!?

 

 思わず悲鳴を上げるシャルロットで我に返った鈴はそっちに向き直して慌ててポットを持ち上げ、安全を確認すると再びテレビに目を向け、テレビに映されているどうにか入手したのだろう件の少年の顔写真らしい映像を見てまた素っ頓狂な声を上げる。

 

「鈴、彼の事を知っているのか?」

 

 困惑気味に尋ねるミシェルに対し、鈴は二人の方を向いてずびしっとテレビを、その件の少年の顔写真を指さした。

 

「あいつ! あたしが日本にいた頃の知り合い! ってか幼馴染!!」

 

「「えええぇぇぇぇっ!!??」」

 

 鈴の血相を変えた叫び声の直後、ミシェルとシャルロットの驚愕の声も響くのだった。

 

 

 

 

 それから時間は一月ほど過ぎ、三月の半ばへと移る。

 デュノア社の社長室。ミシェル、シャルロット、そして鈴はデュノア社の社長でありミシェルの父、そしてシャルロットの(表向きは)養父であるアルベール・デュノアとその妻であり副社長であるロゼンダ・デュノアに呼ばれここにやってきていた。

 そして横一列に整列した三人の前にある社長用の机に肘をつき、社長用の椅子に腰かけるアルベールがゆっくりと三人を見回し、口を開く。

 

「今日集まってもらったのは他でもない。日本の織斑一夏という少年がISを動かしたニュースは全世界に広がり、それによってこのフランス始め世界各国で男でもISを動かせるかの起動試験が行われた」

 

 アルベールの言葉通り、一夏がISを動かしたというニュースは世界各国に駆け巡り、それを受けた各国は「もしかしたら今まで動かせなかっただけで、ISを動かせる男はもっといるのかもしれない」と考えて男性を対象にISの起動試験を行い始めた。

 ……のだが、そのために使う資金や人員といったコストはどうするのかと、世界女性人権団体が猛反対を繰り出しており、実際のところは大きなIS関連会社関係者の男性が仕事の合間などに行う程度に留まっているのだが。

 そしてその大きなIS関連会社の関係者の男性、すなわちデュノア社の社長子息であるミシェルはその対象に入っており、起動試験を行ってみたところ彼もISを動かしてしまったのだ。

 

「まさかミシェルがISを動かせるとは思ってもいなかった……」

 

「俺もです。ISに触った事はありますが、あくまで整備に携わっただけで実際に装着して動かすなんて当然ですがした事も、そもそも考えた事もありませんでしたからね」

 

 ISは男には動かせない。そんな分かり切った事をわざわざ仕事中に行うなど時間の無駄でしかなく、そんな無駄な事をして仕事に支障をきたすわけがない。故にミシェルはあくまで社長になるための修行とはいえ仕事でISに携わっていたのに自分がISを動かせるなど思ってもいなかった。

 そう語るミシェルにアルベールも「うむ」と頷き、一つため息を漏らした。

 

「そしてフランス政府からの要請で、ミシェルにもIS学園に行ってもらう事となった」

 

 表向きは男性が何故ISを動かせるのかを研究するためのデータ収集。実際のところはそんな重要人物が下手に危害を加えられたり誘拐されたり、最悪の場合殺害等による「男がISを動かせる」という証拠の隠滅をされないための保護といったところだろう。

 事実、ミシェルがISを動かせることが分かってからはデュノア社の後ろ盾があってなおミシェルを研究したいと言う研究者や変な団体がやってきての騒ぎなど日常茶飯事だった。アルベールやロゼンダが都度クレームを出したりデュノア社としての対処をちらつかせたり力ずくの誘拐や危害に対してはシャルロットが緊急で護衛について対応したりでなんとかしていたが、デュノア社という一つの力では限界があるというのも事実であり、データ収集という表向きの目的も大事ではあるがミシェルの身の安全のためにもIS学園という他の干渉を受け辛い場所で保護してもらうのも一つの手ではあった。

 

「そしてその護衛として、既にIS学園への入学が決まっているシャルロット。そして……まあ、なんだ……ミシェル、お前の婚約者であるセシリア・オルコットとラウラ・ボーデヴィッヒがそれぞれイギリス、ドイツからつく事も欧州連合内の会議で決定した」

 

 その言葉を聞いた途端、ミシェル、シャルロット、ロゼンダ、そして鈴のジト目による冷たい視線がアルベールへと突き刺さり、アルベールは居心地悪そうに顔を青くしてひきつった笑みを見せる。

 ミシェルがISを動かせると分かり、フランスが属する欧州連合で行われた緊急会議で議題に上げられたのは『ミシェル・デュノアの処遇』。その中には酷いものでは「ミシェル・デュノアを欧州連合の共有財産にしよう」という人権もクソもない意見が出ていたのだが、そこでミシェルの父親として欧州連合の会議に特別参加していたアルベールがどうにかミシェルを身を護るために意見を出し、そこにフランス政府始め様々な国の思惑の末に出された結論が

 

 ――欧州連合各国から、ミシェル・デュノアに婚約者を出す

 

 というもの。そしてそのイギリスからの婚約者がイギリス代表候補生であるセシリア・オルコット、ドイツからの婚約者がドイツ代表候補生であるラウラ・ボーデヴィッヒというわけだ。ちなみに欧州連合に所属する他の国からも何人か婚約者は出ているのだがここでは割愛する。

 ちなみにフランスからの婚約者は元々ミシェルの恋人であるシャルロット。というかフランス政府が他国に対する優位性を取ろうと特例を出しており、既に「シャルロット・デュノアはミシェル・デュノアと正式に婚姻を結んだ妻」という事になっている。

 そんな説明が終わったところで鈴が手を挙げた。

 

「それで、なんであたしまで呼ばれたんですか?」

 

「そこが今回の本題だ。凰鈴音――」

 

 アルベールは鈴の問いに鷹揚に頷くと、彼女にしかと目を合わせる。それは妻や息子、義娘から蔑ろに扱われる父ではなくデュノア社という一つの会社を背負う社長としての目だった。

 

「――君にはミシェルの護衛として、共にIS学園に行ってもらいたい」

 

「「「……は?」」」

 

 その言葉に呆けた声を出すのは鈴だけではない。ミシェルとシャルロットもそんな話は聞いていないとばかりに呆けた声を出していた。

 

「いや待って! なんであたしが!? あたしIS学園への入学希望とかしてないんですけど!? っていうかデュノア社のテストパイロットの件はどうすんの!?」

 

「だからまあ、会社としては業務命令として、デュノア社からミシェルの護衛としてIS学園に行ってもらうという形になるだろうか? フランス政府からは扱いとしては生徒と何も変わらない形でIS学園に入学してもらう。という事になったが」

 

「はぁ……でもなんであたし?」

 

 アルベールからの説明を受けた鈴が困ったように頭をかいて再び尋ねると、アルベールもまた困ったような顔を見せた。

 

「君が織斑一夏の知り合いで、幼馴染だという話がフランス政府に届いたようでね」

 

「「「あー……」」」

 

 その言葉を受けた子供組が揃って合点がいったというような顔になる。

 要するに一夏と繋がりを持つ者を「ミシェルの護衛」という形でIS学園に向かわせることで一夏との接触を図り、あわよくばフランスの利益になるように動かそうというつもりなのだろう。

 そのために本来はIS学園に入学する予定のなかった相手をIS学園に入学できるようにゴリ押ししている辺りフランス政府もコネクション作りに大分本気らしい。

 

「もちろん建前としては“ミシェルと同い年で優れたIS操縦の実績を持つ者をミシェルの護衛につけた”という形だ。織斑一夏との接触や良好な関係構築に失敗してもこちらから処罰を与えるつもりはない」

 

「あはは。そりゃ心配ないわよ。ところで業務命令って事はお給料は出るのよね?」

 

「もちろんだ。詳しい契約に関してはまた後程」

 

 つまり「ミシェルとシャルロットと一緒にIS学園に通って、再会した一夏と仲良くすればいい」とシンプルに理解した鈴は笑って返した後、にししとした笑みを浮かべてウインクしながら右手の親指と人差し指を円を作るようにくっつけてお給料の要求に入る。その強かさにアルベールも鷹揚に笑いながら頷いていた。




《後書き》
 以前に活動報告で相談した「もしも凰鈴音がデュノア家のメイドになっていたら」というIF話。ある程度設定が纏まったので書き始めました。
 そして今回の話、また「彼から主人公補正が消えた話」(以下かれきえ)の中に特別編と銘打って出そうかと思っていたんですが、プロット的に多分成志は邪魔になるだけだなこれって考えたのと仮にもかれきえの名目上の主人公は成志(実質の主人公は一応壱花と時々一夏)なのでそいつの出番が全くなくなる話をかれきえとして出していいかとなると少々困る部分があるので。
 いっその事独立した新しい話として投稿しました。「拝啓、お母さん。私、とても愉快な家族に引き取られたみたいです」(以下ゆかひき)の続編にしようかとも思いましたけど……まあもう独立でいいかなって。一応言っておくと現状の世界観的に一番近いのはかれきえの「もしもミシェル・デュノアが三人目の男性IS操縦者だったら」みたいなミシェルハーレムだと思います。

 ……ミシェルは元々ゆかひきの短編用に思いついただけの一発キャラの予定だったのにシャルロットとの本格的なカップリングやかれきえで男性操縦者になったらってIF話で主役貰って今回は新作のオリ主ポジ。出世したなぁ……まあ現在のプロットでは主人公的にスポットライト当たるのは多分鈴の方だと思うんですが。


 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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