インフィニット・ストラトス~もしも凰鈴音がデュノア家のメイドになっていたら~   作:カイナ

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第三話 何故凰鈴音はフランスにいるのか

「お父さん、ガンだったのよ」

 

 鈴の口から事もなげに話されるのは普通に考えて大事。鈴とは学園に来てからの今日が初対面である箒も思わず絶句、

 

「ガンって、親父さん大丈夫なのか!?」

 

 無論その鈴と友人として交流のあった一夏は言うに及ばず。身を乗り出して鈴を問い詰める勢いで声を上げていた。

 

「あー大丈夫よ。そこ含めて色々とミシェルさんとこに助けてもらってんだから」

 

 しかし当の鈴は平然としており、慌てている一夏に対して「ほら座りなさい」と促すほど。

 そして一夏が席に座り直すと鈴の方は呆れたように腕を組んで溜息を漏らし、脱力したように背もたれに身体を預ける。

 

「でもお父さんも呆れたもんなのよ。最初はガンだって診断されたの隠してて、お母さんと離婚してあたしの親権はお母さんに渡そうとしてきたの。お父さんがガンなの差し引いても、このご時世だしお母さんと一緒にいた方が色々いいってのは分かるんだけど」

 

 そこから話す鈴の言葉を要約すれば「当然母親は離婚に応じようとせず、どうしてか問いただしたのだが父親は黙秘。そうこうしている内に鈴が父親がガンだと診断された旨の資料をたまたま発見、それを元に二人がかりで問いただしてようやく口を割らせた」そうだ。

 そこで鈴は背もたれに身体を預けるのをやめて肩をひょいとすくめる。

 

「ま、それで離婚話は取り消し。家族揃って日本の中華料理屋閉めて中国に帰って、そっちでお父さんは癌治療に専念、お母さんが中華料理屋切り盛りしてたのよ」

 

 そうやって中国に引っ越していった経緯をざっくりと説明。一夏はふんふんと頷きつつ、だが腑に落ちないのか首を傾げた。

 

「けど、それがどうしてフランスに行くなんて話になってんだ? 留学とかだったらそんな事してる暇なんてないだろ?」

 

「落ち着きなさいってば。それをこれから説明するのよ」

 

 幼馴染であり友人である相手の家の一大事となると落ち着いていられないのか一夏は疑問の言葉を出すが、鈴はまた呆れ口調で答えた後に再び語り始める。

 

「まあ、一夏も知ってる通りお父さんもお母さんも中華料理の腕は抜群でしょ? けど流石にお母さん一人だと限界があったのよ。あたしも可能な限りは手伝ってたけどさ、お父さんの癌治療にも色々お金がかかるし……」

 

 父親の癌治療にお金を回す事を思えば店員の募集もしづらいだろうし、そんな状態の父を店に立たせるわけにもいかない。

 結果として基本は母一人、時間が空けば鈴も手伝いをする形でどうにか店を保っていたがそれでも現状維持がギリギリだったらしい。

 

「そこでね。あたし、ちょっとしたきっかけでISの適性診断受けたのよ。そしたらなんと「A」ランクを出してね。そこで思いついたの。スカウト受ける時に条件としてお父さんのガン治療を支援してもらおうって」

 

 父のガン治療の支援をしてもらえば金銭的にも余裕は出来るだろうし、父も今よりもっといい治療を受けられるかもしれない。

 そう考えた鈴は必死に勉強してIS関係の様々な試験で結果を出したらしい。そしてついには中国政府から直々に、中国の国家代表候補生にならないかとスカウトが来る段階にまで至ったそうなのだが……

 

「その時に来た中国政府のスカウトと、ちょっとやらかしちゃってね……」

 

 そう言い、鈴は遠い目を見せたのだった。

 

 

 

 

 

「帰れー!!!」

 

 鈴の実家である中華料理店から、鈴の怒号が響き渡る。

 政府関係者のスカウトが来る事から臨時休業にしたため人気のないお店のテーブルを挟んで話していたのだろう、立ち上がって前のめりになってフーッフーッとまるで興奮する猫のように荒い息をしている鈴に対し、高級なスーツを着用したいかにも立場のある人間ですという様子の女性は余裕そうなにこにことした笑みを浮かべていた。

 

「落ち着いてください凰鈴音さん。私はあくまでも貴女の将来を思って助言をしているのですよ?」

 

「何があたしを思ってよ! あたしは! お父さんのガン治療の支援が! スカウトを受ける絶対条件だって伝えてるはずなんだけど!?」

 

 女性――中国政府からのスカウトの余裕を感じる笑みでの言葉に鈴は噛みつくように言い返す。それに対してスカウトは面白い冗談を聞いたというように笑みを深めた。

 

「たまにそういう、スカウトの目に留まりたいからと奇抜な条件をつける方がいらっしゃるんですよ。ですが凰さんはそんな事しなくても充分な適性や結果を出していますから――」

「奇抜とかそういうんじゃないわよ! お父さんのガン治療の支援! あたしがスカウト受けるのはそれが絶対条件なの!」

 

 スカウトの言葉に噛みつくように声を上げる鈴。だがスカウトはまるで鈴が面白い冗談を続けているというように笑っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に鈴は自分の中で何かがブチッとキレたのを自覚した。

 

「そんなくだらない事よりも貴女が得をする条件に変更した方が貴女のために――」

「誰がアンタの世話になんかなるかー!!!」

 

 スカウトの言葉を遮って鈴が怒鳴り声を上げる。

 

「――んなっ!?」

 

「あたしの大切なお父さんを守る事を馬鹿にするような相手なんて願い下げよ!!! とっとと帰れー!!!」

 

 鈴の怒号に対してそこまで言われるとは思っていなかったのかスカウトの方も顔を真っ赤にして怒ると「今回の事はしっかりと報告します! 後悔しない事ね!」と言い捨てて店を出ていき、鈴もスカウトが出ていった入り口に向けてべーっと舌を出した後に店の奥を向いた。

 

「お母さん塩持ってきて塩!」

 

 そして入り口を清めるために塩を撒こうと母親に塩を持ってくるように要求。

 

「あ、いや流石にお店で使うものはダメでしょ!? 家で使う分でいいから!」

 

 だがその母親は業務用の大量の塩を持ち出してくる。どうやら裏でこっそり話を聞いていてこっちもブチギレていたらしく、むしろ鈴の方が落ち着きを取り戻して冷静なツッコミを入れざるを得ない程だった。

 

 

 

 

 

「とまあ、そういうわけで中国政府のスカウトを怒らせて中国代表候補生の件はご破算。しかもそのスカウトが中国政府にどんな報告したのか知らないけど、それから中国政府はもちろん中国内の企業からも碌にスカウト来なくなったのよ」

 

「そ、そこは分かったけど……」

 

 語り終えた鈴が肩をすくめて締めると、そこでどうしてフランスが、そしてミシェル達が出てきたのかが気になるというようにミシェルの方をちらりと見る。そこでミシェルが口を開いた。

 

「まあ、後は俺から説明した方がいいかな? もっとも纏めてしまえば簡単な話さ。デュノア社が凰鈴音さんをスカウトしたんだ」

 

 ミシェルがまず結論を言ってから話し始める。

 デュノア社はIS開発を主とした会社であり、特に第二世代最後発機体のラファール・リヴァイヴは各国でも使われて世界第三位のシェアを持つ傑作。このIS学園でも日本国産の第二世代IS打鉄と合わせて生徒の操縦実習及び有事の際の教員IS部隊が扱う機体として採用されているもの。

 とはいえそれに胡坐をかいているわけにもいかず、現在は世界中が世代以降の流れに傾いている中、デュノア社も第三世代ISの開発が急務。そしてその中で優秀なIS操縦の実績を持つパイロットはもちろん、これから伸びるだろう将来性を持つ優秀な成績を持つ若者のスカウトも積極的に進めていたというわけだ。

 

「そこでフランスのみならず世界中のスカウト候補から未だフリーの人を探している中で、鈴さんを見つけたんだ」

 

「そこまではまあなんとなく分かるんだけどさ……フランスだろ? なんでわざわざ中国の鈴をスカウトに行ったんだ?」

 

 言うまでもないがフランスは欧州、対して中国はアジア。国が違う事はもちろん位置が大きく離れている。いくらなんでも鈴がそれを差し引いてもスカウトしたいくらいに隔絶した能力を持っているとは思えない、と一夏が困ったように鈴を見るとその思考を読まれたのか鈴は言いたい事は分かってるぞと言いたげに睨み、一夏は愛想笑いで返す。

 

「そこに関しては正直偶々さ。凰鈴音さんは「A」ランクの適性を見せた後、一年足らずで様々な試験で結果を出したという実績を持つ。そこに目をつけたスカウトがスカウト候補として各種データを社長に送ったのが始まりでね」

 

「あたしも知らなかったんだけどさ。お父さん、アルベールさん……デュノア社の社長でミシェルさん達の父親と知り合いだったらしいのよ」

 

「「えぇっ!?」」

 

 ミシェルの説明を引き継ぐように鈴が言うと、一夏はもちろんだが一庶民が大企業の社長だったの知り合いだったというインパクトに箒までも驚きの声を上げる。

 

「お父さんさ、お母さんと出会って中華料理屋を始めるまでは、世界中を回って修行する武闘家の真似事なんかしてたらしくてさ。アルベールさんとはその時に出会ったんだって」

 

 当時は「李書文の再来」と謳われるほどの武闘家だったとかなんとか。と、あたしはよく知らないけどと言いたげに肩をすくめて締める鈴の言葉に続くようにまたもミシェルが話し出す。

 

「父上が、凰という名前が目に留まって気になって調べたら旧友の娘だったと判明。しかもその父親(旧友)はガンにかかっていてその治療支援を求めているということを知った父上はすぐにスカウトに向かったそうだ」

 

「まあそこで色々あってね。あたしはデュノア社からのスカウトに同意、流石に中国に住んだままフランスのデュノア社に~なんて不可能だし、お父さんのガン治療の支援もフランスから中国にってなると色々面倒だって事で。一家揃ってフランスに移住したのよ」

 

「お、おう……」

 

 言いたい事は分かるが偶然の重なりにも程があるし、外国からスカウトを受けたからと言って一家揃ってフランスへの移住を決めるフットワークの軽さも相変わらずというべきか……と一夏は少々反応に困る。

 

「といってもフランスに住む家の当てなんてなかったし。それからはデュノア家に住み込みで、今後デュノア社に入社する事を前提にテストパイロット候補として訓練受けたり、支援の一環って事でフランスの学校に通わせてもらったり、時間の空いた時にデュノア家でメイドのバイトしてたのよ」

 

 補足するミシェル曰く「母上の「うちなら客間とか色々空いてるし、良ければ住んじゃえば?」の鶴の一声で凰一家の移住先の住居は決定した」らしい。

 そして鈴は「ちなみにお母さんもデュノア家に雇われてシェフやってて料理の腕はそこで存分に振るってるし、お父さんはフランスの良い病院に入院してガン治療に専念していて治療経過も良好らしいわ」と近況報告を締める。

 

「まあそれで順当にいけばデュノア社に入社して、今頃新人テストパイロットとして活躍してる頃だったんだけど。ちょっと事情が変わったのよ」

 

「事情が? 何かあったのか?」

 

「あんたよあんた」

 

 鈴が最後に疲れたように息を吐くと一夏が首を傾げ、それに対して鈴はジト目で一夏を指さす。

 

「あんたがISを動かしたって世界中でニュースになったの知らないとは言わせないわよ?」

 

「そのニュースを見た鈴が大騒ぎしちゃってね。そこで君の幼馴染で知り合いだって知ったフランス政府が、ほとんど無理矢理に鈴をIS学園への入学組に放り込んだんだ。建前としては俺の護衛って形でね」

 

「アルベールさんの推測に曰く人脈形成っていうの? あたしを一夏とフランスを繋ぐパイプ役にしたいんだとさ。ったく、あたしの輝かしいキャリアを第一歩目から躓かせてくれちゃって」

 

 ジト目で言う鈴にミシェルが苦笑交じりに説明すると鈴は嘆息しながら冗談交じりに答え、続けてにししと笑う。

 

「ま、IS学園への学費はフランス政府が負担してくれるっていうしさ。要はタダでIS学園に来れたわけよ。さらに今のあたし、立場上はデュノア社の社員で社長直々の業務命令って形でIS学園に来てるから給料貰いながら勉強できるってわけ。ここで色々実績残せば、ただ新人テストパイロットから始めるよりキャリア上がるかもしんないし。そういう意味では感謝してるわよ、一夏」

 

 人脈形成(鈴と一夏間の友情構築)ならもう完成しているも同然であり、そうなれば後はもう(フランス)の金で来たIS学園でデュノア社から給料貰いながら勉強し、色々と実績を残して自分の未来のキャリアの手助けにするだけ。せっかく実質タダで来れたのなら最大限活かすつもりらしい、転んでもタダでは起きない具合の鈴に一夏も苦笑を漏らした後にふぅと息を吐いた。

 

「まあ、事情は分かったよ」

 

 そう言い、一夏はおもむろに立ち上がるとミシェルの方を向き直す。一体どうしたんだと残るメンバーがきょとんとした時だった。

 

「ミシェル、ありがとう」

 

「え?」

 

 一夏がミシェルに向けて最敬礼の形で頭を下げた。突然お礼を言われ、ミシェルがまたもきょとんとした声を出すと、頭を上げた一夏は彼に微笑みかける。

 

「ミシェル達の家が鈴を見つけてくれたおかげで、親父さんは助かったし鈴だってフランスでっていう形ではあるけど安心して暮らせるようになった……だから、友達を助けてくれてありがとう」

 

「俺が礼を言われる事じゃないんだが……」

 

「それならミシェルの親父さんに改めて礼を言っといてもらえると助かるよ」

 

 一夏の真意を聞いたミシェルが困ったように苦笑するが、それならと一夏はそう答える。それに対してミシェルは「それでもお礼を言われるような事じゃない」と笑い返した。

 

「父上も旧友を助けようとは思ったんだろうが、鈴さんが優秀な人材だからこそスカウトしたんだ。無能な人間を情で雇う程、デュノア社も余裕があるわけじゃないからね」

 

「ふふん、当然よ」

 

 ミシェルからの称賛の言葉を聞いた鈴がふふんと得意げな顔を見せ、一夏もその様子を見て軽く笑いながら「分かった。でもありがとう」と答えて席に座る。

 

「皆、日替わり定食持ってきたよー」

 

 そこに数人分の食事を一気に運べるようにと準備されていたワゴンに人数分の日替わり定食を置いて押してくる。

 

「こんにちは、ミシェルさん」

 

 するとその後ろから、こちらも日替わり定食を手に持った、金髪を長く伸ばした高貴な雰囲気を漂わせる少女が顔を出す。

 

「やあ、セシリア」

 

「鈴さんの立ち入ったお話になると私が入るのもどうかと思いましたが、もうそろそろお話が終わった頃だと思い。お食事、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんだよ。ああ、一夏、箒。彼女はセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生で、俺の……あー……友人だ」

 

「一応、あたしやシャルロットと一緒でミシェルさんの護衛って事にもなってるわ」

 

 少女――セシリアの姿を見たミシェルが一夏と箒にセシリアを紹介、とりあえずテーブルに定食を置いたセシリアが礼儀正しくぺこりとお辞儀をすると一夏と箒も「これはご丁寧に」と頭を下げ、鈴がセシリアの立場の補足を入れる。

 

「さ、皆。お話し終わったんなら早く食べちゃおう。午後の授業に遅れたら大変だし」

 

 そしてシャルロットが日替わり定食を並べようとすると、メイドとして動いていた癖か鈴も一緒に並べ始め、てきぱきと全員分の定食を並べ終えるとシャルロットが席につくのを待ってから席につく。

 そして皆で団らんしながらの食事が始まるのだった。




《後書き》
 前話投稿から五ヶ月空いてマジすみませんでした!
 仕事が忙しくなったりホロライブの配信見てたりで日々を過ごしている間にいつの間にかこんなに過ぎちゃってました!

 とまあ今回は前回の後書きで言った通り&今回のサブタイトル通り、本作のオリジナル部分の根幹となる「どうして鈴がフランスにいるのか」の説明回です。
 活動報告で貰った案を元にした「鈴は父親のガン治療を支援してもらいたい。デュノア社は将来有望なIS操縦者候補が欲しい」という条件の一致でデュノア社にスカウトされた(ついでに今はデュノア家の客間を間借りして住んでいる)という形になりました。
 そのためにまず中国の方が鈴のスカウトを破算させるように持っていく手段を考えるのに苦労し、最終的に「スカウトがクッソ女尊男非思考だから、男である父親を守ろうとする鈴の考え方を理解できず、鈴もそれにぶちギレた事でご破算」という形に落ち着きました。一応IS世界って(作中描写的に本当にそうか?と思える部分はあるけど)設定的に男が奴隷レベルで酷い扱い受けてる世界観だからこういう事だって起きるはず……。

 次回はどうしようかなと今考えているところです。本作用にあるキャラクターを構想してるし、この辺で登場させようかどうか……。
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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